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ドールの旅〜愛されるのも悪くない〜  作者: 子羊
旅立ちに向けて
5/20

受け止める覚悟

 ぼんやりとした月明かり。外に出てみると思っていたよりも肌寒く、少し前に浴びた熱いお湯が恋しくなってくる。


「うぅ……寒い」


 もうちょっとあったかいのを着てくるべきだったよね。だってこんなにも冷たい風が肌を撫でるたびに、震えが止まらないのだから。


「結局帰ってこなかった。メーアがやっぱり関わってるんだ」


 フェイさんを疑うということに正直乗り気じゃなかったけど、メーアが関わっているっていうことは……。何してるか知らないけど、容赦しない。




 もし次、怪我してたらどうしてやろうか。そんな言葉だけが頭の中をずっと支配している。あの柔らかな肌に触れられるだけでも嫌なのに、傷つけられるなんて認めないし許さない。



 アレンとの待ち合わせ場所は、この村のシンボルの焼けなかった木の下だ。名前がないので、みんなは焼けなかった木とか呼んでいたりする。昔、この村が火災に見舞われた時に、この木だけ焼けなかったということがあったらしく、老人達はこの木に尊敬の念を抱いているのだ。



「あ! アレン」


「よう……村長さんの様子はどうだ?」


「壁に耳当ててフェイさんが出かけるか見張ってたけど、そんな音一切しなかったよ! これは言いきれるね」


「そ、そうか。……突っ込まなくてもいいよな?」


「えっ。私、頑張ったんだけど褒めてくれないの、アレン」



 アレンの顔が明らかに引きつっている。うーん、今の突っ込むところあったかな? アレンって時々変なこと言うよね。



「あ!!」


「馬鹿っ! 大声出すなよ」


家の間から人が出てきた。その顔が見知った顔だった。


「モガッ」


 ただそれだけで思わず声が出てしまっただけなのに。グイッと力強い腕に引かれ、口元に手を当てられる。あれだ、声出すな馬鹿っ! ってことだね。アレンの身体にすっぽりと収まりそうな私。抱きしめられそうな格好なのは、アレンが無理して腰を曲げているからか、私が小さいからなのか。


 アレンからいい匂いがする、私とは違う筋肉に包まれる。そして暖かい。



「アレン。ちっ、近いよ」


「大きな声出すな、小声で話せ」


 わかった! わかったから耳元で囁かないでお願いだから。



「は、離れて?」


「あぁ、悪い」


 アレンはなんでもないようにそう言うと、すぐに離れてくれた。でも私はこんなにドキドキしたのに、アレンには何も響いてなんてないんだなとか考えたら少し虚しい気分になってきてしまった。


「……っ」


「どうした? 悪かったって言ってる」


「……ん、あれだよ。八百屋のおじさん」


「八百屋のおっさん?」


 私は目的の人物に向かって指をさした。すぐ近くから、アレンの息をのむ音が聞こえた。



「なんでこんな時間に……」


「それはメーアをそそのかした奴だからだよ!」


「殺意高いな、何があったし」



 それが事実じゃなかったとしても、かなり怪しいと思う。顔も怖いし、メーアとおつかいに行ってた時に「顔の割には優しいのよ」なんて言ってたけどメーアは騙されてるんだ!



「念のため着いてくぞ」


「うん」



 怪しげにフラフラしながらも警戒して進む八百屋のおじさんの後を追う。なんだか少しの音を立てただけでバレてしまいそうで怖かった私は、ただの落ち葉にも注意しながら忍び歩きをするしかなかった。





「いるみたいだな。メーアとおっさんだ」


「メーア!! み、見えない」


 小さい木に囲まれていて、見えづらいというかほとんど見えない。アレンはどうやら、うまく見えているみたいだけど。



「チビだもんな。そればかりは仕方ないな」


 チビはまっったく関係ありませんよ。以後お気をつけて。



「呪文唱えて透明に……とかできないか?」


「頑張ればできるよ。でもメーアにバレるかも……やったことないからわからないけど」


「一か八かやってみるか」


「正気?」


「なんでそんな顔すんだよ」


「魔力がっつり使うから、ちょっとやだなって」


 魔力を使うのは、最終手段として取っておきたいっていうのもあるし、やっぱり明日動けなくなると困るからね。


「何か……別の方法とか」


「あるっ!!」


「えっ」


 待ってましたと言わんばかりに、子どものように目を輝かせるアレン。そしてアレンはガサゴソとバックを漁りだした。






 *****







 アレンが取り出したのは今、大注目の透明毛布だ。包まるとなんと透明になるのだ。アレンはこれを全面的に売り出したいと色々な村に行ったりしているらしい。魔力を使わずに透明になれるという優れものなんだ! とアレンは嬉しそうに語ってくれた。



 ただ少し欠点があるかもしれない。一つしかないから、私達はぴったりとくっついて移動しているんだ。心臓が飛び出そうだし、毛布に足がもつれそうで怖い。二重の意味で怖い。



「……ん」


 一瞬、メーアのバラ色の目が私を捉えたような気がしたと思ったらすぐに逸らされた。気のせいみたいだ。あぁ、よかった。


「どうかした、メーア」


「別になんでもないのよ」



 八百屋のおじさんとメーアは二人きりでそれからしばらく会話はなかった。だいぶ夜風に吹かれていた頃、メーアがポツリとこぼした。



「悪いけど、ここまで拘束されるとノアに怪しまれるのよ」


 ごめんね、もうだいぶ怪しんでるよ。だってメーアが私からこんなに長く離れたの初めてだもん。



「すまないね。でも仕方ないだろう」


「……まぁ、そうなのだけれども」


「まだ来ないなー」


「これで最後なのよ」


「わかってるさー、もう時間はないし」



 誰かを待っているのだろうか? 相変わらず心臓は鳴りやまないけれど、頭はやけに冷静になり始める。





 嫌な予感はそれなりにする。ただ私はそれに対して、覚悟を決めなければいけないのだと。




「ごめんなさい、待たせたね」



 足音はしなかった。アレンも私も気づけなかった。私はただ聞きなれた声が、聞こえたから振り返っただけ。



 シワができた透明毛布ごしで見えた表情は、今までで見たどんな表情よりも歪んだ顔をしているように見えた。



「……フェイさん、なんで」


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