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喧嘩をやめて

「すみません。一緒に写真に映るサービスだけですから」

 と、彼の手をがっちりと掴んだのは……。


「宮崎君……!」


 助けて!……と、私は心の中で叫んでいた。


「宮崎。お前、学年トップだからって調子こいてんじゃねーよ」

 近藤君のニヤケていた顔つきが一変した。

 大柄な体で威圧するように、眼光鋭く宮崎君に凄む。

「そういうわけじゃない。白石も困ってるのがわからないのか」

 しかし、宮崎君は動じない。冷静に宮崎君は彼を制する。

 近藤君は明らかにイラつき、

「お前、前から気に食わなかったんだよ」

 と、宮崎君の胸倉を掴んだ!


「やめて!!」


 私はそう叫び、二人の中に割り込もうとした。


 しかし、

「白石はひっこんでろ」

 やはり冷静な宮崎君は、私をかばうように私の前に立ち、近藤君と相対している。

 状況が切迫しているのが彼の背中越しに伝わってくる。

 じっと汗ばむような無言の時が暫し流れる。

 近藤君が宮崎君の胸倉を一方的に掴んだまま、宮崎君はあくまでポーカーフェイスに無抵抗を貫いているようだ。

 そんな彼に近藤君は益々余計に苛立っている。


「俺だって白石さんが好きなんだ。宮崎、何もかもお前の思い通りになんかさせるかよ」

「好きにしろよ」

 しかし、宮崎君の声は無表情だった。

「ンだよ!」


 遂に近藤君が右の鉄拳をふるった!

 宮崎君は左頬に拳をまともにくらい、真横へと飛ばされた!!


「危ない……!!」




 その瞬間────── 




「白石……!!」



 宮崎君の声が私の頭に響いた。

 私は宮崎君をかばって、窓ガラスにぶつかった。

 頭を打ち、窓ガラスが割れる。


「白石!!」

「宮ざ、きく……」


 気が遠くなっていく中、私は彼の名を呟きながら、私をその腕に抱き、私の名を呼ぶ彼の声だけを聴いていた

 

  ─────────・・・

 ・・・・・………








 ◇◆◇



 ”おめでとう、白石”

 宮崎君がいつものクールなまなざしで私に語り掛ける。

 ”学年トップになったんだ。俺なんか目じゃないよな”


 そんなことない。

 あれは私の実力じゃ……


 ”宮崎君、行きましょう”

 ”ああ”

 ”今野さん……!”


 二人は仲良さそうに腕を組むと私に背を向け、歩き出す。


 待って!

 宮崎君……

 今野さんと一緒に行かないで……!!


 ─────────・・・

 ・・・・・………




「宮ざ…く、ん……」

 譫言うわごとうなされるまま、涙に濡れる瞳をうっすらと見開くと、そこには……。


「今野さん……」


 私の前にいたのは、制服姿の今野さんだった。


「こ、こは……?」

「保健室。あなたの乱闘騒ぎのせいで学祭はもう終わりよ。あなた軽い脳震盪で、ひたいをちょっと切ったみたい」


 気がつけば今野さんの説明通り、私は保健室のベッドの上だった。

 額に手をやると、大きなガーゼで手当てがしてあるようだった。


「私の、せい……」

「そうよ。あなたのせいよ」


 今野さんの言葉が冷たく響く。


「全く、あなたにはしてやられたわ。男子の喧嘩の中に飛んで入るなんて、ていのいい自己アピールよね」

 今野さんが更に冷ややかに続ける。

「身を張って宮崎君を守ったつもり? そんなの自己満足よ。偽善極まりないわ」

「そんなつもりじゃ……」


 いつもの可愛い猫撫で声はどこへやら、今野さんの言葉は陰湿な響きを含んでいる。


 私は、彼女の「裏の素顔」と対峙していた。


「そんなに宮崎君のことが好き?」

 ストレートなようで揶揄を含んだ彼女の問いに私は一瞬、固まる。

「私、あなたにだけは負けないわ」

 彼女は蛇のような粘着質の目つきで私を射抜く。

「今野さん……」

 ただ彼女の名を口にする私に彼女は口許に怪しい微笑を湛え、私を見つめた。


 彼女は私の……「恋のライバル」?!


「あ、翠! 気がついた?!」


 その時。

 保健室に入って来たのは彩華だった。


「じゃあ、私は行くわね」

 すっと、今野さんは席を立った。

 その去り際は鮮やかで、私は保健室を後にする彼女の妖艶とも言えるその後姿をただ見つめていた。


「何? 翠。 今野から何か言われたりでもしたの?」

「え、ううん……。何でもない」

「今野が翠の看病なんておかしいわよ」

 彩華は鋭い。

 私は、たった今、繰り広げた今野さんとのバトルを思い返し、胸が疼く。

「彩華……。学祭が中断したのは、私の……」

「翠! やっぱり今野に何か言われたのね?! 学祭は元々終了間際だったじゃない。翠のことは関係ないわよ!」


 彩華は、私に両腕で抱きついてきた。


「それにしても無茶だわー、翠。流血して倒れるんだもの。綺麗な顔に傷でも残ったらどうするつもりだったのよ?! もう、心配させないで」

 彩華は眉をひそめると、憤懣ふんまんやるかたないように言った。

「男子も男子よね。みんな下心丸出しで、翠を何だと思っているのよ」

「ごめん、彩華」

「なんで翠が謝るの」

「だって」


 彩華のナニゲな気持ちが嬉しかった。



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