27.鈴
たっぷり30秒ほどたったあたりで、ごろつきさんが我に返ったのかその場に膝をついた。
うわ、すごい音したけど膝割れてない?
いや大丈夫、竜王陛下はまだだから、他の王に比べてマシなはず。
今は!!
「雛姫、其方の話はあとでゆるりと聞くこととする。その前に、その男はなんだ」
さすがのごろつきさんも小刻みに震えているようだ。
そうだよね、竜王陛下だもんね!
怖いよね、わたしも怖い。
なんでよりにもよって竜王陛下来たんだ!誰の差し金だ畜生め!
雨様とか迎えに来てくれるかなって淡い期待を抱いていたのに!
あわよくば來姫様が来てくれたらうれしかったのになあ。
しかしこの親切なごろつきさんはわたしが護らねば。
「こちらの方が、迷ったわたしをここまで送り届けてくださいました」
これは本当だから大丈夫。
「そうか、礼を言う。」
よし、ここで終わろう、ね!!
流石に帰りたそうだもんごろつきさんも!!
「しかしそれならばなぜ雛姫は下着同然の姿なのだ?髪はどうした?」
部屋の温度が2度ほど下がった感じがする。
ちらりと見たごろつきさんの顔色が真っ青だ。
「わたしがお礼に差し出したのです。」
「…そなたが自ら差し出したと申すのだな」
「はい。この方は、とても親切にもわたしなどをここへ送り届けてくださいました。わたしは劣等種であり、何も知らない他の種族の方にこのように優しくしたいただいたのは初めてで、とても嬉しく思ったため、差し上げられるだけのものをお渡ししたかったのです」
咎めるような視線を感じたので、ちらりとごろつきさんを見ると、苦しそうな顔でこちらを見ているようだ。
なんだ、本当にこの方お優しいんだなあ。
最初に怖がったのが申し訳なく思えるくらいだ。
服を寄越せっていうのも、もしかしたら護ってくれるつもりだったのかもしれない。
あのままでいたら、本当に悪い人に何をされていたかわからない。
「ですから竜王陛下、どうかこの方にお礼こそすれ、罰などお与えなきようお願い申し上げます」
殊更綺麗にひれ伏して陳情する。
わたしの平伏姿勢、どんどん良くなってる気がするなあ。
「ではそなたが、この者へ向けられた全ての王の感情を受け入れるのだな?」
「ええ、此度の騒ぎはわたしの落ち度でございます。この方は本当に何もご存知ないのです」
はああああ全力で墓穴を掘りまくっているけれど、もう仕方がない。
本当に自分が悪いので、罰は甘んじて受けようではないか。
「では顔をあげよ。許す」
額を床にくっつけていたのを少しだけ離すと、竜王陛下に抱き抱えられていた。
ごろつきさんより体格がいいんだなあ。
「そこの男よ、此度は余らの大切な姫をここまで護り送り届けたこと感謝する。だが髪は渡せぬ故、後程別の褒美を取らせる。」
「ありがたき幸せにございます、我らが竜王陛下!!」
「ありがとうございました、ここまで」
小さくお礼を言うと、ごろつきさんは少しだけ目元を緩めたようだった。
もう二度と会えないだろうけど、優しくしていただいたことは忘れない。
***
わたしは竜王陛下に抱き抱えられたまま、昇降機を昇って再び天空領に降り立った。
正しく表現すると、竜王陛下に抱き抱えられたままなので降り立ってはないけど。
道中むすっとした竜王陛下が一言も発しないためすさまじく空気が悪い。
どこかぴりぴりしている。
原因はわたしなんだろうな!
ずんずんと歩く陛下に連れられたのは、いつかの泉だった。
なるほど、もう今やれと。
それに異論はないので構わない。
竜王陛下は泉の上を歩いて渡り、祠の前に立った。
この、水上も水中も行けるようになるのが竜族の力である"呼吸"だ。
自由意志を尊重してくれたのか、その場に降ろしてもらえたので、竜の手に握られていた触媒に迷わず触れる。
ここで抵抗するほど命知らずではないからね!
最後のひとつが体に這入ったことがわかり、同時に『召喚士』のジョブを入手したことがわかった。
これで、全ての能力の性能がぐっと向上したことになるのだけど。
これ使ってももう陛下たちから逃げるの無理だろうな!
と明るく前向きに納得することにした。
伊達に王って王じゃないよね。
「さて、其方の申し開きを聞こうか。あちらで」
先ほどまでのしかめっ面と打って変わって蕩けるように微笑まれ、流石に豹変ぶりに驚く。
本当これって呪いじゃないの!?
こんな一瞬で愛する人だ!みたいになるのかなあ。
***
ずらりと陛下が並ぶ前に立たされた。
平伏していいかな?だめ?
平伏の姿勢って顔見なくていいから怖くなくていいんだよね!!
ほぼ下着状態のまま連れてこられたので少々の貞操の危機的なものも感じているところです。
流石にこの場で無体を働かれたりしないよね?ね??
「これで無事、全員との契約が相成った。其方は余らの花嫁となる」
決定事項なんだなあ、とぼんやり竜王陛下を見る。
「その前に、此度の騒ぎについて、其方の口から弁明を聞こう。」
全員の顔が、笑っているのに笑っていない。
はあ、全員ヤンデレかよ。
実はもう結構夜も更けているのだけれど、明日じゃだめだった?
駄目ですよねわかってます。
「今朝得た能力を軽い気持ちで試そうと思ったところ、1分ほどしかもたず落下しました。」
それはちょっと嘘だけどそういうことにしておこう。
「雛姫は天空領から逃げようとしたわけではないんだね?」
鼠王陛下の発言に、ぞわりと背筋が震える。
「違います。その証に昇降機まで案内したいただいたんです」
というかわたしの独り言とか発信機から聞いてなかったのかな?
範囲でもある?
天空領の外では働かないとか?
「送り届けたのが竜族だったため余の部下が事情を訊いたのだが、概ね雛姫は正しい」
「概ねってどういうこと?」
鳥王陛下が口角をぐっと上げて嗜虐的に笑う。
うわこわい。
「雛姫、何故あの者を庇った?あの者は其方の服を強奪したのだと供述したが」
「庇ったつもりはありません。わたしは劣等種で、あの方は竜族です。あの方より良い衣服を着ていたら、差し出すのは当然のこと。」
劣等種と後ろ指をさされ続けて来たわたしたちの卑屈さを見るがいい。
そんな考えには至らなかったでしょうそうでしょう。
「…劣等種と呼んだのは僕もだけどさ。その考えからまずもう二度ともたないようにっていうのが僕たちの仕事じゃない?」
あの時見られたような、虫けらを見るような目ではもうない兎王陛下のその目は、正直虫けらを見る目のほうがマシってくらい情欲に塗れている。
思春期かな、やめていただきたい。
「では当初の予定通りで構わぬか」
ぐるりと竜王陛下が王たちを見渡すと、全員が頷いた。
え、何?
「其方が今後誤ってでも余らの傍より離れぬよう、呪いを施す」
なんだそんなことか。
それくらいは想像してたから大丈夫だ。
だいたい今ですら天空領の中にいれば少なくとも場所も発言も筒抜けなわけで。
「だがそれは、其方にではない。ここへ」
と竜王陛下が声をかけてここに連れてこられたのは來姫様だった。
さすがのわたしもこれは予想していなかった。
「元気そうでよかったわあ。でもその恰好はいただけないわねえ、お転婆なんだから。髪もこんなに短くしちゃって」
聖女のように微笑み、わたしにそっと自分の上着を掛けてくれる。
「ら、來姫様、どうして…」
「其方が殊更懐いていると報告を受けた。其方が余らの言う通りに出来ぬ場合、咎を來姫が」
竜王陛下のお言葉の途中だというのは重々承知だが、体が勝手に動いていたのでお許し願いたいところ。
わたしは懐刀を抜き、首筋にあてていた。
王たちが思わず、といった様子で椅子から立ち上がろうとしているのを竜王陛下が手で制す。
「それでどうするつもりだ?」
少し楽しそうな竜王陛下を、わたしは見つめる。
真正面から睨みつけるのは初めてだ。
派手な紅い髪に、赤い瞳。
蛇王陛下のように、小さな宇宙のような独特の瞳に吸い寄せられてしまいそう。
「來姫様は、ここへ来て唯一わたしに優しい方でした。その方のご迷惑になるくらいなら、わたしは死にます」
「あらあ、情熱的ねえ、雛姫様は」
ころころと楽しそうに笑っている來姫様をちらりと見ると、そっとわたしが持つ刀を奪われた。
「ら、來姫様…!」
「だめよお、怪我をしてしまうわあ。貴女はとってもか弱いのだから。」
「でも、來姫様が…!!」
「貴女が悪いことをしなければなんの問題もないわあ。それに、貴女の身代わりになれるなら本望よお」
これはちょっとした恩ではない。
お父様、一体何をしたの?
「…待て來姫。これでは余らが悪人ではないか」
はあ、と溜息をつく竜王陛下と、やれやれといった顔の王陛下方。
「この子にしてみたら陛下方は悪者よお、ねえ」
よしよし、とわたしのことを撫でてくれる。
わあいぱふぱふだ!!
「え…ええ?」
「今回のことが事故だって陛下方もわかっているわあ。けど、何もなしだと今度は貴女、本当にどこかへ行ってしまうでしょう?」
「そんなことは…」
無いとは言い切れない。
「だから、釘を刺したかったのよお。今回は許すけれど、次はないぞ。ってねえ。本当に愛されているのねえ」
じゃあ演技か!!
「でもひとつ、貴女には呪術をかけるわあ」
「來姫様が?」
「ええ、わたくしが」
「じゃあいいです」
こくりと頷くと。
「ふふ、信頼されてるのねえ、わたくし」
と嬉しそうに微笑み、何かの呪術を掛けたのだった。
「…?」
何かが変わったようには思わない。
すると、來姫様が数歩下がる。
「こちらへいらっしゃいな」
手を広げる來姫様の下へ一歩踏み出すと。
ちりん、と可愛らしい鈴のような音が響く。
結構な大音量だ。
「…え?」
「鈴をつけたのよお」
裸足のまま数歩歩くと、そのたびにちりちりと音がなる。
あの、日本でよく見たあるくたびにぷうぷう音が鳴る靴ってこと!?
幼女にやることじゃないか流石にへこむ。
「さ、これで今回の件はおしまいよお、帰りましょう。雛姫様」
陛下方の前なのにいつも通りの來姫様は、わたしの手を引いて來姫様の御部屋まで連れて行ってくれた。
今日からここで寝起きしてもいいらしい。
やったね!!
毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。
『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着される』
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