一日
目が覚める。
私の一日はこの瞬間から始まる。
ほかの二人も大体同じぐらいに起きてくる。
三人起きたことを確認したらそのまま小屋の外へ。
私たちは、ここに来てから食事を一度もしていない。
なぜだか分からないが空腹というものを感じなくなっていた。
これもここに来た弊害なのだろうか、などと考えたこともあったがここで生活するうえで特に問題も無いので三人とも深くは追求しなかった。
たまに食べ物が恋しくはなるが、食べなくても何の影響がないので瑣末なことだ。
少し歩き、ある場所で三人は別れる。
「皆さん、今日も何事もないようにしましょう」
私は軽く告げて自分の持ち場へ向かう。
決まった持ち場というものはない、その日の三人の気分だ。
便宜上今日私が行くべきところを持ち場とそう私が勝手に呼んでいるだけだ。
私は、月明かりに照らされた墓場を歩く。
少し歩くと、乱雑に死体が一つ放置されていた。
誰がここに運んできたのか、どうやってここまで来たのか。
そういった細かな疑問はあれど、それに答えるものはここにはいない。
なぜなら、ここはそういう場所だから。
死が溢れるこの場所で、誰かに何かを問いかけるなど意味の無いことだ。
なので、私はいつものように手に持ったスコップで穴を掘り、死体をその中に埋めて、その辺に落ちている適当な木を立てておしまい。
これが、こんなものがここでは立派な墓場なのだ。
生前、どんな良い行いをしようと、悪事をはたらこうと、そんなものは一切関係ない。
なぜなら死は平等であると信じているから。
良い行いをしたからいい墓に入れるのか?
最低な悪事をはたらいたから雑な墓に入れるのか?
そんな不平等、認められない。
少なくともこの場所と、私においては。
まぁ、自分の死体がこんな所に来てしまったことを恨んでくれと、私はそう思うしかできない。
一つ一つの死体に対して一々余計な感情を抱いていてはキリが無い。
なので私は淡々と使命をこなす。
この繰り返しを少なくとも20は繰り返す。
多い日ならば30を超える日もある。
何処まで続いているか分からないこの最果ての墓場でそれを繰り返す。
私はまた歩き出す。
その道中、いくつか彷徨っている魂が漂っている。
私はそんな不憫な魂をいつもと変わらない所作で浄化していく。
これもいつもと同じ、数こそ違えど大体20回ほど繰り返しながら進んでいる。
こんなことの繰り返し。
楽しいのか、と前にシンシアに聞かれたことがある。
「楽しい楽しくないの問題ではないわシンシア。
これは、遂げなくてはならない使命なの。
それ以上でもそれ以下でもないわ。」
私はそう答えた。
その答えに間違いがあると私は思っていない。
なぜならこれが私の使命だから。
逆に、ここにきてこれ以外のことを何をするのかと問いかけてみた。
シンシアは黙ったまま顔を上げなかった。
少し悪いことをしたかとも思ったが、事実なのだから仕方ない。
こんな所にきてまで鬼ごっこをやろうなんて、誰も思うだろう。
それとも、肝試し?
すぐに飽きるだろう、同じ風景が広がっているだけなのだから。
私はそんなくだらないことを考えながら使命をこなす。
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どれほど時間が経っただろうか、そんなことは分からない。
時計が無いので確認ができない。
時間の概念がそもそも存在しているのか分からないがどうでもいいことだ。
私は大方終わらせたので、来た道を戻っていく。
その道中で、他の二人を探しながら歩いている。
歩いている途中で、私は考える。
こんなことに意味はあるのか。
ふと、そんな考えがよぎる。
いつもそうだ、使命を終えると必ず自問自答をしている。
自分の中では答えは勿論決まっている。
なのになぜか、いつもいつも同じことを繰り返している。
そのたびに、私は同じことを自分に言い聞かせて自分で納得し、完結させていた。
意味など必要ない、私は私の課せられた使命を成し遂げるだけ──
私は、いつもと同じ考えを自分自身にぶつけて、完結させる。
その先にある見返りなど必要ない。
なるように生きて、なるように死ねばそれでいい。
それでいい、はずだ。
分かっているはずなのに、何か引っかかりをいつも覚える。
今日は一段と、その感覚が強い。
なぜだ?
考えることを放棄しているから?いいや違う。
私は私なりの考えを以ってその答えに辿り着いた。
なのに、この納得のいかない感じはなんだ?
それはお前の答えではないからだ──
何かが聞こえた。
声のようなものが。
私は顔をあげ、あたりを見渡す。
しかし、誰もいない。
私だけしかいない。
なんなのだ。
ストレスでも感じているのだろうか。
ただでさえ、つっかかりを感じると言うのに。
今日はなんなんだ?
疲れで幻聴が聞こえてくるぐらいには疲弊しているのか?
分からない、分からない。
鼓動が早くなるのを感じる、落ち着け、落ち着け私。
「うるさい!!!」
誰に向かってでもなく、私は叫んだ。
まるで、何かを隠すかのように、自分に嘘を吐くかのように。
「嘘じゃない…」
そう、嘘じゃない。
これが私の答えだ。
もう考えることはやめよう、今日はおかしい。
私は自分の中でまた話を完結させる。
これでいい、いつも通りだ。
私はまた、歩きだす。
いつもと同じように二人を探しながら。
いつもと同じように暗闇を進みながら。
それが、正しい道だと信じて。
私は、歩く──