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誰かの為に逝けたなら

作者: ねこまんま

気が付くと、自分の身体を見下ろしていた。

あぁ、もしかして幽体離脱でもしたのかな。

確か、早く離れないと身体に戻ってしまうんだっけ?

手のひらを見ると、意識がハッキリするとか。


いや、でも、幽体離脱って寝てる時にするんだよね?

何でそう思うかって?

それはそうでしょう?

だって、目の前の自分の身体は傷付いて倒れているんだから。

夢だったらいいのにな。

死んだりなんてしていないよね?


昨日の自分は何をしていたか。

朝起きて、仕事行って、お昼はラーメン食べたかな。

ちょっと残業して、それで帰ったはず。

確か木曜日で次の日休みだからって、それで少し頑張ったんだよね。


じゃあ、何で倒れているのか。


そうだ、好きな子が道で絡まれていたんだよね。


好きな子って言っても、話したこともないし、名前も知らない。

いつも見かけるうちに好きになっちゃったんだよね。


事のあらましはナンパっていうのかな。

揉めているようだから、宥めようとしたんだけど、男の方が「何だテメェ、引っ込んでろ!」みたいな感じで、ナンパっていうか襲う気満々みたいな感じだった。

女の子は手を掴まれて、今にも連れて行かれそうでさ、それでどうにか手を離させたんだよね。

とりあえず女の子を逃して、警察呼んでと。

自分がどうにかするからと。


それで喧嘩になったんだった。

スポーツしてたのなんて十年前の話で運動不足のガリガリ野郎にしては健闘したと思うんだよね。

相手は逃げたんだから。


そう、自分は勝った。

女の子を守れた。

後は彼女が無事に帰れてたらいいなと思ったら、眠くなってきて、目蓋を閉じた気がするんだ。


そんな事を思い出していると、女の子が警官さんを連れて戻ってきた。


倒れている俺を見て、へたり込んで、泣いてくれている。

俺のために泣かないで。


彼女が襲われて泣くことになるか、助けられたとしても俺が倒れて泣かせてしまうことになるかしか選べないのだとしたら、神様はなんて残酷なのだろう。


自分はもうこの世の人間ではないのかな。


大して満足な人生ではなかったけど、最期に好きな子のために逝けるなら、それはそれで良かったかもしれない。


ただ、泣き顔は見たくなかった。

戻って来ないで逃げてくれたら良かったのに。

倒れた後のことを何も知ることもなく逝ければ良かったのに。


悲しいのに涙が出ないんだ。

今の自分は幽霊なのだろう。

生身の身体じゃないから、泣けないんだ。


救急車の中でも運ばれた先の病院でも、側にいてくれて、悲しんでくれている姿なんて見たくない。


自分の葬式を間近で見る事になったら、きっと耐えられない。

悲しんでくれている人がいたら、ありがたくて申し訳なくて悲しい思いをするのだろう。


一人でさへ辛いのに、自分のために悲しんでくれる人が何人もいてくれたら俺はどうしたらいい?

母さんも父さんも悲しむよな…


高校時代に俺のために泣いてくれた友人、彼も来てくれるのだろうか?


まだ…死にたくない…



俺の身体、まだ生きているんでしょ!?

何で戻らないんだよ!!


生きたい!生きたい!行きたい!


戻ってくれよ!!!


・・・



強く願っても、身体に戻れなかった。


日が変わって、病院が社員証を見て、会社に連絡したのか上司が来た。


こういう時に、自分の性分からすると、ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。

という言葉が出てくるのだろう。


迷惑は掛けたけど、謝るようなことは何もしていない。


だって、好きな子が困っていたら助けたいよね。

少なくとも助けようとはするでしょ。

知らない人ならともかく、好きな子なら無視なんて出来ない。

それこそ、一生後悔するかもしれない。


だから、これで良かったんだ。


ただ、これから先どうすればいいのだろう?

逝くにしても、どうするのか。


みんなにお別れするにしても、この誰にも見えない聞こえない身体で歩いて移動するのだろうか。


そうだな、とりあえずはあの子に一言云おう。

「ありがとう。ごめんね。」


横たわっている自分と同じく、本来の自分の肉体と同じところで待っていよう。



・・・



いつの間にか意識が飛んでいた。

視界の先には白い天井があった。


ああ、もしかしてここがあの世かな。


と、思ったら例のあの子がまだ居てくれていた。

ただ、疲れていたのか寝てしまっていたけど。


どうにか、戻れたのかな…。


とりあえず身体を起こすと、相手も目を覚ました。


何か話さないと

「えっと、初めまして、ですかね。自分の名前は・・・」


女の子は面食らった顔をしながらも笑顔で

「初めまして、ではないですよ。私の名前は・・・」


話してみると、お互い顔は知っていたみたい。


とまぁ、これからどうなるかわからないけど、何とか生き返ることが出来ました。

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