表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

ふたりのオクラホマミキサー

 そして、「後夜祭」が始まった。


 私は保健室のベッドから起きて制服に着替えると、校庭に来ていた。

 夕暮れも迫り、キャンプファイヤーの火が灯される。

 晴れた日のトワイライトタイム。

 空は瑠璃色に刻々と色を変化させ、それはロマンチックなムードを醸し出している。


「白石」


 その時、背後から声をかけられた。

「宮崎君」

 そこには宮崎君が立っていた。


 彼の視線と私の瞳が重なった。


「白石。俺と……」

 宮崎君が私に話しかけた時、


「待って!」


 その場に、甲高く鋭い声が響いた。


「今野さん!?」

 今野さんが近づいてくる。


「宮崎君、話があるの。わかってくれるわよね? 今、この場でのこの話の意味」

 彼女は仄暗い女の情念を感じさせる瞳で、彼を妖しく見つめている。

 宮崎君は右手をあごに当てた。


 暫しの沈黙。


「俺は……」

 彼は今野さんの目を見て、はっきりと言った。

「今野。悪い」

 それは、明らかに拒絶の意思だった。

 

「私……! 私は宮崎君のことが好きよ! 白石さんにだって絶対負けないわ。あなたも私の気持ち、知ってたはずよね?」

 今野さんは、更に縋るような目で宮崎君を見つめる。

 それは彼女特有のしどけない、男子だったら放ってはおけないようなセクシーさを漂わせている。

 彼女は更に宮崎君に迫り、彼の胸に顔を埋めようとした。 

 私は居たたまれず、

「わ、私……向こうに行くわね」

 と身を翻し、その場を辞そうとした。


 その時。


 宮崎君は、反射的にばっと両腕で今野さんを自分の胸から押しやり、すかさず私の右肩を掴んだ。

 そして、振り返ると彼は、今野さんに向かってはっきりと言った。


「今野、悪い。『後夜祭のジンクス』は今野には使えない」


『後夜祭のジンクス』……?!

 それは……。


 そして、彼は私の左手首を掴み、

「白石」

 彼独特の低いテノールの、私の好きなその声で呟いた。


「白石……好きだ」


 私をじっと見つめたまま、続ける。


「ずっと、好きだったんだ」


 そう言うと彼は、両手でぐいと強く私を自分の胸に引き寄せた。


「宮崎君……」


 ドキドキと高鳴る心臓の鼓動を意識しながらも、私は大人しく彼の胸の中に抱かれていた。



 ◇◆◇



 パチパチと薪が音を立てて燃えている。

 暗い闇の中、オレンジ色の炎が夜目にも鮮やかだ。

 お決まりの音楽。

 しかし、それは今、私の耳に心地良い。


「白石」

 宮崎君が呟く。


「これからも俺のいい「ライバル」でいてくれ」


「ライバル……」


「ああ。お前ほど俺に刺激を与えてくれる(ヤツ)はいないよ」


 彼の口調は優しかった。

「それから」

 彼がすっと私に改めて手を差し伸べると、


「俺の……「彼女(カノジョ)」になってくれないか」


 彼の低いテノールが、甘く私の耳元で響いた。


 そして、私達はゆっくりとステップを踏み始めた。


 焚火の炎が熱いのか、いや、心が燃えているのかもしれない。

 紅い顔をしながら私達は手を取り合って、ダンスの輪の中で、後夜祭でのそのカップルは絶対に別れないというジンクス……。

『パートナーチェンジなしのオクラホマミキサー』をいつまでもふたり踊り続けた。



 了




本作は、ストーリー構成に山之上舞花さま、柿原凛さまから貴重なアドバイスを頂きました。


お二人のお力がなければ、本作は完成しませんでした。


舞花さま、凛さま、そしてお読み頂いた方、本当にありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)タイトルに惹かれて読みにきましたね。ライバル相手と恋におちるっていう物語は他にも多数あると思うんですけど、学園ドラマならではのコンセプトを持っているというか、あとは香月さんの創られる…
[良い点] ドキドキな青春! 安定なクールイケメン宮崎君がステキ。 (*´ω`*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ