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死神と墓守  作者: 壱岐
第1章 出会い
1/5

セレン



──冷たい風が肌を撫でる。


私は、静寂に包まれ月明かりに照らされた墓場を歩く。


今がどういった時期なのかはよくわからない。

ここは、そういう場所だから。

夜の明けない、月明かりだけが降り注ぐ場所。

人間が最後に眠る場所。

四季という概念から隔絶された領域。


最果ての墓場(グレイヴヤード)


誰が名付けたのか、何故永遠に夜なのか、そんなことは正直どうでもいい。

なぜなら、ここはそういう場所だから。

たくさんの人が住んでいたり、いろんな生き物がいたり、笑い声や泣き声や怒声。

そういったものなど、一欠片も存在しないから。

ここ在るものは、乱雑に建てられた墓と、何処の誰ともわからない人間の死体と、死んだ人間の魂と──

この墓場にある墓が、誰の墓だとか、明確には決まっていない。

適当に埋めて、適当に墓を建てて、それでおしまい。

そのことに対して私は、特に何かを感じることはない。

感覚が狂ってしまったのか、元々そうだったのか、誰かにそうなるように教えられたのか。

詳しいことはまったく覚えていない。

私がここに来た時から、それ以前の記憶が抜け落ちている。


私は、気づいたときにはここにいた。

同時に、私が為すべき使命を理解していた。


故に、私はここに運び込まれてくる凄惨な死体達に何も感じない。

感じたところでどうしようもない、私は私に与えられた使命を正しく行うだけ。


それが、今の私だから。


私は、乱雑に建てられた墓場を静かに歩く。

今が何時だとか、そういったことも勿論わからない。

しかし、私が今やるべきことはわかっている。


それは──


ふわり、ふわりと、風が私の纏うボロ衣のフードを揺らす。

なにか(・・・)が通った感覚。

そのなにか、というものの存在は既に知っている。

私が毎日、目にしてきたもの。


人間の魂。


光の玉にも見えるそれは、私の目の前で浮かんでいた。

一つや二つではない。

天に逝きそびれた哀れな、何処の誰かもわからない魂たちが彷徨っている。

時折、声のようなものが聞こえてくる。

怒りなのか、嘆きなのか、悲しみなのか、喜びなのか。

それはよくわからない、私にとってどうでもいいことだから。

私は、いつもと変わらぬことをするだけ。


「最果てに運ばれた魂たちよ」


私は、いつもと変わらぬ言葉を紡ぐ。


「あなた達の最後は、私が看取りました」


私は、いつもと変わらぬ言葉を、彷徨う魂に語りかける。


「静かに、天へと逝きなさい。

ここは、あなた達が住まうには、危険すぎるから」


私はそう言って、手を前に出す。

手に意識を集中させる、徐々に暖かくなる。

暖かくなる感覚に比例して、私の手が光りだす。

浄化の光、と私が勝手に呼んでいるこの光こそ、彷徨える魂たちを救済する光だ。

徐々に、魂たちの形が崩れていく。

やがて、崩れた魂たちは、空に向かって霧散していった。

光を弱める、もうこの場には何もいない。

この場にあった魂は、すべて天へと旅立った。


これが、私の使命。

こういったことを、毎日、ずっとこなしてきた。

苦に思ったことはない、それ以外の楽を忘れてしまったと思うから。

無感情というわけではない、だが他人より喜怒哀楽の起伏が無さ過ぎる自覚はある。

しかし、それも今の私にとっては些末なこと。

過去にどういった私が在ったのか、なんて興味が無い。

言ってしまえば、私は今の生活に満足している。

だが、それを快く思ってくれない人もいる。


墓守は、私だけではない。

私以外に、後二人いる。


私は、自分の今日の使命を終えたので二人と合流しにいくために、また静寂に包まれ月明かりに照らされた墓場を歩く。


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