説得
レンは、教室中を見回した。
休み時間は、教室での生徒の会話はアイドルの話か恋の話だ。恋人がいる子だっているから、そのノロケ話が聞こえなくても聞こえてくる。今はウルサイだけだ、自分のノロケ話を人に言いたいだけにしか見えない。話の受け手も何が恋人だと思っているだろうが心の奥底では、うらやましがっているのだろうな。生徒の中には、半分くらいは恋人がいなさそうな子達がいるだろうなとレンは思った。
放課後になって、レンは保健室に足を運んだ。
部屋に入ると、美里先生はケガをしている体操服を着ているメガネをかけた男子生徒の手当をしていた。肩にかかるほどの長髪な美里先生は、見た目は静かな趣きで清楚が感じがする。でも何だが男子生徒には厳しい感じがするな、よく注意しているのを見かけた事があるとレンは感じた。
「先生、美里先生。相談があるの」
「あら、今度は何?」
保健室はいわゆる悩み部屋と呼ばれている。他の先生では相談に乗ってくれない事も、美里先生なら聞いてくれる。何で悩みを聞くようになったのか前に聞くと、以前先生は国語教科を受け持つ先生であったらしいのだ。
その時先生は何でも授業で準備する作業が多くて、生徒の話なんか聞いている時間がなかったらしい。ある生徒が相談に乗って欲しいと美里先生を頼ってきたが、あまり親身になって聞いてあげる事が出来なかったのだそうだ。それが先生のせいか原因が分からないが、後日相談をしていた生徒が自殺をした。
先生は悔やんで、教科の先生をやめて保健の先生になったのだという。大人も悩みは多くあるが、学生も悩みは多くあり何かアドバイス出来るのなら力になってあげたいという精神なのだ、先生は。
「お姉さんが離婚して、その気持ちになりたいですって。その為に恋をしたいって言うの?」
美里先生は天井を見上げて、レンに知られないぐらいの低い声でつぶやいた。何で私が恋を教えるって、そんなのまだ私もした事ないのに。私が知りたいぐらいだわ。これを機会に恋を知る事を踏み出してみようかな。
「えぇ、そうです。恋は遅い早いはあると思いますが、私も恋を知りたくなったのです。そうすればお姉ちゃんの苦労が分かるかと思って。先生なら恋愛経験も多くあると思って、お願いしたいのですけど」
恋は遅いって言葉に美里先生はドキッとした、まさか私が今まで恋人がいない事を見抜いているの。いえいえ誰にも話していないはず、恋人が今までいた事ないなんて皆に知られる事は恥ずかしい事だわと先生は心の中で思っていた。
レンは先生に顔を近づけて
「先生、黙っていますから隠さなくていいですよ」と言った。
「えっ何を」先生は目をキョロキョロ左右に動かしていた。
「だって先生、さっき恋愛経験って聞いた時に目が右上を向いてましたよ」
先生は何を言われているのか理解出来ないでいた。
レンはニコリとした笑顔で、
「あのね先生、前にテレビでね、嘘ついている人の言動が分かる話をやっていたので分かったのです」
「へぇそうなの、なんだバレてしまったわ。でもこれでも少しは恋をした事はあるのよ、少しだけどね。私も恋の話をして恋が出来れば私もうれしいしな」
「はい、そうしましょう」
「じゃあ、恋を知るクラブ活動にしない?」
「やりたいです、ぜひっ」
「5人集まればクラブが出来るわ。でも恋を知るクラブを学校が認めないだろうから、表向きは料理クラブとかどうかな?」
美里先生は、好奇心に満ちた顔で応えた。