雪女
あれはある夏のジトジトっとした嫌な夜だった。
「あぁ寝れない。」
思わずそう呟いた、少し外で一服がてら歩いてくるか
そう思った僕は散歩に出ることにした。
夜の道は暗くて街灯の灯りが点々としているだけ…
「ははっお化けでもでそうだな」
そうやって暗い夜道を歩いていると街灯の下にぽつんと女の人が立っていた、真っ白なワンピースで髪はダラリと前に垂れ下がっている。
うわホントに出やがったよ
僕は怖がりだ、友人に心霊スポットに行こうと誘われても行った試しがない。特番の日本の怖い夜的なやつも進んで見ようとは思わない。
そんな男が夜中に散歩に行くなという話だが、普段使ってるこの散歩ルートはいわば、僕のテリトリー内なのでセーフだ。
そんな僕の安心ドキドキ散歩道に今、まるで絵に書いた幽霊像のような女の人が立っている。
こういう時はたしか…気づいてないふりをすればいいんだったな。よし。覚悟を決めよう。
「すいません」
消え入るような、でもたしかに耳に入ってくるそんな声で突然話しかけられた
「う、え、あはい。なんでしょう?」
思わず声が上ずってしまった。怖いものは怖い。
突然夜道で話しかけられたら誰しもこうなると思う
「今晩泊めてくれませんか?お礼はしますので…」
ん?泊めて下さい?
一瞬頭がフリーズした。しかもよく見るとすごく綺麗な人だ。
透き通るような真っ白な肌に大きくてパッチりな目、筋の通ったそして高すぎない鼻にこれまた真っ白で整った歯
笑顔が素敵なそんな女性だった。
「いや、突然言われてもなんとも言いづらいですよ」
この時点で僕は迷っていた。
たしかにこんな夜中に街灯の下の白いワンピースの女は普通じゃない。でも彼氏に乱暴されて逃げてきたとか並々ならぬ理由があるのかもしれない。
さらに僕を迷わす一言。
先程の「お礼はしますので」と言う言葉。
こんな綺麗な人に色々してもらえると考えるだけで大抵の男はOKしてしまうだろう
「だめですか?…私行く所がないんです。せめて一晩一緒にいさせてもらえないでしょうか。」
「こんな夜中に女の人一人では危ないですし、、一晩だけならいいですよ」
「本当ですか!よかったあこのまま野宿かと思ってました!」
僕は不安よりも興味が勝ってしまった。
僕達はその晩、文字通り熱い夜を過ごした。
「私、雪女なんです」
家に着くとそんなことを彼女は言い出した。
最初は冗談や、ヤバイやつかとおもったが
実は本当のことらしい
と言うのも雪女の一族は男の快感を吸い取り、身体を構成しているらしい。
僕がその事を信じたのは家の中で雪を降らせた事だ。
「うわっマジじゃん。」
「マジなんです。ドン引きですか?」
「いや、全然OKです!いつまででも一緒にいて下さい!」
「そんなこと言われると居着いてしまいますよ?」
「本気です!」
僕のその一言で雪女の美雪さんは僕の家に住むことになった。
僕は美雪さんの事が好きだったし、美雪さんも僕の事が好きだったと思う。
だが、幸せな日々は長くは続かなかった。
「私達雪女の一族は南極や北極の氷の多いところでヒッソリと住んでいたんです。」
「ん?あぁ、そうなんですか?」
この時、彼女は自分が消え入る存在なのをわかっていたような気がする。
「でも、地球温暖化で氷が少なくなってきて…代表で私がこの街に来たんです。」
「一族の子孫を残すために。」
「え、美雪さんとの子供ができるんですか?やったあやっぱり雪女の子供は女の子なんですかね?」
「でも、私達雪女の一族は出産とともに母体は溶けて水になってしまうんです。人間のいる所に来たのは地球を暖めるのをやめて欲しいのと子供を産むためです。」
理解出来ない。美雪さんが消える?溶けて水になる?
「じゃあ子供なんて要らないですよ!美雪さんが居てくれれば僕はそれでいい!」
すいません。それしか彼女は言ってくれなかった。
「もう産まれるんです。私は消えるけど、どうかこの子を大切に育ててあげてください。」
美雪さんから水が滴る。
いやだ、いやだ、美雪さんがいなくなるなんて
僕の泣き顔は相当ひどいもんだったろう。
「ふふっそんなに泣いたらあなたも水になってしまいますよ?」
消えてしまうならせめて僕の気持ちを伝えなきゃ。
僕は君が好きでした、ちがう。
僕はもっと君と一緒にいたい、ちがう。
これだ。
「僕は君と出会えて良かった」
「私もあなたに出会えてよかった」
ガシャっと音を立てて美雪さんが崩れて、溶けるスピードが早まる。
だめだ!!!
慌てて手で支えようとしたが既に水になってしまっていた。
水たまりと一人の赤ん坊を遺して。
そして一年ほどで雪女の一族が見つかった事がニュースになり、世界的に雪女の研究が始まった。
僕と美雪の赤ん坊も政府にもっていかれてしまった。
悲しみにくれる暇もなく。
雪女の密猟や、雪女の保護団体まで出る始末だった。
かくいう僕も雪女の保護団体に所属していた。
僕は美雪さんから教わった雪女の知識を提供したり、積極的に雪女の保護に携わった結果、保護団体の会長にまで登り詰めた。
そしてそれからは世界を相手に雪女を取り返して行った
全ては美雪との約束と、ある計画のために。
それから二十年が経ち今では雪女の総数の約九割を僕の保護団体が保護している。
「会長〜!新しい雪女を保護できました!」
「そうか、ご苦労だった。」
僕は今最高に幸せだ。
雪女は溶ける時に今まで身体を構成していた男の快感を冷気と共に全て吐き出す。
その時にその冷気に当たるとその快感を感じる事ができる。
このことを知っているのは僕だけ
僕だけの雪女だ。
最初に美雪が消えた時今までで感じた快感の全てを上回る快感を得ることが出来た、、
そしてあることを思いついた。
雪女が男の快感を元に身体を構成しているのであれば
二人以上の雪女を用意して片方の雪女を溶かし僕が快感を得てもう片方が僕の快感を得て身体を構成する。
不思議なことにこれで雪女の数が増える。
あぁ美雪さん。改めて言うよ。
「僕は君に出会えて良かった」
初めての作品だったので至らない点があると思います。
まずは質より量
ショートショートを作り続けていきます