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10.消失

呆然と立ち竦むわたしを待ち構えていたのは、悪役令嬢の方々。

ずらりと12名。


お美しいなあ、壮観。

眼福眼福。


「よかった、戻っていらしたわ。捜索をだそうかとお話ししていましたのよ。わたくしは藤、どうぞよろしくね」

にこりと美しく笑いかけてくれたこの感じをみると、この小屋に追いやったのは彼女ではないようだ。

いやまあわたし自分でここに来たんですけど。荷物もここにあったんだし間違ってないはず。


「このような場所で今まで過ごされていたなんて、お可哀想に。わたくしがお部屋を手配しなおしましたからついていらして」


じり、と思わず後ずさろうとすると、

「今朝はびっくりさせてごめんね。」

「ええ、怖くありませんよ。あたくしたちは味方ですからね」

そっと両脇を紅姫様と鈴姫様に固められる。



「どうやら竜族のとある貴族が貴女のことを虐げたようなのですわ。わたくしが代わってお詫び申し上げます」

「いいいいいえとんでもないです!わたしは名も無き一族ですので当然の処遇です」

頭を下げようとされるのを必死に制し、むしろわたしが頭を下げる。


ただあの小屋がなくなったのとこの人たちとの関係が不明だ。

部屋を手配しなおしてくれたなら、あの小屋が消えているのは何故?

「あ、あのつかぬことをお伺いしますが、あの建物は…」



おずおずと尋ねると、前を歩く藤姫様がちらりとこちらを見て目を細める。

え、何怖い。

「鼠王陛下が燃やされましたわ」

ひゅっと喉の奥から悲鳴が漏れた。



「何やらお約束をされていたとか。」

駄目ですよ、陛下方を怒らせては。とかいう副音声が聞こえて来た気がする。


「ぼくたちが怖がらせちゃったかもしれない、って言ったら見つけ次第連れてくるようにって」

え、今連れていかれるのって鼠王のところなの!?

「まずはお部屋にご案内しますから、お洋服を整えましょうね。」

にこっと笑いかけてくれるのは雪姫様だ。

うわあかわいい。

みんなかわいいけれど、やっぱりお母さまと同じ種族ってだけで少しだけ安心する。



少しほっとして顔を見ると、やっぱり鋭い目を向けられる。

ほらあやっぱり嫌われてる!!

卑しい身分なんだからあの小屋でよかったのに!!



「わたくしの御隣の部屋が空いていたからそこにしたわ。もともとの貴方のお部屋はあまりいい場所ではなかったもの」

と押し込められたのは、おそらくこの宮で一、二を争う豪華な部屋だ。

「ひええ無理ですごめんなさい許してください」

がばっと平伏して泣き言を漏らすと、紅姫様が優しく頭を撫でてくれる。



やさしい。



「ごめんね、雛姫」

あっ優しいだけでした。

ぐいっと立たされ、服を剥かれる。


「荷物を検めさせていただいたのだけれど、あまり衣類をお持ちでないようだったから鈴姫様と雪姫様がお持ちくださったのよ」

ぎりぎり着られそうなサイズってその二人だけですもんね!!

すっぱだかのわたしにお二人の侍女らしき人が服を着せていく。

抵抗しようにも紅姫様ともう反対側は虎族の方に抑えられていて体が動かない。



こういうなにもできない種族っていうのが身に染みてわかり、ぎりっと奥歯を噛むことしかできない。



「よかった、お美しいわ」

「鼠王陛下もお喜びになるわね」

みなさん口々に褒めてくださるけれど、優しい目をしているのは紅姫様と鈴姫様くらい。

あとは鋭い目で見られているままだ。


「わたくしの部屋が反対側の隣です。翠と申します」

翠姫様は蛇族の方らしい。ひんやりとした美人さんで、微笑んではいるけれど目がこわい。


「向かいはぼくだからね!」

手は放してくれないけれど、にこっと懐っこく笑いかけてもらってちょっと泣きそう。



そんなに嫌いなら放っておいてくれたらよかったのに!!

わたしはここの人たちから王たちを取ったりしないし、逃げたいだけなのに!!

心の中で叫びつつ、みなさんにお礼を言う。


助けてくれたという形になるからね。

「雛姫様」

ぽつりと耳元で囁く声は、鈴姫様だ。


「どうか逃げたりしないで。あたくしたちの陛下は恐ろしい方よ」

その言葉に背筋が冷えた。

小屋を燃やすあたりで想像はついてたけれど。


穏やかなイケオジじゃなかったのかなあ…


鈴姫様も優しい顔をしていたので、服のお礼を言う。

「いいのよ。ぜひ仲良くしてね、雛姫様」

あれ、けど真っ先に怒るのはこの鈴姫様になるはずなのに、なんでだろう。

むしろ穏やかなお顔をされているような。


と首を傾げると、右側を固めていた虎族の方に腕を引かれた。

「私は虎族の楊。貴女を鼠王陛下の元へ送り届ける」

騎士然とした楊姫様に手を引かれて部屋を出る際に、みなさんへ再度お礼を言う。



善意だろうしね。

「お戻りになったら一度わたくしの部屋へいらしてね」

となんだか監視されてる気がしつつ廊下へ出た。


そこにはずらりと虎族の騎士たちがいる。

びくりと体を揺らすと、楊姫様が柔らかく背を撫でてくれてほっとする。

「私の兄がこの天空領で働いているので鼠王陛下の元まで護衛を担当することになった」

護衛じゃなくて護送よな!



「感謝いたします」

「この宮には貴方を侮る者が多い。どうか気をつけて」

わたしの手を引くために半歩前を歩いているから顔が見えない。

オレンジ掛かった金の髪は高い位置で一つにまとめられ、それが揺れている。


ちらりと振り返ると、「小さいな…」と呟いたように思う。

えっそんなしみじみと言われることかな!?

いや小さいけども。楊姫様は長身の虎族らしく2mちかくおありですし!

いいなあ綺麗だなあ。かっこういいなあ。



「あらあ、大仰ねえ。なにかしらあ」

突然前方から響いたのはねっとりとした声と、威圧感。

その声と同時に楊姫様がわたしを背に隠す。


見えないけれど、多分竜族の、悪役令嬢に変わる悪役令嬢だ。

わたしが感謝してる人だね!

いじめてくれてありがとう!マイスイートホームは燃やされちゃったけど!



「王命であります。控えられよ」

楊姫様は何かの書状を騎士の方に渡し、それを悪役令嬢(仮)に見せたようだ。

「ふうん、何をやらかしたのかしらねえ」

ぱちりと扇子の閉じた音がしたなと思ったら、再び楊姫様が歩き始めた。



「さきほどようなことが今後起こりうる。」

うん、わかってたんで小屋に返してください…

あ、小屋はもうないんだった。




もう森でもいいっていうかおうちに帰らせてくれ。

切実なわたしの願いはもちろん誰にも届くことなく、鼠王陛下のおわす一ノ宮にたどり着いたのだった。

そこで一ノ宮を護る鼠王陛下の騎士にバトンタッチ。



誰の騎士かは制服を見ればわかりますからね。

鼠族は灰色です。

ここまで連れて来てくれた虎族は黄色。




気が重すぎるのだけれど、連行されるがまま、わたしは一際立派な扉の前に立たされたのだった。








毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。

『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着(あい)される』

https://ncode.syosetu.com/n6804fq/

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