29.エンディング
ゲームのシナリオよりだいぶ早い今日、わたしが『王の花嫁』に決まったことをお披露目するらしい。
考えてみればここへ始めて来てからひと月ほどしか経っていないものね。
朝から來姫様の侍女に体を磨かれつつ今日の流れを叩き込まれている。
やだやだやりたくない。
例の王族しか着用できない布に、じゃらじゃらとアクセサリをてんこ盛りにされて。
重いし動きにくい!
「貴女これくらいしないと暴れるでしょう?」
と來姫様に言われてなるほど!と納得してしまったのでわたしの負けである。
初日に集められた場所に、再び集められた。
前と違うのは、隣に來姫様がいることと、わたしたちは壇上にいることだ。
まだ袖だけど。
壇上では代表者である竜王陛下が、『王の花嫁』の選定が予定より早く終了したということを伝えている。
当然何も知らない方々はざわついてはいる。
まだ全員の部屋にいってないのに決まったからそれも当然。
で、そこへ呼ばれるわけだ。
全く行きたくはないけれど、來姫様に手を引かれて渋々前へ進む。
ざわめきが大きくなったのがわかった。
「このお方こそ遥か昔我々の祖をお創りになった神の生まれ変わりである!」
だとか竜王陛下が宣うので、もう後には引き返せなくなった。
まあこれを言わないと姫君たちへの罰が与えられないもんね、仕方ない。
仕方ないけど嫌だなあ。
わたしにはそういう自覚ないんだからな!!
手筈通りわたしはにっこり微笑むだけだ。
「それにあたり、今まで余らの大切な神を蔑ろにした面々に罰を与える」
厳しい言葉に、しんとその場が静まり返った。
すっと鳥王陛下が前に出る。
「まずは桃姫。本来なら処刑ではあったけれど、私たちの花嫁の寛大なお心遣いで、身分を落とすことに留める。下女として宮で一生を賭し勤めることを償いとして課す」
多分、一番重い罪だと思う。
彼女がわたしを置いて帰ったことは、それほどまでに彼らを怒らせたらしい。
まあそれが原因でわたしが天空領からフライアウェイしたわけだからね。
いやわたしが悪いんだけど。
ごめんなさい桃姫様、これが限界でした…!
そのあと次々に各王から告げられる。
鈴姫様、紅姫様、雪姫様、楊姫様、令姫様、寧姫様、燐姫様、蘭姫様、春姫様は3年間の婚姻禁止と天空領の侍女として働くこと。
これは軽い方。
だけど3年婚約者には会えないので、相手次第では捨てられてしまう可能性もある。
紅姫様はわたしの希望もあって、わたし付きの侍女を1年だけ。
そのあとは望んだとおり竜族の方と婚姻できるよう口添えしておいた。
流石に30人もいる幼い妹たちまで被害を被るのは可哀想だ。
唯一わたしの心に寄り添ってくれたその覚悟に報いたかった。
だってきっと、あれは相当怖かったと思うのだ。
下手をしたら逃がそうとまでしてくれたんだから。
翠姫様については悩んだのだけど、本人が望むならわたしの侍女にしてもらうつもりだった。
今しがた「望みます」と嬉しそうに仰ったので、きっとそうなる。
私欲ではなく、蛇王陛下のためにと思ってやったことなのだから許されてもいいと思う。
そして最後に。
「此度の件について首謀したのは其方だな、藤姫」
冷えた声で陛下が藤姫様に話しかける。彼女は凛としたままだ。
格好いいな。
「余らからは功績とできる面もあるため、処刑はせぬものとする」
いや処刑するほどのことじゃなくないかなあ。
「だが神である余らの愛しき花嫁を、騙したこと、到底許せはせぬ」
らしい。いやあなた方は計画に乗ったんだよね?
と流石に変な顔をしてしまったのか、來姫様に耳元で「顔は直して頂戴な」と言われてしまった。
「よって、50年間の労働奉仕を命ずる」
これは神を祀る神殿での無償奉仕ってことだ。
生涯じゃないだけましだけど、桃姫様といい勝負のきつい罰だと思う。
もちろんそこまでしなくても、と抵抗はしたけど無駄だった。
そこまで言うなら交換条件だよって馬王陛下が嬉しそうに笑うから仕方がなかったのだ。
わたしも自分の身がかわいい。
藤姫様ごめんなさい。
「陛下の御心のままに」
優雅に頭を下げた藤姫様は、よくみると口をきつく結んでいらっしゃる。
正直わたしは何もかも納得していない重すぎる罰だとは思うけれど、來姫様がこれですっきりするというならそれでいい。ということにする。
わたしもちょっぴりすっとしたし。
「竜族にとって50年、そんなに長くないわあ」って來姫様も言ってたし!
***
こうしてわたしは晴れて…晴れてはないけど王たちの花嫁となったわけだけれど。
正直こちらは陛下方のこと何もしらないし、まだぴんとは来ていない。
が、一つだけ確実なのは二度と故郷へは帰れないということだ。
來姫様が隣にいるときとか王の近くにいるときはあの鈴の音がしないんだけど、少し離れるとちりちり言い出すからね!
"隠密"使っても"飛翔"つかっても駄目だったので、わたしの所在は常にばればれなのだ。
その代わりに。
「兄様!!」
「雛、その…すまなかった」
天空領へ家族が会いに来るのは許可してくれた。
父さまと母さまは婚礼の義の時に来てくれるそうだが、兄様は先に謝りにきた。
「お前が生き残る道がこれしかなかったとはいえ、こうなるとは…苦労するだろう」
「兄様たちはわたしをなんとか生かそうとしてくれたのでしょう?では仕方がないです。あとは凡そわたしのミスです」
ぶすっと呟くとふと微笑まれて頭を撫でられる。
「お前は大人しかったが確かに昔から少々無鉄砲だったな。」
なんと自我が薄くても無鉄砲だったらしい。
「俺たちは雛が幸せになれるようになんでもするから、嫌なことがあるなら言うんだぞ」
「結婚したくないっていっても?」
「それは無理だ、命が惜しい」
「兄様の役立たず!」
軽口を交わし合い、兄様は帰っていった。
(兄様と会うときだけは盗聴しないように約束もとりつけた上での発言だ)
***
その後一度だけ、紅姫様と翠姫様以外の方々に直接謝罪をされた。
どの方々も酷くわたしのことを睨んでいたので、相当お怒りなんだと思う。
いや謝る気持ち0だよね、まあそれもそうだけどさ。
これで故郷に帰って好きな人と結婚できるっていうおつもりだったんだし。
3年で済んだ方々はそこまで睨まないで欲しいんだけども。
特に藤姫様はすごかった。
「…わたくしが負けるなんて…!」
と掴みかかられそうですらあったけど。
それを止めてくれたのは意外にも雨様だった。
こっそりと、「どうかお幸せに」と笑ってくれた笑顔をわたしは忘れないだろう。
本当にこの方は、わたしには上手く伝わってなかったけど心配してくださっていたらしい。
色々悪いことをした気がする。
「藤姫様、しっかり負けてるのわたしのほうですから」
ひょいっと肩を竦めると、ぎろりと睨まれてしまった。
溝は深そうである。
だけど考えて。
わたしは貴女のたくらみ通り、きっちり12人の花嫁になってしまったのだ。
完全にわたしの負けでしょう。
ほんのすこし最後に足掻いただけだ。
とにもかくにもこうして乙女ゲームとしてのシナリオはすべて終了した。
わたしはガラスケースエンドではないけれど、12人から愛される逆ハーレムルートに結局入ってしまったし。
藤姫様たちにはきっと恨まれているし。
なんだかこれから絶対大変だけれど。
來姫様が「今日だけよお」とわたしを抱き抱えて眠ってくださったので幸せです!!
後のことは全部後で考えよ。
FIN.
おつきあいありがとうございました、ここで本編は終了です。
あとは書けるだけ後日談を書きたい…です。
毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。
『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着される』
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