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らせんどくそう

作者: quiet

「やあこんにちは俺は走っている走り続けている。いつから走り続けているかもどこから走ってきたのかも知らない知らないが走っている。何故ならば走り続けなければならないからでそのさらなる理由は俺の背後を見ることでわかるだろう。俺は透明な螺旋の階段を延々と走り上り続けておりその階段は見てのとおり刻一刻と崩壊を続けている。ゆえに俺は走らねばならない。走り続けていなければ螺旋の崩壊に巻き込まれて俺は地底へと真っ逆さまに落ちて死んでしまう。だから走らなければならないし俺は走っている。しかし本当のところを言うと知らないのだこの階段の崩壊するのに追いつかれないように走り続けているのかあるいは俺が走り踏み去るたびに階段が崩れ落ちていくのかを。知ることはこれからもないだろう何故ならば俺は走るのをやめることはないもしも走るのをやめて階段に巻き込まれてしまえばそれこそお終いだいつから俺が走ってきたと思うそれがすべてお終いだ。ゆえに俺は走るのをやめることはないしこの螺旋の真実を知ることもないしそれでいい俺は走る。ところで見ろこの俺の健脚を圧倒的な速さを階段を上り続けるその歩幅を。いつの間にやらこのように素晴らしき脚力を身に付け素晴らしく扱うようになった走り続けてきたおかげだろう俺は走ることでどんどん走るための力を得ていくゆえにこれから先もどんどん走る力を増してどんどんと高みに上っていく。ということは俺がいつか初めにいたであろう本当のところは何も覚えてすらいない地底の場所がどんどんと遠ざかっていくということでありほらご覧下を見てみれば何も見えないよ思えば遠くに来たものだ。思えばといえば思い出したのだがすでにお気づきのことと思うが俺は走るだけではなくこのように考えることもできさらにはその考えを口にすることもできる。ははは今笑っただろう俺も笑ってしまったなこんな螺旋階段を上り続けるだけで何の刺激もないだろうに何を考えることがあるのか何を口にすることがあるのかと笑っただろうしかしいくらでも考えることも口にすることもあるのだたとえば今言ったように今まで俺が走り続けてきたことその高さを考え語ることができるその他にも様々なことを語ることができる足裏に伝わる階段を蹴る感触など様々なことを考え語ることができるそうだな考え語ることができるということは記憶することもできるということでありすなわち俺は思い出すこともできる。何を思い出すかといえばそうこの走り続けてきた素晴らしき時間のことでありさらに言うならこの螺旋階段の途中で見つけた素晴らしきものについて思い出すことができるということであるいや待て少し待ていやこの螺旋階段の途中で見つけた素晴らしきものについて多少なりとも思い出して語ろうと思うのだがおかしなことだな上手く記憶をつかみ取ることができないこれはどうしたことだああいやそうか地底が見えないほど高みにあるということはそうかそれほど長い時間を走ってきたということだものな上手く思い出せなくなってしまっても仕方がないすまないがしばし時間をくれないだろうか思い出すための時間と考えるための時間と語るための時間を。何だか妙に汗ばんできた息が切れてきているのも思い出したこれまでこんなことがあっただろうか思い出せぬという焦りがそうした苦境を生んでいるのかもしれない気をしっかり保とう振り上げる足が妙に重い俺の顔にこのように深い溝が入っていたかまさか俺は老いているのかいやそんなはずはない俺は未だこのように見事に螺旋階段を駆け上がり続けているなれば老いているはずがない何らの問題もないこの疲れは変わり映えのなさに対する倦怠によるものだろう螺旋階段の途中で巡り合った素晴らしきものを思い出せ何故思い出せない速度が変わったからか歩幅が変わったからか高度が変わったからか待てやめろ本当に思い出せなくなるんじゃない俺はこの螺旋階段を下るわけにはいかない下ることはできない何故ならこの螺旋階段は俺の踏み去るがすぐに崩壊してしまい決して後戻りなどできないのだからこのまま忘れてしまえば俺の走り続けてきたのはないと同じになってしまういやならないこの高さこそが速度こそが走り続けてきた証明そうだ何故こんな単純なことに気が付かなかった俺の走ってきたのは決してなくなることはないたとえこれまでの螺旋階段にたったのひとつも素晴らしいものがなかったとしても俺の走ってきたのが無駄になるはずがない俺は何と愚かだったのだ違う愚かなのは俺だこれまでの長い道のりの中にただのひとつも素晴らしいものなどなかったというならどうしてこの螺旋階段の先に素晴らしいものが待っていると言える走り続けられると言える。いやそうかわかったぞ冷静になればわかってしまうことだ階段を上り続けるのにその道中の素晴らしきものがどうだのと言い続けるのが間違っているのだ。階段は上るための手段に過ぎない俺は上を目指していてその道中で何を考えようが何を語ろうが何を思い出そうがもはや走ることにすら意味はないのだ。だから俺は素晴らしいものなど何もなくても走り続けるし上を目指し続けるし何のために俺は上を目指しているのだひょっとすると単に螺旋の崩壊に追い立てられ逃げるがごとく上へ上へと向かっているだけなのではないかそもそも上とはどこだ何があるのだ目的地もわからずに走り続ける者がいるか俺がそうなのだから仕方がない俺は走っているのだしかし何のために走っているかは己のことでありながら知らないのだおおい誰か誰でもいい上にいる者よ答えてくれ上には何があるのだ俺は何のために走っているのだ愚か者は俺だ己の走る理由ごとき己で決められずしてどうする人にそう言われれば俺はそのようになってしまうのかそんなはずはない俺は俺の走る理由を走る中で探せばよかろうたとえそれがわからなくてもいずれ上に辿り着けばどうせわかることだ上などあるのか未だ辿り着いたこともないのに何故上があるとわかるのかこの螺旋階段の先に辿り着く場所はあるのかあるはずだないなら俺が走っているはずもない終着も何もないのにただ走り続けているはずがないそうだ必ず上があるし俺は上へと辿り着く俺はこれから先も長く長く走り続け地底から遠く遠く離れいずれ必ず上に辿り着くたとえ全てを忘れ全てを失ったとしても俺が走り続けてきた理由を必ずつかまえることができるやめろ考えさせるな俺は老いていないやめろ他の者がすでに上に辿り着いていて俺だけがひたすらに遅れて未だ走り続けているのではないその証拠に見ろ俺のこの素晴らしき脚を刻一刻と重みを増していく脚を運動の意味が分からずにもつれ始めた脚をやめろ違う俺は走る走っている老いていないいや老いただから俺はこれほどまでに走ってきた終着はもうすぐそこにある俺は上へと辿り着く未だ見上げても何もあるようには見えない全てを忘れ始めた違うやめろ俺は走る追いつくなやめろ違う上に誰もいないはずがない皆落ちて行ったはずがない遠く離れた地底で皆が横たわっているはずがない俺の末路がそうであるはずがない走り続けた理由が最も高い場所から螺旋と共に崩れ落ちていくためであるはずがない誤魔化すな見ろ地底はすぐそこに天上は未だ見当たらず違うやめろ俺は走る今ここにあるのは階段を蹴り続ける感触だけ感触だけが全て何も見ることはない足裏から伝わる感触を階段の無機の反発を心中で感じる反復する思い出す考える己の輪郭階段輪郭階段輪郭走る走る考える走る走る螺旋螺旋螺旋来るなやめろやめろやめろ気付くんじゃない!」

 等と独語を延々繰りながら何もない場所をぐるぐると回り続ける人間を見て笑っていた人間はいつしか自分も同様に独語を延々繰りながら何もない場所をぐるぐると回り続けていることに気付き、そして本当にここには何もないことに気付く。

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― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらずお元気そうで何よりです。非常に実験的な作品ですが、面白かったです。 芥川の作品みたいな雰囲気の作品が見られるのは大変に嬉しく思います。
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