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研究所の探険と紅樹の秘密

 紅樹、ザン、アリスは暗い建物内を進んでいく。頼りになるのは持っている懐中電灯と、窓から漏れるわずかな光。百年以上経つ建物内はひっそりとしていて、外から獣の声が聞こえてくる。

 三人が今いる場所は、入り口から廊下を進んで一階の奥。いくつか部屋がある。プレートが壊れていてどの部屋も、何の部屋なのかが分からない。

「手近な部屋に入ってみるか」

 紅樹は近くのドアに手をかけた。

 軋む音と共にドアが開く。

 埃の臭いが漂い、三人は思わず顔をしかめた。

「暗くて良くわからねぇな」

「電気を点けてみるか?」

 ドアの傍にあったスイッチを入れる。

 微かな電子音と共に明かりが点いた。

「ウソ、点いた!」

 アリスが驚いた。

 しかし紅樹とザンは予想通りと言った様子だった。

「五十年前の【大破壊】を経験しても劣化しない建物。そして電灯に使われているのが、トワダ製の蛍光管だ。かつて、災害時にも壊れないと謳われたシロモノだからな。電源さえ生きていれば点くさ」

「トワダ製? そんな会社あったんだ」

「日本にあったのさ」

「へぇ。日本ってすごいよね。大破壊のときも唯一、無傷で残って他の場所の被災者支援で動いてくれたって教科書で読んだことあるよ」

「そう。いまじゃ超大国日本なんて言われた国さ。昔は小さな島国だったのに大陸変動で、周りの大陸と融合して世界六大陸の一つに数えられる」

「にしても、なんだこの部屋?」

 ザンが部屋を見渡す。

 その部屋は比較的広い部屋だった。割れた長い机と椅子。砕けたホワイトボード。壊れた大きなモニターなどが散乱していた。

「おそらく会議室だな。建物が無事でも中の家具類は耐えきれなかったようだ。グシャグシャに壊れてる」

「とりあえずどうする? 片っ端から部屋を開けてみるか?」

「いや。研究所ならば研究室があるはずだ。そこを探せば何について研究していたか分かる。スターレインの手がかりもそこにあるだろう」

「なるほど。確かにそうね。早速、探しましょう」

 三人は探索を続ける。

 一階を隈なく探したが研究室は見当たらなかった。

「あったのは食堂やら休憩室、喫煙室だったな」

 階段付近で立ち止まり話し合う。階段は二階と地下へ続く二手に分かれていた。

「どっちに研究室があるんだろう」

「館内図が劣化してて判断つかねぇ」

 床に落ちていた館内図らしきものがあったが使い物にならなかった。

 紅樹は暫く考える。

「ふむ。二階か地下か。ザン、お前のカンではどっちだ?」

「なに? 俺のカンだったら地下だな」

「そうか。じゃあ二階だな」

 紅樹は結論を出す。

「ちょっと、そんな適当でいいの?」

「ザンは恐ろしくカンが悪い。二択だと選んだ反対を選べばアタリになる」

「腹立つがその通りだから文句言えねぇ」

 ザンが瓦礫を蹴とばす。

 三人は階段を上がっていく。

「でも五感が良いって言ってたじゃない」

「五感が優れていても、カンである第六感はからっきしなんだよなぁ」

「それってハンター業に支障をきたさないの?」

「いや、五感さえ働けば問題ねぇよ。カンなんていう不確かなモンに頼らない方が良いってことあるしな」

「ふーん。あ、見てアレ」

 アリスは二階を上った先にある割れた看板を指した。

「ご丁寧に研究室の案内板だな」

「くそ。やっぱアタリやがった」

 ザンは悔しそうに毒づく。

「手分けして探してみよう」

 二階の部屋をそれぞれ探索する。片っ端から部屋を開けていき、隈なく探して回った。

 探索の結果、散乱した資料などを回収する。

「幸い紙に出力したデータは残っていたな。一階の食堂でみてみよう」

 ファイルの束を紅樹は持ってくる。

「にしても経年劣化しない、虫食いもしない『万年紙』で残してあるとはラッキーだったな」

 ザンもいくつかの資料を持ってきた。

 三人は二階から食堂へ移動する。

「さて、何が書いてあるかな?」

 アリスはファイルを取って開く。だが、書かれてある言語はアルファベットだった。

「あ、これ日本語じゃない。翻訳機持ってないから読めない」

「ん? ああそうか。もう君くらいの歳になると破壊前の言語は読めないのか」

 紅樹は資料をめくって確認しながら言った。

「単語くらいならわかるんだけど、文章になるとお手上げ。考古学者のお父さんは読めるらしいんだけどね」

 資料を放り出してお手上げのポーズをとる。

「んだよ。読めねぇのかよ。ダッセー」

 ザンがからかう。

「むぅ! 仕方ないよ。私、日本語しか習ってないもん。だいたい、他言語が読めるのは年配の方くらいでしょ」

「そうだぞ、ザン。アリスを責めてやるな。大破壊の後、言語の統一を行ったんだ。知らなくて当たり前だよ」

 紅樹の説明の通り、世界は壊れた後に言語の統一を行った。大陸の変動は国を無意味にした。人間もあちこちへ飛ばされ大混乱を招いた。意思疎通が中々できず、破壊後に言語の統一をせざるを得なかった。その言語に選ばれたのが日本語だった。なぜなら、大破壊の復旧支援は、無事だった日本の主導で行われたからである。

 やがて日本を中心に世界は秩序を取り戻した。日本語は大勢の人々を救った国の言語として認識され、統一するとき使用することになったのだった。

「つってもなぁ。日本語なんてややこしい言語より、英語の方が分かりやすいだろうに」

「その文句は五十年前に言え。どれ、俺が読もう。ザン、お前も手伝え」

「へいへい。でも難しいことは分からねぇからな」

 二人は資料を読んでいく。

「二人とも読めるんだ。凄いね」

 アリスは感心する。

「破壊前に存在した国の言語は大方読める。話すのは苦手だがな」

「右に同じ」

「それって凄いじゃない! どこで学んだの?」

 アリスは尋ねた。

「知らないよ。生まれた時から読めた」

「生まれた時から? なにそれ。両親が教えてくれたってこと?」

「いや、学んだことは一度もない。言語を見た時に自然と読めた」

「そもそも俺ら両親いねーし」

 ザンは両手に違う資料を持って見比べている。

「あ、そうなんだ。なんか、ゴメン」

「別に今の時代、孤児は珍しくない。気にすることは無いよ」

「つーか、俺ら孤児なのかすら分からねぇからな」

「気が付いたら一緒にいたしな。まぁその辺は考えても仕方ないだろう」

 紅樹はパンと音を立ててファイルを閉じる。

「よし。大体分かった」

「こっちも読めたぜ」

 ザンは資料を放り投げる。

「なんて書いてあったの?」

 アリスは興味津々に訊く。

「簡単に言えば、因果律の操作を研究していたようだ」

「ああ、結構ぶっ飛んだ研究だったみてぇだな」

「いんが……? なんて?」

 アリスは聞きなれない言葉に首を傾げた。

「因果律。早い話、世界を支配する研究をしていたようだ」

「世界を支配って、そんなことできるの?」

 紅樹はアリスの質問に頷いた。

「出来る。やってしまった人間もいる。大破壊を引き起こした『大罪人』たちだ」

「え、じゃあここ大罪人たちが使ってた研究所ってこと!?」

「いや、それは違うぜ。ここの研究所は、万能の願望器の製作を主としていたみてぇだ」

 ザンが否定した。

「万能の願望器ってスターレインね」

「ああ、間違いなくここで研究されていたようだぜ」

「因果律を操作して望む結果を引き寄せる。確かにこれが実現したらなんでも叶うな」

「超科学バンザイだぜ」

 三人は息をのんだ。

「で、肝心のスターレインはどこにあるの?」

「それはこの資料群からは分からなかった。ただ、この研究所の地下に何かあるらしい」

「ああ、なんか度々出てきたよな。地下の遺跡がどうとか」

 ザンが資料を開いて示す。

 紅樹も資料から写真を引っ張り出す。

「遺跡って、この地下にもう一つ遺跡があるんだ」

「それは行ってみないと分からないな。大破壊で建物だけここに飛ばされてきた可能性もある」

「一緒についてきてることを願わねぇとな。もしなかったら探すの無理だぜ」

 大陸が滅茶苦茶に移動したため、どの国がどの辺にあったかすら、分からなくなっていた。

「とにかく地下に行ってみよう。おそらく、例の二人組も地下にいるんだろう」

「ああ、場所までは分かんねぇけど、音は聞こえる」

 紅樹は険しい顔をする。

「どうも嫌な感じがする。ここに入ってから落ち着かない。ヤスリで肌を撫でられてるようだ」

「そうか? 音は聞こえるけどそんな感じしねぇぞ」

「もしかして、紅樹はカンが優れてるの?」

 アリスは訊く。

「ああ。俺は気を探ることが出来る。それがどうも反応してる」

「なんにせよ、気を付けていくしかねぇ」

 三人は立ち上がって、地下へと向かった。

 地下へと降りる階段はかなり長かった。三人とも無言で、靴音だけが辺りに響いている。

「待て」

 ザンが二人を止めた。そして耳を澄まして音を聞く。

「妙だ。先にいる連中の音が無くなりやがった」

 紅樹も気配を探る。

「確かに。気配もなくなった。あれほど嫌な気配がしていたのに消えてる」

「遺跡に入ったんじゃない?」

 アリスが進む先を指して言う。

「そうか? 忽然と消えたように感じたぜ」

「俺もだ。気配が急に消えた」

 階段の先は暗くなっていて見えない。

「とにかく降りていくしかない」

 三人は慎重に降りていく。

 降りた先には道が続いていた。

「どうやら、地下道だな」

 道の先から明かりが見える。

「あの先がゴールかな?」

「行ってみようぜ」

 三人は歩みを進める。

 地下道を抜けた先は窓のないドーム状のホールだった。電気が点いていて明るい。壁や床には複雑な模様が描かれている。そのホールの中心に扉が鎮座していた。

「なんだろう、あの扉」

 アリスは首を傾げた。

 紅樹が近づいて触って確かめる。

「両開きの扉だな。それに材質は石だ。レリーフが彫ってあるな。この見た目だと遺跡かなにかから持ち出したものかもな」

「扉だけって『どこでもドア』かよ」

 ザンが裏に回って、扉を軽く叩く。

「どこでもドアってなに?」

 アリスは首を傾げた。

「知らねぇのかよ。有名だろう」

「知らないわよ。そんな変な名前のドア」

「えー。これがジェネレーションギャップってやつか」

 ザンはショックを受けたように言った。

「冗談はその辺にしろ。これはおそらく転送装置だな」

「「転送装置?」」

 ザンとアリスは口をそろえた。

 紅樹は頷く。

「壁と床に描かれた模様は一定の法則に従って描かれている魔法陣だ。以前、似たようなヤツを見たことがある。円形の床。その中心に扉。状況からみて転送装置だと推測できる」

「転送装置ってことは、この先に遺跡があるってことか」

「でも、どうやって開くんだろう?」

 アリスは扉を押してみるが開かない。

「引くほうか?」

 紅樹は引いてみるがピクリとも開かない。

「案外、引き戸だったりしてな」

 ザンは横に開いてみるが、やはり動かなかった。

「だー! もうっ。ぶっ壊してやる」

 背中に担いだ銃を構える。

「ちょっとザン。ストップ、ストップ」

 慌ててアリスが止めに入った。

「けどよ、開かないならぶっ壊すのも手だぜ」

「でも、壊すのは駄目だよ。ちゃんと開く方法があるはずよ。だって先に行った二人がここに居ないってことは、転送装置で跳んでいったんでしょ?」

 アリスの指摘でザンは納得した。

「ああ、そうか。突然消えたのも、ここから転送されたからか」

 二人のやり取りを後目に紅樹は扉を注意深く観察する。

「彫られているレリーフは翼のついたライオンか。鍵穴があるな。ということは鍵があるってことだ」

「鍵? 上の研究所を探してみっか?」

「でもさっき見て回ったけれど、それらしい物はなかったよ。盗掘されたのか、物も結構なくなってたし」

「あーそういやそうだな。資料とかは残っていても金目のものは全部無くなってたな」

「じゃあ無理かな」

 ザンとアリスは唸る。

「鍵、鍵、待てよ。最近、鍵をどこかで……?」

 紅樹は記憶を手繰っていく。

 五分後、思い出したように手を叩いた。

「ああ! もしかしたらあの鍵か」

 リカドゥの露店で購入した黄金の鍵。翼の生えた獅子のレリーフが彫ってあった。

「なんだ? 心当たりあるのかよ」

「ああ、実はリカドゥの町で……」

 紅樹は二人に説明した。

「そんなの買ってたんだ。凄い偶然ね」

 アリスは驚く。

「偶然で片付けられるのかよ。それ」

 ザンは呆れた。

「まぁアレも直感で買ったものだからな。もしかしたら何か見えない縁でつながっているのかもな」

「で、紅樹。その鍵はどこにあるんだよ。とっとと出せよ」

 ザンは手を出す。しかし、紅樹は二人に謝った。

「すまん。他の荷物と一緒にグンハ村の宿屋に預けたままだ」

「えー! どうすんの。ここまで来て一度取りに戻るの?」

 アリスはげんなりした。

「宿屋か。だったら待ってるから取って来いよ。お前ならあっという間だろが」

「本当にすまん。それじゃ待っていてくれ」

 言うが早いか紅樹の姿が消えた。

「え!?」

 アリスは、目の前で紅樹が消えて驚いた。

「ど、どうなってるの?」

「あれ? アリス、知らなかったのか。アイツの特技」

 ザンは不思議そうに言った。

「知らないわよ。なに? テレポート?」

「違う、違う。似たようなもんだけど。アイツのは【加速】だ」

「加速?」

 ザンは扉を背もたれにして座り込んだ。

「アイツは人類が認識できない速さで動くことが出来るんだよ。たしか『時元粒子を利用した時流隔離による高速移動』だったかな」

「なんか難しい話ね。でも消えたり、一瞬で相手をバラバラにするのってその加速を使ってたのね」

 アリスはロークデ・ナシでのことを思い出していた。あの時、紅樹は遠く離れた場所から一瞬で近づき、一瞬で悪人をバラバラにした。

「超能力なのかな?」

「いや、超能力と科学と魔法を駆使して実現するハイパーテクノロジーの産物だとさ。ずっりーよな。チートだぜ、チート」

「お前の銃も大概チートだろう」

 紅樹は戻ってくるなりザンに反論した。

「お帰り。さっすが早いな」

「そりゃ時間は短縮できるが、距離が変わるわけじゃない。往復の距離、結構あったぞ」

 疲れたようにため息をついた。そしてアリスの方を向く。

 彼女は心底、不思議そうな顔をしていた。

「あれ、アリスどうした?」

「ザンの五感といい、あんたの特技といい、本当に何者なの?」

「さぁな。自分が何者なのか、こっちが訊きたいぜ」

「そんな分からないことより目の前のこと。早速、鍵を入れてみよう」

 アリスの質問をサラリとかわして、紅樹は黄金の鍵を扉に差し込んだ。

 すると、鍵に設えられた赤い宝石が光り輝く。

「ビンゴだ!」

 鍵を回すと、ガキンっと何かが動く音が聞こえた。

「おお。開いたのか」

 三人は目を輝かせる。

 扉のレリーフに沿って光が走り、ホール全体の魔法陣も淡く光り輝く。

「扉が……!」

 扉がゆっくりと開いていく。

 開ききると、眩い閃光が辺りを包み、紅樹たちはその光に飲み込まれていった。

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