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事件解決と給料の行方

「まあ! ティーちゃん!! 無事だったのねよかったわぁ!」


「それでマダム、依頼料の件なんですが……」


「ええ、ええ探偵さん! 確かにお支払いいたしますわ。今切手を切りますので」


「ああ、それはよかった!」


 事件を解決してから3日。今はマダムにティーちゃんを引き渡しているところだ。

 ティーちゃんは少し不満そうに鳴いているが、それ以外は皆嬉しそうだ。


 ピーキーはマダムからもらった小切手を懐にしまい込むと、マダムにティーちゃん失踪事件の全貌を話していた。

 僕はそれを聞きながらお茶を入れる。


 しかしピーキー、やれば探偵らしいこともできるとは! 普段からこの調子で仕事をすればもっとまともな生活ができるというのに、なぜ彼はそうしないのだろうか。


「というわけで、ティーちゃんは誘拐されたわけでもなく、そのお屋敷のお料理に夢中だったみたいですね。ついでに少しゆっくりしてから帰っていたので帰りが遅かったのでしょう」


「なるほど、それでご飯を残していたのね」


「そうですね。そして、そのお屋敷のそばに滞在していたために家には帰らなかったのでしょう」


「ありがとうございました! また何か困ったことがあったらお願いしますね」


 それだけ言うと、マダムはササッと支度を済ませて出て行ってしまった。

 せっかくお茶を入れたのに、忙しい人だ。


「それで、ピーキーは実際のところ、どこまでわかっていたんですか?」


 僕の質問に、ピーキーは笑顔で首をかしげる。

 ……全く、とぼけるのもいい加減にしてもらいたい。


「ティーちゃんのことは割と早くからわかっていたんでしょう?」


「まあな。マダムが食いしん坊だと言っていた時から大体察しはついていた。その後の確認で帰りが遅くて飯も食べないと言っていたから、まず間違いなくどこかでやっかいになっているとふんだわけだ」


「そんな段階でわかっていたんですか!? じゃあなんですぐにティーちゃんを探さなかったんですか」


 ピーキーは興味なさげに、ソファに腰掛けると僕のいれたお茶を飲み始める。

 あ、それマダム用の良いやつなのに。


「猫缶だ」


「は? 猫缶?」


「ああ、猫缶が本当においしくて、食べられるのか確かめたかった」


「いや、そんなどうでもいいことのために事件解決先送りにしてたのかよ!?」


 僕の言葉を聞いてピーキーは勢いよく立ち上がる。

 手に持ったお茶が少しこぼれそうだ。


「何を言っている! 重要なことだ。我々の朝食になる予定だったんだぞ!? もし賞味期限が切れていたらどうするつもりだったんだ」


「まさか……! 猫たちを集めてたのは、猫缶を食べても大丈夫か確認するためだったんですか!?」


「ご名答。探偵の助手として少し腕を上げたんじゃないか? レン」


「こんなことで腕を上げたくなかったわ!」


 そんな風に騒いでいると、玄関をたたく音が聞こえてきた。

 誰だろうか。今日はやけに客が多い。


「はーい。どちら様でしょうか」


 玄関を開けると、老夫婦が立っていた。


 老夫婦は僕の顔を見るとほっとしたように笑顔を浮かべた。


「あ、アーガルド夫妻! もう屋敷の方はいいのですか?」


「ええ、一通り落ち着きましたので、お約束通りお礼をと思いまして」


 アーガルド夫妻は少し疲れた顔をしてはいるが、体調は問題なさそうだった。


「こらレン! お客様をいつまで外に立たせているんだ。早く中にご案内して差し上げなさい」


 そういうピーキーはなんだか上機嫌だ。

 さっきマダムからもらった小切手の値段がよかったのだろうか。だとしたら僕の給料が初めて出るかもしれないな。


「そうですね。どうぞ、散らかっていますが」


 夫妻は観光地に来た観光客のように、あたりをきょろきょろ見回しながら恐る恐るソファに腰掛ける。


 それから夫妻は事件以降に起こったことを話してくれた。

 アナスタシアさんがしばらく屋敷を離れて暮らすこと、ラペルドさんがすっかり元気になったこと、リペルムさんもお礼を言いたがっていたこと。


 そして気持ちばかりだが、と言って少しのお金と、リリス夫妻からの贈り物だというペンダントを置いて行った。

 まだいろいろと忙しいのか、夫妻はゆっくりする間もなく行ってしまわれた。

 また何かあれば頼らせてもらうと言い残して。


「このペンダント、なんなんでしょうか」


「ふむ、どうやら獣人族の家紋のようなものらしいな。動物の骨を彫って作られている」


「すごい、よくわかりましたね」


「いや、この手紙に書いてあった」


「感心して損したわ」


 ピーキーから奪い取った手紙には、事件解決のお礼と、ペンダントは獣人族の身の証を立てるもので、何かと役に立つはずだから受け取ってくれといった旨が書かれていた。


「よし、じゃあこれはレンにあげよう」


「え、いいんですか?」


「俺が持っているとなくしてしまいそうだからな」


 まあ、それなら僕が持っていた方がいいだろう。


 ピーキーから受け取ったペンダントを首から下げる。

 すると、どこからともなく腹の虫が鳴く音が聞こえた。


「……さて、もう昼飯時だし、今日はパーッと食べるとしようか!」


「そうですね! やっとまともな食事にありつけると思うと嬉しくて涙が出そうですよ!」


 僕たちは支度をするのももどかしく、事務所を出る。


「それでピーキー。結局マダムからはいくらもらえたんですか?」


「ん? まあなんだ、3か月食い扶持には困らない位の額さ」


「それなら当然僕への給料も払ってもらえるんですよね? 僕欲しい本があったんですよ」


「いや、お前にはもう報酬は支払っただろ?」


 …………ん? このへぼ探偵は一体何を言っているんだ?

 僕は一銭ももらってないわけだが? このへぼ探偵を手伝い始めてから一銭ももらってないわけだが?


「リリス夫妻の感謝がこもったそのペンダント。金なんかよりよっぽど有り難い報酬じゃないか。それはレンにあげるから、この金は俺がもらっても――」


「お廻りさーん! この人が正当な報酬を払ってくれませーん! 労働基準法違反でーす!」


「ちょレン! 何とんでもないこと叫んでるの!? わかった、この食事は俺がおごろう! な?」


「本当にそんなことでいいと思ってるとしたら、あんたはやっぱりへぼ探偵だよ。お廻りさーん!」


「わかったわかった! 今日の夕食もおごってやるから、それでいいだろ?」


「いいわけあるか!!」


 それからしばらく、ピーキー・グリムディンギルは助手に給料を支払わないダメ探偵だという噂が、ドリエス街の人々の間を飛び交っていたのだった。


最後までお読みいただきありがとうございました。いかがだったでしょうか?

意外な犯人も、巧妙なトリックもなく、お世辞にもミステリーとは言えない本作でしたが、推理の当たっていた方はいらっしゃったでしょうか? 少しでも笑ってくれた方はいらっしゃったでしょうか? もし少しでも楽しんでいただけたなら本望です。

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