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 神州の南方に種子島という島がある。大陸においては蓬莱島とも呼ばれるこの島に、一人の仙人が住んでいたという記録が残っている。その仙人は、空を舞い、馬よりも速く地を駆け、海の底を見てきたように語ったという。

 人とは滅多にふれあわぬ仙人であったが、時折その手からもたらされる恵みは、誰も見たことの無い姿形ながらも人々の悩みをたちどころに解決する素晴らしい品々だったという。伝え聞く話に寄れば、それはまるで時代を先取りしたかのようなデザインと性能を持っていたそうなのだが、残念ながら現存する品が一切残っていない。




 桶狭間の地に、二体の垓甲冑が互いに支え合うような姿勢で立っている。

 一体は、今川義元の駆る「垓甲冑・赤鳥がいかっちゅう・あかとり」。両腕の代わりに二本ずつの龍の首を備えた異形なれど、それ以外の特徴は無く。呪術で起動し、乗り手は式札を貼った兜をかぶり、命を燃やして動くという、標準的な大型垓甲冑だ。

 一体は、北郷久一(ほんごう きゅういち)と名乗った若者が乗る「鋼甲冑・無銘はがねかっちゅう・むめい」。銀色の装甲を纏った異色の垓甲冑であり。起動に呪術を使わず、操作に兜を用いず、鉄砲を使うという戦国の常識を覆す垓甲冑であった。

 そしていま、赤鳥はその全身を炎で炙られたかのように黒く焦がし、煙を上げて、脱力していた。


 北郷久一は、目の前にある垓甲冑・赤鳥の胸元から覗く今川義元の顔に向かって叫んだ。

「今川義元!! 私の勝ちだ!! 先に口にした言葉に偽りなくば、私の問いに答えてもらおうか」

「……」

 その顔は黒く焼け焦げ、眼は閉じられ、口元からは血が流れていた。

「死んだふりでごまかすな。垓甲冑とつながっているのだ。この程度で死ぬことは無かろう」

「……ふん。何を聞く気じゃ、若造」

 答えるのがおっくうだと言わんばかりに、今川義元は片目だけを開き、ゆっくりと口を開いた。

 なれど、若者は声を荒げ、身を乗り出して問いただす。

八板十三(やいた じゅうぞう)のことだ。この鉄砲をおまえに渡した者はどこに居る!!」

「……しらぬ」

「知らないことは無いだろう。駿河に居るのでは無いのか!!」

 勢い込む若者の姿を見て、今川義元はくっくっくと笑いを漏らす。顔を真っ赤にして「何がおかしい」と問う若者をいなし、彼は八板十三について語り出した。

「仇について、何も知らぬようだな。あやつらは儂がとどまれと言うてもとどまるような奴では無かったぞ」

「どういうことだ」

「八板十三と銃士団と名乗る連中は、鉄砲の代金に城一つ分の金を受け取ったらさっさと出ていきおったわ」

 唯一の手がかりと信じて追った相手から、それが無意味だと聞かされ、北郷久一はガックリと肩を落とした。その姿を見て「青い青い」と今川義元は再び笑う。

 笑われながらも、北郷久一はすがるように問いを重ねた。

「なにか……そう、奴らがこれからどこへ向かうとか、何か言っていなかったか」

「そうさなあ……おお、そういえば」

 今川義元の顔に、先ほどまでとは別種の笑いが浮かんだ。そして、赤鳥の左手側、鋼甲冑から見て右手側でみしりと何かが音を鳴らした。

「そういえば!?」

 だが、彼はその音にも、自分の背後の気配にも気づかず、今川義元の誘いに飛びついていた。

 それを見た今川義元は顔を大きく歪ませて笑い、勝ち誇り、若者に死を宣告する。

「あの世で待っておれ!!」

 いつの間に回復したのか、赤鳥は最後に残った腕を大きく振るい、鋼甲冑の上に見えている北郷久一の頭を目がけて振り下ろした。

 だが、それと同時に鋼甲冑を駆け上がり、その上に仁王立ちした人物が居た―――織田信長であった。

 信長は、手にしていた鉄砲を構え、引き金を引き、轟音を響かせて、赤鳥の腕を吹き飛ばす。そして、その威力と衝撃に顔をしかめて「是非も無し」とつぶやいた。

「こ、こ、この尾張のおおうつけめが!! 一騎打ちに割り込むとは作法も知らぬか」

「今川義元よ。未熟な若造相手の一騎打ちはお主の勝ちだったかもしれぬが……この戦は儂の勝ちじゃ」

 織田信長は、顔を真っ赤にして騒ぐ今川義元を冷ややかな目で眺め、腰の刀を抜いてその眉間に突き立てた。


 「垓甲冑・赤鳥」がぐらりと揺れる。今川義元の短い断末魔を最後に、垓甲冑はその巨体を動かしていた命を失い、がらがらとその体を崩しながら倒れ伏した。

「今川義元、討ち取ったり。我が織田軍の勝利だ!!」

「「「えい、えい、おー」」」

 それを見届け、鋼甲冑の上に仁王立ちしていた織田信長が勝ちどきを上げ、彼の周りの者が鬨の声を上げた。

 主を失ったことを知った今川軍の者達は逃げ惑い、手柄を求める織田軍の者達がそれを追い、戦の趨勢は決した。


 この場は勝利を得たが、未だ今川軍の方が数は多く、取られた城や砦の奪還も成しては居ない。織田の当主として信長がやらねばならないことは山積みであった。

 だがしかし、今は真っ先にやらねばならぬことがあった。ゆえに、足下からにらみつけてくる若者へと声をかけた。

「おい、青二才。お主はこれからどうするつもりだ」

「どうするも何も、おまえが手がかりを潰したんだろうが。どうしてくれるんだ」

「ならば儂に仕えよ」

「はあ?」

「儂はこの後は美濃を取る。美濃を取れば、天下取りへの道筋が付く。儂が神州を治める」

「なにいってるんだ、おまえは」

 織田信長としては明確に理由を述べたつもりであったが、伝わっていなかったようだと思い、言葉を足した。

「む。……天下人となれば、貴様の探す相手を探せようぞ」

「なるほど。おまえに仕えて、おまえの天下取りの手伝いをしていれば、八板十三のことを代わりに探してくれると」

「うむ」

「断る!!」

「なんと」

 鉄砲と鋼甲冑に興味があった信長からすれば、断られるなどと思いもしていなかった。

 そんなあからさまな失望を見せた信長に、北郷久一は短く理由を告げた。

「先生の技術を戦争の道具に使いたくないんだ」

「であるか」

 そして、織田信長はしばし黙考した。思えばこの地に来たのは、熱田神宮でこの若者の導きを受けたからであった。なれば、その借りは返さねば成るまい。

「お主には、道を示してもらったという借りがある」

「借り?」

「ゆえに、道を示すことで借りを返そう」

 そうして織田信長は、己が描く未来を語り、その影響で動くであろう者達の名を告げた。

「お主の探す八板なる者が、今川義元の様な戦国大名の元へ現れるとすれば、先ほど名を上げた者を追うが良かろう」

「もし、おまえの元に現れたら。私を呼んでくれるか」

「約束しよう」

 最後に別れの挨拶を交わすと、信長は鋼甲冑から飛び降りた。

 勝利をたたえながら駆け寄る側近達をねぎらうと、彼は即座に城の奪還へ向かうと宣言した。周囲のものに活を入れ、兵を呼び戻し、檄を飛ばし、供回りを待たずに駆けだした。遅れまいとして周囲の者達も追随し、戦場から一斉に走り去っていった。


 疾風のように駆けてゆく織田軍を見送る北郷久一の懐で、鳥の鳴き声のような音が響いた。

「ピピッ」

 久一が懐から黒い板を取り出すと、そこには「次の目的地を入力してください」と書かれていた。

「目的地か、そうだな……私の目指す場所は―――」

 「神州武鋼夜話」の第一話「桶狭間1560」は以上になります。いかがでしたでしょうか。


 SFロボvsファンタジーロボをやりたくて書きました。


 戦国時代ものの振りをしたのは、世界設定まで手が回らなかったのでその辺りを手抜きして舞台を拝借したからです。普通の時代物を期待して読んだ方々ごめんなさい。


○「垓甲冑」について。

 エヴァみたいな生体型のロボットです。一応特殊な能力を持たせる予定もありましたが、今回の赤鳥は使いませんでした。

 巨大ロボ戦闘にしたいのですが、さすがに戦国時代で十数mのロボ運用は無理かなと思ったので、生身でも戦う余地がある程度にダウンサイズして5mとしています。

(それに、これ以上小さくして使い勝手を良くすると、某村正に酷似してくるので……)


○「垓甲冑」のネーミングとモデルについて。

 Wikiを見ていたら、今川義元に「赤鳥」という馬印があったので、これを採用しました。外観イメージは、今川義元の兜「八龍を打ちたる五枚兜」から来ています。

 そういうわけで第二話以降に出す垓甲冑も、それぞれの戦国武将の家紋や馬印と兜の名前からイメージする予定です。


○「鋼甲冑」について

 映画アベンジャーズのハルクバスターみたいなロボットです。遙か未来の知識を持った仙人によってもたらされた技術を継承して作り上げたロボなのですが、第一話時点ではまだまだ未完成と言うことになっています。

 ちなみに、Lightningとすべき技名がRising(雷神倶)と間違えて居るのはわざとです。


○「鉄砲」について

 史実ならば、火縄銃・種子島なのですが、そんな豆鉄砲では垓甲冑を相手に出来ないので、SF的未来技術を導入してもっと大口径かつ安定的なのものが使用されています。

 リアルよりも大口径のショットガンでスラッグ弾を撃っているようなイメージです。


 と言うわけで、設定はいろいろと考えてみましたが、第二話以降を含めてどこまで書くかは未定です。

 漠然としたゴールはあるのですが、ちょっとした仕込みをいれて書きたいと言う無謀な願望があるので、その当たりが準備できたら続きを……

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