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哀の御旗の下に 後編

1.クソゲーマーズ、語る


「取り乱してしまい申し訳ありません」


 お茶と差し入れの和菓子をパクつきながら謝罪する。

 甘い物を食べて落ち着こう。熱いお茶を飲んで落ち着こう。


「いや良い。それこそが俺らに必要な情熱だからな」

「ええ、確かに伝わりましたわ。管理人さんの憎悪にも似た情熱が」

「GOOD! ハートにビンビン来たさ!!」

「良い出だしじゃったと思うぞ」


 あったけえ……あったけえよクソゲーマーズ……。

 遠い遠い昔のこと。

 寒い冬の夜、営業のためあちこちを駆けずり回ってる最中に飲んだホッとコーヒーより温かい。


「ありがとうございます。

あ、そう言えば気になってたんですがカーネルさんのHNって元軍人だから……ではありませんよね?」


「ああ、海だとキャプテンだからね。

このカーネルは偉大なチキン爺にちなんでのものだよ」


 好きなんだよK●Cとカーネルさんは笑う。

 私も若い頃は食べてたなあ。ちょっとしたご馳走だったよ。

 でも、歳を取ってからは揚げ物がキツクて……ああでも、何か久しぶりに食べたくなってきた。


「さて、私に水を向けられたし……次、良いかな?」


 全員が頷く。

 皆の目が雄弁に語っている。この男はどんなこだわりを見せてくれるのかと。


「私が思うクソゲーに欠かせない要素。

それは”開発者が押し付ける開発者の脳内にしかないリアリティ”――だ」


「「「「あー……」」」」


 あるあるあるある。

 拗らせたプライドだけはいっちょ前のクリエーターに多いんだよな。


「まず言わせてくれ。それ、必要か? なあ、本当にそれで面白くなると思ったのか?

ユーザーが気持ちよくプレイ出来ると思ったのか?

実際に自分でテストプレイしておかしいと思わなかったのか?」


 クソゲーを排泄するような開発者がテストプレイとかするわけないじゃん。

 そんな常識があるのなら血管ブチ切れるようなクソゲーは生まれないって。

 何もかもが足りてない拝金主義者――それがクソゲーの開発者だぞ。

 社員を食わせねばならんから金儲けを重視するのは分かる。

 だが、客に不快感を押し付けて金を得るのは三流どころか五流だ。

 私の会社にそんな奴が居たら即、首切ってたよ。


「元軍人だからってわけじゃないが、私はFPSやTPSが好きでね。

他のジャンルも当然、プレイしてたが……まあメインがそっちなんだ」


 今回はそのジャンルで押し付けられたリアリティ(笑)を語ろう。

 カーネルさんはそう告げて淡々と語り始めた。


「銃がそう簡単に当てられるわけないでしょ。

なんてほざく一方で敵の銃撃は百発百中。

リアリティ(笑)を押し付けられているのはプレイヤーだけで敵はファンタジー」


 ニコッとカーネルさんは笑い、


「舐めとんのかァッッ!!!!」


 憤怒の形相を浮かべた。


「銃火器系だとメンテもそう。リアルだとそりゃな?

ヘラヘラ笑って手抜きしてる新兵居たら糞ほどブン殴るさ。

でもゲーム、ゲームで面倒なメンテなんぞしたくねえんだよ!!

幾らゲームに落とし込んで簡略化してるっつってもな! そういうのは要らん!!

一々分解して手入れして組み直してとかやってられるか!!」


 ああ、何か私もそういうの覚えがあるな。

 一回、二回とかならまだしも頻繁にやらされて糞ほどキレたわ。

 気持ち良く撃たせろや! って。


「同じタイプの銃でニコイチして、メンテゲージが溜まるとかそういうので良いんだよ。

妙なシステム入れる暇あったら異次元機動する敵兵をどうにかしろ。設定上同じ人間だぞ。

アイツらがあり得ない動きで回避するんならこっちにも同じ動きを組み込め!

何でNPCよりプレイヤーのモーションのがモッサリしてんだよ!!」


 プレイヤースキルが低いとかそういうのじゃない。

 純粋に、プレイヤーキャラの作り込みが雑なんだろうな。


「ふぅー……すまない、葉巻構わないか?」


 ちらりとなっちゃんさんを見る。


「ええ、構いませんよ。私、嫌煙家というわけではありませんので」

「純くんさんに関しては言わずもがなか。ヘビースモーカーで有名じゃしのう」

「まあな。管理人さんは煙草は?」

「貧乏時代に金が勿体なくて禁煙してたら何時の間にか……って感じですね」


 皆の言葉を受けカーネルさんが葉巻に火を点ける。

 吐き出された紫煙がもわもわと天井に昇っていく。

 それを見上げるカーネルさんの虚ろな瞳……ああ、クソゲーマーなんだなって。


「あとこれは、今だから言えることなんだがな。

リアリティを重視してるって割りに、スタッフが不勉強なんだよ。

実際に軍人になった後で思い返してみると聞きかじった知識で作ったってのが透けて見えちまう」


 本職だからなあ。

 しかし、そういう不勉強な製作者がリアリティ云々とほざいてるのは確かにムカつく。

 ポイント高いっすよ、ええ。


「とりあえず私はこんなところかな? 次、誰が行く?」

「三番手はワシが仕ろう」


 ほう、ペガサスさんか。


「ワシが思うクソゲーに欠かせない要素とは”持て余し気味の独自システム”じゃな」

「「「「はいはいはいはい」」」」


 あるあるあるある。

 クソゲーって何で糞複雑で独自用語マシマシのよう分からんシステム搭載しちゃうんだろ。

 それが十全に扱えてるならまだ良い。

 だが作った本人たちでも持て余してるのが透けて見えるんだよ、クソゲーってのは。

 あと、根本的にその独創性溢るるシステムが糞ほどつまらないんだよな。


「これはワシがプレイしとった、とあるRPGの話じゃ。

システムを理解し上手く扱えるようになれば、

低レベルでも強大な敵をジャイアントキリングし放題とかそんな謳い文句じゃったかのう?」


 まあ、コンセプトは悪くないと思う。

 レベル上げがつまらない。

 創意工夫で強敵を倒すのが好きというようなユーザーには受けるだろう。

 だが、発想は良くても実際に出来上がるのが悪臭放つ糞だからクソゲーなのだ。


「糞ほどややこしい点や、

説明書やゲーム内での説明が糞ほど分かり難いのを除けば確かにその通りじゃったわ」


 そこを除くという時点でもう悪臭が隠しきれてませんねえ。


「が、結局普通にレベリングして物理で殴り殺す方が楽なんじゃよ。

件のシステムはレベル関係ない上に慣れてても時間がかかるからのう」


 ああもう……。

 レベルが影響しないし、慣れてても面倒だとか糞じゃん。

 いや、ジャイアンとキリングってコンセプト的に前者はまだ良い。

 でもそこはゲームなんだからさ。

 低レベルでも勝ち筋を整えられる程度で良いじゃん。

 レベルが上がったらもっと簡略化、快適化する作りにすれば良いじゃん。


「まあまあ、雑魚敵相手なら分かるぞい?

面倒なシステムを使わんでも物理ワンパンでってのはな。

雑魚戦でまで一々システムの活用を強要されたくはないしのう。

じゃがボス戦でぐらいは……そうは思わんか?」


 その通りだと思う。


「ですがボス戦の度に面倒な手順を強いられるのもちょっと……」

「一週目とかなら良いんだろうがよ。周回前提のRPGだとかったるいだけだよな」

「そこらを創意工夫して面白くするのが良ゲー、神ゲーだと私は思います」

「そしてそれが出来ないのがクソゲーなのさ! HAHAHAHA――いや笑えねえよ」


 マジトーンやめい。


「じゃがこのゲームは違う。普通のボスどころかラスボスですら……」

「「「「あー……」」」」


「システムをセールスポイントにしとる割に詰めが甘いんじゃよ。

システムが活きる設計をせにゃならんのに、そういった工夫が皆無。

だったらもうシステム要らねえだろ。システムのしわ寄せで手抜きになった部分をどうにかしろ。

ユーザーがそう思うのは当然じゃねえか?」


 その通りだ。

 下手糞なんだよな、何もかもが。

 光りそうな部分を自分で曇らせて無明の闇にしちまうんだもん。


「ちなみに、今ワシが例に挙げたゲームはシリーズ物の第一作でな」

「あ、私もう嫌な予感がしてきましたよ」

「奇遇じゃんなっちゃん、俺もだよ」

「ミートゥー」

「同じく」


 そんな俺たちの悪寒に応えるようにペガサスさんが虚ろな笑みを浮かべる。


「シリーズ毎に新システム投入、失敗を繰り返し最終的には失敗作のキメラが生まれおった」

「失敗したシステムを排除しなかったんですか!?」

「流石、クソゲーを開発する連中は発想がちげーな」

「ワシの話はこれで終わりじゃ」


 虚脱感を隠しもせずペガサスさんは茶を啜る。

 さあ、残るは二人だ。

 でも、とりあえずこの話が終わったら休憩しよう。

 私も含めて過去の思い出に牙を剥かれて血みどろになってるもの。


「それでは次は私、よろしいでしょうか? トリはちょっとハードル高いので」

「純くんさん、どうします?」

「おう。俺ぁ、構わねえよ」


 快諾するねえ。

 こういう場面でプレッシャー感じて怖じるような奴にゃ政治家なんぞ務まらんからな。


「私が思うクソゲーに欠かせない要素――ずばり、整合性の取れていない物語です」

「「「「それな」」」」


 シナリオだけでも良かったら、ギリクソゲー認定は免れるもの。

 私らが認識してるとこのクソゲーにはシナリオだけは良いなんて救いは許されない。

 一周回って逆に破綻したシナリオが癖になるから、ある意味シナリオが良いと言えなくもないけどさ。


「何でクソゲーのシナリオに出て来る登場人物はダブルスタンダードが基本装備なんでしょう?」


 しかも呪われた装備だから外せないと言うね。

 解呪も不可能だから実質永続バッドステータスになると言うね。


「いやあなた、ヒロインさん。言ってることがコロコロ変わってますよ?

序盤と終盤でとかならまだしも、酷い時は分単位で変わってます。お前の手首はドリルか何かですか?」


 岩盤貫いてマントルに突っ込んで死ねば良いと思う。


「まあまだ、大きな流れに翻弄され迷い惑って進んでるとかそういう描写(フォロー)があれば納得出来るんです。

でもあなた設定上、どんな理不尽にも負けず迷いなく自らの道を進み続ける聖女様じゃないですか。

作中の描写でもその通りで仲間たちが迷ってる中、

ただ一人凛と立ち続けるヒロインSUGEEEEE! みたいな描写がウザいぐらいにあるじゃないですか」


 あるあるあるある。

 製作がごり押しするヒロインがユーザーの逆鱗十六連射するとかあり過ぎて困る。

 しかも、それで炎上したら声優の盾を使うからなアイツら。

 人間性が糞なんだなあ……まあ、だからクソゲーを作るんだろうけど。


「誰かが矛盾を指摘するならまだ良いんです。

道ぶれっぶれですよ。心のカーナビを起動するべきなんじゃないですか? ってね。

でもそういうのは皆無。皆がヒロインを持ち上げるからおかしなことになる。

設定上、ヒロインに反感を抱いてるキャラもやってたりして訳が分かりません。

歩み寄っていく描写があるならまだしも、そういうのがないから困惑するんです」


 頭を抱えるなっちゃんさん。

 世界的な大女優のこんな姿を見られるのは私たちだけだろうな。


「個人と個人という最小単位の視点ですら矛盾乱舞。

そんなシナリオライターとそのシナリオを受け入れるPやDに、

果たして世界という大きなものを描くことが出来るのでしょうか?」


 出来るわけがない、そうなっちゃんさんは吐き捨てた。


「出来上がるのは矛盾に満ちた継ぎ接ぎだらけの不細工な世界。

……ある意味、リアリティがあると言えなくもありませんがね」


 ブラックなジョークを飛ばさないで。


「こんな世界滅んでしまえ、プレイ中幾度そう思ったことか……ご清聴、ありがとうございます」


 ペコリと頭を下げて、なっちゃんさんは和菓子を食べ始めた。

 私含めて話し終わったら皆、糖分摂取してるな。

 まあでもクソゲー語りのエネルギー消費は尋常じゃないからな。


 クソゲートークはダイエットに最適だった……?


「そいじゃあ、最後は俺か。

これまでの四人がゲーム内のことについて語ってたから少し気まずいが、まあ良い。

俺が思うクソゲーに欠かせない要素、それは――――”ゲームに関わった奴らの糞さ”だな」


「「「「っかー! そう来たか!! だがその通り!!」」」」


 そりゃそうだ。

 悪意しか感じないクソゲー生み出すような奴らだもの。


「詐欺PVを流し、無垢な子羊を絡め取る」


 あるあるある。


「発売と同時にダンマリを決め込む」


 あるあるある。


「不満の声を受け止めずに逆ギレしてユーザーに燃料投下」


 あるあるある。


「大炎上。なのに自分はまったく悪くないと開き直る」


 あるあるある。


「バグだろという声を仕様の一言で斬り捨てるなどの糞対応」


 あるあるある。


「気付いたらHPが閉鎖してる」


 あるあるある。


「最後は雲隠れ」

「「「「あるあるあるある!!」」」」


 煙草を取り出した純くんさんは、震える手でそれを口元に持っていく。


「何つーのかな……クソゲー排泄に関わってる奴らってさ。

あらゆる方向からユーザーに喧嘩売って来るんだよな。

殴り返せるのならまだ良いけど、基本的にあっちが一方的に殴りつけて来るだけだもん」


 たまんねえよ、煙と共に吐き出された言葉の切なさよ。


「多くを語るまでもなく、理解してもらえたと思う。以上で終わりだ」


 短過ぎず長過ぎず、要点だけを確実に聞き手に届ける。

 その語り口は実に見事なものだった。


「「「「「……」」」」」


 私たちはもう、言葉もなかった。

 擦り切れた沈黙だけが虚しく室内を流れていく。


「…………ひでえ時間だな」

「…………そうですね」

「…………でも、オフ会を開いて正解だったと思います」

「…………この空気も、直に語り合ってこそ、じゃからのう」

「…………私さ、来て良かったよ」


 と、そこでなっちゃんさんが立ち上がる。


「みんな、どうもな」


 泣き笑いにも似た表情。


「オレ」


 それは演技なのか、はたまた……。


「おまえらのこと好きだわ」




2.クソゲーマーズ、始動する


 クソゲー沼へ落ちた切っ掛け、一時的な別離の理由。

 好きなクソゲー、嫌いなクソゲー、思い出のクソゲー。

 昼飯休憩などを挟みつつ肥溜めのような話題で盛り上がりまくる私たち。

 とはいえ、全員年齢が年齢だからな。

 一通り話し終えたところで休憩ということになり、公民館の売りであるプラネタリウムにやって来ていた。


「綺麗ですねえ」

「ええ、まこと、美しいものです」


 寝転がって偽りの星を眺めるジジババ。

 昔は、プラネタリウムのクオリティもそこまでじゃなかったんだが……技術の進歩って凄い。

 ホント、子供の頃の御伽噺が今じゃ我が物顔で常識の椅子に座ってるんだもんな。


「…………なあ皆、ちょいとおいらの話ィ、聞いちゃくれねえかい?」


 突然、純くんさんが切り出した。

 マジトーンだったので少し驚いたものの、どうぞと返す。


「俺らァ、このままで良いのかよぅ」


 このままで良い、とは?


「これからも週に何回か集まってクソゲー談義したり懐かしのクソゲープレイしたり」


 するだろうな。

 そのための集まりなわけだし。


「時にはクソゲー関係なしに温泉旅行なんぞに行くのも悪かねえ」


 ああ、良いな。


「でも、それで良いのかい? それで満足なのかよ?」


 彼は――純くんさんは何を言いたいのだろう。

 分からない。分からないけれど言葉の裏に秘められた熱量だけは理解できる。

 だからこそ、余計な口を挟まず黙って耳を傾けよう。


「だってよぅ、それって過去の栄光に縋って自分を慰めてるのとおんなじじゃねえかよ」


 過去の栄光というか過去の屈辱だと思います。

 過去の屈辱が今にえにしを結んだと言えば何か良い話に聞こえる。

 や、実際はただのクソゲー好きの集まりでしかないんだけどさ。


「ジジイになったから、ババアになったから。

立ち止まって過去を振り返り輝かしい思い出をよすがに穏やかな時間を過ごす。

ああ、その価値は否定しねえよ。でもよぅ、俺らは違うだろ?

俺も含めてどいつもこいつも、これまで前のめりに駆け抜けて来た奴ばっかじゃねえか。

隠居したからって老け込むなんて”らしくねえ”よ。

くたばる寸前まで全力疾走するのが俺らみてえな馬鹿野郎じゃあねえのかい?」


 それは……。


 熱い、熱い言葉だった。

 純くんさんの演説に心のどこかで燻っていた火種がぱちぱちと音を立て始める。


「……具体的に何をしようと言うんじゃ」

「作るんだよ」

「「「「作る?」」」」


 思わず身体を起こし純くんさんを見る。

 周りを見れば他の皆も同じように彼を見ていた。


「おうよ。俺たちァ、人様よりも多くのもんに恵まれてる」


 金、権力、人脈、頭脳。

 同い年の老人とは比べ物にならないと純くんさんは言う。


「それを使って社会貢献も結構なことだがよぉ。

どうせなら薪にして情熱の炎にしちまおうじゃあねえか」


 よっこらせっと立ち上がった純くんさんはバッと両手を広げる。


「作ろうぜクソゲーを!!

金も技術もふんだんに注ぎ込んで俺たちのためだけのクソゲーを排泄するんだよ!

プレイしようぜ! 余生を費やしても良いと思えるような理想のクソゲーを!!」


 胸の奥の奥で何かがドクンと脈打った。


「…………かつてのように、テレビゲームということではないんですよね?」


「おうとも。やろうと思えば開発環境は整えられるだろうが、それじゃつまらねえ。

最新だ。俺たちがガキの頃は夢物語だったフルダイブのVRゲームで作るのさ」


 今のVRでもクソゲーは数多存在するだろう。

 それをプレイしちゃ駄目なのか? 駄目なんだろうな。

 俺も、彼も、皆も。その程度じゃあ――――物足りない。


「大枠のジャンルはVRMMORPG……どうよ?」

「良いな、悪くない。悪くないぞい」

「現代に悪臭漂う聳え立つ糞のバベルをおっ建てる……ああ、確かに悪くありませんね」

「何でしょう、私、年甲斐もなくドキドキしています」

「ミートゥー! 国難を救う重大ミッションでもこれほどの高揚感はなかった」


 やれやれ……老け込むにはまだ早いとは言うけどさ。

 まさかこの歳から夢を追い掛けることになるとは思わなかったよ。


「資金提供と大枠の箱作りは私の役目ですね」


 道楽でやるとはいえ最高のスタッフを集め最低のゲームを作るのだ。

 彼らを食わせて行くために。

 何より遣り甲斐を持って働いてもらうためには健全且つ私の死後も続く企業にしなきゃな。


「俺は管理人さんのサポートを務めよう。俺を上手く使ってくれ」

「おお、それは助かります」


 大泉純次郎というバックの存在はひっじょーにありがたい。

 好きに使えと言うのならば、存分に利用させてもらおう。


「ふむ、ではワシは技術を提供しよう。

ゲーム作りに直接携われんでもないが本職じゃないしの。

じゃからワシの専門分野であるAIを提供させてもらおう。

”ADAM SEED”と”EDEN KIT”を使えばゲームのAI部分については磐石じゃろうて」


 アダムシードにエデンキット?


「ワシに纏わる都市伝説でよう語られてるアレじゃよ」


 全員の顔が驚愕に染まる。

 え、ちょ、完全な人間を造り出したってあれは本当だったのか。


「とはいえ、完全な人間と言うには語弊があるがの。

何せ種から芽吹いたそれは決して人間に悪意を持てぬし逆らえもせんわけじゃし。

ワシものう、流石に倫理観っちゅーもんがあるからそこの制限をつけざるを得なかったんじゃよ」


 何言ってるのこのお爺さん?

 つーか倫理観がなかったらヤベーAIが電子の海に放流されてた可能性あるのか。

 見ろ、純くんさんとカーネルさんの顔色がやべーことになってんぞ。


「「…………技術が漏洩したりとか……」」


「それは心配要らん。種から生まれる子らは自らの存在とその危険性を熟知しておる。

ワシ自身も護りを施してあるが、子供らも自らの身を護ろうとするから心配は要らん。

万が一、億が一にもその可能性が生じた場合は完全な自壊を選ぶじゃろうて」


「「じゃあ何の心配も要らないな!!」」


 うーん、この。

 完全に欲望が勝ってらっしゃる。いや、私もそうですけどね?

 だって人間と遜色ないAIってことはだぞ?

 演じられるってことじゃないか。的確に。私らが好むようなクソゲーのキャラ性を。

 へへ、オラ、ワクワクしてきたぞ!


「しかし参ったな。管理人さんと純くんが万能過ぎて私、やることがないぞ。

人脈って面ではそれなりに力になれるが、私じゃなきゃいけない必要はないしな。

何なら管理人さんと純くんでも私が紹介出来る人材は引っ張って来られるだろうし」


「同じく。名が売れていたとはいえ所詮は一介の役者ですし……」


 いや、そんなことはない。

 二人の力も存分に借りるつもりだ。

 本人には見えておらずとも、私には見えている。彼らの活用方法が。


「言ってくれるなナイスガイ。じゃあ、私も上手く使ってくれよ」

「どうぞよしなに」

「ありがとうございます、頼りにしてますよ」


 とりあえず初期投資は総資産の半分を投入しようか。

 なるべく早くスタートを切りたいし最初は今ある身銭から切るしかない。

 プロジェクトの立ち上げと並行して私自身も、新たな稼ぎ口を幾つか開拓しなければな。

 半年もあればそれで初期投資分は回収出来るだろうが……そこで止まるつもりはない。

 理想を追い求めるのならば金は幾らあっても困らないからね。

 私の手で動かさずとも勝手に車輪が廻るようにもしなきゃだし……ああ、やることが多過ぎる。


「管理人さん、幸せそうな御顔をしていらっしゃいますね」

「昔日の情熱を思い出したからでしょうね。でもそれは皆さんも同じでしょう?」


 見ろよ、良い歳こいたジジババがする顔かね?

 どいつもこいつも子供のようにキラキラしやがってからに。


「とりあえずチーム結成ということですが……」


 まとめ役、リーダーには純く――――


「リーダーはアンタだよ、管理人さん」

「は? いやですが、人を率いるという意味では……」


 国を率いて来た純くんさんには負ける。

 だから純くんさんが良いと思う。

 私はそう皆に告げるが、彼らはそれを否定した。


「管理人さん、君が、君が集めたんだろう? 私たちを」

「始まりはお前さんじゃ。お前さんが居たから何もかもが始まったんじゃ」

「であれば管理人さんが頭目を務めるのは至極当然の道理かと」


 皆……。


「さあキャプテン、号令を頼むぜ。最初だからな、景気の良いやつを頼む」


 純くんさんが笑う。

 ペガサスさんが笑う。

 カーネルさんが笑う。

 なっちゃんさんが笑う。


 私も……笑っていた。


「それじゃあ、私たちの終活(エンドゲーム)を始めよう」


 深く息を吸い、腹の底から声を出す。


「――――クソゲーマーズ! アッセンブル!!」

良い感じに俺たちの戦いはこれからだ!

みたいなオチになったので終わります

最終的に前後編の短編になってしまったし短編にカテゴリーしとくべきでしたね

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