3.溺れるほどに愛される後日談-寅
初対面のあの日から、まだ一度も怪我をするようなことはされていないのだけれど。
來姫様がそっと薬を置いていったのが恐ろしいよね。
これは痛いフラグかなあ…
黙ってればかわいいのに。
わたしより少し背は高いけど。
「待たせたな、雛!」
元気よく入室してくる虎王陛下。
ああ、やっぱりかわいい。
虎の耳と太いしっぽ。
笑うと見える鋭い牙には目を瞑ろう、あれで噛まれたら多分死ぬ。
今日もはちみつ色の目と金色の御髪をきらきら輝かせて満面の笑みでわたしに抱き着いた。
「…あれ?」
「どうかしたか?」
「あ、ええと、陛下、背が伸びましたか…?」
「ああ!わかるか?5cmほど伸びたぞ!」
急に!?嬉しそうに破顔するところはまだまだ子供だなあとほっこりする。
「早く雛のことを虎族らしく愛したいからな!」
あ、わたし死ぬんだと思ったのは仕方ないよね。
だって子供の牙と舌ですでに肌がぼろぼろになったのだから。
あ、まてよ。わたしが防御を発動すればいいのでは?
ナイスアイディアなのでは。
「まずはおれの名前を憶えてくれ。燕という」
「燕さま」
「ああ。さまも要らないぞ?」
少ししょんぼりした顔をされたが、ここは譲れない。
なぜなら一人に許可すると全員平等にって絶対言われるから。
軽く首を横に振って拒否すると、「いまはいいか」とあきらめてくれた。
「今日は以前の約束通り、たくさん愛してやるからな!」
頼んでないし約束もしてない。
「で、ですが、その、わたしは…」
やんわり拒絶してみたが、無駄だった。
他の王よりまだ小さな手で、頬や首筋をするすると撫でられる。
膝の上じゃないのがせめてもの救いだろうか。
まあ隣にぴったりくっついているのでほぼ0距離だけど。
反対の手は太もも辺りをそっと撫でていて、なんだか擽ったい。
「大丈夫だ、雛の弱さは学んできた。他の王にも叱られたのだ。」
するりと腕に巻き付いてきたのは、もふもふの尻尾だ。
これは…ちょっと、いやかなりいい…
もふもふ…!
「だから、噛むときは血がでない程度に留めるし、舐めるときも注意しよう。」
止めてはもらえないのか、考え直してほしいなあ。
「やはりこのあたりが…」
なんだか少し低い声になったなと思ったら、首と肩の間あたりに顔を埋められる。
息がくすぐったくて、身を捩ろうとしたら、尻尾や手で制されてしまう。
「ん、ぅ…」
小さく漏れてしまった声に誘発でもされたのか、ゆっくり、ゆっくりと肩を噛まれているのがわかった。
「は、ァ…ッ…これくらい、だな。覚えたぞ」
興奮でぎらぎらとした目と合ってしまい、脳には警鐘が鳴り響く。
これはまずい、と思う。
だって燕さまはまだ子供だ。
我慢とか、できないでしょ!?
「お、お願いです、燕さま、どうか、どうかお優しくなさって…!!」
ぎゅっと彼の服を握りしめて懇願すると、何故かさらにその目のぎらぎらが強くなってしまった。
くそう何かミスったか!?
「ぐ、大丈夫、だ。次は舐めるぞ」
先ほど噛んだあたりに再び口付けると、今度はそうっと舐められる。
棘のある舌の刺激に思わずぎゅっと目を閉じるが、以前のようにひりつくほどの痛みはない。
「うん、この位、だな。わかった。」
小さくつぶやいたのは独り言だったのだろうか。
「ひゃっ!!」
突然先ほどの穏やかさとは打って変わってがぶがぶと甘噛みされ、舐められる。
それが肩だったのが首筋や、鎖骨あたりに移動したりとわたしの頭ではついていけない。
いつの前にか床に押し倒されていたし、本当にいつの間にか痛くないようにクッションまで置かれていた。
それに気づいたのは、燕さまが一度少しだけ身を離してくれたからだ。
終わったかな?と少しほっとしてその顔を見て。
あ、死んだこれ。
と思ったのは仕方がなかったと思う。
フーッフーッと荒く息を吐きながら、ぎらぎらした目のまま。
彼はあろうことか自らの衣服を緩め始めたのだから。
「おおおおおおお待ちになって燕さま!!!」
「…大丈夫だ、怖くないぞ」
ふっと笑って見せてくれたけれど、怖さは変わってない。
まってわたしの衣服も緩めようとしないで帯から手をはなせえええ!!
そいやっとわたしは"脚力"を発動し、燕さまを思い切り蹴り飛ばした。
遠慮も手加減もない。
「う、ぐっ!」
壁に頭を打ったようで痛そうだ。
うん、でももうわたしは平伏しない。学んだからね。
「…ごめん、怖かった?」
しゅん、と尻尾と耳が垂れ下がっている。
えっかわいい。こう、ぽろっとでた素直な言葉にはまだ幼さが残る。
いやだめだ絆されるな。
こ奴は他の王に比べても獣度が高い。
「すこし、です。」
ものすごく怖かったとは言えない。なんとでも言え、年上だろうと見た目子供の燕さまにひどいことなんか言えるわけがない。
それに、肌もどこも傷ついていないし。
「これが理性が焼き切れる感覚なのだな、鼠王と牛王には聞いていたが、確かに我を失う」
ぽつりと呟くところがまだ子供らしく可愛い。
仕方がないので少しくらい折れてあげよう。
「燕さま、冷静になったなら少しお茶でも飲みませんか?」
「うん、そうする」
ぱあっと笑顔に戻り、わたしの隣にちょこんと座られて。
普通にしてくれていたら可愛いのになあ。
「あ、そうだ。雛に口づけしてもらえるんだよな?」
こういうこと言わなければ。
いやでも今の雰囲気ならいけるか?
と、かるーく口に接吻すると。
「ありがとう、嬉しいぞ!」
なんて微笑まれて、わたしも思わず笑顔を返したのだった。
本日の教訓。
少なくともスイッチの入っていない燕さまは人畜無害だということを学んだ。
スイッチが入ると命の危機を覚えるけど。
毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。
『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着される』
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