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とにかく普通でありたいんです!!  作者: りんご飴
どんどん普通から離れていくんだけど……
2/5

【1】

りんご飴。

裏庭で事件が勃発しそうです。

 教会の鐘が午後3時を告げる頃、私は屋敷の裏庭で剣を振るっていた。愛剣のロングソードは柄に施された装飾のルビーを反射させ、一振りごとに細かな煌めきを残している。鐘の音を耳にし、私はふと手を止めた。教会の方角を見て、汗を拭う。


「もう3時か……」


 剣を鞘に収め、振り返ると、いつものように侍女のグウェンが剣を受け止めるために控えていた。


「一緒にお茶にしよっか」


 私が微笑みながら言うと、グウェンも大きく頷く。


 あぁ、『普通』ってなんて幸せなんだろう。少なくとも今日この日までは誰も邪魔する者はいなかった。いつも通り起きて、いつも通り勉強をし、そしていつも通り剣の稽古をする。しかも周りには信頼できる人達ばかり。


 あぁ、幸せだ。


 だが、そんな幸せな一時を、見事なまでにぶち壊したやつがいた。


「シャーロットがいるというのはここか」


 屋敷から裏庭に通じる扉が勢いよく、物凄い音をたてながら開いた。後ろから「ちょっと何をなさるんですか」やら「許可もなくお嬢様の練習場に立ち入ることは……」やら色々な声が追いかけてきている。

 しかし入ってきた人物は全く気にせずにこちらに近づいてくる。私は思わず渡しかけた剣にまた力を込めた。


「シャーロットというのは君のことか?」


 なぜ、勝手に人の庭にズカズカ上り込んで、その屋敷の住民を呼び捨てで呼ぶことができるのか。私はこの不法侵入者をジーッと見つめた。


 その人物は男だった。背の高い、若い男。顔は(悔しいけど)この世のものではないほど整っていて、明るい茶色の髪は太陽の光を受けて輝いている。目も髪と同じ色だが、よりはちみつに近く、とろけるような瞳だった。直視していると倒れそう。だが、全体的にチャラい。確かにカッコいいが、ちょっとだらしないと思う。


「ロ、ロ、ロティッ……シャーロットお嬢様っ!!」


 グウェンが私を愛称で呼ぼうとして、慌てて直した。そりゃそうだ。こんな他人の前で侍女が主人を愛称で呼んでいたら、変な勘違いをされるに決まっている。


 それにしてもちょっと慌て過ぎじゃないだろうか。目を白黒させ、口はパクパクしている。普段感情を表に出さない彼女にしてはすごい驚きようだ。


「どうしたの、グウェン?」


 私が聞いてもグウェンの口から言葉は出てこない。ただ入ってきた男をガン見しながらパクパク。どうしたんだろう。前に会ったことがあるとか?


「シャーロットというのは君のことかと聞いているんだが」


 ハッと視線を男に戻すと、いつの間にか超至近距離で私を見下ろしている。うん、見下ろすという表現が一番似合うこの構図。背が高い男に対して私は背がかなり小さいから、どうしてもこうなる。


 くそっ!!


 「そうだけど、あんたは何で私の庭に勝手に上りこんでるわけ?」ぐらいの鋭さを持って睨みたかったが、ここでボロを出すわけにはいかない。誰がこんなやつのために『普通』を乱すか。


 私は大きく一歩退き、微笑みながら朗らかに言った。


「そうですわ。私がシャーロットです」


 男はそうかそうかと頷いている。何がそうなんだか全くわからない。というか早くここから出ていってほしい。切実に。


 と、そこへもう1人男が駆けてきた。今、この目の前にいる男より少し背が小さく(いや、私よりは全然高いけど)、身だしなみはちゃんと整えている。銀髪の間からは赤い目が覗き、頭にはピョコピョコと揺れる白いウサ耳。かわいぃ……。


「レオン様、いい加減になさってください」


 ウサ耳君は走って来たにもかかわらず、一呼吸も乱さずにピタリと男につく。


 え、ちょっと待って……。


「今、レオンって言った?」


 私が恐る恐る聞くと、ウサ耳君は無表情のまま答える。


「左様でございます。こちらにいらっしゃるのは、この国の第三王子。レオン様でごさいます」


 今、全てが理解できた。なぜこの男達が無断でここに入れたのか。なぜグウェンがパクパク状態に陥っていたのか。なぜ先程から男が偉そうな態度なのか……。


「おうじぃ―――――――っ!?!?」


 ボロ出まくりだった。


◇◆◇



 ……退屈だ。


 先程から花嫁候補の家を転々としているが、皆同じような態度。


 きれいなドレスに身を飾り立て、俺が入るなり深いお辞儀。そしてにっこり笑い「お待ちしておりましたわ」と。


 きれいなんだが、皆俺に気に入られようと必死なのがにじみ出ている。まぁ、確かに国の王子との結婚だなんて、こんなすごいチャンスはなかなかないだろうが、ここまで必死なのには驚く。だって、皆俺の性格なんか知らないわけだろ? どうすんだよ、俺が極悪非道な人だったら。


 俺が到着するのを皆前もって知っているからこういうことになるんだろうか。知らなければ最初に目に入ってくるのはその子の本当の姿。そうだ、到着を知らせたのが悪かったんだ。後悔。


「次は?」


 馬車の中でうんざりと言うと、隣に座っている側近のシリルが無機質な声で答える。


「次は公爵家のシャーロット様。ただ、この方にはご許可はいただいていないので、入る前にアポを取れるかの確認が必要かと……」


 俺は俄然興味がわいた。許可? いらんわそんなの。そのシャーロットとやらには申し訳ないが、ちょっと上りこませてもらおう。


 俺はククッと顔を伏せて笑った。シリルが一歩分俺から離れる。


 馬車が屋敷に着いた途端、俺はシリルの静止も聞かずに馬車から飛び降りた。


「シャーロットというのはどこにいる?」


 勝手に屋敷の扉を魔術でこじ開け、最初に目についた侍女らしき人に詰め寄る。


「お、お嬢様はそこの裏庭で剣のお稽古中かと……あっ!」


 ありがとうと言ってバッと駆けだす。後ろから「許可もなくお嬢様の練習場に立ち入ることは禁じられております!」とか何とか言っているが、気にしない。


 裏庭はすぐに見つかった。だがすでに後ろに侍女達がわらわらと集まってきている。それぞれ口々に俺を止めているが、何人かは俺の正体に気付いているらしく、唖然としている。


「シャーロットがいるというのはここか」


 扉を勢いよく開け、何の遠慮もなく入ると、そこには二人の若い女がいた。緑の広がる美しい庭の中央に二人で立っている。


 一方は黒髪に灰色の猫耳を生やし、全体的にコロッとした女の子。服装から見て侍女だと思われる。俺が入った瞬間に正体がわかったらしく、目がみるみる大きくなっていく。


 もう一方は、それはそれは美しかった。白い髪は太陽に透けるようで、絹のようにさらさらと肩に流れ落ち、先は巻き毛らしく、くるんと丸まっている。目は見事にカットされたアメジストのように輝き、直視していると吸い込まれそうだ。華奢なその体には似合わないようなロングソードを構え、こちらを驚いたように見ている。だが、まだ俺の正体には気づいていない。好都合だ。


 俺は近づいて行き、もう一度聞いた。


「シャーロットというのは君のことか?」


 彼女は答えず、ジーッとこちらを見たまま。その間も侍女は目を白黒させている。


「ロ、ロ、ロティッ……シャーロットお嬢様っ!!」


「どうしたの、グウェン?」


 こちらの質問を見事なまでにスルーした。それにしても、この二人は仲がいいらしい。侍女が主人を愛称で呼ぶなんて聞いたことがない。

 俺はもう少し距離を縮め、声をかける。


「シャーロットというのは君のことかと聞いているんだが」


 二体のアメジストがこちらを向くが、慌てて角度を上げた。身長差が大きく、見上げなくてはいけなかったらしい。


 彼女はにっこりと微笑み、一歩大きく退いて(おい)言った。


「そうですわ。私がシャーロットです」


 そうかそうかと頷く。今まで見たどの娘よりもきれいで、どの娘とも反応が違ったこの娘がシャーロットなのだな。花嫁候補の第一番目になった。


「レオン様、いい加減になさってください」


 満足感に浸っていると、すぐ後ろから静かな声が聞こえた。全く、いつも気配がないやつだ。まぁ、シャーロットからは反対側だから見えただろうが。

 ふと彼女に注意を戻すと、なるほど、彼女は俺の正体に気づいたみたいだ。目が泳いでいる。そして、恐る恐るといった様子でシリルに聞く。


「今、レオンって言った?」


 シリルの無機質な声が再び発動する。


「左様でございます。こちらにいらっしゃるのは、この国の第三王子。レオン様でごさいます」


 俺はニヤニヤするのを隠すのに必死だった。シャーロットの顔はとことん間抜け面だったのだ。口をあんぐりと開け、目を大きく見開いている。

 これからどう無礼を謝られるのだろうかと期待を込めてシャーロットを見ると、シャーロットは深く息を吸っていた。そして吐き出した言葉。


「おうじぃ―――――――っ!?!?」


 予想外だった。

ルビーが柄に埋め込まれたロングソード……。

シャーロットは愛されているようです(親に)

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