恋のジェラシー
「はいはーい! 「喫茶店」がいいと思います。学祭っつったらやっぱ食いもん」
「賛成! 喫茶店は学祭の常識よね」
秋の「学園祭」が近づいてきた。
ホームルームの時間、クラスの出し物は何をやるか、という討議をしたら、「喫茶店」という声が多い。
それで決まりかと思っていたところ、
「待って! 一口に喫茶店じゃあ、集客は見込めないわ。ここはひとつ、「メイド&執事喫茶」をやるべきだと思うわ」
眼鏡に三つ編み。普段は地味子の東野さんがやたら目を輝かせて、そう挙手をした。
すると、山崎君が立ち上がった。
「待った! それを言うんなら、「アニマル喫茶」だ!」
「何よ? 「アニマル喫茶」て?」
「猫耳とかのカチューシャつけるんだよ。可愛い娘がやれば全然違うぜ。ま、東野じゃ無理だけど」
「何ですって?!」
それから喧々諤々の議論に発展。
「メイド&執事喫茶」派と「アニマル喫茶」派。
ほぼ半々ずつだ。
いつまでたっても、ハナシはあっちこっちに飛ぶし、収拾がつきそうにない。
ホームルーム進行役の宮崎君が、壇上で困ったように発言者の顔を見ている。
けれど、私は助け舟を出せずにいる。
どうしよう……。
このままじゃ、クラスがまとまらない。
そう思案していたところに、勢いよく立ち上がった女子がいた。
「ねえ、いっそのこと「クレープ・カフェ」をやらない? クレープを焼いて、カフェで提供するの。私の伝手で道具や材料が安く仕入れることが出来るから」
クラスで男子にダントツ人気の今野さん……。
たわわな大きい胸までくる長い栗色の髪を緩やかに巻き、密かにナチュラルメイクも怠らないセクシー系の彼女が言い出した。
「みんなあ。いいと思わない? やりましょうよ」
今野さんは、甘く媚びるような声で言った。
それはさりげなく不思議に巧妙な説得力を持っている。
でも、彼女は実は裏表のある性格で、女子からの信頼度は低い。
「クレープ・カフェかあ。それも面白そうだなあ」
「今野が言うんだったら良くね?」
あれだけ荒れていたクラスの雰囲気が一気に変わった。
女子は憮然と面白くなさそうにしているけれど、いかんせん男子の生徒数は女子の三倍以上。
宮崎君もホッとしたような顔をしている。
私は、胸がチリチリと鳴ったがうまい提案が出来ない。
「じゃあ、「クレープ・カフェ」でいいんだな?」
彼が皆を見回して言った。
「「「「賛成~!」」」
結局うちのクラスは、「クレープ・カフェ」をやることに決定した。
それから学園祭の準備をする日々。
「宮崎くーん、材料の件だけど」
今野さんが、小さな甘えた声で上目遣いに宮崎君に話しかけている。
「ああ。その予算なら生徒会に話ついたよ。安くて助かる、って」
「良かったー。私、パパに無理言って口利きしてもらったの」
あれ以来、今野さんがあからさまにやたらと宮崎君にまとわりついている。
私は、そんな二人を教室の隅から見ていた。
すると、
「あ、白石! 当日の衣装の件だけど。あの女子のコスプレの装飾、もう少しなんとかなるか?」
突然、宮崎君に声をかけられた。
「え? 衣装の?」
「あら、宮崎君。それなら私がやるわ。お裁縫は私、得意なの。それに白石さんはお勉強が忙しいわよね?」
そう言って今野さんは宮崎君に腕を絡め、勝ち誇ったように私を見た。
そんな二人をただ私は傍から見つめるだけで……。
学祭の準備期間中、ずっと私の心中は複雑だった。
◇◆◇
「翠、まだ帰らないの?」
「うん。ちょっとややこしい課題があるから」
「明日、学祭なんだから無理しちゃダメよ」
「うん、ありがと。バイバイ」
「ばいばい」
学園祭の前日。
私は学祭の準備作業を終えた後も、学祭翌週に当たっている地理の課題の為、居残りをすることにしたのだ。
「うーん、思ったより大変」
学校にしかない大きな世界地図を前に、資料作成に難儀していたその時。
ガラッと教室のドアが開かれた。