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第六章 第三話


 凄まじい速度で私たちの乗る機体が『歩柱』へと突っ込んで行くのを見つめながらも、私は次の行動を決めかねていた。

 幸い、全身にかかるGにはすぐに慣れた。

 速度が安定してしまえば、まっすぐ飛ぶ、もとい跳ぶこの機体内部にはそう大きなGがかかる訳もない。

 とは言え……


 ──あんなのに、どうやって攻撃を仕掛ければ良いのよっ?


 モニターに映る火器管制を操作しようと指を伸ばしたものの……私の指はその疑問に硬直してしまう。

 ヴォルフラム隊長には『アレ』を無力化する方策があるらしいんだけど……私は未だにそれを聞いていない。

 聞いていない以上、どの武装で『アレ』に攻撃を仕掛ければ良いか分からず……いや、【死神】ヴォルフラムがどの武器を使って『アレ』に攻撃を仕掛けるという肝心のイメージが湧かない。


 ──何を、すれば……っ?


 私は彼が次に打つ手を想像しようとして叶わず、火器管制を前にただ焦るばかりだった。

 そんな私の苦悩に気付いたのだろう。

 【死神】ヴォルフラム隊長は『AHO‐01』を巧みに操ることで『歩柱』からの砲撃を躱しながら……その腹案を口にする。


「背中のパンチャーファウストを使えっ!

 あの脚を叩き潰すんだっ!」


「……え、でも?」


 隊長の命令に火器管制を操りながらも、私は思わず疑問を口に出してしまう。

 私の口がそんな疑問を吐き出したのも、無理はないだろう。

 だって、あの脚は「ただの飾り」なのだ。

 さっきまでの攻撃で……「そり」の特攻と『蜜蜂』による核融合爆弾の余波によって、十二本あった脚はもう九本にまで減ってはいる。

 だけど……『歩柱』本体にダメージを与えることもなく、「ただの飾り」を叩き潰したところで、一体何の意味があるというのだろう?

 そんな私の声に、隊長は軽く微笑むと……


「あの脚を潰してしまえば、アレは「航空機」に成り下がるっ!

 つまり……ライト条約に足を縛られるって寸法だっ!」


 ……それは、もしかしなくてもヴォルフラム隊長が勢いに任せて口走った、精いっぱいの冗談だったのだろうか?

 だけど生憎……私はその冗談を笑う余裕すらありゃしない。

 何しろ私は、その冗談みたいな言葉遊びに……ライト条約という口先だけの約束に、命を預けなければならないのだから。


 ──もし、アレが条約を無視したならば……


 決死の特攻を加えた私たちは、上空に浮かぶ『歩柱』に……圧倒的質量と火力を有するあの巨大な天を衝く柱によって、あっさりとこの世からおさらばしてしまうのだから。


「せめて、卵子バンクに私のを預けておくべきだったっ!」


 ──あと、隊長の精子を貰っていれば……


 絶望的な戦況を前にした所為か、不意にそんな未練が私の脳裏に浮かび上がる。

 例え私がこの戦場で果てても……【プリムラ卵】で最近サービスが始まった、冷凍卵子と精子を使った、忘れ形見製造システムに登録しておけば……

 自分が死んでも、私と隊長の子供がこの世に生れ出ることに違いはないのだから。


 ──事実、私もそういう……精子バンクに預けられた誰かの胤によって生まれていた訳で……


 ちなみに、こういう出産を私の故郷である【プリムラ卵】では「お情けを受ける」と表現する。

 女性同士で子供を作ることも技術的には可能なのだが、女性の出生率が異常に多い【プリムラ卵】でソレをやると、Y染色体が致命的に欠乏する恐れがあり……女性同士が結婚した場合でも、男性の精子によって人工授精することで子供を儲けることが法律で義務付けられている。


 ──そうすれば、もしこの戦場で散っても……


 故郷で、母とママが孫……私の子供を育て上げてくれるかもしれないのだから。

 ……そんな未練を胸中に浮かべた所為、だろうか?

 私は『AHO‐01』の背中に搭載されていたパンツァーファウストの照準を合わせようとしたものの……何故か指が震えてしまう。

 上手く敵『歩柱』の脚を……一番脆いと思われる脚関節に狙いを定められない。


 ──何で、こんなっ?


 狙おう狙おうと思っても、照準が狙う場所に定まらないのだ。

 ただ指が、手が、腕が、肩が震えて……思うように動いてくれない。

 と、言うことを聞かない腕に私が焦るばかりだった、その時だった。


「……安心しろ。

 この【トレジャー・スター】の衛星軌道上には、巨大な質量兵器が備えられている。

 あの『歩柱』をも一撃で解体するような、惑星開発連合のヤツがな。

 ライト条約違反の大量破壊兵器なんざ、一発で攻撃対象になってしまう。

 ……それに狙われる危険を冒す馬鹿なんざ、いやしないさ」


 静かで落ち着いた隊長の声が、私の胸へと染み渡る。

 たったのそれだけで……本当にたったのそれだけで、私の震えはあっさりと何処かへ跳んで行ってしまっていた。

 ……我ながら、現金なモノである。

 指の震えが収まれば……後は狙って撃つ、それだけである。


「当たれぇええええええええええええええっ!」


 私は胸の奥に残っていた恐怖を振り払うかのように叫びながら、引き金を引く。


 ──パンツァーファウスト。


 本来は、歩兵の使う携行用対戦車擲弾のことである。

 だが……この人型兵器が使うとなると規模も威力も全く異なってくる。

 ……そう。

 コレは、対『卵』の隔壁突破用兵器なのだ。

 その名の通り……大昔に使われた同名の対戦車用擲弾と規模と材質こそ違えど、構造はほぼ同じという、実に単純な武装である。

 この希少金属の砂塵が飛び交う【トレジャー・スター】において、誘導なんて全く効かないが故に、「推進剤を使いまっすぐに飛ぶ」ことだけを追求された点においても、大昔の兵器の名を受け継いだ理由の一つだった。

 そのパンファーファウストの本体は、火を噴きながらもまっすぐに砂塵を突っ切り……見事に『歩柱』の脚へと突き刺さる。


「やったっ!」


 この武装の構造は簡単で、誘導も出来ずただ推進剤でまっすぐに飛ぶだけの単純な兵器ではあるが……構造が単純なだけあって、一度直撃してしまえば、その威力は凄まじい。

 理屈はよく分からないものの、隔壁を貫通することを目的としたこの兵器は、貫通力と破壊力の双方を兼ね備える凶悪な兵器なのだ。

 ただの飾りだった『歩柱』の脚がその威力に耐えられる筈もなく……その一撃によってあっさりとお飾りの脚は一本、関節の上部辺りからへし折れ、本体からもぎ取られていた。

 千切れた脚は重力に引かれるかのようにぐらりと内側へと倒れると、砂漠から砂煙を巻き上げる。

 

 ──よくこんな兵器、【死神】ヴォルフラムが許可したわね。


 その凄まじい威力を目の当たりにした私は、ふとそんな疑問を胸裏に浮かべるものの……考えてみれば、彼が嫌うのは「『卵』殻を破壊して一般市民を戦火に巻き込むこと」であり、兵士たちの出入り口である『卵』隔壁を破壊することは別にどうでも良いと思っているのだろう。

 ……彼は彼で、厄介な性分をしているらしい。


「相手が混乱している内に、続けて、撃てっ!」


「はいっ!」


 とは言え、ヴォルフラム隊長の心理状態について考察を巡らせておく暇はないらしい。

 隊長の叫びに我に返った私は、すぐに次弾を装填させる。

 とは言え、この『AHO‐01』はセミオートシステムが採用されていて、火器管制によってその武器の発射モードを選択すると、機体が勝手に兵器を構えてくれる訳だけど。


「撃てっ!」


「はいっ!」


 二射目・三射目は何の問題もなかった。

 敵『歩柱』の砲撃リングはまだ攻撃態勢に入っていない上に、降下部隊も降りるのを躊躇している所為か、私たちの乗る機体への攻撃は一切加えられず……

 ただ動かない巨大な物体目がけてパンツァーファウストを放つだけで良かったのだ。

 ……そんなの、ただの素人でも打ち落とせるだろう。


 ──あと、六本っ!


 私が四発目を構え、放とうとした、その時だった。


「くそっ!

 限界かっ!」


「……ぁっ?」


 突然、『AHO‐01』が急に横滑りをしたかと思うと、一瞬前まで私たちがいた場所には大きなクレーターが発生していた。

 恐らく……上の攻撃リングの準備が整ってしまったのだろう。

 そして……


「外、れたっ?」


 撃とうとした瞬間に急に動かれたものだから、私の放ったパンツァーファウストは狙いを外し……脚近くの砂を吹き上げただけだった。

 最後のパンツァーファウストを外してしまった、その光景にサァーと血の気が引く私だったが……


「くそっ!

 しつこいっ!」


 突如、左側へと凄まじいGを喰らい、私の血の気は引くよりも早く右脳へと集まってしまっていた。

 どうやら上からの砲撃が激しさを増し……私には落ち込んでいる暇もないらしい。

 その事実に歯噛みした私は、一瞬の内に攻撃手段を考えると、すぐさま決断を下し、火器管制を操作することでその武器の狙いを定め……


「これでも、喰らえっ!」


 叫び、引き金を引く。


 ──肩部レーザーキャノン。


 光を乱反射してしまうこの【トレジャー・スター】において、どうにかして光学兵器を使えないかと【眼鏡】ことヤマトさんが知恵を絞ったその成果がコレである。

 説明によると、原理は単純極まりない。

 まず火薬によって磁石弾を放ち、それとほぼ同時に高出力のレーザーをコンマ数秒だけ放つ。

 磁石弾に引き寄せられた砂塵が、目標物に着弾点までのコンマ数秒という僅かな間、空間に砂塵の隙間を作るが故に……コンマ数秒にのみ出力を集中させた光学兵器……レーザーキャノンを使うことが出来る、という仕組みである。

 ……言うは易し、行うは難し。

 この兵器を開発したヤマトさんは、恐らくは気が遠くなるほどの思考錯誤の果てに、そのコンマ数秒という瞬間を築き上げたのだろう。

 だからこそ……その効果は絶大だった。


「嘘っ。

 こんな威力……」


 頭上から私たちを狙っていた火薬式らしき砲塔を、その光学兵器はあっさりと融解・爆散させ、攻撃リングそのものが軌道エレベーターから剥がれ……その下のリングに引っかかって止まる。

 凄まじい威力である。

 勿論、攻撃リングが爆散したのは火薬式の砲塔だったからこそ、上手く誘爆してくれたお蔭であり……本来は装甲を溶かして穴を空け、『棺桶』システムを誤作動させることで敵『歩砲』を無力化させる兵器でしかない。


「くそっ!

 あっちには効かないかっ!」


 ……事実、他のリングにあるレールガンを狙っても、ただ砲塔が溶けるだけに過ぎなかった。

 勿論、その砲塔は無力化出来るものの、一つのリングに十以上存在している砲塔を一つ一つ潰していくなんて、非合理極りないだろう。

 何しろ……こうしている間にも、次から次へとリングは射程内へと降りて来ているのだから。


「このままじゃジリ貧だっ!

 突っ込むぞっ!

 フォローしろっ!」


 そんな中、【死神】という二つ名を持つヴォルフラム隊長の下した決断は、英断と蛮勇の中間点のような代物だった。

 何しろ……上空からの射撃に耐え兼ねた結果、あの『歩砲』の足元へと突っ込もうというのだから。

 ……だけど。


「はいっ!」


 私に反論する術なんてある訳がない。

 と言うよりも、彼ならそうするだろうと予想していたのだから、驚きすらなかったのが実情である。


 ──けど、その前にっ!


 隊長が突撃の動作を下すその一瞬前に、私は両腕のレールガンを操り、『歩柱』の脚についてある対機動師団用ガトリングを狙い撃っていた。

 一つ二つと……二丁のロングライルレールガンは狙いを違えることなく、『歩柱』脚部のガトリングを使用不能な鉄くずへと化す。


「よし、上出来だっ!

 このまま突っ込むぞっ!」


「いえっ!

 最後に、もう一つっ!」


 ……その時の私は、よほど焦っていたのだろうか?

 私はこの機体の装甲で十分に弾き返せるだろう、ガトリング一発の被弾すらも脅えるが故に、隊長のその命令を無視し……こちらの機体を射角ギリギリで狙えそうな、もう一つの砲塔へと狙いを付け、引き金を引いていたのである。

 ……だけど。


 ──それが、致命的な失策だった。


 突如、凄まじい衝撃が走ったかと思うと……

 さっきまで存在していた筈の、『AHO‐01』の左腕が、その手に握られていた筈のロングバレルレールガンと共に、吹き飛んでしまったのだ。

 まるで冗談か何かのように、さっきまであった左腕が……見事に肘から先が、消失している。


「……嘘。

 腕、が?」


「ちぃっ!

 早くも暴発かっ!」


 隊長の吐き捨てるような叫びに、私は何が起こったかを理解する。


 ──暴発。


 恐らくは、『歩柱』から放たれた射撃によって巻き上げられた砂塵の所為で、レールガンの電磁システムが漏電し……暴発を招いてしまったのだろう。

 それ故にこの星では、レールガンという電力供給さえ叶うならば軽量・高威力という理想的な兵器が使われなかったのだ。

 とは言え、この『AHO‐01』はその暴発すらも想定した機体である。

 事実……ロングバレルレールガンが暴発したというのに、この機体は左腕の肘から先がなくなっただけであり……

 コクピット周りやレーダー、各装備の挙動、スラスターとその推進剤……即ち、本体の挙動に支障を来たすダメージは受けていなかった。

 ……だけど。


「ちぃぃいいいいいいっ?」


 流石の【死神】ヴォルフラムと言えど……

 突然生じた至近距離の爆発に動揺せずにいられる訳もなかったのだ。

 隊長の舌打ちが聞こえたと思った、次の瞬間。


「~~~~~かはっ?」


 耳を劈くような轟音と共に、私の身体は凄まじい衝撃に襲われていた。

 問答無用で身体全体を揺すぶられるその衝撃に、意識が一瞬飛びかかったものの……


「アドリアっ!

 おいっ! 聞こえるかっ!」


 その隊長の叫びに意識を取り戻し……首を振って視界の揺れを振り払う。

 ……今は、気絶なんてしている場合じゃない。


 ──被弾したっ!


 顔を上げた私の視界に入ったのは、真紅に染まる全天方位モニターだった。

 いや、赤く光っているのは、モニターの一部……機体の調子を確認する小さなウィンドウではあったもが……


 ──左腕、喪失。

 ──右足、大破。

 ──左肩部レーザー、消失(ロスト)


 ……左腕喪失ってのは、さっきのレールガンの暴発の所為として。

 どうやら、上空からの砲撃によって肩と右足に被弾してしまったらしい。

 右足は、膝下を撃ち抜かれた所為で脚のバーニアが完全に使用不可となり、左肩はちょうど外装兵器のみが撃ち抜かれてしまったのだろう。


 ──だけど。


 だけど幸か不幸か……右足の推進剤をぶち抜かれたお蔭で、私たちの『AHO‐01』は思いっきり前進してくれたらしい。

 周囲を見渡すと……『歩柱』の足元へとたどり着いている。

 あの『歩柱』の構造上……脚の直下への攻撃は、脚関節部についてある小口径の機銃、もしくは降下兵に任せるしかない。

 そして、小口径の機銃程度じゃこの機体は深刻なダメージを被らない。

 ……つまり。


 ──狙いたい放題。


 という訳だった。


「アドリアっ!

 意識があるならっ! 撃てぇえええええええええ!」


「はいっっっ!」


 その事実を確認したのと、隊長の叫びが耳に入ったのはほぼ同時だった。

 私は腹の奥から叫んで隊長の声に答えると、火器管制を操る。


 ──まず、爆発物を使い切るっ!


 ……そう。

 もしもさっきの一撃が、右足の推進剤ではなく……搭載されている火器に直撃していたとしたら?

 脳裏からその最悪の想像を振り払いつつも、私はその事実を無視は出来ない。

 当たり前だ。

 この『AHO‐01』がレーザーやレールガンのみではなく、火薬による火器を全身に搭載しているのは紛れもない事実なのだ。

 である以上……武器を使う優先順位なんて決まっているようなものだった。


 ──膝部三門ロケットランチャー。


 左右の膝に搭載された、ロケットランチャーを放つ。

 とは言え、右足はさっき喰らった一撃で照準がイカれているらしく、見事見当違いの方向へと飛んで行ってしまったが……

 それでも、流石の『歩柱』も膝の裏側という場所は、外部から狙われることを想定していなかったらしく、たった一発のロケットが直撃しただけで、炎上、爆散する。

 ……だけど。

 その一撃の代償は大きかった。

 さっきの攻撃で膝から先を断たれた所為で、脚先がグラリと……こちらへ倒れ込んできたのだから。


「~~~~っ?」


 たかが飾りの脚とは言え、この軌道エレベーター『歩柱』についている脚である。

 脚が倒れてきたと一言で表現するのは容易いが、その実……この『AHO‐01』の身長の倍ほどもある鋼鉄の柱が、自分たちの頭上へと倒れてきたのだ。

 遠くで見るのと違い、自らの頭上へと大質量が迫ってくるその光景は、凄まじい迫力で……私は思わず硬直してその柱を見上げて固まってしまう。

 私がそうして硬直している間にも、その巨大な脚の残骸は、私たちの乗る機体を押し潰そうと迫ってきて……


「っと、危ねっ。

 構わないから、次々、撃てっ!」


 そんな迫力満点の場面でも【死神】ヴォルフラムは一切動揺することもなく、左肩のスラスターを吹かし右へと跳ぶことで、倒れてくる脚をあっさりと回避していた。

 どうやら、彼の胆力というものは、私とは桁が違うらしい。


 ──って、今はそれどころじゃないっ!


 ……折角のボーナスタイムなのだ。

 脚が砂漠に倒れ込んだ所為で、周囲は砂塵に覆われてはいるものの……今もガンガン機銃が機体装甲を撃つ音が響いている。

 これだけ撃ち続けられれば……幾らこの『AHO‐01』が頑丈でも、いつまでも耐えられる訳もない。

 私はそう思い直すと、『歩柱』の脚関節へと、残った左二発のロケットの狙いをつける。


「狙って、撃つっ!」


 装甲の硬さを信頼しているのか、それとも濃い砂塵の中に機体が隠れている以上、致命打を喰らうことはないと確信しているのか、ヴォルフラム隊長は回避動作すらしようとしなかった。


 ──だったらっ!


 例え砂塵の中で相手の脚が影しか見えないとしても……あの巨大な脚を、自機が動かない場所から狙うのだ。

 ……そんな難易度の射撃を、私が外す筈もない。

 当然のように私の放ったロケット弾は、二発ともしっかりと狙った箇所に着弾し……しっかりとその膝を破壊していた。

 尤も、照準の狂っている右足のロケット弾はやはり明後日の方角へと弾け飛んでしまったのだが、まぁ、搭載されてある火薬類を使い切ったことに違いはないだろう。


 ──あと、三本っ!


 またしても倒れてくる脚を、隊長が危なげなく躱すのを横目に眺めながら、私は火器管制ウィンドウを眺める。

 もう武器はそれほど残っていない。

 暴発の危険性のあるロングバレル・レールガンはあと一丁のみ……そしてコレは『歩砲』の装甲に小さな穴を空けることで『棺桶』の誤作動を狙う武器であり、『歩柱』の脚を狙うための武器とは言い難い。

 肩のレーザーキャノンはあと一門だけで……その上、コレも『歩砲』用の武器であり、あの脚をへし折るほどの高出力は望めないだろう。


「あとは……」


 私は火器管制を操りながら、次に使うべき武器を探す。

 と言っても……もうろくな武器なんて残っておらず、残弾のある武器を眺めた私は、渋々次の武器を使う準備に入っていた。


 ──左右腰部・対『卵』殻用ツインキャノン。


 なるべくなら使いたくなかったこの兵器に頼るしかないらしい。

 何しろコレは……ヤマトさんの武器説明の中でも、『要注意』というマークが記されていたほどの武器なのだ。

 ……と言っても、別にそう難しい原理の武器じゃない。

 ただ、『歩砲』の主砲である88cmを遥かに超える火薬量の砲弾を、純粋にまっすぐ撃ち出すだけの武器である。


 ──問題なのは、その威力。


 純粋に威力を追求したが故に、あまりにも反動が大きくなり過ぎ……この機動力重視の『AHO‐01』では射撃の反動を押さえ切れないのだ。

 私は火器管制を操り、その腰部ツインキャノンを発射する準備に入りながら、ヤマトさんの説明書を思い出す。


 反動が大きい所為で肩に設置すればひっくり返り、射撃どころじゃない。

 安定させるため、機体の重心位置である腰部へと設置したが、それでも反動による左右のブレが未だに大きく、狙いは定まらない。

 故に、狙った箇所に着弾させるためには、左右の砲塔を同時に放つ必要がある。


 ──その分、コクピットにかかるGは凄まじくなるが、【死神】の身体はそのGに耐えうるとボクは確信している、か。


 この『AHO‐01』のような無茶苦茶な機体を組み上げたあのヤマトさんが、そう断りを入れるほどの、凄まじい武器。

 私はその事実に咽喉を鳴らす。


 ──でも、いつまでもこうしている訳にも……


 二つの砕かれた脚が砂を巻き上げてくれたお蔭か、周囲は濃い砂塵に覆われていて……今も撃ち続けられているだろう敵の機銃は、装甲に当たる音すら聞こえない。

 私の選んだ武器を見たヴォルフラム隊長が、機体を砂漠に立たせ、腰を落として機体を安定させているにも関わらず、だ。


 ──だけど。


 さっきチラッと視線を向けた上空の、漂う砂塵の隙間からは、パラシュートらしき丸い何かが大量に浮かんでいる。

 脚が残り少なくなってきたことで、こちらの意図に気付いたらしき敵は、犠牲を覚悟で降下兵を放つことにしたらしい。


 ──アレが降りて来たら、包囲されて最期、か。


 その事実は……もう私たちには時間が残っていないことを窺わせていた。

 そしてその事実こそが……私が覚悟を決める最後の一押しを果たしてくれていた。


「うぅぁああああああああああああああああっ!」


 私は半ばヤケクソで叫びながら、引き金を引く。

 ……その直後。


「─────っ?」


 私は、眼前のモニターに突然、ぶん殴られて意識を失ってしまったのだった。


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