人殺し
翌朝、村の長の指示で俺は物置き小屋の掃除、整理をすることになった。もう少しきつい仕事を想像していたので、なぜこんなにも好待遇なのかを聞いたところ、よそ者に大切な仕事をさせる訳には行かない上、物置き小屋の掃除を誰もやりたがらなかったからだと言われた。
掃除に取り掛かるといくら汚いとはいえ、力を使う重労働よりはましだった。それに、置いてある物も少なかったので助かった。
ただ、小屋の掃除という性質上、村の住人の様子をよく見ることができないのは困った。子供がどこにいるのかが全く分からない。もしかしたら、あまり村の様子を知られないように小屋の掃除を頼んだのかもしれない。
考えても仕方がないので、とりあえず掃除を進めることにする。いざとなったらごみを捨てるふりでも何でもして村を観察すればいいだろう。
物置き小屋の掃除についてだが、実際、物凄く汚かった。クモの巣が張り巡らされているのはもちろん、動物のフンなんかも散乱している。少ないとはいえ、物は適当に積み上げられ、崩れかけており、とても整理されているとは言えない。
寝床の場所だけは昨晩、必死に掃除をしておいたが、周囲が汚いので、埃は舞うわ、虫に刺されるわで、寝付くのが遅くなってしまった。今日は物置き小屋の半分を少しでも綺麗にしよう。
結局、物を一旦出し、埃を払いのけ、もう一度しまい直すという工程で一日を消費してしまった。夕方、ごみを捨てに行く際村を見て回ろうとしたのだが、すかさず駆け寄ってきた村人により、ゴミ捨て場の場所を教えられすぐに小屋へ戻されてしまった。
夜に見に行こうともしたのだが、真っ暗闇で全く見えない状態だったので、断念してしまった。絞め殺しやすそうな子供のいる家は把握できなかったので、明日に予定を変更しよう。
さあ、今日こそはと気合いを入れ直し、今度は見つからないように村を見て回ろうと決心をする。掃除を進め、溜まったごみを捨てる場所を探すふりをして、見つからないよう注意しながら村の様子を見ていると、
「おい!今日は大物が手に入ったぞ!宴会を開こう!」
という声が聞こえてきた。
好都合だ。村の宴会によそ者を入れる訳にはいかないだろうから、その間は好きに村の中を動き回ることができる。また、宴会が開かれている間は子供の警備が薄くなるはず。そうなると、少しくらい子供が騒いだところで誰も気がつかないだろう。
千載一遇のチャンスだ。逃したらもうチャンスはない。興奮を抑えながら、物置き小屋に戻って猿轡や、絞めるための紐を準備した。
宴会が始まった。村の中央にある広場に大人たちが集まり、それぞれ肉や酒を貪るように食べ、飲んでいる。ほろ酔いになったころ、歌い出す奴が出始め、それに合わせて皆が騒ぎ始めた。
これだけ騒いでいれば十分だろう。小屋から出て、子供のいそうな家を探し始める。
しかし困ったことが起きた。子供達は一箇所に集まってパーティーをしていたのだ。それに大人が二人子供達についている。
隙がない。迂闊に近づけばすぐに見つかってしまう。諦めて宴会が終わるまで待っていようかと思ったその時、ふと大人達の方を見たら物陰に一人子供がいるのを見つけた。どうやら酒か肉を狙っているようだ。美味い部位は全て大人達が食べてしまっているからな。
隠れているそいつに近づいていく、気づいていない。見たところ7~8歳くらいの男の子だ。もっと近づいていきついに後ろに回ることができた。
準備は万端だ。猿轡をかけ悲鳴を出せないうちに首を絞め、殺す。確実に成功させなくてはならない。
今だ!と男の子に猿轡をかける。何が起こっているのか分からない様子だ。呻き声を上げるが周りの騒ぎ声により、ほとんど聞こえない。すぐに持ってきた紐を首に巻きつけて引っ張る。
だが、思ったように手に力が入らない。人を殺すという恐怖で体の力が抜けていく。暴れる力に負けそうになる。
殺す。殺す。殺す。何回も自分に言葉を出し、自己暗示をかける。殺す、と言葉にするたび、手に力が戻ってきた。男の子の顔が赤く染まる。そのまま力を加え続ける。
...だんだん顔が青白くなってきた。暴れる力も無くなってきた。そして、そのまま動かなくなった。
男の子は死んだ。呼吸もせず、体はピクリとも動かない。念のためその後も力を加え続け、確実に殺した。