プロローグ
暇なときに更新する予定です。
この話は、フィクションであり、実在の団体、宗教、個人とは全く関係ありません。
「お前らは俺の言う通りにしてればいいんだよ!」
ある大手会社の倉庫の一室、普段誰も来ないはずの部屋でその声が響いた。
今、この部屋には二人の人間がいる。
一人はこの会社の課長。頭のてっぺんが少し禿げており、腹の脂肪がたっぷりある四十後半の男。
会社での評判は悪く、何かあるごとにすぐに部下を怒鳴り散らし、自分の仕事やミスなどを平気で部下に押し付ける...はっきり言って人間の屑だ。だが、こいつが前社長の息子なので、上司達も「触らぬ神に祟りなし」とこいつが部下に手出しするのを見て見ぬふりをしている。中にはこいつのご機嫌伺いをしているやつもいるらしい。
そんな感じで会社内で幅を効かせているのが、俺の目の前でブーブー喚いてる豚だ。
...おっと口調が少し崩れた。
まっいいか。もう、取り繕う必要もないんだし。
話に戻そう。この部屋にいるもう一人の人間は俺、成神 誠|。
中肉中背の体つきにパットしない顔つき、死んだ魚のような目以外はこれといった特徴ない二十二歳の男。
2年前間では平社員として適度に仕事をこなしていたが、目の前の豚…もとい課長に目をつけられ、課長の仕事を回されたり、暴言の主な捌け口にされたりと、これまで散々な目に遭ってきた。
他の社員達は、俺を見て見ぬふりをしている。
そりゃそうだ。もし関わって自分に矛先が向くのは誰でも怖い。
俺だって自分の身がかわいい、自分自身が大切だ。
…まあ、少なくてもこれまでは。
いつもより長めの課長の暴言が終わりに差し掛かった頃、倉庫のなかに『テロン』と言う音が響いた。
課長は暴言を吐くのをやめ、音の発生源を見つけようとあたりを見回した。
「なんだ、今の音は?おい、お前も一緒に探せ。見つけたら今日の話はここまでにしてやる」
「……いえ、その必要はありませんよ。全て終わりましたから」
「?…お前!何を訳の分からないことを言っている。さっさと音の発生源を探せ!」
課長は俺の言葉を聴き、少し困惑したあと、いつものように怒鳴ってきた。
俺はそんな課長を無視しながら、この部屋の唯一の出入口である扉の前まで歩く。
課長は、自分を無視してそんな行動をした俺をまた怒鳴ろうとしたが、俺が扉の外側にあった(部屋の中からは見えない位置にあった)物を手に取ると驚愕の表情を浮かべた。
俺が手に取った物、それは小型レコーダーだった。
俺は、普段浮かべない軽薄な表情を浮かべながら課長に話しかけた。
「課長。私、この会社をやめようと思うんですよ。でも、課長に色々されたお陰で私の貯金ほとんどないんですよ。だからね、ちょっと会社を辞める前に金を稼ごうと思うんですよ」
「お、お前。いったい何を言っているんだ?そのレコーダーはなんだ!俺の質問にだけ答えろ!」
課長は、俺の表情を見て一瞬たじろいだが、すぐにいつも道理怒鳴り散らしてきた。
...察しの悪い豚だ。
俺はレコーダーの再生ボタンを押す。
『お前らのような平社員達はなぁ、何も考えず俺の言う通りにしてりゃーいいんだよ。…はぁ!休みだぁ?お前らに休日なんてな無いんだよボケが!お前らは、趣味が仕事、暇潰しが仕事、日常が仕事でいいんだよ!いいか!お前らのような代えの効く奴はたくさんいるんだよ!分かったら働かせてやってる俺に感謝しながら働け!…ぺっ......』
再生したレコーダーからは、先程まで課長が俺に向けて言った言葉が流れ出した。
課長は、それを聴きながらイライラとしながら話しかけてくる。
「糞が!そういうことか。…で、いくら払えばいいんだ!百万か!二百万か!」
課長は、俺がこのレコーダーを課長に買い取らせようとしたと思ったのか、具体的な金額を提示してくる。
しかし、それを聞いた俺は首を横に降る。
「なんだ!もっと欲しいのか!この薄汚い守銭奴が!…もういい、お前のいい値で買ってやるからさっさと金額を言え!!」
課長は俺の反応を見て、顔を真っ赤にして金額の提示を要求してくる。
俺はそんな課長を見ながら、微笑しながら答える。
「いえいえ、このレコーダーを売り渡す先は貴方ではありませんよ、課長。このレコーダーは、弁護士及びテレビ局へ渡す予定ですから。」
課長は俺の言葉を聴き唖然としていた。
俺はそんな課長を気にかけず言葉を続ける。
「まずは、テレビ局へこのレコーダーのコピーを売り付けます。今、私達が勤めているこの会社の不祥事の証拠でしたら、結構な高値で売れるでしょう。
そして、そこで得た金を使い今度は弁護士を雇います。弁護士にも先程のレコーダーを渡し、貴方を人権侵害や労働基準法違反で訴えます。…ああ、勿論このレコーダーを弁護士と聞いたときに余罪があればそれでも訴えますよ。
最後に裁判で貴方に勝ち、貴方に高額の賠償金を払わせ刑務所に送り、私の元に大金が転がり込んでくることになります」
俺は一旦言葉を区切り、課長に笑みを向けてから言った。
「流石に前社長も貴方を庇いきれないでしょうから、…貴方の人生終わりですね」
それを聴き、課長は汗をダラダラ流しながら反論してくる。
「そ、そんなことができるわけないだろ!だいたいそんなレコーダーひとつでテレビ局が動いたり、裁判で勝てたりするわけないだろうが!それにそんなことをすれば、ただでは済まさんぞ!今からでも俺の持てる力を使って、お前が就職しようとしてるところを脅したり、お前の親兄弟達が勤めてる会社を潰したり出来るんだからな!
それに、そうだ。会社の課長の悪事の摘発なんかをしたら、お前を雇う会社なんてないぞ!何時裏切るか分からん部下なんて怖くて雇えないからなぁ。
…今回の話しは聞かなかったことにしてやる。だからそのレコーダーをさっさと渡せ」
課長が自分の話に自分で納得しながら、俺に手を向けてレコーダーを渡すよう催促してくる。
それに対する俺の答えは勿論NOだ。
俺はため息を付きながら課長の質問に答えていく。
俺の回答を聞く度に課長の顔は赤から青に変わっていく。
「…はぁー。課長、こんな大事をやるんです、事前に色々と準備しないわけないでしょう。課長は仕事をあまりしないから知らないと思いますが、物事は事前の準備が大切なんですよ。
まず、レコーダーがここにあるひとつだけだと思っていましたか?そんなわけないじゃないですか。音が拾えなかったり、壊れたりしていたらそれだけでこの話しは成り立たないんですよ。事前に何度か課長との会話を録音したレコーダーが、家にいくつかありますよ。まあ、内容は今日の分程酷くないですが。
次は、何でしたっけ?…そうそう他の会社への圧力でしたっけ。それも無理ですよ。今からそんなことをしても、裁判で貴方が犯罪者と認められれば、貴方の行為は意味のないことになりますよ。
……後、忘れていると思いますが、私の家族は先月全員亡くなっていますよ。不幸な事故でね。
最後の私の就職先の件ですが、それも問題ありません。何故なら、私を会社に入れることで社会からの信用を得られるのですから。大手会社の課長を訴えた私が、メディアに取り上げられた私が、入った会社は注目を浴びるでしょう。そして、私がその会社でなにもしなければ、それだけでその会社は、信用に足る会社として、社会に認識されるようになるでしょうね。
あと、ついでですが、このする必要のない話を貴方にしたのは貴方のその顔を見たかったからです」
俺の話が終わると、課長は顔を真っ青にして、焦点の合わない目でぶつぶつと呟きながらこちらを見ていた。
俺は腕時計を確認しながら、止めに最期の言葉を言う。
「では、課長。さようなら。今までありがとうございました。これからの負け犬人生をどうぞ楽しんでいってください」
俺はそう言い扉に手をかけた。
すると、微かなもの音と機械音がしたあと、背中に痛みが走った。
俺はは膝から崩れ落ちた。
体が床に倒れ込むと同時、に後ろを確認すると、血に濡れた刃物を持ち血走った目で俺を睨む課長と、この部屋に仕掛けておいたデジカメが目に写った。
課長は俺の視線に気づかず、奇声を上げながら何度も刃物を突き刺してくる。
…誰がその刃物を用意したかも知らずに。
俺は遠くなる意識の中、今回の計画が成功したことをほくそ笑む。
何故なら、死ぬことこそが俺の目的だったから……