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雪を結う  作者: 広瀬葉太
序章
1/6

プロローグ

六月は雨の季節である。夏の強い日差しと青空を待って、曇り空と雨が続き普通はどんよりしている。基本皆は梅雨が嫌いだという。梅雨時期特有の眠くなる気候がそうさせるのだろう。だが、当たり前の事だが、そんな雨の中でも出会いや気付きはある。嫌われる季節なのに、好きなことに出会うきっかけはそれに関係なくやって来る。わたしにとって梅雨は、好きなことに出会った季節である。だから今は梅雨が嫌いかと言えばそうでもない。

たしか中学二年になった年の梅雨の盛りだったか。雨がだらだらと降り続いていたから、仕方なく家のリビングでTVを観ていた。父が何気なくチャンネルを変えると音楽番組がやっていた。その音楽番組に出演していた、女の子の二人組ギターユニットが目に留まった。

「cat blosson」。猫のように愛らしく、花のように鮮やかに、という願いでつけられたらしいそのユニットの名前は、「キャトブラ」という愛称でファンから親しまれていた。初めて聴いたとき、彼女達が奏でる可愛らしくてさわやかな曲調に自然と引き込まれていった。他にも、もちろん優しく語りかけるような詞も魅力的だが、何より感動し引き込まれたのは、とても気持ち良さそうに清々しく歌うステージの上の彼女達だった。デビューしてから3年間は路上で地道にライブ活動をしていたらしいが、その地道な活動を続けていく内にSNSなどで話題になり、3周年記念に代々木体育館で開催されたライブでは、観客動員数13000人を記録した。私がキャトブラを知ったのはそのライブから2ヶ月後、新曲の「さくらの向こうで」をリリースした頃で、そのCDは今でも大切にしている。アコースティックギターの音色の心地よさが、温かく耳を包んでくれる、とても優しい曲である。

その当時は、これといって没頭できる何かがあるわけではなかった。が、過去に一度ピアノを本気でやっていた時期があった。小1から小6まで、近所のピアノ教室で。ピアノはもちろん好きだった。母がよくご飯時に音楽をかけていたから、昔から音楽に触れることが多かった。そんなわたしは、母の薦めで小学校に入ると同時にピアノを習うように。初めは音のひとつひとつを、初めてキーボードを打つ時のように弾いていたが、上達するに連れて音楽になっていく。それが気持ち良くて、あの時は時間があればピアノを弾いていたと思う。初めてから二年ほど経った頃には、街のコンクールで優秀賞を貰える程になった。思いきって大きなコンクールに出てみようと思いついたから、小学四年の秋に県のコンクールに応募してみた。出場が決まって、それからコンクールまでの3ヶ月間練習をしっかりして準備を整えた上で当日を迎えた。結果は、どうだったか。駄目だった。出場者135名中120位で、下から数えた方が早い悲惨な結果に終わってしまった。会場の特有の雰囲気に足がすくんで思うように弾けなかった。

初めてのコンクールは、こんな悲惨な終わり方だった。どうしても諦めきれなかったわたしは、その後何回もコンクールに応募してみた。だが、結局緊張で思うように行かないのは変わらず、気づけば小6、コンクールも最後になった。初めは上手く行ったものの、中盤で音が詰まって弾けなくなり、発表はそのまま終わってしまった。自信をなくすどころか、一時期感情的になって音楽が嫌になった。だが、あくまでそれは一時的なもので、根本的には好きなのは変わらなくて、すぐまたウォークマンに入れた音楽をかけっぱなしにするようになった。変わったことは、自発的に音楽をやらなくなったことだった。聴くだけで、自分で奏でない。それはやりたくなかった訳ではなくて、ピアノを頑張っていた分他の楽器を知らなかったから、自然とそうなっていたのだと思う。そんなときにふとキャトブラを知り、ギターの音色の魅力を知ったから

「これだ、やってみたい!」と心がときめいて

「パパ、ギター買って!」と、

口が勝手に動き、思いを伝えていた。それからひとつきもしない内にギターを買って貰って、少しずつ弾くようになっていった。

もしこれが仮に縁と言えるものだとするなら、縁というのは、来たときにはまだその自覚はないのかもしれない。思い返してみれば、この時思い立ってギターを買って貰ったのは、私にとっては縁だったのかもしれない。今になってそう思う。

そうしてまた音楽にハマれたお陰で、渇いているように感じていた今日という日を、踊りたくなるような感情で過ごせるようになっていった。

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