24.心の在処
今日は犬族の紅姫様とお茶会だ。
この方は何故か最初から懐っこかったきがする。
犬の習性かなんかかな。
「やっとぼくの番だね!雛姫!」
元気よく部屋を訪ねて来てくれてちょっと嬉しい。
どうもこの方は憎めないというか。
「紅姫様の御相手はどんな方なんですか?」
折角だし聞いてみようかな、という好奇心だ。
「あ、ぼく?えっとねえ、ちょっと年上の方なんだけど、竜族なんだ!」
竜族なら多分ちょっとじゃないような。
異種族での婚姻も認められてるんだね、意外。
「…ごめんね。ぼくの家ってあとは小さな妹ばっかりで。歴史はあるんだけど今借金を抱えていて。」
紅姫が花嫁候補にならない場合、その小さな妹たちが次の花嫁候補らしい。
だが家的にはその竜族のお相手に援助を頼まなければいけない。
竜族の方は紅姫様を指定しているそうで、これを逃すと一家が路頭に迷う可能性もあるそうだ。
紅姫様はそのお相手のこと、好きなのかなあ。
お相手には好かれているようだけど。
他にも今回犬族から令嬢は来ているけれど、あまり年齢が合わず結構年上の方が多いそうだ。
そしてそういう方には往々にして問題があるから残っているため、とてもではないが王の花嫁にはできない。
「だからといって雛姫に押し付けていいわけじゃないんだけど…本当に悪いと思ってるんだよ」
とそっと頭を撫でてくれた。
紅姫様はわたしのことを抱えたりせずに手をつないだままだ。
それもぎゅっとじゃなくて、そっと。
「許して欲しいとは言わないよ。ぼくの…ぼくたちの我侭には違いないから。だから雛姫がぼくのこと許さないなら、罰を与えてもいい」
真剣な目で見られ、わたしはため息を吐いた。
「わたしは藤姫様に負けたので、紅姫様のこと怒ったりしませんよ」
彼女がいなければきっとわたしだって花嫁の座は紅姫様に、他の姫君たちに渡してたのだから。
「それに、紅姫様だけはわたしが逃げたりしたときに怖い目じゃありませんでした」
あの時他の方々は鬼気迫る目で見てきて正直怖かった。
役割から解放されたあとは一変して優しい目で見てくれるようになったけどそれが逆にこわいよね。
「気持ちはわかるもん。ほかのみんなは怒ってたけど、本当なら怒るのがおかしいんだよ。」
紅姫様は、少年のような口調だし気安いので勘違いしていたけれど、もしかしたら一番精神年齢がお高いのかもしれない。
それは御家を背負う責任とか、そういうところから生じているのかもしれない。
「何人くらい妹さんがいらっしゃるんですか?」
「ええと、30人かな!」
思ったより多くてちょっとびっくりしつつ、楽しく話をした後、倉のような建物へ到着した。
「この蔵なんだけど、出入り口は上なんだ」
だから本来なら"跳躍"を使うわけだ。
今回は呪術がお得意だという紅姫がわたしを風にのせて浮かびあげてくれた。
中へ入ると1階部分に犬の像がある。
いつものように"触媒"を呑むと、上から犬王陛下が降ってきた。
犬というか狼じゃないか!
グレーっぽいふっさふさの尻尾ととんがった耳、そしてブルーグレーの瞳。
完全に狼。百歩譲ってシベリアンハスキー。
とんがった犬歯をにっと見せてくる感じのいい方だった。
スポーツマンタイプというかそんな感じの。
「雛姫、俺たちの我侭でここへ拘束すること、まず謝らせてくれ」
目が合うなり、わたしよりも先に跪いての謝罪。
無理心臓に悪い。
「おおおおおやめください陛下!!高々平民の1人、陛下方がお好きになさってよいはずです」
建前上は。本心では思ってないけどな!!
「…すまない、そこまで言わせてしまうほどに俺たちは追いつめているのか」
眉を下げてしゅんとする犬王陛下、かわいいかもしれない…!
大型犬が怒られているところと似てる。
「いえ、追いつめたなど。わたしが自身の立場を思い出したにすぎません。」
陛下に跪かせたままでいるわけにはいかないので、一生懸命立ってもらおうとするのだけど、言葉では無理っぽい。
「ですから、おやめください」
ぐっと肩を持ち上げようと掴んだ瞬間、ぎゅっと抱き抱えられる。
くそう罠か。
「ああ、お前から触れてくれるなど。それだけで理性が飛びそうだ」
それだけで!?
いや困る。王様でしょ!!
「いえあの立っていただこうとしただけなんですけど!!」
「わかっている。それでも嬉しくてつい。苦しくないか?」
いや苦しくはないけど。
結局こうなるんだな、とあきらめのため息を小さくつくと、「優しいのだな」とか言われてさらに抱き締められた。
王様って勝手な生き物だよね、本当。
例にもれずあまり時間がないらしく、「明日からは俺も贈り物を届けさせる」と言うと帰っていった。
紅姫様は、すぐに部屋に戻ろうとはせず、なんと散歩に付き合ってくれた。
「内緒だよ。雛姫はすぐに逃げるから、終わり次第部屋に戻すようにって言われてるんだけど」
そうでしょうね!!
いやわたしの行いが悪かったんだから仕方ない。
「たまには外を歩いたりしないと滅入っちゃうよ」
「お気遣いありがとうございます!」
こういうところが憎めないところなんだよね。
いい人なんだよなあ。
「…雛姫」
「はい?」
「どうしても、どうしても…本当に死んでしまいたいくらい嫌なら」
ぽつりと漏らす紅姫様は、きっと苦渋の決断だったのだろう。
「ぼくに言って。」
「でも、それは」
できない。紅姫様が背負うものが多すぎる。
「雛姫がぼくを頼らないとしても、せめてそういう気持ちで寄り添わせてほしいんだ」
そっとわたしの手を握る紅姫様に、ここへきて來姫様の次にときめいたのだった。
「ほわあ…紅姫様のお嫁さんになりたい…!」
「んん!?それはやめて怖い!!」
ぞわっと尻尾を震わせる紅姫様にきょとんと首を傾げる。
「それ!!陛下方聞いていらっしゃるんだよ!!」
わたしの身についている数々のアクセサリを指され、そういえば、と思い出す。
「んー…けれど、思うのですが」
「何、もう怖いこといわないでよ!?」
現在進行形で殺気でも飛ばされているのか、紅姫様の顔が青い。
幸いにもわたしにはわからないので気にしないでおこう。
「わたしの心はわたしだけのものなので」
吹っ切ったわたしは笑顔で紅姫様に、そして陛下方に宣言したのだ。
ここへ来て初めて、この方のためになら代わってあげてもいいなと思えたから。
わたしは『王の花嫁』という立場を初めて心から受け入れることにしたのだ。
だからといって、王のことをわたしが好きになるかはまだ未知数だけどね!
受け入れたからって好かれると思ったら大間違いなんだからな!!
毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。
『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着される』
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