きっかけ
朝、アラームの音で目が覚めた。
でも、いつもの音と違っていたように感じる。
朝6時半にメールの着信って誰だろうか?
カーテンの端から暖かくてまぶしい光が差し込んでいた。
まだ眠い目をこすりながら、ベッド脇にあるピンクのスマホを手に取り中学3年生の女の子の阿笠レンはメールの送り主を見た。
レンの姉からであった。こんな朝早くに、どうしたのだろうか。
「もうダメ、今離婚届出してきた」
突然の出来事にびっくりして、レンは一気に目が覚めてしまった。6歳年上の姉である阿笠アイが結婚してからもう1年半になる、あんなに旦那さんと仲良かったのにと思っていたのはレンだけかも知らないが。何か離婚しないといけない後には戻れない問題があったのだろう。
2人姉妹なのに何の相談もなかったのだ、妹のレンに話してもまだ分からない問題であったに違いない。それに今離婚届を出してきたって、こんなに朝早くに役所に離婚届を出したという事は役所は営業しているのだろう。
お姉ちゃん大丈夫かなと、どういうメールの返事を返せばいいのかレンは言葉が見つからない。何か返事を返してマイナス的な事を伝えてしまったら、どうしようとかレンは考えてしまった。
不運な事に朝早くからレンの父親と母親は、もう仕事に出かけている。今は周りに相談出来る相手もいない。両親が朝早いのはいつもの事である、家族と言うよりは家族と言う名の同居人のよう。父親は弁護士で母親は美容師のオーナーで両親とも仕事大事で、忙しい生活をしているのであった。そういう生活をレンは幼い頃から送っているのである、特に姉が嫁いでからは寂しくなり、一戸建ての家は妙に広く感じた。
いつものようにテレビを家族代わりにして、レンはコンビニで買った朝食であるパンと牛乳を食べてから家の鍵を閉めて,すがすがしい暖かい風を受け春の匂いを感じさせる学校へと向かった。
「あら阿笠さん、まだ始業のベルは鳴ってないわよ。いつも遅刻寸前なのにどうしたの?」
「あの美里先生、ちょっと相談が」
職員室にて先生達が授業の支度をしている中で、お目当ての先生の所に行こうとした時にメガネを掛けた男子生徒とぶつかった。ごめんなさい、あれうちのクラスの子だったっけなとレンは感じた。
レンは保健室の先生である美里先生にお姉ちゃんからのメールの件について相談を持ちかけた。美里先生は生徒の悩みや相談を受けてくれるので、何か悩み事や問題が起きれば解決や助言をしてくれるのだ。元は学科専門であったが、学生は何かと悩みが多いだろうと悩みを聞く立場に変わったのだと聞く。
美里先生はいつも白衣を着ている、他の先生よりも身近な存在で親身に感じるお姉さん的存在である。モデル体型で男子でも女子でも憧れていて、悩みもなさそうな素振りであった。まだ年齢は30歳手前だそうだ。
「そうねぇ、お姉さんは今精神状態が不安になっているわね、自殺までは行かなくともそれに近いものがあるかも知れない。だから今はメールの文章にも気を付けないといけないわね。あまり離婚の事は触れずにおいた方がいいわ、何か出来る事はないかなとか言ってあげたらどうかな?」
「そっか、ありがとうございます。先生朝早くから、やっぱり美里先生に相談してよかった」
「なんでも相談に来てね」
笑顔で美里先生は応えてくれた。これでメールの返事が打てるとレンは思った。さっそくお姉ちゃんに何か出来ることないかなとレンはメールを打った。でもそんな事では、レンのわだかまりは消えなかった。お姉ちゃんは幸せだったのかな、でもその気持ちは共有は出来ない、だってレンにとって結婚はまだしていないし、それにまだ恋も知らない。
これからお姉ちゃんに会った時にどういう言葉を掛けたらいいのだろうか。お姉ちゃんの気持ちを知りたい、どういう風に今まで恋をしていたのだろうか聞いた事がない。そんな事をレンは授業中に思っていた。
レン自身は今まで恋を知らないで、男女関係について考えた事もなかった。男子とは幼稚園、小学校では一緒にやんちゃに遊んでいたのだが、中学生になってからは口も利かないようになってしまった。急に男子に何を話せばいいのか分から無くなってきたのだ。
それは男子が声変わりして声のトーンが急に低くなって怖い感じがして、怒られているようで取っつきにくくなったせいもある。まるで男子全員が他の国の人になったかのように。レンは自分だけが勝手にそう感じているだけで、きっと他の子は違うのだ。そういう自分の矛盾を恥ずかしくて、誰にも聞いた事がなかった。ましてやこの事は姉にも相談していない。今回の事も急に姉の離婚を聞かされて、男女関係を思い直して知りたくなったのである。
レンはその為には、まず恋を知らないといけないと思った。1番の親友である雪ちゃんに休み時間に声を掛けた。友田雪は小学校からの友達でクラスは違う時もあったが、話していて楽しい相手でいつもショートボブの髪型で勝気でボーイッシュな感じであった。
「レンちゃん、私もそう思っていた。恋について知りたいし、勉強したい。いつもの退屈な授業よりも恋の授業があれば役に立つのだろうな」
「ほんと、そうだね」
「でもレンはメガネ外すともてると思うんだけどな、目は私よりも大きく可愛いしサラサラ長髪ヘアでイメージは癒し系でいいんだと思うんだけどな」
「そんな事ないよ」
昼休みにレンは校内の公衆電話で母親に電話して姉の離婚について話した。事前にレンはお姉ちゃんからのメールを母親に送っておいたので、私よりも力になれるのは親の力だ。親に任せておこうとレンは思った。
恋の授業か、いい事言うな雪ちゃんとレンは感じた。恋を知るには人づてで教えてもらうか恋のマニュアル本とか読むしかないと思う。あと方法と言えば漫画か小説とか映画だけど、あれは読む人とか観る人が楽しくなるように作られているものだから参考にはなるだろうけど、勉強にはならないと昔に姉から聞かされた。
「ねぇ、雪ちゃん。どうやったら恋の勉強出来ると思うかな?」
「う~ん、恋愛経験豊富な人に教えてもらうとか」
「でもそんな人いるかな?周りに」
「聞いてみようっか、友達とかに」
まずはレンたちは、恋人がいる友達に聞いてみた。恋愛経験は少し聞けたがまともに参考になるものはなかった。そういう事じゃなかった、もっと根本的な恋の仕方を。そんな事は面と向かって友達には聞けない。どうしたら恋が出来るのかなんて、分からない。
「先生、美里先生。相談があるの」