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神様の指先 〜幽霊少女と引きこもり〜  作者: 車輪
第2章 『ウミの未練』
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昔話 『3人組の日常』



 やっぱり、俺は昔のことが大好きなのだと思う。

 だからこそ、こんなにも、昔のことを夢に見てしまうのだろう。

 今回はなんだ?

 ああ、中学の頃の話か。

 だってほら、『あっち向いてホイ』をしている面子の中に、あの、細身で気の弱そうな少年の姿があるのだから。

 そう、あれが、俺のもう一人の親友、ツキだ。



 ▼



 俺たちはその日、『あっち向いてホイ』をしていた。

 俺とウミ、そして、中学に入ってすぐに仲間に加わった、ツキの3人で。


 それまで、俺は、ウミが物凄く弱いのだと思い込んでいたんだが、ウミがツキに勝利するのを見て、俺はウミと相性が良いだけだったのかと思い直していた。

 ウミが勝つのを初めて見たのは、中一の初めだった。

 仲間に入れてくれと近付いてきたツキに、ウミが勝利したのだ。

 もちろん、それまでも勝ったことくらいはあったのだと思う。しかし、『あっち向いてホイ』自体が幼少期に廃れてしまったということもあって、俺は、それを覚えていなかった。


 ただ、幼少期含めて覚えていることもあって、それは『少なくとも、俺はウミに一度も負けたことがない』ということだった。


 ただ、そんな俺も、ツキとはいい勝負といった感じだ。

 だから、今までとは異なって勝負にバリエーションが出て、少しだけ、楽しくなった。

 やっぱり、勝ってばかり負けてばかりでは、飽きがくるからな。

 そんな感じで、ツキが加わったことで、ようやくバランスが取れた関係が始まったわけだ。


「あっち向いてホイ!」


 ただ、やっぱりウミは、俺に勝てないことを気にしているようだったけど。

 今思えば、ウミの未練がそれになるのも、分かる気がした。

 むしろ、それ以外にないような気もしてくる。


「なんで、わたしはヨウに勝てないのかなぁ」

「うーん、なんでだろうね」


 誰に対してもバランスの良い勝率を叩き出すツキが、首を傾げるウミの相談に乗るのも日常茶飯事だった。

 ただ、ツキも内心では、どうしてこの二人の戦績はこんなに偏っているんだろう……と疑問に思っているくらいなので、もちろん、大した答えは返せない。

 俺は、「細かいことは気にするなよ」と笑っていた。

 細かいことは気にするなよ。

 それが、中学時代の、俺の口癖だった。


 正直、俺は当時からかなり、細かいことを気にしていた。もっと昔からそうだったかもしれない。だからこそのその口癖だったわけだが、しかし、俺はそれを、そこまで暗い意味では用いていなかったように思う。

 ツキは、俺以上に細かいことを気にしていたし、ウミは逆に、全く気にしていなかったし。

 3人でいる時は、そういうことがバカらしくなるんだよ。

 本当、いい感じにバランスが取れてたと思うよ。


「逆に、どうやったら俺は、ウミに負けることができるんだ?」

「あはは、細かいことは気にしないんじゃなかったの?」

「いや、そうだけど」

「…………」

「…………」


 ツキと話していると、むっすーとなったウミが無言で睨んできたので、俺たちも口をつぐんだ。


「…………」

「…………」

「つんつん」

「ふがあああああ!」


 じっと睨み続けるウミの頬を人差し指でつつくと、両腕を上げて襲いかかってきた。


 こういう無駄な時間が、無駄でなかったのが、俺たちだった。

 思い返してみると、これは中二の、夏休み前だ。

 たしか、その日の放課後、俺たちはこういう約束をした。


「夏休み、花火見に行こうね!」

「おう、そうだな」

「そうだね」


 俺たちの地元はかなりの田舎町だが、それでも、夏祭りの一つ二つくらいは開催されていた。そこで打ち上げられる花火を、見に行こうということだ。


 当時の俺たちには、その花火はどういう風に見えていたのだろう。

 花火に限らずとも、世界全体が、とても美しいもののように見えていたような気がする。

 何度も何度も繰り返し見る昔の夢。

 それでも、『その時だけの美しさ』というものだけは、どうしても、再現不可能なようだった。

 あの時のキラキラ輝いていた風景を、みんながみんな、ゆっくりと失っていく。


 それを忘れることなく、失うことなく済ませる方法がただ一つだけあるとするならば、それは、その真っ只中に人生を終えることだろう。

 輝きの中で時間を止めること以外に、輝きを保存する方法など、無いのだ。


感想等お待ちしております。

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