苦渋 1
楽器店から外に出ると、来た時の陽の光が嘘のように、すっかり暗くなっていた。まだ18時を回ったくらいなのにな、と思いながら駅に向かって歩き出す。練習で新しく弾いてみようと思い、バラード系の曲のコード集を買いに来たのだが、コードだけでなく格好いいギターを眺めていたりしたからすっかり長居してしまい、気付けば暗い時間になってしまった。楽器を見たりすることに夢中になっていたせいで忘れていたことを、楽器店では少し暑くて脱いで仕舞っていたブレザーを見て思い出した。
「宿題、、、。」
駅までを小走りで向かった。
電車の広告の中に、大学受験の予備校のものがあって、それを見てふと思い出した。まだ夏服を着ていた頃からずっと考えていたこと。この先の進路。細かく言えば、大学に行くのか、行かないのか。始業式のあったあの日、私は今まではなかった選択肢をひとつ、得ることができた。音楽で生きていくということ。あの日までは、音楽はあくまで趣味として捉えていた。けれどあの日、渡瀬さんは私に、音楽で生きていくという選択肢を持つことが出来ると教えてくれた。自信のなかった私に、自分にも出来ると言ってくれた。
出来るなら、やりたい。
あの時からそう思っていた。でも踏み出す勇気は私にはなくて、ずっと立ち止まっているように感じている。
だが、否が応でも、動かなければいけない、決心しなければならない時期は近づいていた。月末の三者面談。答えの出ぬまま、そんな時を迎えてしまうのは正直怖かった。寒くなった外を歩きながら、私はただ、逃げたい気持ちに駆られた。