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死神と墓守  作者: 壱岐
第1章 出会い
2/5

グレイヴヤード



最果ての墓場(グレイヴヤード)は、死が住まう場所──


そういう風な感想を、私は持っている。

ここにいる生き物は、私と、私と同じ使命を持った墓守の二人の合計三人。

それ以外に、生き物と呼べるものはここには存在しない。

生きていたもの(・・・・・・・)ならば、ここにはたくさんいる。

それは、人間の魂であり、人間の死体であり、骨であり。

様々な終わりを迎えたもの(・・・・・・・・・)が、ここにはある、それ以外は何も無い。


他の、人間以外の動物や虫などもここには存在しない。

なぜなら、ここはそういう場所だから。


最果ての墓場(グレイヴヤード)は、世界から隔絶された領域。


私はそういう場所であると定義している。


しかし、もう一人の墓守は、世界から見捨てられた領域といい。


さらにもう一人は、世界から超越した領域という。


三者三様、自分の中でのこの場所というものに答えを出している。

私は、どの答えも否定はしないし、どの答えも当たりだと思っている。


私の答えで言うならば、ここには私たち以外の生きた生物を見たことが無いということ。

この最果ての墓場(グレイヴヤード)は、広大な敷地を深い深い、森に囲まれている。

常に夜だから、森の先は見えず、深い森の中へ行こうとしても、いずれはここに戻ってきてしまう。

自分の中で、まっすぐ進んでいるつもりなのに何故か、行き着く先は必ずこの墓場になってしまう。

理屈はよくわかっていない、それを深く考えるつもりもないが、外に出られないということは、つまりそういうことなのだろう。

と、私は私の中で完結させている。


「あ、セレーン!」


しばらく歩いていると、暗闇の向こうから私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

とてとてと、小走りで暗闇の向こうから小さな少女がやってくる。


「シンシア、終わりましたか?」


シンシア、彼女の名前、二人目の墓守。

私と同じボロ衣のフードを被っていて、私よりも少し幼い顔立ち。

フードを取ると、淡い銀の長い髪を後ろでくくった髪型をしている。


「今日も頑張ったー!褒めて褒めてー!」


無邪気にねだるその姿から、まるで私と同じことを本当にしているのかと、疑いたくなるような明るさを見せる。

だが、彼女も同じ墓守、死体を埋めて、彷徨う魂を浄化する使命を持っている。

唯一違うところと言えば、彼女のほうが少し墓の形が綺麗と言うところだ。


「えぇ、今日もよく頑張ったみたいね。

お疲れ様」


私は、シンシアのドロドロに汚れた手を見ながら、彼女の頭をそっと撫でる。

私も似たような状態ではあるが、彼女は手抜きをしていないようで、しっかり一つずつ死体を埋めているみたいだ。

彼女曰く、「死んでいるからって雑には出来ない」らしい。

その事を批判するつもりはないし、素晴らしいことだと思う。

ただ、律儀だなと、私はそう思う。


彼女は、私と違い外の世界に対しての興味がある。

しかし、どのような手段を使っても外のことを調べることは不可能だとわかり、生きた人間が来たことがないという事実。

そしてあろうことか、彼女は外から誰かがいつか迎えにきてくれると信じていた。

彼女は、私と違いここに来る前の記憶が少しだけあるらしい。

全ては覚えていないが「とても暖かいところに住んでいた」と、彼女はそう言っていた。

しかし、それ以外のことが抜けていて、そして彼女もここに来たときに自分の使命を理解していた。

今でこそ、その感情は薄れてはいるだろう、しかし心の底では切望している。

だが、いくら待っても、いくら頑張っても、誰も迎えに来てくれないと言うことも、心の底ではわかっている。


故に、世界から見捨てられた領域であると、彼女は言った。


「今日はセレンも終わり?」


「えぇ、なのでミラを迎えにいきましょう」


「その必要はないわ」


私がその提案をした直後、横のほうから声が聞こえる。

どうやら既に私たちを探して向かっていたみたいだ。


「ミラ!お疲れ様!」


「疲れてないわ、むしろ清々しい気分よ」


無垢な言葉に対して、高圧的だが、どこか高揚した様子の言葉。

ミラ、彼女の名前、三人目の墓守。

彼女も同じく、ボロ衣のフードを着てはいるが、被ってはいない。

彼女曰く「ちゃんと死者と向き合えないから」とのこと。

金色の綺麗な髪で、顔立ちもとても整っているのだが。

彼女は、私から見ても、少しズレている。

私もズレているのだろうと、一応の自覚はしているが、彼女はまた違ったズレ方をしている。


彼女は、この場所を愛している。

かつて彼女が自分でそう言っていたことだ。

彼女も、ここに来る前の記憶を少し持っている。

覚えていることは「自由気ままだったこと」だということ。

しかし、彼女はそれに関して特に興味を示さなかった。

何故なら、彼女は魂を浄化することに、喜びを感じている。

魂が正しい場所へ還ることが出来たからとか、傷ついた死体に対して慈愛の心を以って接しているからだとか。

そういった類の感情ではない。


「ここは、死を自由に扱える場所」


と、これも彼女が言っていたこと。

正しい場所で、正しい手順で、死を扱わず。

己の決めたルールの中で死を扱うことが出来る。

そのことに、途轍もない愉悦を覚えている。

世界が決めたであろう常識や、倫理観などを全て無視して、あらゆる行為を自分が決めて自分が実行する。

そういった束縛がない、楽園のような場所だと、彼女は言った。

どのようなことをしても誰もそれを咎めるものはいない。

私とは、違った意味で彼女は今の生き方に満足していた。


故に、世界から超越した領域であると、彼女は言った。


「皆さん、今日もお疲れ様でした。

今日は帰りましょうか」


私は二人にそう告げる。

帰る場所、と言っても三人が入るだけの古ぼけた小屋と、水が溜まってある井戸があるだけの場所だ。


私たちは、そこに向かって歩き始めた。

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