20.告白
翌日、引き続き赤ちゃん返りをしているわたしです。
寝具の上でごろごろと転がりながら「やだやだやだやだやだああああああ」と叫んでいる。
本日は羊族の春姫様とのお茶会が予定されているところ、こうして駄々をこねている。
雨様がドン引きしたままなのが面白い。
貴族でこんな行動とるの子供だっていないでしょう、わたしの一族でも見たことないけど。
今後も色々と抵抗はしていく所存。
「雛姫様、もうそろそろ…お願いですからそろそろ…」
「やだああああああ」
ちょっとしんどくなると"体力"を使ってブーストを掛ける。
今半永久的にわたしは赤ちゃん返りできる。
すごい。
「あらあらまあまあ、どうなさったの?雛姫様」
唐突に部屋を訪ねて来たのは藤姫様だった。
くそう雨様め、主人を頼りやがった。
相変わらずわたしにプライバシーがない。
「藤姫様…おかえりください」
流石にこの人の前での赤ちゃん返りは恥ずかしかったので寝具の上に正座する。
「そういうわけにはいきませんわ。お隣の部屋の方が泣いていらっしゃるのだもの」
雨様に何やら目配せすると、本当に二人きりになった。
「嫌なことを嫌だと部屋で嘆いているだけです。藤姫様が気になさることではありません」
「あら、陛下方に愛されてなにかご不満があるの?」
藤姫様がごりごりにわたしの地雷を踏みぬいてくる。
畜生め、不満しかないわばーかばーか!!
「ねえ、雛姫様。あなた『十二の王と末の神』をご存知ね?」
「やっぱり、おかしいと思ったんですよ。あなたでしたか」
衝撃的な告白かもしれないけれど、わたしの脳裏に過ったのは「やっぱり」だった。
藤姫様はどこで確信をもったのか、鎌をかけただけかもしれない。
はあ、と肩の力を抜く。
つまるところ藤姫様はわたしと同じ転生者で、わたしよりもずっとずっとこのゲームの知識を持っていて。
そしてきちんと対策してきたのだ。
そんなの勝てっこない。
「わたしはこの地に降り立ったあの日に記憶が戻ったんです。そんなの対策のしようがない。『十二の王と末の神』のこともほとんど覚えてなかったですし」
まあ覚えていたとしても天空領に来るのは避けられなかったと思う。王命だし。
けど少なくとも最初の鼠族の力を迂闊にも得たのは、明確なミスだった。
「それは…残念ね、としか。けれどもうわかっているのでしょう?ここまで来たらあとは進むしかないわ。
だってそうしなければ」
意味深に細められた目。わかっている。バッドエンド行きは嫌だ。
狭いガラスケースに閉じ込められて身動きが取れなくなるのは嫌だ。
さすがにそれは怖い。
けれど、ずるい。
やっぱり。
「みんな自分が好きな人と結婚したいだけのくせに」
「それの何が悪いのかしら。道具に成り下がるなんて御免だわ」
「そんなのわたしだって御免ですよ!!」
「ええ、そうでしょうね。ですが、あなたはわたくしに負けたのよ」
ふふ、と美しい笑顔での勝利宣言に脱力した。
「さて、納得いただけたかしら。今日は春姫様でしょう?彼女も心待ちにしているのよ?」
わたしに触れようとする藤姫様の手を思わず払いのける。
納得なんかするものか。
勝てないってことがわかっただけだけど!
「触らないで、ください」
「あら、かわいらしい手ね」
払ったつもりだったのだけれど、やんわりと掴まれる。
それはそうだ。藤姫様は竜族だもんな。
わたしなんかが太刀打ちできる存在ではない。
悔しい、ずるい。
乙女ゲームの主人公なんて本当にクソだ。
「ごめんなさいね、わたくしたちも急ぎたいのよ。陛下方がお待ちですから」
許してね、なんて囁き、わたしを担いだ。
え、力つよ。
軽々と片手で担がれたんですけど。
せめて侍女使おう!?
上級貴族が人間担ぐの見栄えよくないよ!!
「藤姫様はずるい」
「ええ、なんとでも仰って。あなたの恨みだけは全て受け付けると決めているの」
そこだけは、多分本音だ。
おそらく同郷のわたしを嵌めることに、少しくらい罪悪感は持ってくれているのだろう。
だからってわたしは藤姫様のこともう好きにはなれないけど。
「わたしだって好きな人と結婚したかった」
「あら、いらっしゃったの?」
「いないけどこれからできる予定だったんです」
「それなら陛下でもいいじゃない?」
「12人もいらなかったです」
「まあそうよね、わたくしも嫌だわ」
くすくすと笑いながらもわたしの不満、全部聞いてはくれるらしい。
やがて辿り着いた大木の前で、春姫様が待っていた。
「遅くなりましたわ」
「藤姫様がお連れくださったのですね、ありがとうございますわ」
おっとりした春姫様が、藤姫様からわたしを受け取ってしっかり抱き抱える。
くそう、このご令嬢方下手に侍女とかに任せないからわたしが暴れられない。
流石にわたしだって上級貴族を害した罰とかで痛い目に遭ったりするのは嫌なのだ。
「さて、こちらですわ」
わたしを抱いたまま大木の傍にある階段を下ってゆく。
ここも地下神殿らしい。
ええと、羊族はなんだったかな。
"防御"だったっけ。
羊の像の前にわたしを立たせ、「はいあーん」と口に指を突っ込まれる。
この方なかなか過激だね!!
反対の手で右手を"触媒"に導かれ、抵抗できないまま融けた触媒は口に入ってきた。
「はあい、これで終わりですわね。お疲れ様ですわ」
にこっと可愛らしく穏やかな笑顔にはもうだまされまい。
羊族って思ってるより過激なんだよね。
雨様といい春姫様といい。
たしかに実際の羊も結構アグレッシブだものね。
ふわふわした見た目に騙されるんだよね。
「春姫ぇ、ここ?」
「ええ、こちらですわ。陛下!」
おっとりした、というか間延びした口調で話しかけて来たのはふわふわの象牙色の髪がかわいらしい羊王陛下だ。
見た目は可愛いんだけどなあ。
どうせこの人もアレなんだ。
いつも通り平伏していると、「ふぐう」見えていなかったらしい陛下に踏まれた。
いった!
骨折れるわ!
いやこんな薄暗いところで気配を消していたわたしも悪いけど。
「わぁっごめんねぼくの花嫁!!」
大丈夫?といいながらわたしの全身撫でるのをやめろください。
「だ、大丈夫ですので離してください」
「せっかく会えたんだから少しくらいいいでしょう?」
ぎゅっと抱き寄せられ、耳元で優しく囁かれる。
「順番があるから、ずっと楽しみに待ってたんだよ。」
「これで君はぼくの花嫁なんだね、雛姫」
「はあ、小さくってかわいいなあ。独り占めできないのが残念だけど」
「次に会えるのが待ち遠しいよ」
以上わたしは相槌すら打っていないのに繰り広げられたマシンガントークでした。
わたしの反応もたいして見ないまま、羊王陛下は去っていった。
踏まれた背中が痛い。
「あの方の目が開いているところ、初めて見ましたわ」
などと感心している春姫さんを無視する。
今日もわたしは抗えなかった。
もうこれで5人だ。
帰ったらまた草と草を調合しないと。
踏まれた背中が痛い。蹄とかあるのかな?
毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。
『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着される』
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