昔話 『3人組の日常』
やっぱり、俺は昔のことが大好きなのだと思う。
だからこそ、こんなにも、昔のことを夢に見てしまうのだろう。
今回はなんだ?
ああ、中学の頃の話か。
だってほら、『あっち向いてホイ』をしている面子の中に、あの、細身で気の弱そうな少年の姿があるのだから。
そう、あれが、俺のもう一人の親友、ツキだ。
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俺たちはその日、『あっち向いてホイ』をしていた。
俺とウミ、そして、中学に入ってすぐに仲間に加わった、ツキの3人で。
それまで、俺は、ウミが物凄く弱いのだと思い込んでいたんだが、ウミがツキに勝利するのを見て、俺はウミと相性が良いだけだったのかと思い直していた。
ウミが勝つのを初めて見たのは、中一の初めだった。
仲間に入れてくれと近付いてきたツキに、ウミが勝利したのだ。
もちろん、それまでも勝ったことくらいはあったのだと思う。しかし、『あっち向いてホイ』自体が幼少期に廃れてしまったということもあって、俺は、それを覚えていなかった。
ただ、幼少期含めて覚えていることもあって、それは『少なくとも、俺はウミに一度も負けたことがない』ということだった。
ただ、そんな俺も、ツキとはいい勝負といった感じだ。
だから、今までとは異なって勝負にバリエーションが出て、少しだけ、楽しくなった。
やっぱり、勝ってばかり負けてばかりでは、飽きがくるからな。
そんな感じで、ツキが加わったことで、ようやくバランスが取れた関係が始まったわけだ。
「あっち向いてホイ!」
ただ、やっぱりウミは、俺に勝てないことを気にしているようだったけど。
今思えば、ウミの未練がそれになるのも、分かる気がした。
むしろ、それ以外にないような気もしてくる。
「なんで、わたしはヨウに勝てないのかなぁ」
「うーん、なんでだろうね」
誰に対してもバランスの良い勝率を叩き出すツキが、首を傾げるウミの相談に乗るのも日常茶飯事だった。
ただ、ツキも内心では、どうしてこの二人の戦績はこんなに偏っているんだろう……と疑問に思っているくらいなので、もちろん、大した答えは返せない。
俺は、「細かいことは気にするなよ」と笑っていた。
細かいことは気にするなよ。
それが、中学時代の、俺の口癖だった。
正直、俺は当時からかなり、細かいことを気にしていた。もっと昔からそうだったかもしれない。だからこそのその口癖だったわけだが、しかし、俺はそれを、そこまで暗い意味では用いていなかったように思う。
ツキは、俺以上に細かいことを気にしていたし、ウミは逆に、全く気にしていなかったし。
3人でいる時は、そういうことがバカらしくなるんだよ。
本当、いい感じにバランスが取れてたと思うよ。
「逆に、どうやったら俺は、ウミに負けることができるんだ?」
「あはは、細かいことは気にしないんじゃなかったの?」
「いや、そうだけど」
「…………」
「…………」
ツキと話していると、むっすーとなったウミが無言で睨んできたので、俺たちも口をつぐんだ。
「…………」
「…………」
「つんつん」
「ふがあああああ!」
じっと睨み続けるウミの頬を人差し指でつつくと、両腕を上げて襲いかかってきた。
こういう無駄な時間が、無駄でなかったのが、俺たちだった。
思い返してみると、これは中二の、夏休み前だ。
たしか、その日の放課後、俺たちはこういう約束をした。
「夏休み、花火見に行こうね!」
「おう、そうだな」
「そうだね」
俺たちの地元はかなりの田舎町だが、それでも、夏祭りの一つ二つくらいは開催されていた。そこで打ち上げられる花火を、見に行こうということだ。
当時の俺たちには、その花火はどういう風に見えていたのだろう。
花火に限らずとも、世界全体が、とても美しいもののように見えていたような気がする。
何度も何度も繰り返し見る昔の夢。
それでも、『その時だけの美しさ』というものだけは、どうしても、再現不可能なようだった。
あの時のキラキラ輝いていた風景を、みんながみんな、ゆっくりと失っていく。
それを忘れることなく、失うことなく済ませる方法がただ一つだけあるとするならば、それは、その真っ只中に人生を終えることだろう。
輝きの中で時間を止めること以外に、輝きを保存する方法など、無いのだ。
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