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完全記憶

 僕が532冊目の本を閉じると、ちょうど書庫の扉が開いた。そこにいたのはフィーネちゃんだ。フィーネちゃんが来たってことはもうご飯の時間なのかな?



「ケンジさん、食事の用意ができました」


「わかった! 今行くよ!」



 フィーネちゃんについて書庫を出る。



「それで……本当に読みきれるのですか?」



 僕なんかに気を遣ってくれるなんて、本当にフィーネちゃんは優しいなぁ。



「大丈夫。完全記憶のおかげで斜め読みの速読でも本の内容が頭に入るからね。もう532冊も読めたよ」



 今回読んだ本のうち305冊はこの世界の歴史について書かれていて、残りは各国の歴史と、魔王によって人類が滅びる寸前となるまでの叙述書だった。たぶん手に取った本の場所が歴史の分野をまとめてたんだろうね。



「完全記憶とはそんなに効力の強いものだったでしょうか……?」


「うーん、それはわからないけど、でも完全記憶のおかげでこうして速く本を読めてるのも確かだよ」



 前は本の1ページを覚えるのに10秒はかかってたけど、今は1秒もかからずにチラ見しただけで覚えられる。もしこれが完全記憶のおかげじゃないならなんのおかげなんだろう?



「そんな細かいことより、ご飯どこで食べるの? 僕、お腹空いちゃったよ」


「ふふっ、やっぱりケンジさんは面白い方です。ついてきてください。食堂はこちらです」



 フィーネちゃんと他愛のない話をしながら歩くと、ローラスト様のいた玉座の間と同じくらい広い部屋についた。部屋の壁際には相変わらず騎士の人たちが整列している。白いテーブルクロスが敷かれた大きな円卓が1つあって、色とりどりな料理が皿に盛り付けられている。円卓の回りには豪奢な椅子が4つ置かれていた。


 椅子のうち2つにはもうローラスト様とイケメンが対面に座ってたから、僕とフィーネちゃんも対面になるように座った。僕の右はイケメンで、左がローラスト様だ。



 ローラスト様が突然、僕を見て「むっ」て唸った。



「ケンジよ、お主のレベルが上がっているようだが」


「レベル……神が人に与えた、力の格を示す単位ですよね?」



 レベルやステータスは、神が人に与えた力であり、その指標であるらしい。そしてそれらを閲覧することができるのは、王と呼ばれるものの持つ魔眼のみ。この辺りの内容は、『神が人に与えたもうたもの 著:クイン・ニアミール』に詳しく書かれていた。


 魔眼を持つものはその人の名前などの個人情報さえも見抜くので、神が魔眼を与えた後はスパイなどが無くなったらしい。


 ちなみに、スキルは個人の才能に依るもので、僕の完全記憶やユウガの剣神は元々眠っていた才能を神の力で呼び起こしたらしい。『異界よりの勇士 著:ハビー・メッザノッテ』に書かれていた。



「そうだ。不思議なことに、はじめお主のレベルは0だったが、今は532となっている。それに伴い、魔力のステータスだけが大幅に上昇しておる」


「マジかよ! 俺はまだ134だってのに」



 ローラスト様の言葉に反応したのは、意外にもイケメンだった。そういえばイケメンの名前をまだ知らないな。



「落ち着くがよい。今日だけ、それもたった5時間程度で100レベル以上上げること自体がお主の強さを示しておる。ステータスも魔力以外は相応に伸びているゆえ、お主は充分に強い」


「そ、そうか。そうだよな」



 イケメンは浮かしていた腰を下ろして、座り直した。



「よいかの? それでは、こんな寂しい場で申し訳ないが、エンディア王国は2人の勇者の門出を歓迎しよう。乾杯!」



 ローラスト様の音頭で4人揃って料理を食べはじめる。


 ローラスト様とフィーネちゃんは、王族なだけあって行儀のいい食べ方をしている。素人目にも美しく見える食べ方だ。


 対してイケメンは普通の食べ方だ。良くもなく悪くもなく。礼節を弁えてるわけじゃないけど、汚くもない。それを言ったら僕も普通なんだけどね。



「そういえば自己紹介してなかったね。僕はケンジ。君は?」


「俺は金野勇牙(きんのゆうが)。ユウガでいい」



 イケメンもといユウガとの自己紹介も終えて、僕たちは会話も交えつつ食事を楽しんだ。見掛けに反して味は質素だったけど、本で読んだこの国の情勢を考えれば仕方ないことだと思う。



 エンディア王国。人口は現在約1000万人で、国土は2つの山脈に囲まれた範囲だけ。例えるならヨーロッパのスイスと同じぐらいの大きさ。他の国は既に滅び、自国だけで全ての食糧生産を行わなければならない。そんなギリギリの状況で、魔王軍との均衡を保っているらしい。


 『世界最後の国 著:ネストーレ』が読んだ本の中で、最も最近の内容を記していた。この本によると、生き残った人はエンディア王国を除いて他にいないらしい。魔王領の向こう側はわからないけど、少なくとも神の加護が残っているのはこのエンディア王国だけだろうとも。



 食事を終えた後は、魔王に勝つための修行をすることになった。僕は第一書庫で読書を、ユウガは親衛隊と呼ばれるこの国の中でも強い騎士たちと剣の達人でもあるローラスト様に稽古をつけてもらうらしい。既にステータスでは上回ってるから、技術面で鍛えてもらうそうだ。



 名目上きちんと修行しているか見張らなくちゃいけないから、僕にはフィーネちゃんがついてくれることになった。僕とローラスト様は止めたけど、寝間着も持ってきて一緒に寝る気らしい。


 フィーネちゃん曰く、ユウガにはローラスト様がついているのに僕には王族がつかないのはおかしいとのことだ。王族の血を引くものは、ローラスト様とフィーネちゃんしか生き残っていないらしい。王族の男たちは戦士として先陣を切って討ち死に、王族の女たちは聖女としてエンディア王国を守る神の結界の礎となったと、『神魔戦争 著:ネストーレ』にも書かれていた。



 フィーネちゃんの言い分も正しいからと、親衛隊を1人つけるという条件でローラスト様が認めた。結果、第一書庫では本を読む僕と、隣でじっと僕を見つめるフィーネちゃん。扉の隣で微動だにしない親衛隊の人という構図ができた。


 正直すごく落ち着かない!



「それで覚えられるなんて、ケンジさんはすごいですね」



 読み終わった本をテーブルの上に置くと、フィーネちゃんが話しかけてきた。



「そうかな?」


「はい。ケンジさんなら、伝説に吟われる大賢者にもなれてしまうかもしれません」


「そんな大袈裟だなぁ」



 大賢者。それは一種の称号のようなものだ。『英雄 著:ジク』の受け売りだけど、「万物を知り、久遠を識り、森羅万象を為す者」が大賢者であるらしい。おとぎ話の存在で、実在したことは無いんだとか。



 テーブルに積まれた本の中からまだ読んでないものを手に取って、パラパラと読み進める。これだけ読んでいると内容がほとんど同じものが多い。既に2,021冊は読んでいるけど、知らない内容を探す方が大変だ。


 まだ今読んでいる本のあった本棚は読破できてないけど、効率を考えるとそろそろ次の本棚に移った方がいいかもしれない。


 第一書庫の本は、本棚ごとに大まかなジャンルが違っていた。今読み進めてる本棚にあるのは近代の歴史や伝承についてだ。他にもざっと見た限りだと、古代の歴史や他国の固有言語、数学などの学問の論文や、その派生で魔法に関する本も置かれていた。


 特に魔法に関する研究書の数はすごくて、背表紙だけでも魔法の属性別で本棚を分けているのがわかるぐらいだった。



 僕が初めに考えたのは、全ての本の知識を得て、最終的に魔法チートで無双することだ。ただ、一つだけ不安だったのが、本を読んだだけで魔法が使えるのかということ。もしかすると個人別に適正があり、僕には使えない可能性があった。でも、これは既に解決していると思う。


 『神威に照らされし国 著:ポルテ・メッザノッテ』には、「神よりメッザノッテ聖国の民が賜った魔法は、その適正・理解・効力が魔力に依存する」とある。


 さっきご飯を食べた時にローラスト様が、僕のレベルが532だと言っていた。それに合わせて魔力が増えているとも。


 ここから判るのは、僕のレベルは読んだ本の冊数と等しく、レベルが上がると魔力が増えるということだ。


 ということは、今のレベルは2,021であり、それに合わせて魔力も相当大きくなっているはず。


 魔力が大きければ魔法の適正もあるという証明になるから、魔法が使えるかどうかの心配はもう無いのだ。



 このまま歴史本を読み続けても実入りが少ないし、そろそろ本題の魔導書を読もう。



 ちょうど読み終わった本を閉じてと。まずは今出してある本を片づけなくちゃ。



「あっ、私もお手伝いします」



 本を本棚に戻していると、フィーネちゃんも片付けを始めてくれた。



「ありがとう」


「お気になさらず」



 重たい本をせっせと戻すフィーネちゃんを見ると、なんだか元気が湧いてくるな。僕も頑張らなくちゃ。


大賢者の記憶


《メッザノッテ聖国》

神暦5年より発生した、ミール神の教えに反目する者達が一人の指導者の下、結束し、生まれた国。正式な名を「神聖メッザノッテ皇国」と呼ぶが、宗教の対立上、メッザノッテ聖国と呼ばれることが主である。


『二柱の神と二つの国 著:ロッド・スロイス』より抜粋

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