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死神と墓守  作者: 壱岐
第1章 出会い
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予兆

寒気がする。


自分の使命を終えてからどうも体調が優れない。

シンシアとミラを探して歩いている間も寒気が収まらない。

もしくは、悪寒なのか。

なんにせよ、あの謎の声を聞いてから気分が悪くて仕方ない。

私のしていることが、やらされている(・・・・・・・)ことだって?

くだらない、心底くだらない。

意味など必要ないのだ、なぜなら課せられていることは私の使命だから。

なさねばならない事に意味など必要ない。

意味を求めるから、余計なことを考えて自滅してしまうのだ。

私はそうしてきた、ずっと考えないようにしてきた。

そもそも考えたことなど一度も無いし、疑問を感じたこともない。

自分のことは自分が一番分かっているのに。

なぜか、あの謎の声が頭の中に響く。


それはお前の答えではないからだ。


「戯言を」


私はその幻聴を振り払う。

戯言だ、そんなものは。

姿かたちも知らない存在に私の何が分かると言うのだ。

くだらない、そんなことに気を割いてしまった私もくだらない。

やはり今日は体調が悪い、一足先に小屋へ帰ろう。

二人には申し訳ないけれど。

私は、ふらふらと覚束ない足取りで小屋へと向かった。


────────────────────


同じ頃。


「お眠りなさい。私の手によって、貴方はこの場所から救われる」



今日もまた、いつもと変わらない調子で使命を果たし続けるミラ。

しかし、その使命に対して殊勝な心がけがあるわけではない。

ひとえに、自分の欲求が満たされていくということに帰結する。

一応、建前として魂の浄化の際にさっきのような言葉を投げかけるが実際は特に何も考えていない。

なぜなら、浄化された魂がどうなろうとミラにとってはどうでもいいことだから。

ミラが重要視しているのはあくまで『死を自由にできるところ』である。

自分の手で、自分の実行した方法で、自分だけしか辺りにいない場所で。

そうしたことができると言うことに愉悦を覚えているに過ぎない。

言ってしまえば、ミラの気分しだいでは浄化もせずに弄ぶこともあるだろう。

それは死体、魂どちらにでもいえることだ。

今はそういう気分ではないというだけ、気まぐれで自分の方針を変えてしまうこともあるだろう。


「狂っている?

私は普通よ、だってこの世界に常識なんてありゃしないから」


故に自分のやっていることも正しいと、あくまで自分を正当化している。

一通り終わったのでミラはその場を離れる。

何故だか、身体が熱い、呼吸が乱れている。

いつもより、息が荒くなっているのはきっと気分が昂ぶっているせいだろう。

身体が熱くなっているのもおそらくそういうことなのだろう。

ミラは、特に気にした様子も無く足軽に歩き始めた。


────────────────────


また同じ頃。


シンシアは一人考える。

墓守の中でも比較的外への関心が強く、常識のある少女。

最年少ゆえか、あまり他の二人から強く当たられることはない。

もっとも、ただセレンとミラがいがみ合っているだけなのだが。

そんな半ば放置されることが多いシンシアは自然と様々なものに対して考えるようになっていた。

今も無垢な少女は考える。

それは、外に出る方法だとか通信方法だとかそういったものではない。

自分の在り方や、この世界についてのことが多い。

ここにいる人は皆気がついたらここにいた。

そして自分の使命を刷り込まれていた。

そのことに対してあまりにも疑問を抱かずに過ごしている二人を見て、余計にシンシアは考える。

自分は何者なのか、本来はどんな人物だったのか、今の自分は本当の自分(・・・・・)なのか。

ここは何処で、どうやってここに運ばれて、運ばれる直前はなにをしてて、なんでこんなことさせられていて。

など、普通なら枚挙に暇が無いほどに疑問点は出てくるはずなのに他の二人はそのことに一切頓着しない。

こんなことを考えたところで、何かが変わるわけではないことはシンシアも理解している。

しかし、だからといって何も考えないまま過ごすのもつっかかりを覚えてしまう。

意外と、そういうことに敏感であり他二人には少ない感覚だ。

そんなことを言ったところで、二人からたしなめられるだけだろう。


「それでも、ここで考えることは無意味だとは思わない」


何も考えていない二人に、密かな怒りを覚えている。

その感情がいつもより強いのは、何故だろうか。

そんなことを考えつつ、シンシアは合流するために歩き出す。


────────────────────


決して混ざることの無い考え、感情。

それらを無理やり混ぜようとすると、必ず不和が起こる。

この場所において、そんなことは瑣末な出来事で気にする必要の無いことだ。

しかし、それをしないのは三人にその気が無いからだろう。

三人はある意味、自分の中で全てが完結している。


私はこうだ、貴方こうでも私の答えはこうだ。


意見を述べることはあっても、それを他に強制することはない。

故に、不和が起こることもなく付かず離れずの関係を維持できている。

しかし、そこに外的要因が加わるとどうだろうか。


例えば、死神。


本当に存在しているのならば、それが及ぼす影響とは。

影響を及ぼすことで、三人の関係はどう変わるのか。

それを知るすべは存在しない。

少女たちはどうなってしまうのか。

もう少し、見ていこう。


少女たちの、生の顛末を──



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