好きになった彼はライバル?!
本作は、ストーリー構成に山之上舞花さま、柿原凛さまからアドバイスを頂きました。
朝、一時限目・数学の授業の時のこと。
「あー、今から先日の中間考査の答案を返す。赤池」
「はい」
出席番号順に、答案が返されていく。
そして……。
「白石」
「はい」
「よくやった。学年最高得点の99点だ」
おー!、という羨望の声が上がる。
私は軽く会釈すると、返された答案用紙を持って席に戻った。
それから、更に答案が配られ、
「宮崎」
「はい」
クラス委員長の宮崎君が返事をした。
「97点だ。今回はどうした。いつもより点が悪いぞ」
「次は頑張ります」
宮崎君は、そう言って答案を受け取ると自分の席に戻った。
「悠、今回は仕方ないよな」
「試験中に風邪ひいたお前が悪い」
周りのクラスメイトからそう言われ、「ああ」と彼はポーカーフェイスで一言だけ返していた。
そんな彼を私は、複雑な想いで見つめている。
2点差……。
本来なら、数学は彼の得意科目でいつも満点なのに。
宮崎悠。
彼は受験の時トップ合格で、入学式の時には新入生代表の挨拶をした。それ以来、高校二年二学期の現在に至るまで、ずっと学年一位の座を守り続けている。
そして、毎回わずかに及ばずに私がぴったりと二位につけている。
……そう、前回の実力考査の時までは。
今回の中間考査で、遂に彼は学年トップの座を私に明け渡したのだ。
順位はもう掲示板に張り出されている。
生徒の間では暫くその話題でもちきりだった。
けれど、違う。
あれは試験最終日の前日の放課後のことだった。
─────────・・・
「あー、降られちゃった」
校舎の靴箱の所で外を見ると、シトシトだけど秋雨が降っている。
傘を持ってきていない私は、思案していた。
一番近いコンビニまであまり濡れないで行けるかな。
その時。
「白石」
「え?」
背後から声をかけられ、振り返った。
「宮崎君」
「これ。使えよ」
宮崎君が立っていて、深緑色の大きな傘を私に差し出していた。
動かない私に傘を押し付けるように渡すと、彼は外へと雨の中を走りだして行った。
「あ…、宮崎君……」
遅ればせながらも声を出したけど、彼はもう校門を出て行くところだった。
私は、ただ茫然と傘を持ったまま、その場に立ち尽くしていた。
──────────・・・
その翌日。
朝、登校してきた彼の様子はどことなくおかしかった。眼は潤み、頬も赤い気がした。その状態で試験を受け、試験の最終科目の数学の時間にとうとう倒れ、試験を中座することになってしまった。
あの雨に濡れたことがその不調の原因に違いない。きっと風邪をひいてしまったのだろう。
もし、そんなことがなければ彼の得意科目の数学は満点だったはず。
今回の私の学年一位は、私の真の実力ではないことを私はよく知っている。
とにかく、私が原因で彼が学年トップの座から陥落したことが、私は申し訳なくて仕方がなかった。
◇◆◇
彼は気付いていないようだけど、私が彼と出逢ったのは、中学の修学旅行の集合場所での駅だった。
彼の学校の新幹線の出発が、私の学校が乗る新幹線の一本早い時間らしかった。
「おい、田中! 急げ! 出発まで後三分だぞ!」
「わーってるよ、班長!」
「班長言うな」
彼が、遅れてきた男子学生の隣に並び、その生徒の頭を軽く小突く。
その時、私は一瞬、ドキリとした。
彼の声……それはとても綺麗なテノールで、独特の甘い響きがあった。私の好きな声……。
私は、線が細く背の高い彼の姿を、見えなくなるまで見送っていた。
◇◆◇
彼と再会したのは、名門私立「星章高校」公開模擬授業の時。
どうやら違う中学校で班を作ったようで、偶然にも私は彼と同じ班になったのだ。
「宮崎君。この文章の意味するところは?」
「主人公が彼女に対する友人の気持ちを知りながら、自分と彼女との見合い話を進める、その狡猾で冷酷な心情です」
現代国語の授業中、彼はとても堂々としていて、質疑応答にも豊かな知性に溢れ、明らかに他の生徒とは一線を画していた。
そのお昼休憩時間。
私は、彼のいる席と近い位置でお弁当を食べることになった。
「悠。お前は高校、ここ。星章に決めてるのかよ?」
彼の友人らしき男子が彼にそう声をかけた時、
「ああ。奨学金の特待生試験に合格したらの話だけどな」
その言葉を聞いて私は思った。
先程の授業での彼。あれが彼の実力なら特待試験も合格確実だろう。
じゃあ、この高校に入れば、彼と同じ学生生活を送れる……?
その時、私はとくんと胸が高鳴るのを意識した。