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ドールの旅〜愛されるのも悪くない〜  作者: 子羊
旅立ちに向けて
9/20

トラウマ

「は〜、本当に美味しかった!」


「へへっ。だろ? 頑張った甲斐があったよ」


 本当にアレンは嬉しそうに笑うよね。私の言葉でここまで反応してくれるなんて、なんだか私まで嬉しくなるよ。





「二人とも竜車が見えるのよ! アレン、あれは」


「あぁ、俺が用意した。歩くんじゃ、何日かかるんだよって思ってな」



 竜を刺激しないように、ゆっくりと近づいて行くと竜はこっちをチラッと見た後、プイッとそっぽを向いてしまう。緑色の綺麗な鱗の竜だ。チラッと見えた瞳は紫色で賢そうな印象を受ける。だってお座りしてるんだもん。凄い、かわいい。


「へー、都会では何回か見たことはあったけど、乗るのは初めてだよっ!!」


 昔は馬を使っていたみたいだけど、今は竜の方が速いらしく、馬車よりも竜車の方が圧倒的に多いのだ。



「可愛いね、この子。名前はあるの?」


「プルートっていうんだ。ちなみにメス。親父の竜だったんだけどノアと行くんだったらって……ッ。貸してくれたんだ」


「流石! アレンのお父さんだね」


「おうよ」





 仲良く言い合いをしているメーアとアレン。そういえばアレンって……。


「そういえば、アレンってどうしてドールと一緒にいないの?」


「……っ。別に、皆と同じことをするのが嫌なだけだよ」


 アレンの顔が嫌そうに歪められた。


「ノアに男のことを理解するなんて、無理な話なのよ」


「ふーん、そういうものなんだ。男の子の感覚ってわからないね」





「メーア。お前さ、竜車を走らせてくれないか?」


「は?」


「いや、俺まだ未成年だから。ドールなら平気だよな」


 殺されたいのみたいな顔をしていたメーアは、アレンの発言に納得してくれたみたいで、すごーく嫌そうな顔をしながら頷いてくれた。今知ったんだけど、竜車は未成年だと動かしちゃダメらしい。事故になったら責任とれないからなのかな。



「メーア、お礼にキスとかどう?」


「すっごくいらない」


 つれないメーアも、すっごくかわいい。






 竜車に乗り込んだ私達は座っているだけで、することがないからたわいない会話をしていた。


「竜車ってあんまり揺れないんだね」


 大きな石の上を走ったらガコッとかいって揺れるイメージだったんだけど、そうでもないのかな。



「万が一落ちたりしたら死ぬから、風の加護がついてるんだ」




「へー、ごめん。なんか……ねむ、くなってきちゃった」


「ん、おやすみ」



 ちょうどいい温度の中、ゆるりと眠気が襲ってくる。誰かに頭を撫でられているような、温かいぬくもりを感じた。



 *****



 これは俺がドールと一緒にいたくない勝手な理由だ。嫌なら聞かなくてもいいんだが。


 ……そうか、ありがとう。




「村の外には変態さんが多いから気をつけなさいよ」



 そんな母さんの忠告を思い出していた俺は、今自分がはぐれてしまっていることに気づいた。初めて出た村の外、テンションが舞い上がっていた。だから親父の止める声も無視して走り回っていた。


 だから迷子になっていた。


 きっと見つけられたら、怒られる。でも会えないのも寂しい。そんなことをグルグルと考えながら人を探していた。


「うええーーん、おやじ。おやじどこ?」


 大人なら親父がどこにいるのか、分かるかなって思って。子どもらしい考えだよな。あと涙が止まらなかったよ、怖すぎて。





「あっ」


 森の中をしばらく歩いて、クタクタになっていた時ブツブツと人の声が聞こえたんだよ。まあ俺は、すぐその人の元へ向かったんだけど。




 まず目に入ったのは、バラバラになったドールだった。確か、女の子だったと思う。どこからか甘い匂いがする。甘いものは好きだけど、この匂いは好きになんてなれない。



 バラバラになっているドールに目を奪われていると、近くに男がいたことに気づいた。



「はぁ……はぁっ。あぁ、キミかわいいよ。かわいい」


 グチュリ、グチュリ。何の音だろうか。何かをかき混ぜたりする音が耳から離れない。


 男がバラバラになっているドールに覆い被さった。何をしているんだろう。 でも様子を見に行くことなんかできない。


 ――怖い、怖い怖い怖い。


 ガタガタと震える手足を抑え、ここからどうしようと考え始める。もしもアイツがこっちを向いたら? バレたら殺されるの?



 人の声が聞こえた。


「おいっ! 俺は聖騎士だ。そこで何をやっている」


 思わず顔を上げると、聖騎士とかいう男がはあはあしていた男に剣を向けていた。



「はぁ……はあ。うううう、美しいだろう? もっと見てごらんよ、素敵だろう」



 男は狂ったように、バラバラになったドールを自慢しようと語り始める。



「まずこの手足さ。とてもいい切り口だと思わないか? やっぱり削いだやつが優秀だからだろう。そうに違いないさっ!!」



「……なんというドールに対する冒涜。死をもってつぐなえっっ!」


 聖騎士は大きく剣を振り上げた。あぁ、そのままだと首に当たっちゃうと思った。でもそのまま死んでしまえばいいとも思ってしまった。



 首がはねるのを見届ける前に、俺の意識は遠のいていった。





「それからドールが怖いんだ」


「それでドールを怖がるの? 人間を怖がる……の方がわかりやすいのよ」


 メーアに言っていいのか? でも言わなきゃ気持ち悪いよな。





「あのドール。バラバラにされても生きてたんだよ」


 聞こえたんだ。気を失う瞬間――「たすけて」って。

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