3.佳人の追想
捏造しすぎてヤバい・・・汗が出てきた・・・。
「・・・この先の俺の人生、一体どうなるのだ・・・。」
宮殿の豪奢な一室に通された俺は思わず溜息をついた。
この俺は先程の宴で公叔発という朝廷の高官であり俺の後見人
によって王に捧げられたのだ。
準備に準備を重ねた舞を舞終えた後は安堵し、
達成感に包まれたものの、後のことに思い至った今
心は暗澹として楽しからず
・・・天を翔ける鳥が射落とされるならば、
きっとこんな心持ちであろう。
「・・・少々休まれたら今宵のお支度をなさいませ・・・。」
俺をここに通した女官達はにこやかにそう言った。
「・・・今宵の支度・・・とは・・・。」
「うふふ・・・。そうですね・・・まずは湯浴みをなさいませんと・・・。」
意味ありげに艶っぽく笑う女官達。
その笑みを貼り付けた顔を剥がせば
嘲りの冷笑が浮かぶのではないかと背筋に寒いものが走る。
俺は男娼に向けられる様な卑猥で蔑むような視線を向けられて
いるのではないかと恐怖した。
これからどうせそうなるのに詮無いことを気にするとは・・・と自分の小心に
呆れながらもプライドを捨てれない自分を哀れに思う。
この俺の名は・・・彌子瑕。
れっきとした男である。
・・・それがこの様だ。
・・・考えれば考える程羞恥心がもたげて・・・しかも頭が痛い。
俺は男としての自分に誇りを持っていた筈だ。
昔日に於いては武芸を磨き、学問に勤しんだ。
それもこれも男として恥じぬ生き方をする為ではなかったか・・・。
それに容姿だってこんなヒラヒラした服を今は着ているが
改めれば豪傑とまでは言わないが・・・それなりに男らしくなる・・・と思う。
女顔と言われるが・・・それは歳を重ねればなんとかなるだろう。
・・・兎に角俺は男なのだ!
だから鮮やかな桃色の刺繍の施された裙子を見ていると無性に情けなくなる。
扇情的な色合い、そしてたっぷり使われた布地。
風がそよげば男のそれより遥かに派手に靡くであろう。
__こんな服早く脱ぎ捨ててしまいたい!
そう思った俺は手当たり次第に簪を抜くと
乱暴に裙子を引きちぎるようにして脱いだ。
落ちて連なっていた硬玉の玉飾りがバラバラ四方八方に散らばる。
俺はそれを目で追って少しだけ快感を感じたのだが・・・、
「まぁ・・・勿体無い!折角この世のものとは思えない
美しさでしたのに・・・。」
一人の女官がそう言ったのだ。
すると残りの女官達もウワッと俺に群がると口々に
「でも・・・乱れた艶姿も美しいですぅ!!」
「美しい肌ですわ!まるで白磁か真珠のよう・・・。
妲己や褒似に勝るとも劣りませんわ。」
「本当に絵から抜け出たような美しさね。
幼い感じにまたそそられるわ・・・。」
「惜しいですわね。本当に女ならば
子をもうけ、次君の母君にもなれたでしょうに。」
と俺を誉めそやしたのだ・・・。
嘲りを受けず、少し安心するがこう思わずにはいられない。
「・・・どこで誤ったか。俺の人生・・・。」
俺はこうなる経緯を思い返す。
この戦乱の世において争いが起きぬところなど、何処にもない。
毎日のように小競り合いが起きるこのご時勢。
周を戴く諸侯の間ですら争い事は起きるのだ。
その平原の諸侯を悩ませる礼無き者と礼を重んじる平原の諸侯が争うのも然りであろう。
そうは分かっていても、暴風のように吹き荒れる争乱がこんなに早く
母と自分を巻き込むとは誰が思おう。
気づけば幼い俺は意識の無い母とたった二人のみでどこまでも冷たい大地に取り残されていた。目前には無情の風吹く先の見えぬ荒れた荒野…平原。
朱が燻る星空にある禍々しい凶星のみが
俺たち母子を見ていた。
俺の父は一介の辺境に駐屯する晋の将校で俺は会ったこともない。
俺が生まれてくる前には死んでいた。
母は・・・平原の民ではない。
平原の民から戒狄と呼ばれる東西の険しい山々に住まう遊牧民族の一部族の出だ。
母は鼻梁高く目元は涼やか・・・つまり美しい顔立ちをしていた。
そして戦の際、捕虜になった母を見初めた父が自分のものにしたのだ。
そのことを知った祖父・・・母の父である部族長は怒り狂った。
凛々しくしなやかな若い牝鹿のように美しい母を溺愛していたから。
祖父は結局父を殺し、母を奪い返した。
母は父に対し愛憎半ばというところで俺には一度も父の話を語ったことがない。
故に俺は周囲の漏らした断片によって父の面影を描いているに過ぎない。
幼い頃母の美しい横顔をよぎる影を見る度に俺はひどく心がざわめいたものだ。
・・・母は父を思ってあんなに暗い表情をしていたのだろうか。
それともその後新たに迎えた母の夫・・・俺の義理の父に後ろめたさを覚えてなのか・・・。
「・・・あれからどれ程こうして歩いているのだろう?」
母の一族が住まう山麓に晋の兵が押し寄せたのは今日の明け方だった。
それが今や日も暮れている。
先の見えない暗い道に心砕けそうになりながら、
ひたすら追っ手を避けつつ息を殺しつつ母と共に逃げた。
衣服はボロボロになり沓も裂け、足に布を巻いて足裏の痛みに耐える。
「・・・ああ天はなんで僕達をこんな目に合わせるのですか!」
目から溢れる涙が鬱蒼と茂る枝で傷つけた傷に染みる。
泣きべそをかく幼い日の俺に母は毅然と言ったものだ。
泣きべそをかくな!貴方は一族の男でしょう?・・・と。
母は誇り高く厳しい女だった。そんな母が倒れたのは林を抜ける手前、
晋の追撃兵の放った矢が俺をかばった母の背に突き刺さったのだ・・・。
草叢に隠れ追っ手をなんとか巻いた俺はその時、
母の背に刺さった矢を抜き止血すると、
9つの幼い身に母を引きずりながらも担いだのだ。
だが所詮幼い子供の体力など知れていて、躓いて急斜面を滑り落ちるように母と転がった。
・・・今思い返してもよくぞ生きていたと思う。
転がり落ちたは幸か不幸か・・・
落ちたその目前に平原が広々と開いているのが星明かりで分かった。
平原を抜けさえすれば邑に入れるだろう・・・。先は相変わらず暗かったが
微かな希望が胸に灯る。
邑の人間は俺たちを殺すだろうか・・・とそのような考えは
幼い俺には思い至らなかった。
俺は広々広がる平原に足を踏み入れる。
肩に母を担ぎ上げて…。
平原には姿を隠してくれる物は何もない。
急いで抜けなくては…と早足になる。
いささか乱暴に母を揺らしてしまった。
傍らの母が苦しげな声を上げる。
母の背一面に広がる赤黒い染みを見た瞬間体の芯が冷たくなって行くような感じがした。
転がり落ちた衝撃でとめどなく流れる血は母の背から
足を伝い地面に血だまりを作っていた。
慌てて母の背に手をやる。小さな掌を両方傷口に当てて、ただ必死に祈るしかなかった。
だが無情にもその指を伝って血は地面に落ちていく。
「・・・母上、母上・・・。」
幼い俺は泣くことしかできず母の青褪めた顔を見詰めているしかなかった。
その時、辺り一帯が明るくなった。
見上げると、俺達母子を上からニヤニヤ覗き込んだ者がいた。
「・・・おい!いい獲物だぞ!」
松明を翳し嬉しげな声を上げるのは小太りな男だ。
そんな相方を馬鹿にするように陰気そうな痩せた男が不満の声を上げる。
「バカを言え!怪我している女は高く売れそうだが死にかけてるし、
もう一方は幾ら見目が良くたって男のガキじゃねぇか!」
二人の男は何やら言い合う。
「だけどよぅ・・・この母親だって泥だらけとは言え相当上玉だし、
ガキだって成長すればソッチ趣味の男に献上
したりとか色々考えられるだろうが!」
「・・・治療代と儲けならどっちが上かな?」
「当然お前よぉ、そりゃこいつら高値で売れそうじゃねぇか。
取り敢えず助けてみようじゃないか。」
__どんな人間でもいい!母が助かるならこの際どんなに悪い奴らでも膝を屈しよう!
「お願いです!母を助けてください!どんな目にあってもいいですから・・・。」
幼い俺はがむしゃらにみっともなく小太りな男の着物の裾に齧り付いた。
・・・所謂人買いという人種に情けを乞うた。
思えばこの俺が誇りを捨てて生きることになったのはその時からかもしれない。
「おい、小僧もこう言ってることだしよお・・・。」
小太りな男は血を流している母を担いだ。
「俺が保証する。こいつらはきっといい金になる。
聞くところによると衛の国の貴族は羽振りがいいらしいぜ。
まとめて売りつけてやろう。」
晋→戦闘が結構あった。異民族との戦いもあったみたい・・・。
という理由で舞台を晋にする暴挙。
彌子瑕の出自その他諸々不明すぎて
捏造するしかないのです・・・汗。
オリキャラ、年齢詐称なんでもありです。
もうこれは史実ではありません。完全フィクションだと
思ってくれて大丈夫です!!
・・・更新不定期・・・すみません。