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狂想曲シリーズ

お見合い狂想曲

作者: 堀井 未咲

婚約破棄系が多かったので、逆を書いてみました。

王道の物語です。


カッコーン。

鹿威しの音が室内に響き渡る。

皆様はじめまして。

武藤琴子 17才、絶賛お見合い中です。



始まりは、


「お義父さんが、暫く琴子の顔を見てないから遊びに来てくれないかと、電話があったんだ」


2日前の夕食時の父との会話から。

そういえば、恒例の月に1度の顔見せをしてなかったと思い、ノコノコと母の実家に赴いた私を待っていたのは、祖父だけではなかった。

祖父宅に着くなり二人の伯母に、祖母のお着物を整理する名目の元、従姉妹と供に着せ替え人形とかす私。

嫁ぐ際に持参したお着物だからと、振り袖が用意してあったことに気が付かなかった私を恨みたい。

振り袖は未婚の女性が着るものじゃないか。

伯母や母の残したお着物かと思い、真新しい帯に多少は首を傾げた。

新年の晴れ着だと説明されれば納得した。

従姉妹と私は数え切れない試着に、体力を使い果たし連休なのに感謝して、そのまま祖父宅にお泊まりした。

祖父は所謂資産家で、日本有数の大企業の会長だ。

祖母は公家の流れを組むお家柄のお姫様。

いやぁ、祖母方の親戚は今でも祖母をそう呼ぶのです。

そんな両親をもつ我が母も歴としたお嬢様である。

父の実家は小さいながらも自動車整備工場を営んでいる。

母と父は大学の同級生で、祖母の信者(笑)の妨害をはね除け恋愛結婚した。

祖父母は自分達が家の柵に縛られた政略結婚なだけに、子供達の結婚については余程の事がない限り反対はしなかった。

只父の就職先は祖父の系列会社だったけど。

若くして課長職に就いた父の事を、逆玉の輿だとやっかむ親戚は少なからずいる。

庶民の血が混ざる雑種と言われた兄と私は、勉学とスポーツに励む事で、うるさい親戚を黙らせてきた。

現在兄はT大学の学生。

私が通う高校は、兄が卒業した某有名進学校だ。

ざまぁみろ。

兄と供に高笑いしてあげた。

少々やり過ぎて大怪我をしたけど、後悔はしてはいない。

アスリートの途を閉ざされた私は、次の目標にむけて歩き出していました。

そんな折にお見合い話がちらほら沸いていたのは知っていたけど。

まさか、こんなに早くとは思いついてなかった。

祖父宅にエステティシャンを招いていたことに、流石お金持ちは違うなあぁと思いつつマッサージを受けていた私よ。

格式の高い料亭でランチだからと、さして気に掛けないでお着物を着た私よ。

何故気が付かないか!

だから、兄に詰めが甘いから怪我したのだと嘆かれたではなかったか。

母の実家が資産家だけに、難有り物件の私を貰ってやると、豪語した輩は多くいる。

祖父は見え見えの魂胆を黙して、お家ごと話を潰した。

だから、騙されたと解ったところで、退出する訳にはいかない。

私の将来の為と祖父や伯母伯父が薦めるのならば、政略結婚でも受け入れる覚悟はあった。

一応母から上流階級向けて薫陶としてマナーは学んできた。

相手側から破談になる可能性が高い戦だけど……。

さあ、やってやろうじゃないか。

意気込んでお見合いの席へと臨んだ。


「まぁ……」

「おや……」


案の定、私と対面した相手側の両親らしき男女は息を呑んだ。

知らされてなかったのか、釣書の写真が細工されてでもいたのか、どちらでもありそう。

私の首もとに残る火傷痕に目を奪われている。

左側の首から左半身に掛けて硫酸をぶちまけられた痕である。

潤沢にある祖父の財力と人脈により一命は取り留め、整形外科の名医のお蔭でかなり薄くなってきているが、未だにハッキリと痕は

残る。

私が難有り物件だという証である。


「あのぅ、朝霧さま。お写真のお嬢様とは……」


仲人役の女性が小声で問いかけてくる。

あら、写真自体が違いましたか。

従姉妹と間違えられていますか。

だとしたら、ランチは諦めて帰るかな。


「いいえ、そちら様のご要望通りですけど。朝霧の三女奏子の娘です」

「作用でございましたか、失礼致しました」


私側の付き添い人は伯母夫妻だ。

伯母の硬い声に沈黙が訪れる。

騙し討ちによるお見合いの席で言うのは哀しいかな、相手側の釣書を私は見ていないから、何処との話なのか解らないのが痛い。

不躾な視線に晒されて気分は下降気味だった。

しかし、このお見合い伯母さんも納得してはいないのかな?

一体相手は誰だろう。

漸く相手の顔を拝啓した。


「はい? 何で篠宮先輩がいるの?」

「武藤の見合い相手だから」


至極ごもっともな簡素な答え、ありがとうございます。

驚いた。

昨年卒業した元風紀委員長の篠宮先輩がダークスーツを着こなして座していた。

彼は私の2つ上の先輩で、そのバックボーンが凄い人で有名だった。

朝霧と対等な緒方財閥の跡継ぎを父親に、とある藩主の近習や家老職を勤めた武家の名門な母親がいて、私とは違ってサラブレッドな

血筋を有している。

お父様が緒方を捨て篠宮家に婿入りしてしまい、一時期緒方家は揺れたらしいけど、屋台骨は頑丈だった。

今でも其の名を知らない一般人はいないだろう。

お近づきになりたいお嬢様方には、五男だというところがネックだけど、嫁姑問題が起きなそうだし、容姿も良く高身長だし、兄と同じ大学に入れた頭の優れた人で、優良物件な先輩が何故かいる。

ヤバイなぁ。

思いがけない先輩との再会に変な汗が出てきそうだ。


「和威さん、お知り合いなの」

「はい、高校の後輩です」

「何だ、和威君が見合いに乗り気だったのは、そういう事情があったのか」

「そうなります。ですから、自分はこの話は最期まで進めますので、邪魔はしないでください」


あれぇ?

先輩の言っている意味がわかりません。

最期までとはナンノコトデスカ。

えっ⁉

結婚ですか、そうですか。

私の意志はどうなっていますか。

ちょっと伯母さん、残念な子を見る目で私を見ないでください。

先輩と外堀埋めようとしないでください。

やめてくださ~~い。

謝りますから、謝りますから。


篠宮先輩とお付き合いをして1年目で派手な喧嘩をやらかした私。

怒りのままにぶちまけた売り言葉に冷静な先輩を腹立たしく思い、別れようメールを送り距離を開けた私。

何で別れた気になってたのだろう。

先輩は承諾してはいなかったのに。


図らずも、ある意味公開処刑されました。

伯母夫妻や先輩のお身内や仲人さんに、生暖かい視線を頂き暴露される私の沸点の低さ。

火傷痕を気にし過ぎて、デート中に出会った先輩の大学の同級生に呼び出され、傷物扱いされて嫌だった。

自分がではなく、先輩に悪い評判がつくのだけは、阻止したかった事を白状させられました。

あぁ、兄よ。

貴方の言う通りの喧嘩の結末だよ。

先輩あらゆる手を使い求婚してきたよ。

ちくしょう。

自棄で食べた料亭のお料理はたいへん美味しゅうございました。









「逃げた、琴子が悪い」

「ごもっともですが、篠宮先輩の愛が重いデス」

「俺は付き合う前に宣言した。篠宮家の人間は恋人も妻も生涯一人だけだから重いぞ、とな」

「だって、まさか私が先輩と付き合うことになる何て思ってなかったですよ」

「琴子からの告白だったと記憶に有るが」

「ぐっ⁉ そうでしたけど。そうなんですけど」


衝撃な展開についていけなくなった仲人さんに、庭園へと追いやられた私と先輩は、仲良くお散歩中です。

私と先輩が付き合う切っ掛けは他愛ない。

同じ委員会で過ごしていて、火傷痕に同情も哀れみもしない態度で接してくれて嬉しかったから、好意を抱いた。

ダメ元で告白したら、篠宮家の家訓を教えられ承諾したら、付き合っていた。

私の両親と兄公認の仲だけに、伯母夫妻は先輩の事は把握していた。

知らないのは先輩のお身内と仲人さんだけである。

伯母が硬い表情だったのは、笑いを堪えていたに過ぎなかった。

とんだ策士である。


「琴子の釣書を持参して乗り込んできたしな」


先輩の話によれば、塞ぎ込んでいた私の事情を兄経由で知り、お見合い話を画策したのは、伯母が先だったらしい。


「お見合い話がなかったら、先輩どう対処してましたか?」

「俺は上京していて実家は近畿だが、琴子は実家にいるだろう。奏太さんが毎日メール寄越してくれたから、ある程度把握していた」


兄よ、無断で何してますか‼

プライバシー侵害です。


「琴子が落ち着いたら家に日参する気だったかな。俺の方を静かにさせないと、また同じ様なことが起きても困るから、黙らす為に既成事実を作ったかも知れないな」

「……因みに、既成事実の内容は?」

「安心しろ。短大か4大か進路が決まってから、籍はいれるから」


やっぱり、先輩の愛は重いデス。

まだ、高校生ですから。

親の同意があれば結婚できますけど、まだ高校生ですからね。

大事なことなので二回言いました。


「まずは婚約止まりでいいぞ。これが、指環だ」

「うわぁ、素早さに脱帽です」


こともなく指環が入っていると思われるジュエリーボックスを手渡された。

かなりの年代物と見受けられ、開けてみると燦然と輝くダイヤの指環が入っていた。

指環って結納の時に貰う代物ではなかったかと。


「まぁ、虫除けの意味があるから。先に渡しておく。ばあ様のお古で悪いけどな」

「いえいえ、これで充分過ぎますよ」

「稼ぐようになったら、もう一度渡すから」

「だから、これでいいですから」

「嫌だ。じい様に負けた気がするからリベンジする」


普段冷静な先輩が此処まで執着するとは思いもせず、謂れの有る指環本当に貰っていいのやら、悩みました。

兄よ、我が家のご意見番たるお兄様よ。

何故、いない。

今こそ、無駄に厚い知識が必要です。

どうせ、同じ料亭に両親もいて、観察しているのだろうに。

爆笑していても良いから切実に助けが欲しいのだけど。

先輩は眉間に皺を寄せて、指環を嵌めてくださりやがります。

サイズがピッタリなのは、贈られた当時のままですよね。

けっして、兄とかに聴いた訳ではないのですよね。

違うと言ってください、先輩。

えっ、見れば判るですと。

何て無駄な能力ですか。

ん、んん、もしかして○○のサイズもお見通しですか。

こら待て。

何処に行きますか。

きちんと話合いましょう。

私達には、お話し合いが必要です。



こうして、私の人生初にして最期のお見合いは終了した。

爆笑する兄に出向えられたのは間違いありませんでした。




評判が良かったら、続くかもしれません。

そのときは結婚後だと思います。



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