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男寵  作者: へたれ
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2.忠臣の憂いと乙女の舞

時代考証ムシムシ。歴史ファンへの冒涜ですな・・・。すみません(´Д`;)ヾ ドウモスミマセン頭をかち割ってお詫びします!

白い髪と髭を持つ初老の男が衛君の眼前に進み出る。

「なんだ、史魚。そんな物騒な声を出しおって・・・。」

ボウッと意識を彼方に飛ばし、陶酔の極みであった衛君は世界を壊されたように感じ

少々不機嫌な声を挙げた。

史魚と呼ばれたその男はキッと可憐な出で立ちの彌子瑕なる少年を睨みつけた。

その視線に怯んだように乙女は笑みを消して後ずさる。

その様子にいたく庇護欲を掻き立てられた衛君は史魚をたしなめた。

「なぜ睨むのだ!怯えているであろう!」

「・・・我が君。・・・その彌子瑕なる者からは魔性の相を感じます。きっと我が君を誘惑して

国を傾けるでしょう・・・。即刻斬るべきです!」

史魚は尚も彌子瑕を糾弾するように睨めつける。

「何を言い出す!そなたは罪もないこのような可憐なおん・・・いや者を斬ると申すか。

なんと大げさなことを!それに・・・この者は・・・女ではない。子も産めぬ。それでどうやって国を傾ける?そなたの取り越し苦労よ・・・。」

ハハハと衛君は笑ってみせた。

そのとりなす様な笑いで史魚は誤魔化されなかった。

彼はこの主君の淫奔で勝手気ままな様を知っていた。

そして・・・この少年を連れてきた者の意図にも思い至るのだ。

「・・・大体、私はこの者を我が君に献上せんとする公叔発殿のお考えを聞きたい。」

史魚は突き刺すような視線を列席する臣下の一人に向けた。

「・・・これは異な事・・・。私はなにもこの童子を我が君に差し上げるつもりで呼んだのではない・・・。ただの余興添えなのに何をそこまでいきり立つのか・・・。」

史魚と同じくらいの歳の公叔発と呼ばれた男は少しずるそうな笑いを浮かべた。

「余興です。ただの余興だというのに・・・。まぁ、我が君が気に入るなら差し出してもいいかもしれませんが・・・。」

「え?くれるのか?」

「我が君!何を言い出します!大体、寡人には男色の気などなかったのでは?」

「・・・いや、そうなんだが・・・ここまで美しいとな・・・。

兎に角あの者の舞をみようではないか・・・。」

下手に気分を損ねてもまずいので史魚は押し黙り、その視線を彌子瑕に向ける。

「・・・・・・。」

無言で未来に思いを馳せる。暗澹たる思いが蜷局のように胸中を占める。

そんな史魚の思いを蔑ろにしたような衛君の明るい声が彌子瑕に向かう。

「・・・怯えることはない。史魚は心配性であのような物騒なことを申したまで。さぁそなたの舞を見せよ。」

若干場の空気に怯えたように唇を戦慄かせている解語花は例えようもなく儚げだった。しかし乙女は気を取り直したように気丈にも応えた。

「・・・はい・・・。我が君はどのような舞がお好きで・・・?」

「・・・寡人は速くとも軽やかな且つ艶やかさがある舞が好きだ・・・。そなた・・・舞えるのか?」

「はい・・・。一通り稚拙ながら舞の基礎は習いました故・・・。」

恥じらうようにその乙女は答えると舞台の中央に進み出る。

乙女はひと呼吸置いた。そして楽の音も無しに舞始める。

優雅な指先を天に向け、クルクルと軽やかに回転すると淀みなく次の動作に移っていく。

取り敢えずその場に楽士も呼ばれて来ていたのだが、その動作にどのような音を以て合わせたら良いか分からず乙女のことを見やるのみである。

音がなくともその舞は充分完成されていた。

彌子瑕は呼吸をすることも忘れ、動作の細部まで神経を行き届かせることに集中する。

動作に詰まって場を覆う夢を壊してはならないのだ。

・・・彼にはそうしなければならない理由があるのだから。

帆布のように袖を広げ次の瞬間風を斬り、ブウンという音と共に体を素早くひねる。

ある時は高く飛び片足で着地しつつその場で回る。

天女が飛び跳ねているかのような・・・地面を感じさせない舞を少年は意識していた。

「・・・天女が・・・舞い降りたかのようですな・・・。」

ポツリと誰かがつぶやいた。

群臣達は声も出せず、舞を食い入るように見ていた。

無音の舞だからこそ動作が際立っているのだろうか。袖に斬られる風の音が聞こえてくるようだ。あたかも風に吹かれる木の葉のように軽やかで壮絶な舞。しかし公叔発は酒を煽りつつ、溜息をついた。


__我が君がおっしゃった妖艶さというものには欠けているな・・・。


__奴は一体どうする気なのか・・・。


公叔発の憂慮の声が聞こえたのだろうか。少年は次の瞬間減速し、今度はしっとりと腰を落としゆったりと女らしく舞始める。嵐が過ぎ去った後に風が凪ぐ・・・そんな印象だ。

「彌子瑕・・・見事であるな。我が意を汲みたり。」

自分の侍童の才能に公叔発は北叟笑んだ。

艶のある動作、表情どれをとっても女にしか見えない。

・・・むしろその上を行くかもしれない。


__惜しいかな。天は衛を傾けないために彌子瑕を男にしたのだろうよ・・・。


公叔発は衛君に目をやった。衛君は身を乗り出し、彌子瑕の動作を追っていた。

その頬は酒のせいなのか昂る感情のせいか赤みが差している。周囲に目を移せば、殆どの者がボウッと憑かれた様な目をしていた。酒が口の端から流れているのに気づかない者もいる・・・。


__これで本当に女だったら本当の意味での傾国だっただろうに。誠に惜しい。


緩慢で繊細な動きを暫く乙女は繰り返していたがクルリと回るとゆっくりその動作を止めた。そして彼らを包んでいた夢が徐々に壊れ始める。

喪失感漂う静寂は舞姫を呼んでいるのか名残惜しげだ。

「見事だ・・・。」

衛君の口からは一言しか出なかった。

衛君は体を少しずらした。先程からピクリとも動いていないので体勢的にキツくなったのだろう。群臣も各々姿勢を崩し始めた。

乙女はゆっくりと舞台の段を降りると衛君の前に進み出て一礼した。

上げられた顔を見て衛君は息を飲んだ。

その磁気のような顔には朱が走り、目は何かを成し終えた高揚感で輝いていた。


__欲しい!なんたる妖艶さよ・・・。


彌子瑕に食い入るような視線を向ける衛君を見て史魚は自分の思った通りになったことを悟った。







更新不定期(´Д`;)ヾ ドウモスミマセン。

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