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第四章 第四話

 剣山というルートを通るという暴挙は……幾ら戦術的に正しかろうとも、人間としては明らかに間違った行為だと声を高くしたい。

 『歩砲』の中で吐き気を堪えながら、私は必死にその叫びが口から零れるのを阻止していた。

 叫んでしまえば、出撃の寸前まで食べていた昼食もが一緒に流れ出すと分かっていたからである。

 ……それほどまでに、この侵攻ルートは酷過ぎた。

 『歩砲』の構造上、その四本の脚を操作することで、狭路であろうとも悪路であろうとも通ることが出来る。

 何度も訓練をしているので、その理屈は分かる。

 だけど……それは揺れや傾き、本体の上下運動を一切無視した、ただの理屈でしかない。

 

 ──やっぱりこの人、無茶苦茶だぁ。


 岩塊を跨ぐ、階段状の岩々を登る、斜面にしがみ付く、四本の脚を高く突き上げることで狭路をすり抜ける……等々。

 ヴォルフラム隊長による『歩砲』操縦技術は凄まじく、とんでもない速度で私たちの乗る『歩砲』は剣山を通り抜けて行った。

 ……乗り心地を犠牲にして。

 事実、他四機の『歩砲』は【死神】隊長の操縦について来れていない。

 唯一、遅れながらも何とか見える範囲にいるのは【タンポポ】さんと【ハゲ】さんの操る『歩砲』一機だけという始末である。


「もう、無理っ!」


 そうしてどれくらいの時間揺られていただろうか?

 あまりにも凄まじいその操縦に、私の口からは自然とそんな叫びが零れ出ていた。

 頭がぐらぐらして目の焦点は合わず、流石に咽喉からこみ上げてくるものに耐えきれなくなった私は、操縦席に常備してあるエチケット袋を探そうと手をコクピット後ろへと伸ばした、丁度その時。


「間に合ったっ!」


 ヴォルフラム隊長が珍しく楽しそうな声でそう叫んでいた。

 彼の声を聞いた私は、吐き気を飲み込むと気力を振り絞って頭を上げる。

 視界は霞み歪んで洒落にならない状況だったものの、それでも必死に目を凝らして正面を見据えると……私たちがいる剣山の僅か下方に敵陣が見えた。

 その敵から少しだけ離れたところには、相変わらず装飾も何もないシンプルな外壁の『へび卵砦』が見える。

 そして、敵陣の背後かなり遠くには……豆粒くらいの大きさの、平べったい円形をした『卵』が見える。

 ……アレが、私たちの戦い続けている敵……『農場』だろう。

 こうして高いところから見下ろせば、二つの『卵』は危ういほど近く思えるけれど……この砂嵐が吹き荒れる【トレジャースター】では、たったそれくらいの距離を攻撃することすら出来ないらしい。

 今日、こうして『農場』が見えているのは、珍しく砂塵が吹き荒れない……所謂『凪ぎ』の日、だからだろう。


 ──っと、今はそれどころじゃない。


 視線をすぐに眼下の戦場へと戻すものの、そうして余所を見ていた割には、戦場に動きは全く見られない。


 ──膠着状態、ね。


 恐らく……両軍とも一斉攻撃を仕掛ける機を探っているのだろう。

 こうしてじっくりと両軍の構成を眺めてみると……数では敵軍が圧倒的に多く、『へび卵砦』の防衛陣は敵勢力の半分ほどの厚さしかないように見える。

 ……だけど。


「……あれ?

 『歩砲』の数はあまり変わらない?」


 ……そう。

 敵の数が多く見えるのは、凄まじい数の『トリフィド』が並んでいる所為であり、『歩砲』や、砂上バイク・砂上ホバーなど……兵器の数そのものはそれほど大差ないように思える。


「機体数なら、ざっと敵の方が二割増しってところか。

 ……これなら、勝てるな」


 私と同じように戦況を見極めたのか、ヴォルフラム隊長はそう呟いていた。

 その直後、【死神】隊長の操作によって私たちが乗っている『歩砲』は、その四本の脚を広げ、足先のアンカーを岩盤へと打ち込んでいた。


「反動抑制のために機体を固定した。

 この距離……88mmなら、届くだろう」


 そう言うと隊長はシートを倒して目を閉じてしまう。


「ちょ、隊長っ?」


「両軍が動き出して、ぶつかろうとする頃に撃ち込め。

 まぁ、『歩砲』の一・二機を落とせば……後は下の連中がやってくれるさ」


 隊長はそれだけを言うと、規則正しい寝息を立て始めた。

 とは言え、彼が本当に寝っているとは思えず……これから始まる戦争のため、出来るだけ体力を温存しようとしているのだろう。


 ──本当に、人生の全てを戦争のためだけに使っている感じ。


 そんな彼の様子にため息を一つ吐くと……私は深呼吸を一つする。

 何しろ、これから戦争が始まるのだ。

 幾ら高地の、しかも周囲に遮蔽物があって敵からは撃たれない安全地帯を占有出来たとは言え……まだ二度目の実戦である。

 緊張しない訳がない。

 そうしている内にやっと追いついてきたのだろう。

 隊長が引き離していた仲間の『歩砲』が岩陰から姿を現したかと思うと……一目で状況を理解したのか、隊長と同じように脚を広げてアンカーを地盤に撃ち込み始めた。


 ──凄いなぁ。


 以心伝心というか、指示すらなくても「自分たちが何をすれば良いか」を理解しているらしき彼らの行動に、私は思わず口を空けて感心していた。

 そうして私たちが射撃体勢を取り、そろそろ動かない戦況に痺れを切らし始めた頃。


「あっ?」


 砂塵が少し吹き始めたのをきっかけに、戦況が動き始めた。

 敵軍の陣形は『トリフィド』を全面に押し出した方陣……損害を考えない物量攻撃に対し、『へび卵砦』側はその攻勢を横一列の陣形で押し返そうとしている。


 ──こうして見てみると……物量って怖い。


 その様子を望遠モニタで眺めていた私は、思わず内心でそう呟いていた。

 ……たかが『トリフィド』、されど『トリフィド』である。

 火薬式の銃弾一発で沈むような、水風船に近いただの自動人形ではあるが、それでも手には武器を持っているのだ。

 あの人形共が手に持っているバズーカ程度では『歩砲』はビクともしない。

 だけど……バイクやホバーを駆る第三機動師団の面々はそうはいかない。

 そうして機動部隊が怯んだところを、敵機動部隊が攻勢を仕掛け始め……徐々にこちらは『歩砲』すらも押され始めていた。

 そこへ、敵である『農場』軍の『歩砲』が進み始める。

 一気に勢い付こうという思惑だろう。


「……今っ!」


 そして、そのタイミングこそ……私が、いや、【死神】ヴォルフラムが狙っていたタイミングでもあった。

 私はモニタを望遠モードにしたまま、火器管制を制御……主砲である88mmカノンを狙い……


「喰らえ~~~~っ!」


 叫びと共に、引き金を引く。

 その瞬間、頭をぶん殴れらたような轟音と共に、私の『歩砲』へと凄まじい衝撃が走る。


 ──これが、主砲。


 副砲である15mmのガトリングを放った時とは比べ物にならない衝撃と轟音に、私は思わず我を忘れて固まっていた。


「───っ?」


 そしてすぐに、周囲から先ほどの主砲に似たような轟音が次から次へと鳴り響き……その凄まじい音によって、私は現実へと引き戻されていた。

 周囲には仲間がいて……私の射撃を合図に一斉に砲撃を開始したのだろう。

 ……その大音響たるや、もはや拷問に近い。


「当たったっ!」


 だけど、その拷問を味わった甲斐はあったらしい。

 私が放った……いや、私たちの誰かが放った砲弾は、見事に敵の『歩砲』を捉えていたらしく、一機の敵『歩砲』が脚を失って砂漠へと崩れ落ちる。


 ──ただ……私の放った砲弾は砂柱を上げただけに過ぎなかったような。


 とは言え、こういうのは勢いが大事だろう。

 事実、『農場』軍は先ほどの砲撃に慌てふためいているらしく、規律正しかった方陣が突如として崩れ始めていた。


「これならっ!」


 それに気を良くした私は、次弾を放つべく狙いをつける。

 ……効果があると分かった所為か、脳を直接、空気の振動で殴られることが分かっていても、私は次弾を放つのに何の躊躇いもなかった。

 狙いを付け、引き金を引く。


 ──命中っ?


 ……いや、直撃はしなかったものの、着弾の衝撃によって敵のバイク兵器が二台ほど転倒するのは見えた。

 まぁ、結果オーライだろう。

 そうして二度目の砲撃によって、敵軍はこちらの位置を見つけたらしい。

 敵『歩砲』が三機ほどこちらを向いたかと思うと、その上部に備えられてある主砲が火を噴く。

 ……だけど。

 こちらは剣山の中、しかも相手よりも高地を占有しているのだ。

 敵の主砲は遥か手前の、尖った岩をなぎ倒しただけに過ぎなかった。


「……これなら、いけるっ!」


 自分たちが安全地帯にいる確信を持った私は、第三弾を放つべく操作を開始した。

 ……その時、だった。

 すぐ近くで金属が軋むような音が響き渡ったかと思うと……


「……くそっ!

 向こうさんもやるっ!」


 突然、さっきまで寝ていた筈のヴォルフラム隊長がそんな叫びを上げていた。

 その叫びを聞いてモニタを望遠モードから通常モードへと戻した私は……彼が何を見たのかを理解していた。


「……敵っ?」


 ……そう。

 振り向いた私の眼前には、三機の『歩砲』が映り込んでいたのだ。

 その中の一機……恐らくは隊長機なのだろう、金色の縁取りによる装飾華美な『歩砲』がこちらの『歩砲』……【ハゲ】さんと【タンポポ】さんが乗っていた筈の『歩砲』を脚で抑え込んでいる。


 ──違うっ!


 抑え込んでいるのではない。

 アレは……固定用のアンカーで「攻撃」しているのだ。

 事実、アンカーによって胴体部分を貫かれた歩砲は胴体部分から白い液体を噴き出している。

 その白い液体は瞬時に結晶化したらしく、白いキラキラした塊へと変化していた。


「……クソ、『棺桶』っ!

 やられたっ!」


「……『棺桶』?」


 隊長の口から出た聞き慣れない言葉に、そういう場合じゃないのを知りつつ、私は問い返していた。

 実は訓練の忙しい日々が続いた所為で……あとヴォルフラム隊長の身の回りの世話にばかり気を取られ、『歩砲』の性能を勉強する辺りは怠っていたりする。


「胴部に仕込まれてある疑似結晶体による身体凍結保持システム。

 通称、『棺桶』。

 パイロットの肉体に致命的な損傷が生じた時、冷凍凍結させて生命維持を図る装置だ。

 文字通り、戦場で死にぞこないが入るから、んな俗称がついているっ!」


 敵との交戦中だと言うのに、ヴォルフラム隊長は律儀にも私の問いに返事を返してくれた。

 ……どうやら【ハゲ】さんと【タンポポ】さんの二人は、死ぬことはないらしい。

 その声に一瞬だけ安堵した私が顔を上げると……眼前の敵『歩砲』がモニタの右から左へと滑って行く。

 ……いや、私の身体にかかるGが、動いているのは私たちの方だと教えてくれる。

 どうやら隊長は私に『棺桶』の説明をしながらも、敵の隙を探ろうと『歩砲』を駆り、様々な角度から敵だけを撃てる位置取りを探していたらしい。

 勿論、私もその間に主砲・副砲の両方で敵『歩砲』を狙おうとするが……狭路な上、敵は【タンポポ】さんの『歩砲』に取り憑いている。


 ──こっちの仲間を、盾にしてるっ!


 ヴォルフラム隊長の操縦でも隙を見出せないなんて……どうやらこの隊長機はかなり凄まじい技量の持ち主らしい。

 援軍に期待しようにも、私たちの仲間である残り三機の『歩砲』は、急襲してきた敵『歩砲』二機と交戦中であり、さっきからガトリングの音が散発的に響いている。

 お互いに狭路である所為で主砲を放つスペースが取れないのだろう。

 ……下手に撃てば、剣山をへし折って自爆しかねないのだから。


「くそ、考えてやがるっ!」


 続く膠着状態に隊長の舌打ちが聞こえてきた。

 その次の瞬間。

 突如、敵『歩砲』が沈み込んだかと思うと、アンカーを突き刺していた仲間を手放したのだ。


「へ?」


 自らの盾を手放すという暴挙に、私は一瞬だけ硬直してしまう。

 ……その隙を見透かしていたのだろう。

 敵『歩砲』はくるりと半回転したしたかと思うと、主砲をこちらと反対側目がけて放つ。

 その轟音に驚いた次の刹那には、敵隊長機は『歩砲』の構造上あり得ない急加速で、こちらの眼前へと迫って来ていた。


 ──何、それっ?


 恐らく……主砲の反動を使って急加速をしたのだろう。

 ついでに言えば、主砲を放つ瞬間、脚部が煙を上げていたようにも思う。

 アンカーを突き刺したままでタイヤを回転させることで、加速の「溜め」を作っていた、らしい。

 ……言われてもこんなの、絶対に真似できないけれどっ!


「くっ!」


 急接近してきた敵機に慌てた私は、咄嗟に副砲を放つが、15mmのガトリング一・二発では『歩砲』の装甲は破れない。

 あっさりと銃弾は装甲に弾かれ……敵『歩砲』の脚が胴体目がけて振り下ろされる。


「ちぃぃっ!

 そう、来る、よなぁあっ!」


 だけど敵機もエース級とは言え、隊長の技量を超えることは出来なかったらしい。

 【死神】という二つ名を持つ彼は、私では反応も出来なかったその突進を予期していたのだろう。

 私たちの乗る『歩砲』は背後に半歩下がりつつ脚を一本跳ね上げることで、あっさりとその一撃を受け止めていた。

 ……勿論、アンカーを喰らった脚はひしゃげたらしく、モニタの一部にアラームが流れるが……今はそれどころじゃない。


 ──隙、だらけっ!


 相手は背後を向けたまま、しかもアンカーで私たちと連結してくれている。

 ……これで外すなんて、馬鹿のやることである。

 私は主砲を敵機に向けると、引き金を引こうと指に力を込めた。

 ……その瞬間、だった。


「~~~~っ!」


 敵『歩砲』の小脇が横一文字に光ったかと思うと……急に身体中が浮遊感に襲われる。

 その浮遊感が……隊長の操作によって私たちの乗る『歩砲』が沈み込んだ所為だと私が気付くのには、コンマ一秒の時間を要していた。

 そして、モニタに映る……『主砲使用不可』の文字。

 どうやら主砲の砲塔を撃たれたらしいと私は直感する。

 尤も、誘爆した形跡はないから……砲塔を切り裂かれたか、射角を調整する装置を破壊されたかのどちらかだろう。


「……ちっ!

 暗器っ!」


「レーザーっ!」


 隊長の舌打ちと、私の口から驚愕が零れたのはほぼ同時だった。

 ……そう。

 砂塵が殆ど舞わず、そしてここまでの近接戦であれば、レーザー兵器は有効なのだ。

 大雑把な狙いでも効果的な、近接用隠し武器として、これ以上有効な方法など存在しない。

 しかも、希少金属の砂塵の所為で効果が薄いからこそ、この惑星上では、どの軍もレーザー対策は怠っている。

 ……付け加えるなら、レーザーと言うモノが『光速』で放たれる兵器である以上、人間の反射神経では避けようがない。


 ──じゃあ、その避けようがない筈の一撃の、直撃を見事避けた【死神】ヴォルフラム隊長の存在は?


 ……もう人間の範疇を飛び越えている、ということだろうか?

 っと、そんなことを考えている場合じゃなかった。

 レーザー発射装置らしき小さなレンズの銃口がこちらに……私たちのコクピットがある『歩砲』胴体部へと向けられ……


「こんなところで、死んで、たまるかぁああああああああああああっ!」


 その瞬間に私の身体が動いたのは……まさに奇跡だったのだろう。

 とっさに火器管制を切り替え、副砲である15mmガトリングを操作し、その引き金を小さなレンズ目がけてぶっ放す。

 ……集弾率のあまり良くないガトリングではあるが、それでも威力は十分……衝撃に弱い光学兵器のレンズを歪ませるくらいは出来たらしい。

 一瞬敵のレンズが妙な輝きを見せるが……それだけだった。

 

「はっ、はっ、ははっ、はっ」


 私は短く荒い息を吐きながら、震えていた。

 助かったと分かった途端に、恐怖が噴き出て来て……指先が震え、歯の根が合わず、末端の感覚が痺れているのを自覚する。


 ──さっきのは、ヤバかった。


 コンマ一秒……いや、多分もっと短いレベルで反応が遅れていたら、私は死んでいただろう。

 さっき敵機のアンカーによって貫かれた仲間のように、『棺桶』入りになって鹵獲され……気付けば『農場』送りだったかもしれない。

 それほど際どい一撃だった。

 私が放ったさっきの一撃で、自機と敵機との距離は少しばかり出来てしまい……敵の主砲はまっすぐこちらに向けられていた。

 なのに私たちは主砲をもう撃てず……脚も一本イカれている。

 まさに、絶体絶命というヤツだった。


「……次は、どう出る?」


 ふと、そんな状況を理解しているのかいないのか……モニタの片隅にあるウィンドウから楽しそうな隊長の声が聞こえて来た。

 どうやらさっきの致死の刹那も、この絶体絶命の不利な状況も……【死神】と呼ばれる彼にとってはただの娯楽らしい。


 ──何よ、それはっ!


 その事実に憤りを覚えた私が、優位が崩れないと確信しているらしき敵機が動かないのを確認して……ちょっと一言言ってやろうと口を開こうとした、丁度その時。

 突如、眼前のモニタに新たなウィンドウが開かれたかと思うと、私より二・三歳上の女性の顔が映し出されたのだ。

 ……褐色の髪に小麦色の肌、勝気な瞳に好戦的な笑み。

 そして、見せつけるかのように輝く、その左手薬指の指輪。


 ──この人、同郷者だ。


 彼女の顔とその態度を見た瞬間、何故か私は……彼女が『プリムラ卵』出身者であると理解していた。

 理由なんて分からないけど……多分、その独特の雰囲気故だろう。

 だけど、その焦げ茶色をした彼女の瞳は、私の顔を一瞥しただけで通り過ぎると、すぐにヴォルフラム隊長へと向けられていた。


「さっきの反応、やっぱり【死神】ヴォルフラム。

 ……久しぶりだね」


「……【毒蛇】ジュジュか。

 どの面下げて話しかけて来てやがる」


 ジュジュと呼ばれた彼女は、そんな【死神】隊長の殺気混じりの視線にも動じた様子はなく肩を軽く竦めると……


「一応、アタシの亭主の友人だからね。

 トドメを刺す前に、せめて声くらい、かけようと思っただけさ」


「抜かせ、この裏切り者がっ!」


 どうやら知り合いらしい。

 と理解した途端、二人のやり取りを聞いて、私は彼女が何者かを理解していた。


 ──この人、が。


 ヴォルフラム隊長の元相棒だった【金髪】さんを背後から撃ち、『農場』へと連れて行った同郷者。

 私が『へび卵砦』で忌避されることになっている元凶そのもの。

 ……まぁ、悪行を重ねた同郷者は数名いて、ジュジュという名の彼女の所為ばかりでもないようだけど。

 その事実に私が歯を食いしばっている間にも、二人の会話は続く。


「確かに貴様なら……いや、アイツならこの位置にも気付くだろうなっ!」


「……まぁね。

 亭主の入れ知恵なのは否定しないよ。

 結局……上を説得するのに手間取った所為で、出遅れてしまったけど。

 でも、まだ挽回は出来そうだし」


 そういう彼女が指差した先では、戦闘がほぼ終結しているところだった。

優勢だった筈の『農場』軍はいつの間にやら徐々に押され始めていた。

 ……どうやら【死神】隊長の指揮による側面からの砲撃は、かなりの致命打だったらしい。

 こうして見る限り、私たち『へび卵砦』軍が徐々に押し始めているが……彼女の言うとおり、この高台からの一斉放火で、その優勢もまた覆りかねない。

 つまり……こうして主砲を咽喉元に突き立てられている私たちに、『へび卵砦』の命運がかかっているということなのだ。

 そう考えた私が、引き金の上に乗ってある指を僅かに動かした、その時だった。


「と言うか、さ。

 今さらアタシが抜けたのを責められても困るんだよね。

 大体、アンタなら……もう『へび卵砦』の維持に限界が来ているのは知っているんだろう?」


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