25.発散
昨日の宣言に何か効果があったのか、贈り物の種類があからさまに変化した。
これまでは監視のアクセサリか服だったのに、わたしの好みを探るように甘いものや本や筆や…
とにかく変わった。
どれもこれも別に欲しくはないので、雨様に部屋の一角に贈り物スペースを作ってもらった。
そしていつも通り定型文のお礼状。
媚びたりしてやるものか。
陛下たちは怖いけれど、考えてみればわたしを害することはないのだ。
あ、いや虎王陛下は加減とかできなさそうだから今後もなめられると怪我になるだろうけど。
残す触媒もあと3つ。
これを全て手に入れると確か『召喚士』のジョブを得られる。
すると今までの能力もかなり底上げされるはずだ。
そうなれば陛下たちを上手くかわすことだって夢じゃないと…思いたい。
***
今日は蛇族の翠姫様が迎えに来た。
本日も涼し気で麗しい。
昨日得た能力は"嗅覚"で、直感のようなものも含まれる。
だから正規ルートを通るなら、目の前に広がる迷宮じみたこの場所も、においで判断するのだろうけれど。
「最短ルートで参ります」
どうやら翠姫様はルートを叩き込んでこられたらしい。
触媒までの道のりをわたしに任せる気がないのは、わたしのことを信頼していないからだろう。
途中で逃げ出すことだって長引かせることだってあり得るもんね。
わたしの態度も悪かったしその可能性もわかるけどちょっぴり複雑な気持ちになる。
巨大迷路の中央あたりに蛇の像があったので、わたしは迷わず触れる。
蛇族の能力は"眼力"と呼ばれるいわゆる蛇睨みみたいなものだ。
麻痺させる力を持つ。
この能力は次の鳥族の能力を取りに行くときには役に立たないけれど、戦闘ではすごく使えるんだよね。
足止めできるからその間に弓で射ることができるようになる。
あーあ、この力があれば狩りもはかどったのにな!
もう狩りすることはないんだろうな!
「貴女が私の花嫁ですか…こんなにも小さいのですね」
蛇族はひょろりと背の高い種族で、わたしの倍くらいあるもんね!
美しく鮮やかな青緑色の長い髪に、同じく鮮やかで不思議なきらめきの緑の瞳。
全員イケメンだけど、この方は美形!って感じで特に気が引ける。
指でそっと頬に触れられるけれど、ひんやりとしている。
「少しだけ、触れます」
ご丁寧にわざわざ宣言いただき、わたしのことを優しく抱き寄せた。
「できる限り貴女の心に寄り添えるように努力いたしますから」
おおお紳士!!
すっごい紳士!!
未だかつてないほどの!!
強引な王が多かった中で、かなり好感度が上がった気がする。
その控えめな態度のまま彼は去っていった。
「…蛇王陛下ってお優しいんだ…」
思わずつぶやくと、「わたくしは初めて見ました。」ぽつりと翠姫様が驚きの声をあげている。
ということは普段は怖いのかな?
「普段の蛇王陛下はどんな方なんですか?」
「冷静沈着なお方で、無駄はお嫌いな方です」
オブラートに包んで言ってるけど、多分冷酷冷徹で無駄は容赦なく切り捨てるタイプなんだろうな。
「あ、では翠姫様のお相手ってどんな方なんですか?」
昨日に引き続き好奇心でお聞きしておこう。
しかし、首をふるふると横に振られる。
「わたくしのお相手は…その、」
言い淀む翠姫様に首を傾げる。
一旦口を噤むと、何かを決意したようにこちらを見た。
「わたくしは陛下の花嫁になるつもりでいました」
「じゃあどうして!!」
「藤姫様に、陛下が愛を与える可能性のある方がいるとお聞きしたのです」
つまり愛する陛下のために身を引いたとかそういうあれ!?
知っていたら引き込めたかもしれないのに!!!
「それじゃあ翠姫様は…」
「わたくしは少々行き遅れています。おそらくどなたかの後妻となるでしょう」
「藤姫様はみなさまにお相手がいらっしゃると…」
「藤姫様にはもちろんそうお話しましたよ」
あまり表情を変えなかった翠姫様が、淡く微笑む姿は本当にお綺麗で。
「もし雛姫様がよろしければわたくしを侍女に引き抜いてくださいませ」
ぺこりと綺麗に頭を下げた。
「…考えておきます…」
わたしにその権限があるかわからないし!!
けど藤姫様もしかして結構無理やり?
翠姫様の冷たい目の理由は、感情を精一杯殺していたから、というのがわかった。
わたしを見る目自体が冷たいわけではないのだ。
こんなの誰も幸せにならないよ!!
わたしが嫌がってたら翠姫様には申し訳ないし!!
同郷だしと思ってたけど藤姫様にはちょっとだけ…ちょーっとだけ仕返ししたいぞ。
今日もあわよくばとお散歩を提案してみたけれど、「まだ死にたくはありませんので…」って断られてしまった。
わたしと散歩したら死ぬの!?
なんで!?
今日も部屋に閉じ込められたので考えに耽る。
貴族の勉強とかいうやつは意地でもしてやるものか。
机の上に本が山積みにされているけれどそっと視線を外しておく。
「雨様、暇です」
「お勉強なさいませ」
「それ以外で!」
とわがままを言ってみれば、「お散歩でもなさいますか?」と聞かれて一も二もなく飛びついた。
しかも、狩りがしたいですと言ったらそれも通った。
嘘でしょまじでやったあ。
ここぞとばかりに得た『召喚』の能力を使いまくることにする。
「…雛姫様」
「はい?」
存分に遊びきって疲れ果てた頃、あきれたように雨様が話しかけて来た。
「いえ、その…本当に貴族ではないのだなと驚いてしまって」
「最初からそう言っていたじゃないですか。今からでも遅くないですしわたしのことはおうちに返してくださってもいいんですよ」
わたしの価値なんて血筋くらいにしかないんだし。
狩ったドラゴンを手早く処理していると、雨様が流石に嫌そうな顔をしている。
「それもご自分で?」
「逆にご自分以外の誰がやってくれるんです…?」
その返事に少々たじろいだのがわかった。
わたしも最近雨様に遠慮しなくなったなあ。
様付けはしないと命が惜しいからするけども。
「キッチンに行きましょう、雨様!」
実のところ先日ドラゴンを美味しくいただけなかったのを少々根にもっておりまして。
今日はおいしくシチューにでもしたいのだ。
と主張したら、意外にも通ってしまい。
雛'sキッチンの幕開けとなってしまった。
***
「できました。ドラゴン肉のシチューです!」
ふふん、と胸を張ってみたものの、この世界…少なくともこの国にはシチューなんて食べ物はない気がする。
「なにやらおいしそうな香りなのですが…初めて見ました。平民ではよく食されるのですか?」
いや、わたしも今日初めて作ったし、故郷でも食べたことがない。
「雨様も食べてみます?」
味見はしてあるし、おいしく出来てはいるので問題はない。
「え。…やめておきましょう。陛下方に殺されてしまいます」
「なぜ…?」
「雛姫様の手作りのお食事、誰より陛下方がお召し上がりになりたいでしょう」
「王様が平民の手作り料理食べます??」
まあ要らないというなら仕方がない。
「いただきまーす」
キッチンでそのままぱくつくと、雨様にすごい目で見られた。
あ、久々にやってしまった、貴族的にアウトなやつだ!
「普段全く召し上がらないのに…」
と呟いているのが聞こえたので、そっちじゃなかったらしい。
いや目に見えて高級なお食事って気が引けるんだもの。
これなら自分で作ったご飯だし気兼ねなく食べられるというもの。
「あらあ、こんなところにいたのねえ」
「來姫様!!どうしてこんなとこに!?」
厨房だ。こんなところに来るの、わたししかいないと思ってたのに!
「用があったのよお。…それは?」
「わたしが今日狩ったドラゴンのお肉でつくりました!」
どうぞ、と差し出せば嬉しそうに口に運んでくれる。
毒見とかなしでいいのかな?差し出しておいて今更だけど。
「あらあ、雛姫様はお料理上手なのねえ。おいしいわあ」
「ほんとですか!わあい」
褒められて嬉しくなったけれど、次の言葉に固まってしまった。
「鼠王陛下から直々に頼まれたのだけれどお、貴女に貴族の振舞いを叩き込まないといけないらしいのよお」
ごめんなさいねえと言わんばかりの目にわたしも泣きそうだった。
毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。
『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着される』
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