13.お茶会
うわあお茶菓子高そう!
というのがわたしの最初の感想でした。
現実逃避ともいう。
「さて、雛姫様。わたくしたち、あなたと仲良くなりたいと思っていてよ」
藤姫様の言葉に体が硬直する。
わたしと仲良くしてもこの方々に利点などありませんけれど!?
「まずは自己紹介かしら。改めて、わたくしは藤よ」
そして、鼠族の鈴姫様、犬族の紅姫様、兎族の雪姫様、蛇族の翠姫様、虎族の楊姫様が順に名乗る。
ここまでは一度話した方々だ。
続いて、牛族の令姫様、猪族の寧姫様、猿族の燐姫様、馬族の蘭姫様、羊族の春姫様、鳥族の桃姫様。
名前覚えられるかなあ、不安だ。
「雛と申します。御覧の通り皆様方と本来お話すべき立場では無い身ですが、何卒ご容赦いただければと存じます」
「…それで、雛姫様。よろしければわたくしたちと個別にお出かけいたしませんこと?」
「は、はい是非。」
「となれば最初は雪姫様がよろしいかしら」
「ええ、そういたしましょう。雛姫様、こちらへ」
この方たちの間で流れが決まっていたのか、あっという間に雪姫様に促されてお茶会の場を後にしていた。
***
「雛姫様はこちらの方へいらしたことはあるかしら?」
がっちり手を握られたまま連れてこられたのは昇降機の傍にある花畑だった。
「い、いえ。このような場所があったのですね。存じ上げませんでした」
美しいだけの花畑に興味なんてありませんでしたから!
とは言えず、笑い返す。
「…わたしのお母さま、兎族なんです」
それを誤魔化すために、なんとか共通になりそうな話題で話を逸らす。
「まあ、そうでいらしたのね。それで初めてお会いした時にあんな顔をされていたのかしら」
どんな顔かはわからないけれど、ガン見した記憶ならある。
兎族って12種族の中で特に可愛らしいからなあ。
眼福眼福。
見慣れた色彩なので無意識にほっとする部分もある。
「あ、あの、失礼でなければお聞きしたいのですが」
雪姫様があまり口数の多い方でないようで、気まずい。
普通に気まずい。
仲良くなる気ないよね!?
「何かしら」
こてりと首を傾げるその仕草にKP300点差し上げたい!
「雪姫様は兎王陛下と仲がよろしいのでしょうか」
「まあ、なぜ?」
可愛らしく微笑んだままの雪姫様の言葉が凍ったように聞こえたけど気のせいでしょうか!!
KP100点追加!
「せ、先日わたしが粗相をして陛下とお話しした際に、雪姫様とその…親し気だったというか、そう見えただけですすみません!!」
更に冷える表情にKP追加でもう100点!
「あの方は基本的に全ての女性に対してあんな感じよ?」
はあ、と溜息ののち表情と空気が戻るのでほっとする。
ひょっとしてひょっとしなくても、雪姫様は兎王陛下のことがあまりお好きではないのかもしれない。
あれ、まって。だとすると兎王陛下にわたし人扱いされてないってことでは!!
もしくは女性扱いかな…
「けれど心配いらないわ」
「は、はい?」
「きっと雛姫様であれば兎王陛下も気に入ってくださるもの」
「い、いえわたしあの時劣等種と言われましたし、おそらく陛下はお嫌いなのかなと…」
「まあ、どうか許して差し上げて。陛下はまだ少し幼いところがおありなの」
「は、はい、許すもなにもわたしが怒るなんて烏滸がましいことできません」
「ねえ雛姫様」
「はい!!」
「その卑屈なところ、どうにかならないかしら。」
おっとり首を傾げながらぐさっと言われて思わず言葉を失った。
こういう言いづらいことずばっと言っちゃうのお母さまそっくり!
お母さまにも「あなたたちって本当に卑屈なのねえ、そこは直して欲しいわ」と言われた記憶がある。
兄様と共に。
2人して正座で頭をさげた記憶がある。
「申し訳ございません、雪姫様。ですが根本的に我々一族とみなさまは違うのです」
わたし貴族じゃないしこうして話すだけでも本来は不敬だしね!
「…そうね、ごめんなさい。変えなければならないのはこちらだわ」
やばい貴族から謝られてしまった!!
ひえっと出かけた悲鳴は更に失礼を重ねることになりそうなので仕舞いこむ。
いつのまにか花畑のど真ん中に到達していた。
そこにはちょっとした空間があり、四阿も建っている。
「そちらへお掛けになって、少しお待ちいただける?」
その言葉に従い、そこへ座ると何故かごごごっと兎の像が出てくる。
うわこれ触媒だ!
慌てて雪姫様を探すももういない。速いな。
触らないでおこうそうしよう。
「まあ、雛姫様、これは?」
しばらくして戻ってきた雪姫様の手には可愛らしい籠がある。
それわざわざご自身で取りにいかれたのかな。
「わ、わかりません、座ったら下からでてきて、触れてはいけないかと思って!!」
「まあ、けれど兎の像だわ。きっと怖いものではないわ。ほら、美しい宝石も」
となんの抵抗もなく触れようとするので「お手を触れるんですか!?」と叫んでしまった。
「いけない?」
この触媒をわたしたちの一族以外が触れた場合どうなるのか、わたしは知らない。
「大丈夫よ、ねえ」
侍女の方が青い顔をしているし、絶対大丈夫じゃない。
「あああではまずわたしが触れますので!!」
思わず叫べば、侍女がこくこくと頷いている。
侍女も兎族の上級貴族の方が大事だよね!!わかる!!
溜息をつきつつ触媒に触れるぎりぎりのところで留める。
「な、なんともありませんね!」
と雪姫様を振り返ると、にこっと微笑まれたまま少し押された。
その拍子に、触媒に触れてしまう。
「ひッ」
慌てて手を引いたけれど、遅かったようで触媒の宝石がどろりと融ける。
「まあ」
このまま落ちて消えないかなと期待したのに、それがわたしの口に飛び込んできた。
吐き出す間もなく体へ溶けた感覚がする。
前回と同じく、ずきんと手の甲が痛んだかと思うと、そこに2つ目の模様が現れた。
兎族の能力は、調合。薬をなんやかんやすると作り出せるという便利能力だ。
「まあ、体に這入ってしまったわ!雛姫様、大丈夫かしら?」
「だ、大丈夫のようです…」
がっくりと膝をつき項垂れると、体調を悪くしたのだと勘違いしてくださり、わたしは部屋へ送り届けてもらったのだった。
***
偶然を装っていたようだけれど、これってわざと…よね?
寝具に横になりながらあの時の不自然すぎる雪姫様の行動を思い起こす。
わざと席を外したり、触ろうとしたりわたしを押したり。
怪しさしかない。
となれば、もしかして悪役令嬢たちの望みって、わたしが12人の王たちのものになること…?
全くもって、微塵も味方ではなくむしろ敵ってこと…?
えええこわッ!!
そんなことなら虐めてくるご令嬢のほうがよっぽどいい。
雨様も監視でつけられている可能性が高すぎる。
徹底的に王を避けるしかなさそうだ。
会わないのに恋されるとかないよね?
初めからこの対応ということは、誰かもしくは全員が転生者である可能性が高いだろう。
わたしのような平民に王の花嫁を押し付けられるほどの理由、つまりわたしが神の末裔であることを知るのは転生者だけだもの。
なんで押し付けたいのかはわからないから動機は保留だけど。
もういよいよ死ぬしか方法がなくなったなら、わたしは潔くこの天空領から飛び降りよう。
と、後ろ向きに前向きな決意をしたところでノックだ。
「雛姫様、体調はいかがでしょうか」
「だ、大丈夫です。」
「鼠王陛下の使いの方がいらしてますが」
「あ、お手紙」
すっかり忘れてたな、と扉を開け、文机に置きっぱなしだった手紙を雨様に手渡す。
「これを使いの方にお渡ししてください」
「雛姫様」
あれ、なんか怖いな。
しまったミスってる!?
「お手紙には普通お花を添えます。」
「そうなんですか」
そんなこと言われても、である。
外から何かちぎってきたらいい?
「…今回は仕方がありませんね。」
と、なぜかわたしが付けていた髪紐を解かれる。
これしか持ってないのに!!
「ああああああ」
それをしゅるりと文に巻き付けると、雨様はさっさと持って行ってしまった。
「ああああ…」
がくり、と床に座り込むわたしに、雨様が眉を顰めているのがわかる。
あれはお母さまがここへ来る前に身を削って買ってくださった髪紐だ。
例のごとくわたしたちの中では高価な。
「…だめだやっぱりあれは渡せない。」
落ち込んでいる場合ではない。
がばっと立ち上がり、部屋から飛び出す。
「雛姫様!?」
遠くに見える灰色の背中を追いかけて、全力疾走だ。
毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。
『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着される』
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