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ドールの旅〜愛されるのも悪くない〜  作者: 子羊
旅立ちに向けて
7/20

変な気分


 メーアの言葉がうまく聞こえなかったから、聞き返そうとしたのにアレンがうるさくて聞き返せなかった。



「なんか今日のアレンは変だね」


「いつものことなのよ」


「いや、そんなことないだろ」



 やっぱりアレンが変だ。いつもよりなんかうるさいし。



「取りに行かなきゃダメかな」


「とりあえず医療道具も持って行った方がいいのよ」


「なんで?」



 忘れ物とか言ってたのになんで急に、医療道具? 話の流れがまったくわからない。説明をしてもらおうとアレンの方を見上げてみたが、アレンはうっすらとした笑顔でこっちを見てくるだけだった。



「……旅先で怪我をしたドールがいた。ドール医師のノアはそれを見捨てるの?」


「私はそんなことしないよっ!!」


「私はって、なんだよそれ」


「なんでもないよ、アレン」



 私は見捨てたりなんてしない、絶対に。助けを求める人達(ドールたち)を見捨てたりしない。






「ふーん、そうなの。じゃあ早く持ってくるのよ、医療道具」



 私の瞳を見透かすかのように、見つめてくるメーア。ドール独特のガラスのように透きとおった瞳は、えぐりとって鑑賞していたいほどに魅力的だ。



 その魅力に取り憑かれて実際にやってしまう異常者も、多いのだけれども。



「メーアは怖いし、アレンは変だし。……なんか二人ともおかしいよ」


「そう見えるか?……俺が」


「あれ? アレンなんでマフラーなんか巻いてるの。そんなに寒がりだったっけ」



 バリバリ見たことのあるオレンジのマフラーを巻いているアレン。あれは確か、上手くできなかったから「嫌がらせだよー! はいっ、プレゼント」とか言って渡したヤバイやつだ。



「急に寒くなったんだよ。あと嫌がらせ」


「ぐっ……もしかして怒ってる?」


「いやいや、全然」



 これは根に持ってるな、確実にそうだ。




「……早くするのよ、ノア」



 メーアの今まで聞いたことのないぐらいの低い声で怒る。なぜかメーアを怒らせてしまったらしい。



「ねえ、アレン。私何か悪いことしたかな?」



 コソコソと小声でアレンに尋ねてみるけど、アレンは「まあ、全部終わったら俺に謝れよ」とか言ってきた。



 どうやら私は二人に、何かやってしまったらしい。まったく覚えてないけど。





 *****




 私は今、自分の部屋にいる。とりあえず適当に持ち運びが楽できるようにと、最小限の荷物にしておこうと思っている。服は街でも買えるだろう。



「荷物をまとめているの?」


 せわしなく動いていた手を止めて、顔を上げるとフェイさんがいた。



「――フェイさん」



 フェイさんの姿を一目見たその瞬間、鳥肌がたつ。ゾワリとした背中には蜘蛛が動き回っているような気持ち悪さに襲われる。



「うーん、ちょっとね」


「そう」


 フェイさんの返事は短かった。何か考えているような仕草だが、その瞳は確実にこちらを捉えている。



 フェイさんの瞳を見ていると、自分が何か大切なことを忘れているような、そんな感覚に陥ってしまう。


 うまく言えないこの感じ。なんか嫌だな。



「フェイさん、隈ができてる。眠れなかったの?」


 私が隈ができてるよと指摘すると、フェイさんの目がキョロキョロと落ち着きを無くす。どうやらあまり聞いてほしくないことだったのかも。



「えっ……えぇ、そうみたい。もうおばちゃんね、ちょっと寝てないだけで顔に出ちゃうなんて」


「えーー、フェイさんはまだまだ元気ですよっ! お若いですから」



 罪悪感をちょっぴり感じた私は、わざと明るく言ってみた。多分フェイさんにはお見通しなんだろうけど。



「ふふっ、そうかしら」






荷物をまとめ終わった私に、フェイさんは優しい口調で話しかけてくる。



「辛いことがあったらお守りの中身を見なさいな。きっと貴女の助けになるから」


「ありがとう、フェイさん……」


「もう……そんな顔しないで。ノア、お願い」



 私、どんな顔してるんだろう。


 フェイさんは少し涙声で、私の顔の輪郭をゆっくりと指でなぞっていく。その感覚がこそばゆくて、でもなんか懐かしくて……胸が熱くなっていく。




「じゃあ、いってきます。フェイさん!!」


「えぇ……さようなら」


「見送りは外じゃなくていいのー?」



 私が茶化すようにそう言うと、フェイさんはにっこりと微笑むと「お姫様には騎士でしょ? 魔女はお呼びじゃないのよ」なんてよく分からない答えが返ってきた。



 ドアに手をかけると背中に穴が開きそうなほど、熱い視線を感じる。



「うーん、よくわかんないけど。まあいっか、じゃあねー」



 ドアが閉まるギリギリまでその視線はずっと、ずっと――。

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