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偽の神と北斗七星

「ザン、無事か?」

 紅樹が駆け寄る。

「俺の事より、嬢ちゃんは大丈夫か?」

「ググラガが退散したから邪気の心配はなくなった。だから、安全な場所へ避難させたよ」

 ザンは横目で部屋の隅を見た。アリスは意気消沈したように、うなだれてじっとしている。

「心配だけど、今はこっちの方が危険か」

 ボンキーは体内に飲み込んだ銀弾を吸収して体色が銀色になっていた。

「なんだアイツ。気味悪りぃな」

「あの姿を見て思い出した。アレは『偽神(ぎしん)』だ。覚えがあるだろう」

「偽神? そういや、そんなの居たな」

 ザンは自分の記憶を思い出す。

 偽神とはその名の通り、偽の神である。とある研究者が魔法と錬金術を組み合わせて作り出した。その製法が無法者たちに伝わり、次々と生み出された。不死に近い体とその力は神と呼ぶにふさわしかった。

「偽神も大破壊後に姿を消した。製法も失われた。アレは生き残りかもな」

「悪魔がニセモンの神様をペットにしてるか。何の冗談だ」

 偽神は目のない顔で紅樹たちの方を向く。

「来るぞ!」

「応よ!」

 手足を器用に伸ばして偽神は攻撃してきた。

 二人は散開して回避する。

 ザンは体勢を無理やり整えて、伸びてきた足にプラズマ弾を放つ。

 轟音を上げて着弾。偽神の肉が爆ぜる。しかし、急速に再生された。

「おおおおおおっ」

 紅樹が地面を蹴って強襲する。刀を引き抜いて、そのまま切り下す。

 伸ばされた腕を切り落とすが、すぐさま再生。胸が盛り上がって無数の触手を生成させる。それが一斉に攻撃してきた。

「はっ」

 触手が当たる直前に紅樹の姿が掻き消える。そのまま一瞬で偽神の本体へ間合いを詰めて、切りかかった。

「せええいっ」

 横薙ぎの一閃で偽神の胴体を切り裂いて上下に分断した。切り離された下半身は塵になって消滅。上半身は回転蹴りで蹴り飛ばした。

 吹き飛んだ上半身は遺跡の壁に激突。砂塵を上げる。

「ザン!」

 紅樹の呼びかけに応じて、ザンはプラズマ弾を連続で放った。

 プラズマ弾が着弾して大爆発を起こす。

「これでくたばってくれたら、良いんだけどな」

 ザンは険しい顔をする。

 煙が晴れるとそこには上下が元通りになった偽神がいた。しかも全身に鋭い棘が生えて、先ほどより強そうに見えた。

「まるで、ウニ怪人だな」

 紅樹の頬に冷たい汗が流れる。

 偽神は体を縮こませて力を溜める。そして弾けるように大の字に体を広げて飛び出した。例えるならば棘の体を使った砲弾だった。それが凄まじい速さで飛来する。

「ぐう!」

 二人は避けそこなった。鮮血が飛び散る。

 さらに偽神は、背中からモーニングスターのような棘の球体を作り出し二人に向かって勢いよく叩きつけてきた。

 かなりの速度だったが、ぶち当たる前に紅樹たちは転がって回避する。

 しかし、球体が地面に激突した瞬間、棘が散らばり紅樹たち目がけて飛んできた。

「ぐああああああああ」

 致命傷は避けたが、腕や足に棘が深々と突き刺さる。

 突き刺さった勢いでそのまま後退。壁際まで下がって偽神とにらみ合う。

 偽神は追撃を放つ気配を見せない。

「どうやら追撃はないようだ。舐められてるな」

「ふん。だったら遠慮なく回復タイムだぜ」

 ザンは牙狩りの中に組み込まれている賢者の石を発動させる。

「紅樹、牙狩りに手を置け」

 紅樹が手を置く。すると、賢者の石の力で二人の傷が治っていく。

「相変わらず反則だな」

 完全に回復すると、紅樹は治りを確かめるように手を握る。

「けど、回復に回せる魔力はこれで最後だぜ」

「偽神は早めに倒さないと、だんだん強くなっていって手が付けられなくなる。どのみち、 次の戦闘で片を付けなければ、ジリ貧で死ぬな」

 紅樹は忌々しげに偽神を見た。

「さすが偽物でも神様ってか」

「神であっても偽物だ。打つ手はある」

 紅樹はザンに説明する。

「いいか、偽神を倒すには魂の代わりに入れられている【(コア)】を壊せばいい。これは分かるな」

「ああ、覚えているぜ。それが偽神の弱点だ」

 ザンは紅樹の言葉に頷く。

 二人の言うとおり偽神には弱点がある。それが【核】。核とは、あらかじめプログラミングされた情報体のことである。錬金術で作りだされ、いくつかの情報を書き込む。その情報を元にして偽神は体を作り上げる。例えば、「人」の情報を書き込めば人の形と、人と似たような成分構成になる。動物ならばその動物の形と成分構成になる。

 そして核さえ残ればいくらでも再生する。それだけでなく、より強くなった体で再構成される。戦えば戦うほど強く進化する。ここが偽神の恐ろしい特徴だった。

 紅樹はさらに説明を続ける。

「あの偽神は間違いなく、人の情報で出来ている。人間しか斬れない俺の魂狩りで斬れたからな」

「なるほど。でも、その核はどこにあるんだ?」

「お前が上半身を吹き飛ばしたら、下半身から再生した。俺が斬った時は、下半身は消滅。上半身から再生した。ここから考えて奴の核は、体内を自由に移動できる」

 移動式の核を持つという厄介極まりない偽神だった。

 だが、ザンは不敵に笑う。

「てことは全身吹っ飛ばせば、核をぶっ壊せるな」

 銃を担ぎ上げる。

「その通りだ。俺が偽神を牽制する。その隙にお前が特大の攻撃をブチ込め。もしそれで破壊できなくても、むき出しになった核を俺が斬る」

 紅樹は刀の柄を握りなおす。

「了解。死ぬんじゃねーぞ!」

「当たり前だ!」

 紅樹が駆ける。偽神がそれを迎撃するために動き出す。

 だが、紅樹は偽神に接敵する直前で鋭く叫んだ。

「【加速】!」

 その瞬間、紅樹の世界が一変する。まるで、薄い壁を打ち破った感覚。

 自分の身体反応と認識速度が向上し、全ての動きがスローモーションになる。

 この状態になった紅樹を止められる者は誰もいない。

「おおおおおおおっ」

 加速状態の紅樹が、雄叫びを上げて刀を振るう。

 偽神の右腕がゆっくり伸びてきた。その腕を連続で切り裂く。

 するとバラバラになった腕の棘が紅樹を襲う。だが、あまりにも緩慢な速さ。

 紅樹は難なく棘を全て叩き落とすと、さらに間合いを詰めた。

 そのまま刀を振りかざして、残っている左腕を切り飛ばす。

 さらに偽神の首を切り落とすと、頭を連続で切り裂いて細切れにした。

「でええええい」

 裂帛の気合いで偽神の胴体を刀で打ち上げる。

 その時、紅樹の体が急に鉛のように重くなった。

「くっ、限界か」

 戦闘中の加速限界は、体感時間で約一分間。

 限界が来て加速が終了する。

 切り裂いた両腕は砂になって消滅した。胴体は高々と上空に上がっている。

 しかし、その胴体から棘付きの触手が勢いよく伸びてきた。

「【加速】!」

 間一髪で再加速。襲いくる触手を回避した。

 加速したスローモーションの世界。紅樹は打ち上げた胴体を見る。

「再生させるか!」

 跳躍して胴体と同じ高さに上がると、生えかけた両腕を切断する。頭も同様に再度、細切れにする。

 それでも再生能力は衰えず、切った傍から再生していく。全てがスローモーションに見える世界でも、その再生スピードは速かった。

「まだか、ザン!」

 ザンの方を見ると、牙狩りの姿が大きく変わっていた。牙狩りの大きさが大砲並みに巨大化して、ザンと一体化している。アンカーロックで地面に固定されていて、固定砲台になっていた。

 ザンの腕がゆっくりと動き、手がサムズアップを作る。

 ザンからの合図だった。

 紅樹は急いでその場から離脱して、加速を終了させる。

「ザン!」

「応! 荷電粒子砲、ブチかます!」

 牙狩り本体が大気中にある荷電粒子を急速に取り込み、砲身が紫電を上げる。

「喰らえ!」

 トリガーを引いて極太の荷電粒子ビームを発射した。ビームは真っ直ぐ偽神に向かって飛んでいく。

 光の奔流に飲まれて偽神の体が消滅。ビームの勢いは止まらず、そのまま遺跡の壁を破壊した。

 ザンは荷電粒子砲を停止させる。牙狩りが白煙を上げて排熱した。

「どうだ!」

 ザンは確認する。普通なら強力な荷電粒子の奔流を受けて核も消滅する。だが、偽神の核は破壊できていなかった。直径三センチ程度の小さなガラス玉から肉が再生していく。

「紅樹、あれが核だ!」

 ザンが叫ぶより早く、紅樹はもう駆け出していた。

 【加速】で一気に距離を詰めると、刀を縦に振り下ろした。

 寸分たがわず、核を切断する。再生し始めていた肉が塵となって消えていく。

 割れた核は地面に落ちると細かい粒になって消えていった。

 辺りに静寂が訪れる。たっぷり一分間まって偽神が再生しないことを確認する。

 紅樹は息を一つ吐いて、刀を鞘に納めた。

「どうやら、勝ったようだ」

「だぁぁぁ! 疲れた」

 ザンが牙狩りを元の銃に戻して、へたり込む。

 紅樹は隅でうずくまっているアリスの下へ行く。

「終わったよ。アリス」

 しゃがみこんで、肩に手を置く。

 アリスは顔を上げて紅樹を見た。

 紅樹は優しく笑いかけた。

 その顔を見た途端、アリスの目から涙があふれる。

「うわあああああ」

 泣き叫んで紅樹に抱きついた。

 それを紅樹は受け止めて、背中を優しく叩く。

「お父さんが。お父さんが。お父さんが。お父さんが」

 アリスは泣きじゃくりながら、繰り返し父親を呼ぶ。

 紅樹は泣きやむまでずっとアリスを抱きしめた。

 やがてアリスは落ち着き、紅樹から離れた。

「落ち着いたか?」

 紅樹は懐からハンカチを取り出して渡す。

「ゴメン。ありがとう」

 ハンカチで涙をふく。

 ザンもアリスの下に来る。

「すまねぇ。あの悪魔取り逃がした」

 申し訳なさそうに頭を下げた。

「ううん。ザンは悪くないよ」

 首を振って立ち上がり、辺りを見る。

「あの白い奴は? 倒したの?」

「ああ、俺とザンで倒した」

「そっか。じゃあ早速スターレインの情報を調べましょう」

 アリスは歩き出す。

「おい、調査は後回しにして、一旦戻ったほうが良くねぇか」

 ザンがアリスを心配して引き留めた。しかし、アリスは力強い目でザンに言った。

「心配してくれてありがとう。でも気持ちの整理は後からできるよ。それよりも、あの悪魔も狙ってるスターレインのことを調べないと」

「ググラガとか言ったな。アレは野放しにしておくと厄介だ」

「うん。逃げたけど、スターレインを追っていればきっとまた会える。その時は私に力を貸して」

 静かな怒りを秘めた瞳で紅樹たちを見た。

「分かった。ググラガは俺が必ず倒す」

「モンスターハンターとしても見逃すわけにはいかねぇからな。俺も協力するぜ」

 三人は打倒ググラガを誓う。

「それにね、スターレインが伝説の通りなら、お父さんを生き返らせることが出来るかもしれない。そう思わない?」

 アリスの言葉に紅樹は慎重に答えた。

「分からない。古今東西、死者を生き返らせる技術は確立されていない。だが確かに、因果律を操作するスターレインならばそれが可能かもしれない」

「うん。今はそれで十分だよ。早速調べましょう」

 アリスたちは遺跡を調べることにした。

 幸い遺跡の重要そうな部分は戦闘で破壊されていなかった。

 アリスは改めて今いる部屋を見渡す。

 部屋の壁には模様のようなレリーフが彫ってある。天井には無数の星が彫刻してある。

「星空ってことは、あの一番大きいのは月かな。星が多いけれど規則正しく並んでる部分があるわね。柄杓の形をしてる」

 アリスの指摘した通り、天井の彫刻には柄杓の形に並んだ星の列があった。また、並んだ星の列に、一つだけ大きく彫られた星があった。

「あの星空が、村の伝承にあった柄杓かしら?」

 紅樹も天井を見る。

「成程な。天上の柄杓って件は、やはり北斗七星のことを指していたのか」

「北斗七星? 何それ?」

 アリスは尋ねた。

「北斗七星っていうのは、大破壊前の夜空にあった星座のことだ。丁度七つの星が柄杓の形に並んでいたそうだ」

 紅樹は天井を指差してさらに説明する。

「北斗七星を辿ると、北極星に行き着く。丁度あそこに形の違う星があるだろう。あれがおそらく北極星だ。伝承にあった『動かぬ星』って言うのはこれを指しているんだろう」

「北極星って、北極にある星なの?」

「簡単に言うと北極星は、不動の星だ。地球の自転軸を北極側に真っ直ぐ延長すると見えた星だ。自転軸の上にあるため動かない星だったから、大昔の旅人はこの星を起点にして方角を確認していた」

「へぇ。そうなんだ。たしか、伝承はその動かない星にスターレインがあるって言ってたよね。もしかして実際の夜空を確認しないとダメなのかな。そうだとしたら厄介だね」

 アリスは考え込んだ。

 今現在、夜空は昔と見え方が異なる。大破壊の影響が星の位置を変えてしまった。星そのものが動いたのか、はたまた夜空がそういう風に見えるだけなのか。とにかく見え方が違うため、昔の星座や星は軒並み見られなくなっていた。

「おーい。お前らちょっと来てみろ」

 別行動して、祭壇を見ていたザンが二人を呼ぶ。

「祭壇にも面白いもんが彫られてんぜ」

 ザンは大きな祭壇の壁を指す。

 そこには天井と同じく、北斗七星が彫られていた。天井と違うところは、星一つ一つに漢字で名前が彫られていた。

 アリスは難しい顔をしながら読み上げる。

「え~と、ひんろう? きょもん? ろくそん……」

 苦戦するアリスを見て、紅樹が助け船を出した。

貪狼(とんろう)巨門(きょもん)禄存(ろくそん)文曲(もんごく)廉貞(れんじょう)武曲(むごく)破軍(はぐん)と読む。中国という国で呼ばれていた読みだな」

「へぇ。そうなんだ」

「スターレインは中国発祥なのか。はたまた気まぐれに付けたのか」

 紅樹は腕を組んで考える。

 ザンは天井の北斗七星と祭壇の北斗七星を見比べる。

「あの一番端の部分が目立つ感じに大きくなってんな。この祭壇でいうと『破軍』だな」

ザンの言葉で紅樹は閃いた。

「ああ、なるほど。伝承では星を辿るんだったな。ということはここがスタート地点だ。破軍から進んで、貪狼まで行けばいいのか」

 指で辿って示す。

「貪狼がゴールじゃねぇだろ。そこからさらに進んで北極星を見つけないとな」

 ザンがさらに辿って行き、ちょうど天井の北極星と同じ形の星形のレリーフを見つけた。

「う~ん。この祭壇は地図なのかな?」

「天井と祭壇。同じように彫られた星。道しるべ」

 紅樹はキーワードを呟きながら頭を捻る。

「つーか、そもそも、あの悪魔野郎は何しにここに来たんだ?」

 ザンはふと、思い出したように言った。

「それはスターレインを調べるためだよ」

「いや、そりゃそうだろうけど。アイツ何もせずに撤退したぜ」

「私たちが来る前にもう用事を済ませていたとか?」

「「う~ん」」

 アリスとザンは唸る。

「奴の立っていた位置って確か、部屋の中央だったな」

 紅樹は天井を見上げて、さらに目線を下におろしていく。

「北極星は位置を示す。ということは、あの彫刻も位置を示している?」

 北極星の真下まで歩いていく。

 石畳の床を見るが何もない。

「ここじゃないな。あの祭壇の北極星の位置も関係しているな」

 さらにそこから、祭壇の北極星が真っ直ぐに見える位置まで移動する。

 足元を探してみた。

「何もないな。違ったか」

 当てが外れて顔を上げる。

 その時、目に飛び込んできたものがあった。

「あ、壁か」

 複雑な模様が彫られた壁。同じような模様が続いていたが、紅樹の目の前の壁だけが他と違っていた。

 紅樹は壁に近づいて調べる。

「ライオンの彫刻だ。切れ込みがあるな。押すのか?」

 ぐっと押してみた。すると、ライオンの彫刻が奥へと入っていき、壁が横へとスライドし始めた。

「おお! 隠し扉だ」

 紅樹の声に気付き、アリスたちも駆け寄ってきた。

 隠し扉が開く。明かりが無いのか、暗くて部屋の様子が分からない。

「ザン、懐中電灯」

「ほらよ」

 ザンから受け取って、部屋の中を照らしてみた。

 そこは小さな部屋だった。大きめの台があり、そこに何かが置いてあった形跡がある。

「こりゃ、ググラガに取られたな」

「だな。明らかに何か置いてあった感じだ。邪気の残り香も感じる」

 ザンと紅樹はがっくりと肩を落とした。

「まって、部屋の奥見て」

 アリスが何かに気が付いた。

 紅樹が懐中電灯を照らす。

「何か書いてあるな」

 その文字は壁に彫られているのではなく、インクか何かで書かれてあった。

「なになに。英語だな。え~と日本語に訳すと」

 紅樹がざっと読んで確認。途中でニヤリと笑った。

「天上に柄杓あり。その力偉大にして強大。全てを辿るとき、動かぬ星へと繋がる道が現れる。たどり着く場所、そこは星降る宝眠る」

「それって、村の伝承にあった言葉ね!」

「ああ、それに続きがある。『辿れ、願う者よ。万能の願望器を目覚めさせるために。星屑の玉を集めるのだ。それを集め、万能の願望器へと捧げよ。ここ、破軍の遺跡が始まりである』って書いてあるな」

 それは一体誰に向けた言葉だったのか。壁に書かれた文章はそこで終わっていた。

「なんだよ、この文章。ずいぶんと芝居がかってんな」

 ザンが感想をもらす。

「たしか、スターレインは何でも願いがかなう玉だったな。星屑の玉がそれか?」

「そういえば、お父さんの研究書に書いてあった。『スターレインは玉ではないかもしれない。紆余曲折を経て、伝説の伝わり方が変わっていった形跡がある』って」

「なるほど。伝言ゲームみてぇなもんか」

「星屑の玉が、いろいろあって、なんでも願いがかなう玉って伝わり方をしたのかもな」

 アリスは、壁の文章をさらに検討する。

「始まりがこの遺跡なら、他の遺跡を全部めぐって、星屑の玉を集めないとダメってことね」

「だとしたら、これはチャンスだ。先回りで他の遺跡にある星屑の玉を手に入れられたら、ググラガはそれを狙ってくるだろう。そこを叩けばいい」

 紅樹は何もない台を見る。

「けどよ。他の遺跡ってどこにあるんだ?」

 ザンは首を傾げた。

「アリス、親父さんの研究書には何かなかったか?」

「ううん。グンハ村の伝承しか書いてなかった。遺跡のことは何も書いてなかったよ」

 紅樹は暫く考え込んだ。

「これは俺達の手には負えないな。『ローズ』に力を借りよう」

 ローズという名前を聞いて、ザンは頷く。

「だな。アイツなら何か知ってんだろ」

「ねぇ、ローズって誰?」

「俺達の知り合いだ。情報屋をやっている。彼女に聞けば何かわかるはずだ」

「ついでに、ググラガの事も聞いてみようぜ」

「ああ、諸々まとめてローズに聞いてみよう」

 次の方針が決まった。

「そうと決まれば、行動あるのみね」

「とりあえず、重要そうな部分は写真に収めておこう」

 紅樹は持ってきた荷物の中からカメラを取り出す。

 壁の文章や、北斗七星のレリーフなど、数点を撮影した。

「じゃあ、戻るか。来た道を戻ればいいだろう」

 三人は連れ立って来た道を戻る。

 三十分後、研究所の入り口まで戻ってきた。

「あ~っ。村に戻ったらシャワー浴びてぇ」

 ザンが伸びをして言った。

「たしかに、調査やら戦闘やらで、泥だらけだからな」

 研究所を出ると、紅樹は立ち止まる。

「ザン、分かるか? 森の様子が変わった」

 ザンはあちこち目を凝らし、耳で音を聞く。

「おう。どうやら、いつものマクラ森に戻ったみてぇだ」

「どういうこと?」

 アリスは尋ねた。

「森の異変はググラガが、全方位で邪気をまき散らしてたからだ。敏感な動物やらモンスターがそれを感じ取ってたんだろうぜ。悪魔野郎が退散したおかげで、マクラ森がいつもみたいに賑やかで騒がしくなってやがる」

 嬉しそうにザンは言う。

 紅樹が補足する。

「それにこの研究所にモンスターが近づかないのは、地下のあの魔法陣が関係してるんだろう。転送陣に交じってモンスター避けの陣があったよ」

「へぇ、そうだったんだ」

 アリスは感心したように研究所を見た。しかし、ふと気が付いたことがあった。

「あれ? じゃあこの研究所の敷地を抜けたらモンスターに襲われたりしない?」

「おう。良く気が付いたな。実は今、腹空かせたモンスターの群れに囲まれてるぜ」

「え?」

 紅樹はアリスを抱える。

「ザン、突破口は任せるぞ」

「応よ。撃ったと同時に走るぜ」

「え? え?」

 アリスは訳がわからないままオロオロする。

「舌噛むから、黙ってた方が良いぞ」

「それじゃ、往くぜ!」

 プラズマ弾を放って、ザンは駆け出す。

「えええええええええええええええええ」

 それを合図に紅樹も走り出した。

「肉にされたくなかったら、道開けろぉおおおおおお!」

 ザンの威勢のいい声を聴きながら、モンスターの群れに突っ込んでいく。

 その後、グンハ村に着くまでにモンスター十数体と大立ち回りを演じる羽目になった。

「いやあああああああああああああああああ」

 モンスターの雄叫びに交じって、アリスの泣き声がマクラ森に響いたという。

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