プロローグ
その惑星に初めて降り立った惑星開発連合の人間は、手元に届いた資料を眺め、ただ一言呟いたという。
……「ここは宝の山だ」と。
人類が地球から飛び立って数十年。
人類が宇宙へと旅出つ以前の小説にちなんで【トレジャースター】と名付けられたその惑星には、今まで人類が発見して来た惑星・衛星のどれとも比較にならないほど、貴重な重金属が豊富に発見されたのだ。
発見からほんの数年で惑星移民を手がけていた幾つもの恒星間企業が競ってこの惑星への移民権を獲得すべく動き……金に困っていた惑星連合は、積まれた大金の山にあっさりと屈し、深く考えることもなくそれら全てを認可してしまう。
こうした各企業の争いの中、この惑星への移民が始まった。
【トレジャースター】と名付けられたその惑星は、気温こそ地球の砂漠程度……昼間は七〇度、夜間はマイナス五〇度という、宇宙環境から言えば比較的優しい部類に含まれていた。
だが、地表上には一滴の水も見当たらず、大気は二酸化炭素と二酸化窒素が主成分と、この惑星はおおよそ人類が生存するには適していなかったのである。
……とは言え、真空の海を渡ってきた人類がその程度との困難に屈するハズもない。
企業群から莫大な資金が投じられた惑星改造により、開発から数十年が経過した頃には、空気中の酸素は二〇%前後となり……そして、地表上には数万の人類が住めるほどになっていた。
……しかし、世の中の常、人類の性とでも言うべきか。
移民からほんの数年で、宝の山と称されるこの惑星の開発に関わった会社全てが、ここでの利益を独占しようと考え始めたのである。
最初は、会社同士の会合による「惑星上の開発地域の奪い合い」でしかなかったが、結局、この話し合いは泥沼化し……
そして当然の如く、この惑星を巡っての戦争が始まった。
戦争拡大を恐れた中央政府の命令によって、この惑星上だけ許された戦争が……