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上級魔女のみゆうと仲間

作者: 鏡田りりか

 どうしよう、困っちゃったな。

 私、友達なんかいない。こんなことになるなんて。

 ここは有名なある魔術学校。私はそこの二年生。十四歳だ。

 ここでは、一年生の時、主に行うことに分かれて授業を行う。それで、二年になって、習ったことを生かしながら、グループを作る。卒業しても、一緒の。

 だから、重要なんだけどさ。新学期早々、気分も目の前も真っ暗じゃん。

 どうしたって、女子四人、男子一人のグループを作んないといけないんだもん。

 私は髪をそっと撫でる。暗い気分になったとき、いっつもそうするんだ。腰まである茶色のツインテール。切る予定はないし、切りたくもないが。

 というか、こんなの、人見知りには拷問じゃない。さっきから鳴き声だとか、怒声だとか、あちらこちらから上がる。(なんなのか、眩しい光の柱もね。)

「きゃ?!」

 いけない!こんなこと考えてたから、人にぶつかっちゃった。ぺたっと座り込む彼女は、女生徒って感じがあふれている。ついでに、となりに男の子がいる。リア充か。

 茶髪のポニーテールを揺らしながらこちらを眺める彼女の目には、涙のあとがくっきり残っている。

「す、すみま、せん。」

コミュニケーションは苦手だ。どうしても、会話と言えない代物になる。

「あれれ?みゆうちゃん?!ウソ・・・。」

「えぇ?いま、なんて?」

 私・・・みゆうは名前を呼ばれてびっくりして後ずさり。だって、彼女のこと、わからないし。

「私、小学校、転校してきた年、おんなじクラスだったんだ。」

「そう、だっけ・・・。」

 よく覚えてるな。ってか、私が小学校の記憶なさすぎるのかも。

「だって、私はただのクラスメイトかもだけど。みゆうちゃん、昔から目立ってたし。」

 目立つ、という言葉にワカリヤスク反応する。おっきい目とか、仕草とか、丸い輪郭とか、胸だったり。しかも背が低くて、余計に幼女っぽさがある。可愛いと言って、人が集まってきてしまう。私はそれが嫌いだった。

「な、なんか、ごめん?」

「え、いや、そうじゃない、けど。」

矢を引き抜こうと必死の私だったけど、彼女が困った顔で言うから思わず反論してしまった。

「みゆうちゃん、グループ決まってるの?」

 うん・・・。普通なら、私が好きな男子が集まってくるものだけれど、ここは男子が極端に少なく、たいてい女付き。この容姿のせいで女子には嫌われてるし。いない。

「私、不器用だから、ね。」

「じゃあ、お願いできる?」

「もちろんじゃん。」

 ぱあっと顔が明るくなる。単純な子だな、この子。

「ええと、名前・・・。」

「あ、ななみだよ。ななとでも呼んでね。」

「よろしく。ななちゃん。」

 呼び捨てがいい、と不満そうな声を軽く無視して隣で戸惑う男の子の方に顔を向ける。

「彼氏、さん?」

「まさか!さっき、かばっていただいて。」

 そういう彼の頬にはアザがあった。

「そう。とりあえず、入ってくれるんだよね?」

「はい。たくみっていいます。」

 丸っぽい、幼さのある瞳。少し明るめの髪は、真っ直ぐで、自然な感じ。余計、幼く見える。しかも、背も低め。私より、ホンの少し高いかもね。

 ななは、それに比べると高身長で、スラリとしてて、しっかりもののお姉さん、といった感じがある。でも、あがり症のようで、さっきから耳まで真っ赤にして喋ってる。

 あとの人をどうやって集めようかな。なんて、辺りを見回す。

「あ。」

 私が指した先には、ゴスロリの少女がいた。壁に寄りかかって、下を向いて、手をギュッと握り締めてる。

「あやめちゃん?」

「知ってるの?」

 思ってたより強い口調で(一回仲良くなっちゃえば大丈夫な子なんだね)、

「彼女は、特別に入学した、十歳。あんなに目立ってるから、ほとんどみんな知ってるけど。」

 あんなに小さい子では、この中に混じるの、大変だよね。私は、彼女に近づいてみた。

「どうして、私なんかに?」

 小さな、でも、響く声が聞こえる。私に対して、言ってるよね?

「大丈夫?やっぱり、馴染めないの?」

「ひ、人と話すの、苦手なんですよ。」

 え、でもさ。

「普通に、喋ってるじゃないの。」

「え、あれ。ホントだ・・・!」

 あ、可愛い。まだ幼い感じ。でも、どこか笑顔がぎこちない。

「私、みゆう。よろしく。」

「みゆうさん、他の方は?」

「えっと・・・。二人なら。」

「丁度じゃないですか。」

「は?」

 なんで、あともうひとり・・・。言いかけて、私はあの、聞きなれた音に気がつく。

「放送だ。」

 『え~、みなさん、グループ作りは順調・・・、だったらもう帰ってますよね。

  はい!ともかく。次から登録する人は女子を一人減らしてくださ~い。退学者が多くてね、いや、ホント困っちゃうよね~。

  まぁ、伝えたんで、よろしくお願いしま~す。』

 それを合図に、歓声と怒声が混ざって溢れ出す。実を言うと、超音波みたいで、クラクラするほどだ。

 あまりやる気のないこの声。明らかに我がクラスの副担任だ。ということを考えている場合ではない。


  どうして、放送が入る前に分かった?


 先生たちが話していてた。無理だろう。ここから相当距離がある。体育館の端にいるが、先生たちは逆側の端にいる。しかも何故か体育館が無駄に広いし。

 じゃあ、超能力者なんじゃん?なんて。

『あ、すみません、言い忘れちゃった。もうすぐ時間だから、ちゃっちゃと作ってくださいよ~。先生だって帰れないんだから。』

「あっ!あやめちゃん!ほら!早く。」

「え、あ、はい!」

 学生証を取り出して、真ん中らへんのページを開く。魔法陣が書いてあるページだ。一人一人、先生が合う魔法陣を選んで書いてくれるのだ。

「たくみ!なな!ほらほら、早く!」

 みんなが魔法陣のページを開き、魔力を込める。

 キィンと眩しい光が溢れ出す。目を開けていることもできず、私はきゅっと目をつぶる。

(あぁ、さっきから上がってた光、これだったんだ。)

 『ニンシキカンリョウ。タダチニゲコウシテクダサイ。』

機械音がして目を開けると、いつの間にか、光は跡形もなく消えさっていた。

「ねぇ、お願いがあるんだけどさぁ。」

 なながそっと言った。

「もちろんいいけど・・・。」



 手頃なものとドリンクバーを頼み、私たちはほっと安堵の息を漏らす。

「まったく、この班どうかしてるよ。人見知りだとか、そんなのばっかり集まっちゃって。」

 全く、ほんとだ。まともに注文できる人がいない。

 ななのお願いとは、「一緒にお昼、食べられない?」。というわけでファミレスまで来たが、残念ながら、会話がまともに成り立たなかったわけだ。

「ところで、その制服。みゆうちゃんて、呪文科なんだ?前は使い魔扱ってたっしょ?」

「うん、使い魔は今でもいっぱいいるけど、呪文が得意なんだよね。中学校の適性検査で、初めて知ったけど。でも、召喚は基本だから、みんなやるでしょ?」

 制服・・・、というのは、グループ決めでわかりやすいように、女子は学科が違えば制服が変わる。

(ちなみに、ななはセーラー服を着ている。私はセーラーっぽい形のブレザー。リボンの位置とか、襟の形とかがね。)

「じゃあ、ななは魔剣科なんだ。ちょっとかっこいいかも。」

「そんな!みゆうちゃんみたいにうまく魔術ができないからだし!」

「私も水は得意だけど、それ以外は普通だよ?」

「普通って!上級魔法軽々使ってたじゃん!」

 話についていけないたくみを見て、私は話を振ってみることにした。

「たくみは?何科?」

「魔物召喚。なんか、ちょっと、女の子っぽいかな・・・。」

「そんなことないっしょ。私の魔剣よりね。」

「人には得意不得意あるしね。」

 たくみはそっとあやめちゃんに視線を動かす。

「あやめちゃんは。」

「まぁ、いいよね。後でってことで。」

 ななはそう言うと、ドリンクの方に歩いて行った。


 店を出て外を歩いていると、私はあやめちゃんの異変に気づく。

「あれ、あやめちゃん、気分悪い?」

「あ、いや・・・。ちょっと、あんなに人のいるところ(学校の体育館)行ったことないから、疲れちゃって。」

 ななはそれを聞くと、慌てた様子で

「じゃあ!もう帰る?」

「今、家に帰りたくない・・・。」

 私たちはどうしたものか、と顔を見合わせる。

「あ、じゃあ、ウチくる?私ひとり暮らしだし。」

「ななみさん・・・、いいんですか?」

「うん。大丈夫!イメージ通りじゃないかもだけど、綺麗に片付いてるよ?」


 ななの部屋は、学校の近くのアパートの五階だ。

「わあぁ、なんか可愛い。」

「ちょ、バカァ!みゆう!なんでそんなこと言うのぉ!」

 ななの部屋はピンクを中心としたいかにも女の子らしい部屋だった。しかも、めちゃくちゃ片付いてる。ホコリ一つない。

「ベット、そこ。横になっていいから。」

「いろいろすみません。」

 なんか、女の子って感じで、いいなぁ。私、結構殺風景かも。

「ひとり暮らしだったんだ。」

「うん。お母さんもお父さんも、通ってた小学校の近くに住んでるんだけど。こっからじゃ遠すぎるんだよね。電車じゃ行けないし。」

 そうだね。あそこは魔術小学校で有名。ここも有名なんだしさ、近くにして欲しい。あ、近くにもあるんだっけ?

「ところで、なんで家に行きたくないの?」

たくみが優しく言うと、

「家に来る人が、多くて。怖いんだもん。夜なら、使い魔が来てくれるから。」

「へぇぇ。使い魔、仲いいんだ?」

なるほど!いいこと聞いちゃったぁ。

 


 結局、あやめちゃんはなかなか私たちと喋れずにいた。

一ヶ月経って、ゴールデンウィーク!学校は平日も休みなり、グループごとに合宿をする。少しは仲良くなれるかな。


で、向かってるわけだけど・・・。

「あぁ、もう。また木に引っかかっちゃったよ。なんで山ん中なの・・・。」

「仕方ないっしょ。うちら、普通だから。」

 この学校、お金払えば誰でも入れるようなとこだから、お金持ちがほとんど。私たちにはいいとこ行けないし、まあ、仕方ないということか。

「わぁっ、」

 たくみの小さな悲鳴のような声。わたしとななが振り向く。

「あ!大丈夫?!」

 たくみがあやめちゃんを抱きかかえるような形になっているけど、持て余しているようで。

 なながあやめちゃんを木のところに寝かせていると、またもや悲鳴のような声が。

 バランス崩して転んだたくみに手を差し出す。

「大丈夫?」

「うん。ありがと。」

 あやめちゃんは、まだ黒っぽいゴスロリを着ているけど、少し厚手で、長袖だし、防魔服らしいけど、さすがに暑いんじゃない?真っ白な肌に雫が伝う。

「すみません、ちょっと、疲れちゃいました。」

こんな時でも、優雅で、美しさがある。座り方なんかも、ホントお人形さんみたい。

 私はさっきから地図も見ないで先頭に立ち、どんどん進んでいく彼女に声をかけた。

「ねぇ、ななぁ。あとどのくらいなの?」

「そうだなぁ・・・。あと十分くらいっしょ。」

「そう。じゃあ、あやめちゃんは私が運んであげてもいいよね?」

「えええ?!それはいくらなんでも迷惑かけすぎでしょ?!」

あやめちゃんが喚くのも無視してひょいっとお姫様だっこ。まだ抵抗してるけど、華奢な彼女には大したことはできないだろう。


 あんなに拒否しといて、ものの一分で寝ちゃった。

 まだ小五の年だし、仕方ないよね。普通、しないであろう早起き義務付けられてるし。無理してるのかなぁ。

 ふぅ、枝とか多くて、歩きづらいし、もう結構歩いたと思うんだけど。なんだか疲れた。いや、ちょっと・・・。カッコつけすぎちゃった?

「みゆう、・・・?みーゆーうー!!」

「うわあぁ!!」

「きゃあ!もうびっくりしたぁ。着いたよ。起こして・・・、といっても、今ので起きたかな。」

 あやめちゃんの方に目をやると、まだ眠そうな顔をしているけれど、しっかりと起きていた。

「なんか、すみません。いろいろ。」

「いいんだよ。みゆうも私も、自分の意思だから。」

ななが言った言葉には、100%同意する。

「それより、ログハウスだよ~。おしゃれだねぇ。」

「あ、わぁ!これ、貸切・・・?!」

はしゃいだ声を出す。心の底から、来てよかった、って思う。

「あっ、みんな!こっち。随分かかったわね。」

顧問の先生だ。先に魔法で来て待っていたみたい。赤茶のサイドテールと手を振っている。

「もう五時じゃん。一時に出たのよね?」

「あぁ、もう!先生は魔法できたからわからないのよ!」

なな、元気だな。私、もう疲れちゃったな。

「あ、お風呂は沸いてる。さっさと入っちゃいな。」

「先生、気が利きますね。」

「あはは、みゆうったら。」

 荷物はもう先生が運んでおいてくれたし、私たちはすぐに入れそうね。


 

 浴衣を着て、私は鏡の前でブラシを持っていた。

「みゆう、起きてるかい?」

「ん~・・・。でも、ちゃんと乾かさないと、明日大変なんだよな~。」

 というのも、膝くらいある髪って、扱いにくい。乾かないし。ななも腰くらいまでの髪をタオルでせっせと拭いていた。

「あ~、でも、一回部屋行くか。なな。」

「そうだね、行こ!」


 ここって、安い代わりに、無人になる。だからこそゆっくりできるんだけど。

「ふわあ・・・。あぁ、なんか、今日は妙に疲れたなあ。」

「そうだね。みゆうは朝早くから先生と荷物確認してくれてたもんね。先生はさっき寝てたろうけど。」

「昨日の夜も、スケジュール考えてくれてたんだよね?」

えええ?!なんで知ってんの?!

 ななとたくみの発言に戸惑っていると、

「先生が教えてくださいましたよ?合宿では、できるだけ羽休めしてくださいね。そのためなら、いくらでもお手伝いします。」

あ、あやめちゃんまでぇ・・・。というか、この状況!

 ガラガラ!

「おおい!ご飯できたよ!こっち来て~。」

「あああ!先生!今行きますね?!」

 助かった。こんなの、初めてで、どうしていいかわかんない。

 あれ?気のせいかな。あやめちゃんが悲しそうな顔した気が・・・。



 ああ、最悪じゃん。

 朝おきて一番から頭が痛いって、ほんとにヤな感じ。

 昨日なんて、すぐ寝たから・・・。そう!十一時間も寝たのよ!

 はぁ、文句はよそう。どんどん気が重くなるし、それに。

「ああ!もう、雨かよ!スケジュール台無しじゃん!」

 のろのろと制服を引っ張り出して着る。どうせ、これが防魔服だしね。

「あ、おはよー、ナナ。」

「ん、おはよーって、どうかしたの?」

「へえぇ?!なんか変?」

「なんか、表情が暗いし、」

「そう、かな?」

 私たちの部屋は2階になるので、階段を下りた。

「おはよう!これでみんな揃ったな。」

朝食を準備していた先生は少し眠そうだ。

「今日はスケジュール通りは無理だね。雨降ってるよ。」

「道具の手入れと、勉強と作戦会議しましょか。」

「はぁい。」

 

「みゆうちゃん!ちょっといい?」

「何?何かあったの?」

 たくみはそっと懐中時計を取り出した。

「これ・・・。祖母のものなんですよね。針、動いてないでしょう?」

「え、うん、そうだね?」

 下を向いて苦笑い。

「なんか、たまに動いてるの見るんですよね。何か知ってますか?」

「ん~?聞いたことない、かな。調べとくね。」


「みゆうリーダー、作戦決めしましょうか?」

先生がわざとらしく言う。そうそう、私、リーダーなんだよね。

 リーダーって、レポート提出&舞台で発表とか、他の班と強化合宿できないか話したり、ともかく、そういうこともする。

 つまり、あやめちゃんはアウトだ。たくみも、人間恐怖症でダメだ。ななもあがり症だから、舞台に立ったら死んじゃうかもね?

「作戦なんてすることないんですけど?」

「あ〜、そう。じゃあ、せめて、練習メニューでも決めてやれ。」

「あーーー、そうですか。じゃあ、」

ななを指差していう─


 12時頃。

「わあぁ、先生、料理上手ですね~。」

「あらら?なんにもないわよ?み、ゆ、う?」

「あわわ!違いますぅ!」

 わあっと笑いが響く。

 ななが私の肩に手を置いて、「なんにもないんだってよ~。ざんね~ん。」と笑う。

 たくみが「褒め上手なんだよ!」と慌ててななを引き剥がす。

 あやめちゃんが少し笑って、「いい人なんですよね。根本的に。」。少し楽しんでいるようだった。

 あれ・・・。なんか、親友と遊んでるみたい・・・?トモダチって、こんな感じ?

 なんか、初めてって感じする、っていうか初めてじゃん、こんなの。

 あ、そっか。完璧な戦闘機械として育てられた私。幼い時から人と離れて暮らしてたし、浮いてたし。

 人と話してタノシイって、初めてか・・・な・・・。

「あああ?!みゆう?!」

ああー、なんか、涙出てきちゃったよ。私のことを大切に思ってくれてる、親友ができたんだ・・・。嬉しすぎる。夢だったんだもん。

「ごめん!言いすぎた?本気で言ってないよ?!」

「ち、違うから。えへへ、変、かな。」

私のことを知っている先生は、静かに私を抱きしめた。


 呪文集を書き写すのって、眠くなってくるよ。

「みゆうさーん、助けて~。全然わかりません。」

あやめちゃんが私に助けを求めた。まあさ、眠気覚ましにちょうどいいじゃん。

「私、いっつも保健室にお世話になっていたので。」

 そうじゃなくても、小五には難しいよね。そういえば、顧問の先生は保健の先生だし、そうだったんだね。

 説明しようとすると、ある違和感に気がつく。

「あ、あやめちゃん?」

「うう、なんでいっつもいっつも役立たず。」

いつの間に、泣き出してたのかな。

「ごめんね。話なら聞くよ?なな?たくみ?」

「うん、もちろん。」

 

 あやめちゃんはゆっくり語りだした。

 私の親は、ある国の国王でした。大昔はジャパンの、えぇと、ナントカ道という・・・、まあ、ところです。小さな島ですが、国としては十分みたいです。

 私、長女、というか一人っ子で、小さい頃は、母が大好きでした。とっても優しくて。父はあまり見なかったけれど、幸せだったんです。母が死ぬ前まで。

 というのも、その時まで、『父』という人を知らなかったのです。たしか、五歳の時だったと思いますけれど。

 もう、毎日地獄のようでしたよ。なにか喋ったら、勝手に部屋から出た、挨拶しなかった、などなど。もう、とにかく何をしても、怒られるんですから。

 ああ、一番辛かったのは、何があっても、いつでも無表情を装わなければいけないことです。起こるって、つまりは、暴力ですよ?

 私のお楽しみといえば、歌うことだけ。週一のレッスンと、パーティーで歌わせていただける時だけ、唯一自由だったから。

 あるパーティーの時、ガシャンって、そう、もう、ほんとに大きな音に聞こえましたよ?お皿を落としたんですかね。父が、外出許してくれないから、大きな音って、なれてませんでした。

 うん、しゃがんで、キュって、目をつぶって、なんであんなことしちゃったかな。今からしたら、なんてことない音なのに。

 まあ、その自分の行動に気がついたときにはもう遅くって、父は私を引きずって、廊下に引っ張り出しました。

 ・・・。何が起きたのかわからなかった。その時にはもう私はしゃがんでいて、頬に激痛が走りました。触ってみると、ねっとり赤い汁。父の手には、ナイフ。

 そりゃ、死んでもイイって思ってたけど、流石に怖くなって、命乞いしました。七歳、小学校一年生の年の私を殺そうとしている・・・!

 周りの野次馬は、だんだん増えてるみたいでした。助けてくれる人、いませんでしたけど。当然ですよね?まぁ、ね。

 父は私を振り払うと、コツコツと会場に戻ってった。私は、すぐに駆けつけたメイドさんが私を部屋に運んでくれた。

 一ヶ月後。

 革命が起こりました。しかも、すごく攻められていた。もう、城が崩れるのは時間の問題だ。

 私が捕まれば、使用人たちは助かるだろうか。

 私は、まっさきに私を探すときに来るであろう、私の部屋に使用人を集めた。私を一番支えてくれた人々だから。

 その部屋の前に立つ。おそらく、ここに立てば、部屋に入らないんじゃないかって、ちっぽけな脳で考えました。

 ああぁ、あの時の革命軍の人の言葉、予想外だったな。「早く逃げましょう?」

 まさか、私を父から救うための革命だなんて知らなかったから。

 そのあとは・・・。

 ある軍人の家に居候させてもらったんだ。

 娘のように可愛がってくれたんだけど、なんにも手伝ってあげられなくて。力不足を痛感して。それを話したら、学校を紹介してくれました。

 「君を救ってくれた革命軍の長は、君と三つ違いの茶髪の女の子だったなぁ。君だって、誰かの役に立てるはずだよ?」

って、言ってくれて。でも、でもでも。やっぱりダメでした。役たたずなんですよね。私って。


 彼女は暗い目で言った。涙こそ、もう出てないけど。

「ねぇ、その『娘』って、そのあとは?」

「さぁ?風のように現れて、風のように消えてったそうですが?」

あ、あれ?・・・まぁ、いっか。

「ねぇ、何でそんなに過去のことにこだわる?」

「え?」

なながむっとした顔であやめちゃんを睨んでいた。

「まだまだ、小さいんだしさ、過去より未来気にしたら?今から変われば?ダメなわけ?」

「う、あ・・・。」

あやめちゃんの目から雫が落ちる。

「あ、あああ!悪い!言いすぎた!ごめんね?」

「い、いや、そうじゃなくて。私でも、役に立てるんですかね?」

「当然だし!その協力だって、いくらでもするし!」

 なながそう言うとそっと、初めて会った時のようなぎこちなく笑った。

「ごめんなさい。表情、作るの苦手で。なれないので。」

真っ赤になって頭を下げたとき。

「ねぇ、手伝ってよ。」

ああ、やばい。先生だ。頭を下げるあやめちゃん。その前に立つ私たち。あやめちゃんが大好きな先生がこれ見たら、いじめてるみたいだよね。

「きゃあ!ち、ちち、ちがいますぅ!お話聞いてもらってたんです!」

「え、あ、そう、じゃあ手伝って。」

「はぁい、じゃあ、立って、なな、たくみ。」


  

「はあぁ。なんでか、こんな暑いんだ。」

今日はペンションの周りの散策。でもさ、見つかったのは、野ウサギ一匹だし、暑くて一時間で戻っちゃった。

 ぽいっと口にアイスキャンデーを突っ込みながら私にも同じことをした。

「あわ、ちょっと、なにすうの~。」

「らって、食べないのかなって?」

 あ、あやめちゃん、笑ってる。可愛いのにな。本当に心から笑って欲しい。笑えるようにしてあげないと。

「みゆー?溶けちゃうよ?」

「はわわ!そうだったぁ!」


 夜に、なんだか目が覚めてしまった。しかも、なかなか寝付けない。

 私は、仕方なく時計を確認すると、午前一時を指している。と。

  なんか、おとがした。

 誰か、起きているのかな。ちょっと好奇心に駆られ、部屋を出た。

 あやめちゃんの部屋からは、なんの物音もしない。

 そっと扉を開けてみると、あやめちゃんはほんとに眠ってるから、まあ、違うかな。

 ななも同様。多分、二人ではないだろう。

 先生の部屋の前。物音はするけど、これじゃない。こんな、パソコンみたいな音じゃない。(クリック音が多い。ゲームでもしてるのか?)

 たくみの部屋の前に立つと、驚いた。

「あ、ダメだよー、そんなことしちゃ。あ、待って。」

からから、にゃーお、ゴトっ。

 え、え、なにこれ。でも、見ないでいることもできず、恐る恐る扉を開けると・・・。

 部屋にはまず、動物がたくさんいた。

「え、みゆうちゃん、起こしちゃった?」

「ううん。起きたから聞こえたの。」

「寝れないの?」

「あ、うん。ちょっとね。」

 するとたくみは、ちょっと迷ってからこういった。

「僕の使い魔たちだよ。猫又は、ペルシャのいちご、ソマリのりんご、ラグドールのぶどう。」

「え、猫又なのに、随分洋風ね。」

「しらない?今、こういうの流行ってるんだよ?」

”流行”ってなんだろ・・・。

「この子達は、フェニックスの子孫だよ。あ、先祖も生きてるけど。死なないし。文鳥の桜。スズメのメロン。あと・・・。」

 コツコツ、と、窓の方から音がすると、たくみは扉をバッと開けた。

「ふくろうのレモンと、鷹のザクロだよ。」

「く、果物ばっかりね。」

「え、覚えやすいかなって。」

 そして、そこらじゅうを走り回っているネズミたちをチラリと見た。

「あ、この子達は・・・。まあ、結構役に立つよ?いろいろさ。増えすぎて困ってるんだけど。まあ、ね。」

 私をその使い魔たちと遊ばせてくれて、その上部屋で寝かせてくれた。




    なんか、状況がうまく把握できない。体が重い。どこか怪我してるのかもしれない。

 (何があったんだっけ・・・。) 

 かすれた意識の脳で必死に考える。

 ふと、何かを思い出したはずみに情報が溢れ出して脳を支配する。

 (そ、そーだ、あの時。)

 状況を受け入れたくない脳と、色鮮やかに蘇る記憶が溢れ出して混ざり合う。

 ヤダ、こんなの・・・。


 四日目となり、少し奥まで行くことにした。先生がそんなに魔物いないって言うから。軽装で来たのに、もう気がついたら、引き返すことすらできなくなっていた。

「もう、先生と通信する魔力ないよ。みゆう。」

うん、普段なら、そう、普段なら。この程度なんてことないよ?

「あ、え?みゆう・・・?」

 ななは私の頬に少し触れると、ビクッとして手を引っ込めた。

「み、みゆう・・・?まさか・・・。」

 うん、さっきからというか朝から視界がかすむのを、高熱のせいだと思いたくない。頭痛もさっき木にぶつかったせいだと現実逃避中。ああ、でも、木にぶつかったのもぼーっとしてたからだけどさ。

「大丈夫だって。」

 そう言って立ち上がろうとするけど、目眩で。

「う、うわあ?!」

 ななと二人向かっているのは、崖の下?!

「みゆうちゃん!ななみちゃん!」

 たくみが出した手は一歩届かず。

「わあぁ!?」

 あやめちゃんは・・・。もう見えナイ。


「みゆう!みゆうぅ!」

今にも泣き出しそうな声が聞こえて、私はモノローグを中止して重たいまぶたを開く。

「みゆう!大丈夫?」

 あれ、ココはどこだろう。森にいたはずなのに、とりあえず、一番に目に入ったの、水なんだけど?

「あ・・・。頭が痛い・・・、血が出てる。」

「ん?あ、そう言う痛さ?」

 あれれ、なんか恥ずかしくなってきた。ななの膝枕という状況!?

 私はぺたっと地面に手をついて四つん這いで水へ向かう。コレって・・・。ペロッと手に水をつけて舐めてみる。

「ああ!しょっぱい!海水だ。」

 ななはたくみを起こしていた。だから、私はあやめちゃんをゆさゆさ揺さぶる。

「みゆうさん・・・。血、出てませんか?」

「うん・・・。もういいやって。」

 どうやら、一方通行型のワープゾーンのところに落ちたようで、ここに来てしまったようだ。

 ワープゾーンというのは、その名の通り、上に乗るとどこかに移動するものだ。

 一方通行のもの、両通行のもの、ランダムのもの、ある。色がちがくて、ピンク、水色、黄色。十センチくらいの高さの、六角形の段になっているけど、幅は2メートルくらいと大きい。落ちた先にあったら、まあ、そうなるかな。しかも、ほんの少しでも反応しちゃうし。

 ただの魔法陣と違うのは、平面でなく高さがあること。そして、誰でも使えるということだ。

 魔法陣は、指定されていない限り魔力を込めないと動かない。しなくてもいいように指定されたものもあるけど。

 そうなると、色も同じだし、ワープゾーンとほとんど変わりはない。ただ、魔法陣だっていろいろな種類があるから、その中でワープするものをいうのだろう。細かいところはわからない。

 「一方通行って、この島の反対側、もう一個のワープゾーンがあるんだよね?」

「たくみ。みゆうがそんなに歩けないじゃん。」

 あ、連絡系魔法全て圏外。どうしようか・・・。

「釣りしますか?魚、たくさんいましたよ?」

「あー、そういや、何か食べたいって、思ってたんだよね。」

ななはそう答えながら、落ちていた木の枝を拾う。落ちていた紐をしっかり結んで、たくみに渡す。あやめちゃんもリュックからクリップを取り出して曲げると、歩いていた虫をさして、やっぱりたくみに渡す。

「え、なんで僕?」

「だって、私たち、オンナノコだから~。」

「うう、仕方ないなぁ。」

たくみはそう言うと海に向かって歩いて行った。

 あ、なんか、すっごく眠くなっちゃった・・・。少し、横になるだけ。うん・・・。


「あ、うっかり寝ちゃった!」

私が起きると、ななはぐいっと魚を差し出す。

「ホイ、とにかく食べて。」

「ん・・・。ちょっと待って。」

 私は手探りでリュックを手繰り寄せ、から四角いものを確認して取り出す。二つ折タイプ、いわゆるガラケーだ。圏外でこそあるけど、壊れてないみたい。

 五日目の、六時半頃。朝、か。

 ところで、私、どこにいるの?ななは隣に座ってる。だれかの膝枕・・・。

「あ、みゆうさん、携帯持ってたんですか。」

なんで気がつかなかったんだろう。こんな綺麗な吐息なのに。

「あ?そういえば。アドレス!」

「あ、うん・・・。」

(たくみのが入ってるのは秘密だよ?)

ピピッという機械音が聞こえると、私は携帯をしまってあやめちゃんの横に座る。

 あれ?なんか、怒ってるかな?三人で会話が弾んでるよ・・・。ひとりぼっちになってる気分。当然かな。私のせいでここ来ちゃったわけだし。

 フゥっと息をつくと、リュックからポーチをとりだして、その中から櫛を出す。少しは砂が取れるかな。私の髪、宝物だし。

 今度は香水を取り出すと、三つの中から一つを選ぶ。グレープフルーツの。マカロンとか、ローズって気分じゃないし。さっぱりしたい。

 それで、一番大切な、ころっとしたケースを取り出して、蓋を回す。白っぽいクリームを少し手にとって、毛先に付ける。

 ツインテールにゆい直して、完成!

「進もうか。」

私たちは、こくんと頷いた。



 おかしい、絶対おかしいよ。だって、誰も汗かいてないよ?あ、というのも、もう疲れたんだもん。人の三倍は体力あるよ?

 ・・・、その体力を簡単に数値化してみた。

 一般人はMAX3000。私は9000くらいはあるみたい。

 何もしなければ、一時間に300、私は900くらい回復する。

 ほんとに小さな攻撃なら10、小さめので50、中くらいなら100、大きめのだと250、必殺技レベルだと500くらい使う。

 で、15%は残さないといけないと学校で習ったから、450、1350は残さないと。

 でも、今の状態だと、普段の四倍くらい体力使ってるみたい。

「ねぇ、みゆう。」

そんな声、耳に入んない。

「みゆ、う?」

 あやめちゃんが私を抱きかかえて木の根元に座らせた。携帯を見ると、まださっきから五分も経ってない。

「無理しちゃダメですよ?」

そう言って、私の髪を少しなでた。いつかと同じような、少し悲しそうな顔。

「私ね、みゆうさん見てたら、懐かしいこと思い出せるんです。」

あやめちゃんは、少し上を向いた。

「私を救ってくれた勇者様、みゆうさんみたいな人だったんだろうなって。」

私はドキっとしてあやめちゃんを見たけど、変わった様子はなく、さらに続ける。

「もう、覚えていないお母様、みゆうさんみたいな人なのかなって。」

 そ、そんなふうに思ってたんだ。そっと目を閉じる。

「勇敢で、強くって、堂々としてる。なのに、繊細で、優しい。包み込んでくれるような、お姉様みたいな存在です。」

 私は、涙声が聞かれたくなくって、黙って頷いた。次に目を開けたら、こぼれちゃうから、目を閉じたまま。

「勇者様、お母様。ずっと、恩返ししたいって、思ってた。みゆうさんは、二人と重なるところがある・・・。みゆうさんにしたことが、二人に届くような、そんな気がして。優しくしたいなって、思うんです。」

 私の目から涙が落ちると、あやめちゃんは嬉しそうに、

「みゆうさん、大好きですよ。」

 正面に座っていたななとたくみがリハーサル通り、というように口を開く。

「みゆう、私が、なんの取り柄もない私に、優しくしてくれたよ。希望をくれたよ。私を褒めてくれて、私も役に立てるんだって、ほっとした。」

「みゆうちゃんはいつも相談聞いてくれたね。理不尽な要求も丁寧に対応してくれた。」

 ああ、怒ってるんじゃなくて、無理させないように気を使ってたのか。

「う、あ、ううぇえん!」

「み、みゆう!」

三人の声がシンクロする。私に駆け寄って、ギュッ・・・。

 ななは知ってる。私が戦闘機会として育てられてきたことを。

 たくみは知ってる。わたしが愛情に飢えているって、愛されたいって。

 あやめちゃんは知ってる。自分を忙しくして、気を紛らわせてることを・・・。

 そして、私は知ってる。私が人を愛するのは、自分が求めてるからだって。わかってる・・・。

 少し迷った顔をしたあやめちゃんが、そっと私の背中に手を回す。

 (なんか・・・、あ、そっか。)

 この感じ、先生そっくり。私もよく先生に相談したりしたんだ。いつも決まって抱きしめてくれる。

「みゆう、一人で頑張らないで。」

なんて、よく言ってくれたっけな。

「みゆうさん、ダメですよ、一人でなんでもやろうとしちゃ。頼ってくれて、いいんだよ?」

「みゆうちゃん、僕たちのこと、嫌いじゃないでしょ?僕たちのこと、信用してよ。」

「みゆう、私たち、いつだって、みゆうの味方なんだから。」

 なんていい子達なのかな。みんな私のこと気にしてたのか。自分たちもこんな状況なのにねぇ・・・。


「いいの?なな。こんな・・・。」

「なにいってんの。私魔女なんだし。」

 ななが私をおぶってくれるって、言ってくれた。それなら、だいぶ楽だ。

「私のことなんだと思ってる?」

「え、お姫様感覚だとでも思ってた?まさか。友達だって。」

なんだ。びっくりしたじゃないか。

「あ、そーだ。たくみ。時計の事なんだけどー。」

「あ、何かわかった?」

 私、だって、ちゃんと頼まれごとはこなすタイプだから。ちゃんと調べたよ。

「多分、近くの魔物に反応するんだよ。短針が魔物の強さ。一が一番弱くて、十二が一番強い。」

 私は魔物探知機に似ていると思ったのだ。

「長針が魔物との距離。一なら、五百メートルくらいだと思う。」

 すると、たくみが、少し震えた声で言う。

「じゃあ、まずいんじゃないですか?」

「な、何が?」

 たくみは唇を少しかんで、下を向いた。表情まではよくわからない。

「反応、してます。」

「い、今、どの辺?」

「短針が、十。あっ!」

 たくみがそう叫ぶと、あやめちゃんがきゃっと、少し悲鳴を上げた。

「長針が、十二。」

 いつの間にいたのか、魔物が、立っている。気がつかないかも。相手はものすごく大きい木のお化け!

「引き返すよ!なにやってんの!早く!」

 こういう敵は森の中が強い。まだ大して進んでない。今引き返せば、森の外に出れるはずだ!

 私はななから飛び降りて、さっき来た道を逆戻りする。 

 はぁ、はぁ、はぁ、

「みゆう!大丈夫?!」

ななが私の手を掴む。ほとんど引きずるように走っていく。

「あ、あそこ、森の外に行けば、なんとか勝てるかもだから・・・!」

 森の外に飛び出して、私たちはそれぞれ武器を取り出す。

 でも、ここで予想外の展開が起こる。

「きゃっ!」

あやめちゃんだ!私の出した手はもんの少し遅くて、あやめちゃんは地面に転がる。危ない!!

「・・・、あれ・・・?」

いくら待っても何の起きない。恐る恐る目を開けると、

「え?」

 森の出口に結界ができたかのように、大樹はピタリと固まった。

「はぁ、はぁ・・・。何なんでしょうか。森の外に出れないんですか・・・?」

 するとたくみが、小さく悲鳴を上げて震えだす。

「秒針って、なんですか?」

「秒針もあるの?」

「もしかして、攻撃、溜めてるとかじゃ、ないですよね・・・?」

まさか?!

「なな!危ない!!」

 私はななを突き飛ばして倒れこむ。避け切れたと思ったのに。

「みゆうちゃん?どうしたの?」

 左腕に激痛が走る。多分、少しかすっただけなのに。すごく痛い・・・。

「見せてください、さぁ早く。早く!」

 あやめちゃんに迫られ、抑えていた右手を外す。

「ヒッ?!見ちゃダメ!みゆうさん!絶対に!」

「な、ななな、何?!」

「ともかく、ダメです!」

 あやめちゃんが何か呟くと、ポンっと人が飛び出した。

「お呼びですか?ご主人様。」

「マリア、お久しぶりね。治療がしたいの、手伝って。」

「もちろん。」

 何が起こっているのか分からずドキドキしていると。

「痛あ?!」

 いきなりビリっと。な、なに?!ほんと、なんなの?

「も、もういいですよ。」

 あやめちゃんの方を見ると、見覚えのある子。

「マリアちゃん。」

「まぁ、みゆうさん。もう平気なんですか?」

 この魔性の女、ピタッと身体の形がわかりやすい服を着ているが、ほんとにこの巨乳を隠す気はないのか。女の私でもちょっと・・・、って、違う!なんというか、露出度が高すぎ。見てるこっちが恥ずかしいよ。

「え、みゆうさん、見たことありましたっけ?」

「あやめちゃんと初めて知りあった日に使い魔が家にくるって、言ってたでしょ?だから、私の使い魔に総員声かけて、探し出したんだ。あやめちゃんに何かあった時のみ呼び出すって。」

「えぇ。私だけじゃなくて、メルナとモモアもですよ。」

 当然、この子は人間じゃない。妖精だ。これ見たら、妖精のイメージ壊れるかもね。ふわふわしてないし、この大きさとか、もう、とにかく全部。

 だって、妖精とは言っても、人間と同じくらいの大きさだし、背中に羽は生えてるけど、1メートルくらいしか飛べない。ていうか、基本飛ばない。

「ところで、どうなってた・・・?」

「うーん、切れたっていうより、解けたって感じ・・・、これ以上聞かないほうがいいよ?」

考えるだけでゾクッとする。もう、ほんとにやめよう。

「とにかく、今は反動で動けないらしい。なんとか倒す方法ないかな・・・。」

「木だったら、火をつけたらなんとかならない?」

「あの中にはたくさん水が流れているわよ。」

 うーん・・・。何か、気を向けておけるものがあれば、意外と歩くの遅いし、振り切れるのに。

「あ、ねえ、ネズミ出せる?」

「ネズミ?できるけど。」

「お気に入りじゃなくていい。あいつに気を向けておけるモノが欲しい。横を通り抜けて、振り切れるかも。」

「それだけじゃ、まずいっしょ?あいつの方がうちらより体力あるだろうしさ。」

 そこが問題なのだ、が。

「レモン出せる?ふくろうの。この時間に鳴いたら、びっくりするかも。あの攻撃で死ぬよりマシでしょ?もう時間がない。」

 たくみはそっと頷いた。ななも真っ青な顔をしながらも(さっき私が突き飛ばさなかったら”溶けてる”わけだし)頷く。あやめちゃんもマリアちゃんも、なんだか楽しそう。

「ネズミたち!おいで!」

わらわらとネズミたちがあふれてくる。あまり大量にいるものだから、大樹のお化けはそちらに注目している。

「今だよ!」

こそっとみんなに声をかける。

 ダッと走ると、大樹はこちらに気づいて顔を向ける、が、ホーホーと、大きな声がして、そちらに注目する。超がつくほど馬鹿な奴で助かった。

 そのまま走る。しばらく走れば、ワープゾーンにつくけど、そんなに走れないかも。

「みゆうさん、私に任せてね?」

マリアちゃんが私を抱きかかえて走り出す。しかも、速いんだな、これ。

「あそこだ!みんな、あとちょっとだよ!」

 次の瞬間、急に眩しくなって、目の前が見えなくなった。


 

「うーん、あ、助かった、んだよね・・・。」

あ、でも、ここ、最初の山じゃない。綺麗な湖。そこの辺に横になっていたようだ。

「うーん・・・。あ、みゆうさん、ここって?」

「違うとこに来ちゃったね・・・。あ、なな。たくみ。」

 どうしてここに来ちゃったんだろな。あんなに走ったのになぁ。

 そう思ったら、急に疲れてきた。半分はマリアちゃんが走ったけどね。そのマリアちゃんはもう戻ったようだ。いない。

「もう暗くなってきましたね。」

「え、あ。そうだね・・・。」

  茜色が広がる空を見上げていると、ななが口を開いた。

「みゆうはもう寝たほうがいいよ。明日だって動くんだから。」

 私が横になろうとすると、あやめちゃんが何かに気がついたように走り出した。

 私のところに来るのかと思ったら、通り過ぎていった。

 戻ってきた時、手には真っ赤なりんごがあった。

「・・・りんご?え、こんな時期?」

「ここは国が違うのかもしれませんね。ともかく、一口食べてみますか?りんごが赤くなると、医者が青くなるって、言いますし。」

 あやめちゃんは透き通った湖の水でりんごをきれいに洗った。

「皮は、剥くものないので。そのまま、どうぞ。」

 シャクッ・・・。

「あわあ?!美味しい!」

「ほう?それは良かったです。反応がオーバーすぎる気がしますがね。」

「ええ?だってっ!」

 程よい酸味と甘みのバランス。シャクシャクいい歯ごたえ。これ、ほんとにりんご?ってくらい美味しい!

「あ、ほんとだ。」

ななが嬉しそうな顔をした。それが何を思ってかはわからない。

 というか、これの話。人間の品種改良で美味しくしてるなんて、嘘なんじゃないの?人の手の加わってないのって、こんな美味しいの?

 ・・・、違う!この木は、魔力を吸い取って栄養にしてるんだ。死んだ魔物が肥料ってことらしい。

 なんて考えてたら、りんごはあっという間に芯になった。いや、食べちゃったんだけどね。

「もう一つ、って、飽きますよね?」

 すると、今度はたくみが動いた。

 戻ってきた時には、たくさんの種類の果物を抱えていた。

 アメジストみたいにキラキラしているぶどう、ルビーみたいなさくらんぼ、太陽みたいに光っているみかん、エトセトラ、エトセトラ。

 さすがに、これだけ種類があれば飽きないだろう。と思ったたくみが甘かった。

 だって、果物って、甘いか酸っぱいか。多少違いはあれど、ともかく、飽きる。

「うぅ、飽きたよ。みゆう、もう寝な。」

 今の体力は1500くらいだろう。ギリギリだ。

「うん、先に寝かせてもらうね?」

 すると、あやめちゃんはモモアちゃんを呼び出した。キモノドレス、つまり洋風になった着物を来ているモモアちゃんは、黒髪を風にたなびかせてニコッと笑った。

「見張り?途中で寝ちゃっても怒らない?」

「幸い、この辺には魔物が少ないの。だから、みんなが寝てから一時間くらい見ててくれたらいいよ。」

「了解です!」

 私たちは適当に横になって目を閉じる。あっという間に夢の中に落ちた。



 まだ暗い中、体を起こすと、目の前にライオンがいた。

 ・・・なんて事はなく、やはりこの辺には魔物はいないようだ。

 ガラケーに簡単な魔法で電池を補充すると、時間を確認した。もう五日目ということになるな。

「うぇ、まだ四時・・・。でも、今からはもう寝れないしな・・・。」

 でも、昨日相当早く寝たおかげで体調は良くなった。頭痛、吐き気、なんてものが、だいぶ治まった、が。

 精神的に疲れた。もう帰れないんじゃないかって感じがして。

 とりあえず、みんなを起こさないように注意深く起き上がって、湖の水で顔を洗う。少しは気分が晴れたが、いくらなんでも起きるのが早すぎた。

 今の体力は3500くらいかな?四倍使うとなると、少し厳しいかな。

「は!やっぱ寝ちゃった。あ、みゆうたん、おはよう。いま何時?」

「四時くらい。起きるの早すぎちゃった。でも、今からじゃ寝れないよね・・・?」

「では、少し聞いて欲しいのですが。」

 モモアちゃんが珍しく真剣な顔をするので、私はすぐ隣に座った。

「ここになぜ魔物がいないのか。いるの。おっきいのが。」

「は?それ、どういう・・・?!」

 突然大きな水柱ができた。何かが湖から飛び出してきたのだ。

「ウンディーネです・・・。こんなの、倒せないよ。」

「ど、どうしたら・・・。」

「うわ?!」

 三人も起きたようで、びっくりして転がりそうになっていた。

 いきなり飛び出してきたのは、女の人に”見えた”。

 でも、魚の尾びれがある。妖精だ!

「うわあぁ?!」

「た、たくみ!!」

 あっという間に捕まった!ウンディーネは嬉しそうにたくみを水の中に引きずり込もうとする。

「みゆう、落ち着いて!」

「ダメですよ!今突っ込んでいっても、勝目はないんです!」

「そうだよ、みゆうたん、慌てないで。」

 そんなこと言ったって、たくみが殺されちゃうよ!

「みゆうちゃん!!今は大丈夫!あとで助けにきて!今は帰ることに専念して!!」

たくみがそう言うなら・・・!

「さぁ!次のワープゾーンはあそこですよ!!」

モモアちゃんの落ち着いた声を聞くと、こちらの気分も収まった。

 私は大きく一歩を踏み出して走り出した・・・。



 ここも、違う。

 森の中。これは接点だろう。でも。木はみんな枯れてて、空は真っ黒。さっきから絶え間なく雷が光ってる。はっきり言うと、不気味な森だ。

「っ、きゃっ。」

 また大きな雷が落ちた。いや、実際はそんなに大きくないのかもしれない。でも、怖い。

「みゆう、大丈夫!地学の教科書思い出して!」

「・・・、魔法の森?」

「当たり!」

 魔法の森というのは、魔法が入り乱れてしまって何が起こるかわからないもの。パッと見わからない罠もある。

「発見法と対処法は、習ったよね?」

「でも、覚えてる自信がないよ。」

 一年前のものをすべて完璧に覚えているとは思えない。

「でも、みんなで覚えてる分をかき集めたら、なんとかなるよ。」

 そっと立って、一歩歩こうとして、足を止めた。

「罠。」

「えっ?!」

 確かに、これは罠だ。木に、穴があいていて、中が光っている。矢?

「ねぇ、ここ、かがんで通れる?」

「了解!」

 と、頭の真上を通り向けた。矢ではない。鉄砲だ。もし当たってたら・・・。あぁ、怖い怖い。

「あ、ここ。」

 魔法陣が書いてある。もし引きずり込まれたら・・・。それも嫌!

 


「みゆう、みーゆーう!!」

 気がつくと、ななが私の腕を掴んで引き戻していた。

「そろそろ休んだほうがいいんじゃない?」

 そう言われると・・・。私は地面にしゃがみこんだ。今の体力は、15%を切っているだろう。

「みゆう、そんなに焦っても仕方ないよ?たくみは何が何でも取り戻すんだから。」

「うん・・・。」

 そう、たくみは絶対、取り返す。何があっても。そのために、今、ここで死んではいけない。

 しばらくすると、あやめちゃんは静かな口調でしゃべりだした。

「みゆうさん、落ち着いて聞いてください。たくみは、ウンディーネと結婚してしまったかも、いや、させられてしまったかもしれません。」

「結婚?!」

 私が立ち上がると、あやめちゃんは眉をひそめた。

「落ち着いてって、言ったのに。」

「ああ!ごめんごめん。」

 私は座ってあやめちゃんの方を向く。

「そうなると、厄介なのは水王との契約。たくみが誰かと付き合った時点で、たくみは殺されます。」

「なんですって?!」

 私が立ち上がると、あやめちゃんは眉をひそめた。

「落ち着いてって、言ったのに。」

「ああ!ごめんごめん。」

 何おんなじことしてるんだろう。私はアホか!

「みゆうたんは、水の系統の魔法、上級魔法まで使えるの?」

「え、あ、うん。できるよ。」

「じゃあ、ウンディーネにそれを浴びせてください。契約がゆるみます。」

「・・・?」

 何がなんだか。なんの話をしてるんだ?

「あ、水の上級魔法は、水王と力のやり取りをして出すんです。水王がこいつ弱いって思ったら、力を貸してくれません。」

「・・・、つまり、水王が認めてくれたってことね。だから、ウンディーネの契約より効力が強いと?」

「理屈的にはね?まあ、あとは臨機応変だよ。みゆうたん、わかった?」

私はコクっと頷いた。ともかく、モモアちゃんのいうことだ。間違いではないよね。

「ふう・・・。私、これ。ちょっと量少ないですけど、皆さんどうぞ。」

 綺麗なサンドウィッチ。ちょっとつずついただく。

 うん、美味しい。ほんとにね、これ。

「少し寝たいな・・・。昨日、あんま寝れなかったの。」

「え、ななも?私もやたら早く起きちゃった。」

 ななが横になる前に、一応罠の確認・・・、ないな。よし。

 私は召喚術を使う。私の可愛い可愛い・・・。

「みゆうさまぁ!どうしてこんなとこに呼ぶの?何かあったの?」

「うぅ、ごめんね。」

 大好きな白狐。名前はラビエル。治癒の天使の名だ。ラビエルの別名ラファエルの方が一般的だけど、こっちのほうか好き。ちなみに、私はラビって呼んでる。ふさふさで、癒しになるんだよね。しっぽ、しっぽ。

「みゆうさまが呼んだら、どこにでも行くからね。いつもみたいに、ギューッて。」

 一番大きなサイズになる。この子、手盛りサイズから、乗れる大きさまで、大きさを変更できるのだ。

 うん、ふあふあ・・・。



「みゆうさま、みゆうさまぁ、起きて起きて。」

 気がつくと、ラビが私の頭をぽふぽふと叩いていた。

「そろそろ行こーよ。ねぇ、みゆうさまぁ。」

「ん、そうだね・・・。」

 私は、追加で黒い狼(ハラリエル。警告の天使だ。)と茶色い日本犬を(サキエル。水の天使だ。)を召喚した。

「なな、あやめちゃん。」

「あ、私はいいけど。どうせ、私は魔法使わないから、体力残ってるから。」

 少し悲しそうに見えるな。魔法苦手なの、コンプレックスかな・・・。

 ともかく、日本犬には帰ってもらうことになったわけだ。 


  



 テクテクテクテク・・・。

 私の愛くるしい狐と狼は何も言わずに歩き続ける。少し前にななが休憩のために乗った時も、だ。

 前からあやめちゃんを乗せたハラリエル、私を乗せたルビエル、最後にモモアが歩いている。

「あぅ、雷がやまないよぅ。私、雷苦手・・・。」

「え、みゆうさん、そんな弱点が・・・?」

「わ、悪かったわね・・・。」

 すると、やたらと大きな音がして、私は耳を塞いで縮こまった。

「きゃ!近いですよ!」

 恐る恐る振り返る・・・。

「きゃあっ!」

 ななが悲鳴を上げてよろけると、そこには魔法陣が書いてあって・・・。

 ななはどこかに飛ばされてしまった。

「う、うそでしょ?ねぇ、嘘でしょ、嘘でしょ??!!」

 私がラビから落ちると、あやめちゃんはハリル(ハラリエルの愛称だ。)から飛び降りた。

「みゆうさん、落ち着いて。大丈夫、ななは強い子です。向こうでもなんとかなります。」

「でも、雷・・・。」

「習いましたよね?あの雷は、音だけです。」

「あ・・・。」

じゃあ、ななはびっくりしただけ・・・。それなら、確かに、強い剣持ってたから、なんとかなる・・・。っていうか、そんなことも忘れてたとか!

「それに、この子が言ってますよ。とにかく進めって。警告の天使なんでしょう?」

「うん。そうだね。」

この子・・・、意外とそういうのに乗ってくれる。いい子だなぁ。





「みゆう、ワープだ。これで最後のようだが、準備できてるか?」

「ハリル、ちょっと話してからがいいんだけど、待っててくれる?」

「ああ、構わない。準備は大切だからな。」

 私はラビを座らせて、あやめちゃんとモモアに正面に座るよう言った。

「あ、あのさ、今までも共通点、わかる?」

「植物が多かったことですか?」

「変わった、植物よ。」

 思い返してみると、一個目は、動く大樹、二個目に、いろいろな果物のなる木、で、三つ目の今が、罠のついた木。

「最後ってことは、次が終わったら、帰れるのよね。」

「ああ、そうだ。」

「なら、次はあそこしかないわ!」

 教科書で読んだ。この手のワープゾーンは、少しずつ完全になっていく。つまり、次は・・・。

「この世のすべての植物が集まるところ。植物の世界プランツワールドよ!」

 あやめちゃんの顔が曇った。

「ねぇ、みゆうさん、それって、やばいんじゃないですか?」

「でも、そこにはあれがあるじゃない、琥珀。」

 植物の世界には、特典のようなものがある。大きな大きな琥珀。その中には薔薇があって、魔力に満ち溢れている。

「その力を借りられれば、今の状況から抜け出せる!まず、私の魔力不足、それと、少し風邪気味なところね。」

 私は言いながら二つの指を折った。ホントは少しじゃないけど。モモアが嫌そうな顔をする。

「それが解決できれば、なんてことない。ななもたくみも救えるし、ここから出るのだって、なんでもないわ。なんなら、ボス止めることだって出来るしね。」

 六個になってしまったので、私は小指を最後立てた。

「でも、みゆうたん。わかってる?」

「それはだいじょうぶ。」

「?」

「み、みゆうたん・・・。でも、仕方ないか。」

 私たちの答えは決まった。もう、これしかないのだ。

「なら、行こう。ハリル、ラビ、もう平気?」

「うん、僕はみゆうさまの治癒の天使でしょ?治癒は得意だよ。」

「ああ、ラビエルの治癒能力は相当だ。もう行くぞ。そうだ、みゆう。モモアの分、いいのか?」

 そう言われて、気がついた。だから、さっき帰ってもらったばかりのサキ(サキエルの愛称。)を呼び出した。





 雨。しとしと降り続く。しかし、見える時の太陽はギラギラ眩しいそうだ。だからこそ、こんなにたくさんの植物が育ったのか。

 もう二時頃だ。ただでさえ暗いのに雨雲で真っ暗だ。

「みゆう様、僕たちはここの罠のセンサーに反応しないようです。関係のないことですが、一応言っておきますね。」

 まぁ、何かの参考にはなるかな?

「む、みゆう、ここに罠がある。は?十回縄跳びをさせる木だと?」

 ハリルが呆れた顔をするが、それもそうだろう。というか、趣旨がよくわからないんだけど?

 まぁ、ともかく私たちは使い魔から降りて木の前に並んだ。だって、こうしないと、進めないんだもん。

「ジュンビハイイカイ?イクヨ、セーノ」


「な、なんなのよ、こいつ。終わったら随分すんなり通してくれたわね。」

 なにがしたいんだろう? ともかく、次に進む。

「あ、みゆうさまぁ、りんごとってぇ、」

「ん、はい、どーぞ?」

「ありがとー!!」

 私は隣のみかんの木に手を伸ばす。そこから果物をもぎ取った。

「わ、美味しいよ。ねぇ、ハリル。」

「あ、ああ。そうか。なぁ、あやめとやら、コイツうるさくないか?」

「大丈夫ですよ。ほら、あなたも食べてご覧なさい。それとも、果物は好みではありませんか?」

「い、いや・・・。まぁ、いいか。それより、揺れて酔うようなら早めに言ってくれ。」

 私はその会話に、思わず笑みがこぼれた。あやめちゃんが、普通にしゃべれてる。人間じゃないから?そんなの関係ない。

 それと、ハリルも。なかなか話すのが苦手で黙り込んじゃうタイプなんだけどな。

 ふと、ハリルが足を止めた。

「なぁ、おかしくないか?なんだか急に暗くなった・・・。」

 え・・・、と上を向くと、そこにあったのは。

 大きな青い顔。え・・・?

「レーシーだわ。はじめて見た。」

 モモアが呟いた。レーシーって、振り向いても素早く逃げて姿が見えないんじゃないっけ?

 ともかく、コイツがいると方向がわからなくなってしまう厄介者だ。

「みゆうさん、ここは私が倒します。モモアを連れて行ってください。ただし、ハリルくんは借りますね。」

 私は頷くと、モモアを連れて先に進む。ハリルはとても強い。あやめちゃんもそこそこ強いから、協力すれば倒せるはずだ。

「モモア、方向を。」

「このまま真っ直ぐですね。ああ!罠!」

 ラビは急停止してから罠の射程距離を外れてから走り出す。運動神経は抜群だ。

「!あれよ。ただ、制御できるかしら・・・。」

「やるしかないわ!モモア、協力して!行くわよ!」

 始動魔法を唱える。

 眩しい光に覆われる。指導は成功。次は・・・!

「え?」





 気がつくと、私は布の上にいるようだった。柔らかいものが上にかけてある。・・・、病院だろうか。

 目を開けたが、ぼんやりとしてしまってよく見えない。誰かが顔を覗き込んでいるようだ。顔は見えない。

 でも、髪型と身長でわかる。ななとあやめちゃんとモモアだ。

 あ、れ?誰も一言も発しない。な、なんだろ、この違和感。

 (え?)

 今気がついた。手足が縛られて身動きが取れない。

 いきなり、冷たいものが触れてビクッとする。な、ナイフだ・・・。

 なぜか服を切って全て剥ぎ取った。な、なぜ・・・?寒いが、身震いすることすらできないのだ。というか、この時期に寒いなんてあり得るのか・・・?

 コツ、コツ、コツ。

 だれかの足音が響く。顔も押さえつけられてくけど必死に見ようとすると、それは、先生だった。

 (先生、これ、何が起こってるの?助けて!)

 今更気がついたが、声出でない。マジか。

 私の体に触れようとするので、抵抗しようとした。でも、体がまるで動かない。

 (あ!)

 彼女らは、私の知っている彼女らとかけ離れていた。魔法が暴走したんだろうか。

 それは、死食鬼、グーラだったのだ。

 つまり、私は食べられてしまうんだろうか。確か人間を殺して食べたとかいう伝承だっけっか?

 やっぱりやめておけばよかったかな。あんなのに賭けるなんて。制御できなかったんだろう。なら、自業自得じゃないか。

 目の前でナイフが光って、私は目を閉じた。





「きゃあっ!」

「みゆう!!」

「・・・え?」

 これは・・・?グーラではない。でも・・・、一体これは?

 いつも通りのあやめちゃんとモモア、それになな。

「ななみさんが呼んでくださいました。だいぶ安定してきたと。良かったです。」

「?」

「もう!だから言ったのに。あの時のみゆうたんじゃ制御しきれないって。よくあそこまで制御したね。ん?記憶飛んでるのかな。ほんと危なかったんだから。」

 そうか、あれは夢か。制御したってことは、私が助けたんだろう。助かったんだ、よかっ・・・?

「え、たくみは?」

「あ、その・・・。」

 ななが言いにくそうに言った。

「たくみは、魔術の届かないところにいるから、呼び戻せなかったの。」

「!!??」

 私はまた気を失いそうになってなんとか布団に手をついて前を向いた。

「みゆうが回復したら助けに行こう。ね?」

「う、うんっ、た、たくみ、だいじょうぶ、かな?」

「きっと大丈夫ですよ。信じましょう。」

 そうだ、大丈夫だ。なんとかなるはずだ・・・。

「ところで、今は何時?」

 八日目の、午後十時。三日ほど寝ていたことになる。というか、午後十時?なのにみんな集まってくれたんだ。

「ほら、みんな、寝ていいよ。私はもう平気そう。ところで、私の容態は?」

「過労程度よ。あと二日は魔法使っちゃダメだから。」

「わかった・・・。大丈夫。わざわざ助けに行くのを後回しにするようなことしないから。」

 過労って言うと、体力の上限が一時的に減っている状態に近い。でも、五日もかかるのか・・・。

 ふと気がついた。なな・・・。

「ねぇ、もしかして、三日間、ずっと私につきっきりでいてくれたの?」

「!!うん。ごめんね。なんか嫌だった?」

 違う。寝てないみたいだった。あまり顔色が良くない。

「あ、そうね。ななみたん、ずっとみゆうたんといたんだよ。」

 私はななに寝るように指示した。今すぐに、と付け足して。





「そういえば、みんなはどういう家の人なんです?」

 午前九時。ななが布団から出してくれないため、やることがない。あやめちゃんとななと話していると、あやめちゃんが不意に言った。

 ちょうど先生の入ってきたところだったから、先生にたくみの家を聞いてみた。

「あー、あいつは、孤児なんだよ。父親と母親が生まれてすぐ死んで、伯父にもらわれたんだが、伯父も死んだんだよな。」

 先生がたくみから聞いたというものと伯父の話を混ぜたものだと言って話してくれた。

 たくみが三歳の誕生日を迎える前の日、母親がたくみの誕生日用にケーキを作っていたとき。

 何があったのか、よくはわからない。目の前が真っ赤だった。

 ただ、気がつくと、伯父の家だった。

 五歳の誕生日に、たくみのためにドライブに行ったそうだ。

 そこで事故にあったらしい。ともかく、車が燃え上がっていた。

 すぐそばに、孤児院があったので、たくみはそこに行った。

 そこはこの学校と同じ人が作ったものだった。

 そこで育ててもらうかわり、人を困らせている魔物を退治するといったところで、大きくなると学校に入学するそうだ。

「と、いった感じで、来ている。今は、寮に入っていたな。呪われた子といって、差別されてたそうだがな・・・。」

 わたしがななに目配せすると、ななは真っ赤な顔で言った。

「私は、たいしたことないし!」

「でもあの小学校の近くでしょ?あのへんにも中学ってあるよね?なんでこっちに?」

 ななは下を向いて話しだした。

「違うんだよ・・・。小学校はあそこにいたんだけどさ。家族と喧嘩しちゃって。家飛び出したはいいけど、大金持ち家の箱入り娘。どっかで暮らしてけるような人じゃなかったんだ。

  そしたら、綺麗な目をしたお姉さんが、家に泊まっていきなって。そのかわり、家事を頼める?って。小学校の近くだから、通えるよって。

  家事でお小遣い、いや、給料もらいながら、お金貯めて、なんとか生活していけるまでになったんだ。

  それで、アパート紹介してもらって、今に至るというか。」

 あ、家族喧嘩が原因か。これは言いたくないかも。

「もう!!ちゃんと言ったんだから、みゆうも言いなさいよ!」

 私はドキっとした。これだけは、ダメ、ダメ・・・。

 先生を見ると、すごく怖い顔をしてた。見なきゃよかった。その顔が頭から離れない。

「み、みゆうさんっ!別にいいです。ゆっくり、少しずつでも教えてください。」

 そう言って目の辺りにハンカチを当てた。

「え・・・?」

 気がつかなかった。私って、単純かな。ひとつ気にしてると、他わかんなくなるのか。





 次の日。

 私は完全に魔術が使えるまでになっていた。もともと回復は早い方だったから。

「みゆう、行ける?」

「ばっちり!行こうか。」

 先生には『私たちがやったことだから私たちがなんとかする』と言って振り切ってきた。合宿中には帰れないだろう。それでも、仕方がない。

 あの時落ちたワープゾーンは、幸い崖から飛び降りなくても乗れそうだ。

 「じゃあ、ルートは確認したから。」

 ななはそう言うと、やっぱり地図を見ないで進む。方向感覚は人一倍素晴らしいようで。

「あと少しだよ。」

 すると、急にめまいと吐き気がして、私はたまらずしゃがみ込んだ。

「みゆう?」

「心の問題でしょう。また、傷つくんじゃないか。今度は、誰かが死んでしまうかもしれない・・・。」

 そんなはずが・・・、あるの?

「みゆうさん、無理なら帰っても構いません。私たちで何とかします。」

 そ、それはダメだ!彼女たちだけでは勝てないだろう。

「あ、そ、そこの人・・・。助けて・・・。」

 ボロボロのフードを目深にかぶった小さな子がこちらに手を伸ばしてよろよろ歩いてきた。

 怪我してるし、随分細い。フードで表情はわからないけど、今にも倒れてしまいそうだ。

 なながその子をそっと抱き上げて自分の膝にその子の頭を乗せた。

「どうしたの?」

「ずっと、さまよってて、」

 あやめちゃんはその様子に気がついてその子の手の届かない所にある木の実をとってその子の口に入れた。

「ありがと。それと、ひっ!!」

 ああ、襲われてたんだ。大きな魔物が一匹。

 大きいからって強いとは限らない。私がそれを魔術で倒すと、その子は私のとこをに来て、

「すごい・・・!おねぇちゃん、強い魔女なんだ・・・!」

 その子の顔を見て少し驚いた。

 目は私、口はあやめちゃん、輪郭はななに似ている。服は白くてホワホワのを着ている。ロリータ、か。

「名前は?」

「わかんないの。気がついたら、森にいて、それ以外何にも覚えてないの。」

 記憶がないのか。この子、誰なんだろ。

「おねぇちゃんたち、私も連れてって!」

「えぇ?!どうして?!」

「だって、私、強い魔女になりたいの。」

 すると、あやめちゃんが女の子と目線を合わせながら言った。

「ねえ、君。魔法が使えるんだね。協力してくれる?」

「うん?いいよ。」

 すると、私の方を見ていった。

「あのお姉ちゃんが、ここから動けなくなっちゃって。この先に、あのお姉ちゃんがやなことのあった場所なんだ。」

「ふぅん。」

 すると、私の方に来た。

「お姉ちゃん、私、あの実が食べたいな!」

 あ、立てる。歩けそう。・・・、さっきの、なんだったんだ?こんな簡単に?

「みゆうさん、行きましょう。」

「え、あ・・・。うん。」



「このワープゾーンでしょう。」

 あやめちゃんはゆっくり観察してから言った。

「じゃあ、行こうか。」


 確かに、あの小島のようだ。さっきの子に話しかける。

「ねぇ、名前が無いと呼びづらいんだけど。」

「うーん、じゃあ、ディルと呼んでください。」

「ディル?うちの国の名前じゃないわね。」

 ディルは少し困ったように首をかしげてから言った。

「ディルは、イノンドという香辛料のことです。」

 どうしてそれをチョイスしたのかわからないが、ともかく彼女は嬉しそうだから良しとする。

 と、私はあることに気がついて、リュックから丸いものを取り出した。

 私は、なながこっそり後で渡してくれたものを思い出したのだ。たくみの懐中時計だ。

 やはり、秒針が動いている。目の前に、あいつがいるんだもん。

「ディル。あいつの攻撃にぶつかると、ひどい目にあうよ。」

「何だ、あれか。」

 ディルはトコトコ大樹に向かっていった。あんな正面に立ったらよけられない!

 あの閃光がディルにぶつかる直前。両手を前に出して何かを唱えた。

 グンっと閃光がUターンして大樹にぶつかった。大樹は溶けなかったけど、端に立って、道を避けた。

「え・・・?どういうこと?」

「つまり、試してるってことです。あれを跳ね返せたら、通すという決まりです。」

 は、初めて知った・・・!


 ワープゾーンをくぐり抜けると、たくみと離れた湖だ。

 今は魔力がほぼマックスだ。目のギアを透視に設定。湖を覗く・・・、何もない。

 今度は秘密の扉探知に設定。何もない。

 ギアを魔力具現化に設定。やっぱり何も・・・?

 キョロキョロ辺りを見回すおかしいな・・・。

 すると、ディルが呆れたような顔でため息混じりに行った。

「みゆう姉、上だよ、上。」

 え?ウンディーネは湖の中に引きずり込んだよね?

「おねぇちゃんたちが見えなくなってから上に引き上げるんだよ。騙すためにね。」

 湖の上、空中を見て、ギアを秘密の扉探知に設定。あった!

「でも、私たちは空を飛べない。」

「みゆう姉、そこはなんとかならないものですか?ここまでやってあげたんですけど。」

そんなこと言ったってぇ、と、お?

「ザクロ!ザクロでしょ?」

 私が叫ぶと、その鷹は私の腕に止まった。この子は、たくみの使い魔。

「痛、いたた。鳥を集められない?あそこに扉があるの。あそこまでこんでいきたいんだけど。たくみを救うためよ。」

 あの時の好奇心に感謝!まぁ、ツテはあるべきだな。

 ザクロはすぐに飛び立った。たくみという単語に明らかに反応してた。やっぱり、探しにここまで来たんだね。

 すぐに大量の鳥が集まった。彼ら(?)は肩をしっかり掴んで扉に放り投げた。

 

「ほぇ、竜宮城みたい。」

 空気はあるようだ。が、水の中のよう。あやめちゃんはさすが小五!はしゃいでる!超はしゃいでる!

 と、綺麗なお姉さんが私たちの前に立った。人魚だ。綺麗な人魚姫。不思議なことに大きなバタフライマスクで顔を隠している。艶やかな緑色の髪も目を引く。

「何の御用ですの?」

「私の友人が捕まってしまって・・・。」

「まぁ、すみません。強引でしたの?」

「え、ええ。」

 なんだ、随分と丁寧だな。最初から捕まえないでくれればいいのに。

「どんな顔でしたの?」

「え?」

しまった、顔なんて見なかった。

 すると、あやめちゃんがすっと前に来た。

「青緑の髪に、水色の瞳。少しキリッとした感じ。髪に似た色の鱗を持っています。そして、今はバタフライマスクをつけているんですよねぇ?」

 は?!それって、まさか。

「何だ、気がついてたんですの?仕方ありませんね、通して差し上げますわ。」

 な、なにか掟なのかな・・・?

 

 扉の向こうは、水族館の大水槽の中を歩いているかのようだった。たまに桃色やら、黄色やら、紫色のウンディーネがいる。

「こちらが水王様のいる玉座の間。失礼なことはしないでくださいよ?」

 ぎぃっと扉が開いた。何もしていないのに、だ。

 一歩入って、その殺気に気がついた。水王の手にはたくみの手が握られている。つまり手をつないでる!

 あんまり気が狂いすぎて、髪の先を握って一番強い水魔法を撃ってしまった。

 当然、水王の力を借りられるはずがない。水王に撃つんだから、ねぇ?

 が、不意打ち成功。いつも以上に強いのが出た。

「はわぁ?!」

 手の力が緩んだのを確認して、力いっぱいたくみを引き戻した。

 改めて水王の姿を確認すると、女性だった。腰近くまである長い茶髪が目に入って気がついたのだが。

「いたた、何するの・・・。私よりも強い客が来るなんてね・・・。」

 その顔。ありえないことが起きた。

「お、お母様?!」

「はぁ?!」

 なながありえないという表情で私を見た。

「え、何?みゆうって、ウンディーネなの?」

「まさか!え、ど、どういうこと?!」

「あらら?あなた、何言ってるの?」

 お母様(仮)は冷たい目で私を拒絶している。

「嘘だ!絶対そうでしょ?!じゃあ、そのそっくりの髪!ここまでにた髪を持つ者がいると思えない!それに、それに・・・。」

 私が抱きしめてしまおうかと駆け寄ると、ため息をついていった。

「久しぶりね、みゆう。」

「お母様・・・!」

 私が触れようとすると、そっと前に手を出してから言った。

「みんなに状況を話してからよ。」

 少し体の向きを変えると、ポカンとしたななとあやめちゃん、そしてたくみ。下を向いて黙り込んでしまったモモアが目に入った。

「お初にお目にかかります。みゆうの母、みゆきですわ。」

「え、あ、はい・・・。」

 なながそんな声を出すと、母は少し笑って、それから何か嫌なことを思い出したような顔で言った。

「私、死んだら水王になるって約束してたの忘れてて。こんなことになっちゃった。」

「へ・・・?」

 ななが怯えたような表情になった。母はさらに続ける。

「そろそろ実体が欲しいのよ。ねぇ、血が繋がってれば、あれができるのよ・・・。」

「な、何が?」

 わかってる。でも、怖くて言えない。

「その体、乗っ取ってやるわ!!」

「うわぁ!」

 私は大きく後ろに跳んだ。母の攻撃は私の目の前で霧になって消えた。

 どうするか。実体がないから、物理攻撃は効果がないようだ。魔法を撃ってみたが、ふわりと分かれてターゲットが絞れない。

 そんなことを考えながら攻防していると、どんどん後ろに下がるしかない状態になった。

 しかも、魔法が使えない。わざと?髪が風で後ろにたなびく。

 攻撃を交わしながら、右に、左に。と、背中にひやりと冷たい感触。見事に壁に追いやられた。逃げ場がない。

「アハハ!馬鹿ね、私の方が強いに決まっているのよ!」

 どうしよう。避けるとなると、上か、下か。はたまた、右か、左か。4択!

 って、うわぁ!!

「・・・。なんちゃって。私があなたを殺すわけ無いでしょ。強くなったわね、みゆう。」

「強くないよ。私、やっぱりお母様に勝てない。」

「もう。手加減してたんでしょ?」

 あ。わかってたのか。恥ずかしいな。

「それにみゆう、魔法の制御、髪の先のクリームね?」

「うっ、そう、さっきみたいだと、魔法使えなくなっちゃう。」

 お母様はゆっくり笑った。

「たくみは返してあげる。でも気をつけて。ちょっとやな感じがあるわよ。」

やな感じ・・・?聞き返すまもなく私たちはログハウスに返されていた。





「たくみ!取り返せたのね・・・!」

「それと、みゆうのお母さんとか言う人と会ったし!」

「・・・・・・なんですって?!」

 先生の顔が明らかに変わった。

「先生、みゆうとの関係を教えてください。」

 先生は戸惑って、それから、私が話すよう指示した。

私は次のように話した。


 私は、裕福な二人の魔法使いの間に生まれました。母は水魔法、父は風魔法が得意です。

 その魔法使いは強力であり、生まれる子供の力が楽しみだとみんなで言っていたそうです。

 が、それは、想定していたものよりはるかに上でした。

 しかも、幼い体ではコントロールできず。・・・、八歳になった時、ついに父と母を殺してしまいました。

 実感はありませんでした。気がついたら、青い顔をした母と父が転がっていた。

 私は、一気に悪魔扱いされるようになりました。

 御札の貼られた円柱四本に囲まれていて、四肢が鎖でつながれました。余裕はあるから、歩くことぐらいはできますが。

 その程度ならいいんです。私の牢屋は屋外だから、雨が降ればビシャビシャになるし、夏は暑いし冬は寒い。

 そして、私は八つ当たりの対象。ともかく、何されるかわかりません。今でも深い切り傷ややけどが消えません。

 ナイフを持った狂人とか、夜にランタン片手に怯えた表情で襲いかかってくる狂人とか、花火こっちに向けてくる狂人とか、狂人って、あんなにいるんですね。

 しかも、意味なく山を歩かされましたね。なんだったんだろう。

 八つ当たりの対象ですから、いなくなっては困ります。ですから、殺してはくれません。死ぬほどのことはしますけど。

 いっそ死んでしまおうって、思うんですけど。出された食べ物を食べないとか。したら、無理やり食べさせられるのがオチなんですよね。

 そんなことをしているうちに、私の力はだいぶ安定していきました。

 ある日、母にそっくりな、といっても、その時は覚えてなかったんで、今思えば、ですけど。女の人がこちらを見ていました。

 どうせ、私のことを傷つけるんだろうと思っていたら、いきなり私を抱きしめました。「ごめんね」って。

 大きなペンチのようなもので鎖を切って、私の手を引いて走り出したんです。

 歩かされてましたから、幸い逃げるくらいなら平気でした。でも、みんな私たちを見て、捕まえろって。でも、何故か逃げ切れましたね。

 その人は、母の妹と言いました。でも、私のことを恨んではいない。むしろ、今まで助けられなくてごめんなさいと言って涙を流しました。

 私に幸せになって欲しかったけれど、あそこから出してあげたかったけれど、言い出せなかった、と。

 その時、私はあまりに小さく、十歳でしたけど、小学校の二年生くらいの歳の子だと思ってしまったと言っていました。

 そのあと、魔法のコントロール練習をして、今の状態になります。

  

「私、その妹さんに、絶対このことは言わないって約束してたのに・・・。ごめんなさい、みさき先生。」

「仕方ないわ。こうなることもよくあったでしょ?いつもみたいに忘却魔法かけて転校・・・。」

「それはヤダ!!」

 私は自分でも驚くくらい大きな声で叫んでいた。

 周りを見ると、みんな唖然としていた。叫んだからか、この話のせいか、みさき先生が私の伯母だからか。

「せっかく仲良くなったのに。魔法陣に、誓ったのに。離れないって。」

 最後は、私も聞こえないくらい小さな声になっていた。

「みゆう・・・。あなた、私の話、最後まで聞いてないとダメでしょ?」

「え?」

「私は、忘却魔法かけて転校は嫌だろうから、絶対にもう言わないって約束してって、言おうと思ったんだけど?」

「みさき先生・・・!!」

 すると、窓ガラスが割れて、一人の女の子が入ってきた。

 ディルそっくりだけど、ディルが白ならこの子は黒だ。色以外はそっくりだった。

 その直後、ドタドタと音がして、ディルが飛び込んできた。

「どうしたんですか?」

 入ってきた女の子はディルを見るとニヤリと笑った。

「久しぶりだな、あゆみよ。」

「え、どういうことですか?」

 ディルが首をかしげると、ななが叫び声をあげそうになって、口を手で塞いだ。

「あ、私たちがチーム組むときに契約担当した妖精・・・?!」

「ああ。あやめとみゆうとななみであゆみだ。どうだ?」

「う、うーん・・・。」

 ともかく、それはわかった、でも、なんで二人・・・?

「俺たちはもとは一人だったんだ。だがコイツが無理言って分かれてな・・・。俺はお前たちの悪いところ、コイツはいいところをそのまま映すんだ。」

「う、つまり・・・。」

「俺とコイツが別れたせいで、俺はお前たちの誰かが殺意を抱いた時、そうなる。悪者扱いってな。」

 私はディル改白あゆみを見た。

「お、覚えてないわ。あゆみ、全然わかんない・・・。」

「ふん。記憶がないなんて、楽でいいな。」

 そう言うと、こちらに向かって突風を吹かせた。。

 みんなは散り散りに逃げたが、割れたガラスで滑って転んだ。そこに直撃。

 ゴムボールのようにはねて地面に激しくぶつかって、また跳ねて、何回か繰り返して、私は地面に叩きつけられた。

 二人のあゆみはさらに強い攻防を繰り返していた。こちらには白あゆみの避けた球や、黒あゆみの跳ね返したものが次々に飛んでくる。

 が、まだ起き上がれない。体が何倍にもなったかのように重い。様子もわからない。何も見えないから。

 魔法が使えない。髪はさっきのでクリームのついたところが向こうの方に行ってしまった。

 震える手でようやく体を起こすと、足が真っ赤に染まっているのがわかった。半分はダブルあゆみのもの。半分は私自身のものだ。

 これでは立てるはずがない。すると、直後に黒あゆみの撃った大きなガラスの球が見えた。

 白あゆみが怯えて腕で顔を覆った。すると、白あゆみの体に当たることはなく、その前に細かく割れた。

 破片が沢山こちらに飛んでくる。とっさ過ぎて魔法は無理!!

 誰か助けて!! 

 まだ、飛んでこない?そんなはずはない。

 目を開けると、白くてもこもこのものが落ちていた。

 それはこちらに動いてきて、私の隣に座った。ところどころ赤く染まった毛皮を私が眺めると、

「みゆうさま。大丈夫?」

と聞いた。

「ラビっ・・・!」

 その姿を見て気がついた。体にたくさんのガラスが突き刺さっていた。

「っ!!」

「え?あ、大丈夫だよ?ハリル、ガラスとって。」

「あ、ああ。」

 ハリルがガラスをくわえてとると、ラビは片っ端から治癒魔法をかけた。

 「なぁ、あゆみ、もし、この中の誰かが死んだら、俺たち消滅するぞ?」

「エッ!じゃあ、移動しよう?」

「あぁ、そうだな・・・。」


 私は彼女たちが移動したあと、ゆっくり立ち上がって、止めようとする人々をよそに自分の足で部屋に戻った。

「痛い。」

 呟いてみると、さらに痛い気がする。目の端から雫が落ちた。

「ねぇ、みゆうさま。薬置いとくから、気が向いたらでいいから使ってみて。」

 足音が遠ざかっていく。ああやって軽いところがいい子だ。しつこくない。

 私は適当にいらない布を引っ張り出して布団の上に敷いてから横になる。そのままだと、次に起きた時には真っ赤なシーツの出来上がりだ。

 布団をかぶってできるだけ声を殺して泣く。いつもやってきたことだ。それなのに、どうしてかこんなに辛い。

 私は布団をはねのけて椅子に座った。この傷は、あの時のものに似ている。何も抵抗できないまま、攻撃される。

「おい、みゆう。この部屋に防音をかけておく。いいか、三十分だそ。」

 ハリルだ・・・。私の使い魔は、幸運にも、いい子が多いな・・・。


 リビングに戻ると、みんなが暗い顔で迎えてくれた。傷の手当をしてないからだ。

「みゆう、それで、いいの・・・?」

「もう、何しても間違いな気がする。」

 私がそう言うと、みさき先生は真顔で言った。

「あの二人はなんとかしないといけない。みゆう、すぐに追いなさい。」

「え?」

「え、じゃないわ。それと、あやめ!あなたも行きなさい!」

「あ、はい!」

 

 しかたなく私は足の治療を手っ取り早く済ませ、追跡魔法を使って居場所を求めた。

「植物の世界・・・。またあそこまで行かないといけないの・・・?」

「みゆうさん。優秀な使い魔もいますし、平気ですよ。」

「うん、そうだね。」

 私たちはログハウスを出た。





 私はフゥっと息を吐いて、あやめちゃんを振り返ってから進む。

「白あゆみちゃんのおかげで、楽に大樹攻略できましたね。」

「そうね・・・。あの子、いいのか、悪いのか。」

 私は大樹の横を通りながら、複雑な気分でいた。

「ねぇ、みゆうさん。その・・・。」

私は、「えっ」と後ろを見た。あやめちゃんが話しかけてくるなんて、珍しい。

「あゆみちゃんたち見つけても、その・・・。あまり、攻撃しないでもらえませんか?」

・・・・・・。


 あの時は急いでて気がつかなかった。湖からワープゾーンまで、結構距離がある。

「はぁ、ちょっと疲れた。」

 私はなんとなくあやめちゃんが木のそばに座るのを眺めていた。

「みゆうさん、ハリルくん出せます?」

「もちろん。ハリルもあやめちゃんのこと好きみたいだから。喜ぶよ。」

「え、ハリルくんが?う、嬉しい・・・!」

 か、可愛いな。この子がまさか・・・、ううん!!

「おお、あやめか。元気か?」

「ちょっと疲れちゃったな。乗せてくれる?」

「ああ。みゆうは先に進みたいみたいだしな。」

 私はそこにワープゾーンがあることに気がついてハリルに言った。

「えっと・・・。そこにワープゾーンあるからとりあえず進んでいい?」

「・・・・・・。」

 

「私は罠を見つける力が低いから、ラビに見つけてもらうんでいい?」

「ええ。」

 ここの罠はたくさんある。魔法の森というのは、やはりこういったところなのか。

 そして、罠を見つけるのは私より使い魔の方が確実だ。ハリルはあやめちゃん乗せてるし。二人は仲良く喋ってるから、邪魔できない。

「みゆうさま、またここだね?大丈夫。ちゃんと見つけるよ。」


「ああぁ、ハリ、ル。」

「お、おい、あやめ?あやめ?!」

 ハリルの声がしたと思ったら、どさっと大きな声がした。

「あやめちゃん?!」

 あやめちゃんが地面に転がっていた。

 何が起こっているのかわからなくて、とりあえず○.五秒頭が真っ白になった。

 そのあと、ゆっくりゆっくりパソコン文字が頭に浮かんでいく。

 <あやめちゃんg_>

 やっと揃って、やっぱり理解するのに○.五秒かかった。

 <あやめちゃんが血を吐いて倒れている。>

 「きゃあああ!!」

 私は驚いて後ろに下がり、罠だよ!とラビが私を受け止めて、私はラビに寄りかかって震えた。

「まて、みゆう。大丈夫だ。あやめ。何か嫌なことでもあったか?」

「ちょっと、隠し事してて、気が重くてね・・・。けほ、みゆうさん。」

「・・・、え?」

 私はびっくりして声を上げた。

「もしかして、気がついてた?」

「ええ。でも、言い出せなかった。」

「そうね、私のお母さんとあなたのお母さんが同じなんてね。」

 私はあやめちゃんの顔を見つめた。あやめちゃんは、少し目線をそらした。

「私、お母さんから聞いてたんです。」

 あなたにはお姉さんがいる。とても強い子だよ。でも、あなたは養子としてここに来てるから、お姉さんは言ってくれないかもしれない。そう言ったそうだ。

「・・・。養子?」

「ええ。お父さんも一緒なんですよ?」

 そんな、馬鹿な。

「そうか、幼稚園から寮にいたんでしたっけ?」

 寮・・・。今でも忘れない。だんだん制御しきれなくなっていく魔術。朝おきたら入口に母と父が倒れている事実。

「みゆう姉。私、ずっと、初めて会った時から気づいてた。」

「!あやめ、私も。お母様がね、妹がいる。誰にも言わないで。でも、もし、いつか会えたら、助けてあげてねって、言ってた。」

 私はあやめの頭を撫でた。ほんとだ。お父様にそっくりの、太くて綺麗な黒い髪。

「ラビ、治癒魔法。」

「うん。みゆうさま。」

 ラビが得意げに術を使うと、あやめの表情はだいぶ和らいで、顔色も良くなっていた。

「ずっと、呼び捨てで呼んで欲しかった。私のことを妹として扱って欲しかった。お姉ちゃんって、呼びたかった・・・!」

「あやめ、ごめんね、私から言えばよかった。でも、間違ってたらって、思っちゃって。」

 私たちが抱きしめ合うと、ハリルは少し顔を背けた。

「で、大丈夫なのか?」

「うん。ハリル、平気?」

「お前、軽いからな・・・。」

「?!!それって・・・!」

「おい、みゆう、杖を下ろせ、冗談だ。」

 ハリルが冗談なんて、言うっけ?まぁいいや。なんかどうでもいい気がしてきた。


 ワープゾーンをくぐって呆気にとられた。

 白あゆみと黒あゆみが目にも止まらぬ速さで攻防中。

「みゆう姉。これ、どうするべき?」

「わかりません・・・。」

 いや、まさか、これは止めようがない。ここまでとは思っていなかったので。

「みゆう姉、乱入は無理だよね?睡眠魔法とかないの?」

「うーん、片方だけしか効かなかったら、悲惨だよ?」

 となると、直接頭の中に語りかけるか、無視されるのがオチだな。

「じゃあ、知恵を借りるとしよう。みさきせんせーい!!」

「?!」

 通信魔法オン!圏外だけどそんなのは関係ない。どこだって通じる。

「あーあー、聞こえるか?」

 かける方が魔法を制御するから、みさき先生が使えなくても、私が何とでもする。

「ええ。その、今の風景を届けるんで、どうしたらいいか、ヒントください。」

 私は戦場を見つめた。あゆみたちが動くのに合わせて右に左に。

「うーん、思ってたより深刻ね。」

「なんです。」

「じゃあ、あやめ殺せば?」

「?!」

「冗談よ。」

 全く、冗談じゃ済まされないじゃないか!

「いいか、みゆう。あいつらはお前らの分身だ。」

「!!っ、はい。分かりました。」

 あやめがキョトンとしていった。

「なんですか?いきなり空中に話しかけて・・・。」

「通信魔法だよ。大丈夫。決まったわ。」

 私は覚悟を決めてハリルに言った。

「私を殺して!!」


 数秒間があって、状況を理解したあやめがギョッとした顔で私を見る。

「な、何言ってるんですか!死んだ人は、元には戻せません!!」

「でも、私が死ねば、彼女たちは消滅するのよね・・・?」

 にやっと笑うと、あやめは怯えた表情で「狂ってる。」と呟いた。聞こえなかったふりをしておこう。

「私はあやめを守れと言われていたんだ。このままだと両方死ぬから、まだましでしょ?」

「わ、私一人じゃ、ここから出られない。」

「ハリル、契約を。」

 私はハリルとあやめに使い魔契約を結ばせた。

「ラビ、あなたも。」

 ラビは涙を必死にこらえて契約をした。

「まぁ、私が死ななくても、契約はしたから、呼び出せるからね。」

 なんとなく、言ってみる。

「みゆう姉。最後に。愛してるから。」

「えぇ、もちろん、私も。」

 私はそっと目を閉じる。が、すぐに目を開ける。

「あ、あの、楽に死ねない?」

「わかった。」

 ハリルは、葉っぱを一枚丁寧にとった。ギザギザしてて、硬いやつ。

「首を落とすんでいいか?一瞬だから、痛くない。」

「うん。あやめは見ちゃダメよ?」

 あやめは目を閉じたけど、いや、見てるね。

 ハリルは手際よくナイフのように硬くした。

「みゆう、悪い!!」

「うんごめん。」

 聞こえないように呟いた。聞こえるはずがない、私でも聞き取れない。

 でも、狼は耳がいいらしい。ハッとしたが、緑のナイフはもう目の前。


「ん?」

 おかしいな。すごく痛いんだけど?

「悪い・・・。俺には、できない。」

「ど・・・!どうして?!」

 私の肩に突き刺さっているナイフを見た。泣きそうな顔のハリルを見た。

「俺たちは、主従関係なんかじゃない。友達だ。って、信じてたんだけどな・・・。」

 ハリルのこと、使い魔とは思ってなかったな。唯一の親友だったから。あやめたちと会うまでは。

「っバカ。どうして、殺してくんないのよ。あやめを助けてやってよ。」

なんだか、考えてもいないことがスラスラ出てくる。

「みゆう姉、狂っちゃったの・・・?」

 うん、狂ってるさ。自分だって、わかってる。

「もう!私は死にたかったのに!!!どうしてよ!」

 三人・・・、一人と二匹は私を見た。明らかに動揺している。

「どういうことだ?」

「だってさ。自分で親殺しちゃって、虐待されて、いじめられて、親のことで悲しんでる妹にあって、みんなの役にたてなくて、みんなを困らせて、挙げ句の果てにこのざま。私なんて死んじゃえばいいのにな。思っても、当然でしょ?」

 ラビが何か言おうとして、口を閉じた。わかっているんだろう。今、何を言っても、私が跳ね返してしまうことを。

「みゆう姉、私のせい?ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい・・・。」

 嘘さ。私は、あやめちゃんに一緒に帰ろうって言われたらやだから、なにか言い訳してるだけ・・・。

 そんなこと、ないかもしれない。

 ほんとに死んじゃえばいいって、思ってるかもしれない。どうせ私なんかって、思ってる。

「みゆう、お前、俺にさらに迷惑かける気か?」

「もう、どうでも良くなっちゃったんだもん。」

 私はぽいっと葉っぱを投げた。地面にサクっと刺さる。相当威力殺してたんだね。腕はくっついてるし。

 赤い液が流れているのをちらりと見てからため息をついた。失血死なんて、望んでもいない死に方ね。

「みゆうのこと、信頼してたのに。俺らなんて、そんな存在か!!」

「もう、ほっておいてよ!!」

 ハリルはびくっとして、そっと立ち去った。わかってる。ハリルは、泣くとき、そっといなくなる。影で、泣いてるの、知ってるもん。

「ああ、クラクラしてきたな。」

呟いてみると、さらにそんな気がする。目の端から雫が落ちた。

 あ、やっぱり、ほんとに死にたいわけじゃないんだ。あやめを助ける最後の方法だから、か。あやめだけは、私が救わなくては、いけない。

「う・・・、なんか、戦うどころじゃないわ。」

「な、なんだ?力が入らん。」

 後ろからあゆみたちの声がする。

 ・・・あ、私か。

 私と繋がってるとは、こういうことなのか。先生の言ったことは、こうだったのか。

「ラ、ラビ!あゆみたちを捕らえて、すぐにみゆうの手当だ!」

「むぅ、よく言うなぁ、泣いてるから出てこないとか、そんな理由で僕使えると思ってるの?」

 そう言いつつも、あゆみの手を縛り、私の肩に治癒魔法をかけた。

「みゆう、わかってたんだな?俺たち、騙したのか?」

「あ、あわわ・・・。違うよ・・・。」

 あやめがホッとしたように笑った。

「ほんとに死にたいと思ってたのかと。みゆう姉、帰ろ!私、これから、みゆう姉のおかげで、楽しく過ごせそうだよ!」

「ごめんね?さ、帰りましょ!」

 あやめは私守る。だから、まだ死ねない・・・!





「きゃあ!心配したよ!一瞬みゆうの力が急に弱まったから。死んでるかと思った。」

 ななが飛びついてきた。私より背が高い彼女は、私のことを抱きしめると、私は頭に手が届かない。少し頑張って頭を撫でる。

「みゆうちゃん!心配した。ほんとに。」

 たくみはそっと目に手を当てた。彼も心配してただろう。悪いことしちゃったな。

「お二人さん。重要な話があるのですが。」


「えぇ?!二人姉妹だったの?!」

「すみません。確信はなかったもので。でも、みゆう姉は誇りの姉です!」

「明るくなったね、あやめちゃん。」

たくみが少し嬉しそうに笑った。私も同感だ。あやめと会えて、よかったな。

「あの、ななみさん、ちょっと、いいです?」

 あやめがななみに自分の部屋に来るように行った。

「私の使い魔のことなんですけどね。」

 ななみは不思議そうな顔をしながらもそれに従った。

  

 ・・・・・・。

 な、何なんだろう?全然出てこないな?

「ねぇ、みゆうちゃんって、僕のことって、どういうふうに見てた?」

「普通に、友達だよ?それ以外・・・って、え?」

な、なんだって?!

「み、みゆうちゃんは、好きな人」

「いるわけないじゃない。誰と仲がいいって?」

わざと冷たくあたってみると、しゅんとしていなくなってしまった。

「みゆう、なんでそうなっちゃうのよぅ。」

 ななががっかりしたように言う。と、言うかいつから居たのかな?

 ちょっと、ひどかった?試してみようと思ったけど、その前にいなくなってしまった。私がどうして?だよ。

「みゆう姉、結構鈍感?」

 む!ま、まあ、そうかもしれない。

「あーあ。たくみ頑張ったのにな。」

「仕方ないでしょ?私、まだ誰かと付き合うつもりないの。」

 あやめが少し睨むように私を見ているが、無視。

「私、これから、もっと強くならなきゃいけない。まだ、人を守れないってわかったから。」

「み、みゆう、それは・・・。」

「男の役割?関係ないよ?あやめとか、ななとか、みんな、自分より弱いのは、守んなきゃいけない。」

 ななはため息をついていった。

「馬鹿ね、死ぬこと考えてたくらいの子が言うんじゃないわ。」

「は?」

「あやめに聞いたけどさ、みゆうは、協力嫌い?」

 協力・・・。あんまり、得意じゃない。というか、あやめはさっき・・・。

「みゆうは、自分が思ってるより弱いんじゃない?だったらダメだよ?じゃないと、私たちただのお荷物じゃん。」

「あ・・・。」

 私の周りにはもう、仲間がいるんだな。あの時とは違う。八つ当たりされてた時とは。使い魔が唯一の友達だった時とは。

「そして、みゆう姉、私はどこに住めばいいのでしょう?」

「みさき先生のところ。私、みさき先生のところにいるの。部屋は余ってる。仲良くしよう!」

 あやめは引越しかぁ、と言って笑った。

「よし、帰ろう。ここじゃなくて、家に!」

 ここからが、私の本当の人生の始まりだ!

 アドバイス、誤字、脱字は教えていただけると助かります!

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