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「水臭い」
弱い反論を俺と同じ歳のリョウが一刀両断にした。
そう、水臭い。
サトシはわずらっている。
それは、もう入院とかしておかないといけない段階なんじゃないかと思う。教えてくれないからわからないけど。
でも今すぐ死ぬってわけじゃないらしい。サトシがそう言っただけだから、本当のところはわかったもんじゃないけど。
でもずいぶん前から、サトシは死を見つめていたのだ。気づかずに、どっか一本神経の抜けたテンションで面白おかしく未来を語る俺達の横……サトシは死を見ていた。
そんなことずっと俺達に気取らせなかったし、気づかなかったらあっさり1人引退してそのままフェードアウトとかしたに決まっている。
俺達が気づいたのは、たまたま。
体力が落ちていくサトシに、『もうおっさん化?』なんて茶化していた俺達が知ったのは、ホント、たまたま。
その日は一際サトシの動きのキレが悪かった。
だからと言って、その長い手足が動く様は優雅でいつもと変わりない。
ただ最近、一緒にやっている俺達が違和感を感じる程度の微かな異常が増えていた矢先のソレに、俺達の脳裏に少し不安がよぎった。タケルやアキラですら、俺やリョウに問いかけるように視線を送ってきたくらい。
俺達の前ですら常に完璧であったサトシがそんなことを感じさせるなんて、昔から考えるとありえない話だったから。
楽屋に戻るなり壁にもたれ座り込んだサトシの周りに集まった俺達。大丈夫だと言いながら煩わしそうなサトシは、その時致命的なミスをした。たぶん、普段のサトシならばしないであろうミス。
俺達の追及から逃れるように確認もせず出た携帯。金切り声の女性が言った一言は、すぐ傍にいた俺達にも十分聞こえた。
『病院に行ってないってどういう事ッ!』
俺達の前で電話を終えたサトシを当然ながら俺達が問い詰め、完璧でないにしても聞きだした事柄は、病気であること、そう長くはないこと、でもそんなすぐに死ぬわけではないこと。
……俺達には最後まで秘密にしようと思っていたこと。
すべてを聞き終えた俺は、なにも言えずに……ただサトシの投げ出された左手から滑り落ちそうになっている真紅の携帯を眺めていた。
サトシが帰るぞ、と皆に言うまで、ずっと。
ずいぶん日数を必要として眩暈のする現実を俺がやっと受け入れられた時には、タケルは更に壊れていた。
何をおいてもタケルの傍にいてやるべきだったと、気づいた時には遅かった。
なんだって俺は、いつだって俺は、肝心な部分で後手後手に回ってしまうんだ。