ショートショート013 いたずら
僕はね、だいのいたずら好きなんだ。いつでもどこでも、誰にでもいたずらしちゃう。あたりを見回して、目にとまった人に近づいて、いたずらするんだ。それも、たいていは成功するんだよ。
たまにすごく運のいい人がいて、いたずらをすると逆に良い結果になったりすることもあるんだけれどね。「災い転じて福となす」ってやつかな。まあ、そんなのは例外中の例外さ。実際にはほとんど成功するんだ。
いたずらの度が過ぎて、泣かせちゃうことも少なくないなあ。ちょっぴりかわいそうだけれど、僕の唯一の楽しみだから、そのくらいは許してもらえるよね。
ああ、ようやく来たな。おーい、こっちこっち。えっ、あいつかい。あいつは僕の友達だよ。僕と同じように、あいつもいたずらが好きなんだ。
だけど、あいつは下手くそだから、しょっちゅう失敗するんだ。前は一緒にいたずらしていたんだけど、あいつがあんまり失敗してばかりで、僕のじゃまになるから、最近は組んでなかったんだ。そうしたら、成功続きでさ。
じゃあ何で今日は一緒なのかって。うん、そろそろまた、一緒にいたずらしてみようかなと思っただけだよ。ははは、僕、気まぐれだからさ。
質問が多いなあ。どんないたずらをしてるのかって。なんて言ったらいいのかな、そうそう、「運命」のいたずらだよ。よく言うよね、運命のいたずら。喧嘩していたカップルがそのまま死に別れちゃうとか、そういうの。あんな感じで、僕は人の運命にいたずらして、良くないことが起こるようにするんだ。程度は人それぞれだけどね。
具体的にどんな良くないことが起こるか、それは僕にもわからないんだ。かすり傷くらいで済んじゃう人もいるけど、ショックのあまり自殺する人もいるなあ。さすがにちょっと気がひけるけど、楽しいからね。やめられないのさ。なに、貧乏神だって。酷いことを言うなあ。こんなに素敵な見た目の、可愛い少年をつかまえて。
やあ親友、久しぶり。遅かったね。またいたずらしような。
えっ、その友達のいたずらも僕と同じなのかって。ちょっと違うかな。僕は「運命」のいたずらをするけど、こいつは「運勢」のいたずらをする。人の運を悪くするんだよ。でも、こいつは下手くそだから、うまくいかないんだ。だから、こいつと組むと、僕のいたずらも失敗してばかりさ。
ああ、そうだ。分かりやすい話を見つけたよ。「景気」っていうのがあるだろう。良くなったり、悪くなったり。あれはね、僕たちのせいなんだ。僕たちがたくさんの人に、どんどんいたずらしてるんだよ。
僕が一人でやっているときは、たいてい成功するから景気は悪くなるんだけど、僕たちが組むときは失敗ばかりだから、景気はむしろ良くなっちゃうんだよね。だから、もし景気が悪いようなら、それは僕が一人でやってるときだよ。人間は、景気の原因は数学だなんだと、こじつけて考えようとしてるみたいだけれどね。笑っちゃうよ。
あーあ。やっぱり、やめにしようっと。話してるうちに、失敗続きなんて嫌な気分になってきた。やっぱり、一人でやりたいな。こいつには悪いけど、そうしよう。
なに、頼むから二人でいてくれよって。嫌だよ、今は一人でやりたい気分なんだ。ははは、僕、気まぐれだからさ。
そんなに暗い顔をしなくたっていいじゃない。だってさ、今の今まで僕は、何を隠そう、あなたにいたずらしようとしていたんだから。だけど、こいつが来たからあなたの運勢が良くなって、そのせいで僕の気まで変わって、失敗しちゃった。だから、当分の間は、あなたに悪いことは起こらないということだよ。残念だけどね。
不覚だよねえ。少し考えたら気づけそうなものなのに。久しぶりに組むものだから、こいつの影響力の大きさをすっかり忘れてたよ。
まあ、そのうちまた遊びに来るから、そのときはよろしくね。