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マクラ森とモンスターハンター

 イカレタ大陸北西部に位置する、「マクラ森」。そこは遺伝子操作された怪物が生息し、異常発育した植物が太陽の光をさえぎり、昼なお暗い広大な森林地帯。しかし、その入り口近くは町や村がある。紅樹とアリスはマクラ森近くの町「リカドゥ」に来ていた。

 リカドゥにある安宿。

「いや~、思ったより早く着いたな」

 荷物を下して紅樹は言った。

 ロークデ・ナシを出てから三日。果てない荒野を歩いてたどり着いた。

「そうね。さてと、着替えるから部屋出て行って」

「なんで? わざわざ同じ部屋にしたってことは見ても良いんだろ?」

「んなわけないでしょ! お金が勿体ないから同じ部屋にしたのよ」

 額に青筋浮かべて怒る。

 紅樹は不服そうに口を膨らませて文句を言った。

「え~でもぉ。その可愛らしい体を見るのは変態にとって唯一の幸せであって……」

「殴るよ」

 アリスは殺気と共に拳を作る。

「オーケー。町を散策してくるよ」

 冷や汗をたらしながら慌てて出て行った。

 紅樹は宿から外に出る。

「まったく、美しい肢体を拝む絶好の機会だったというのに」

 ガックリと肩を落として歩く。

 町には鎧を着た人間が大勢いた。大剣を装備している者、小型のトカゲを担ぐ者。店では怪物の肉や骨が並び、露店では怪しげな装飾品を売っている。にぎやかでエネルギー溢れる町だった。

 リカドゥの町は狩人の町。狩人たちは、マクラ森から出現する怪物を狩り、生計を立てている。いわゆるモンスターハンターが集う町だ。

「ハンターか。そういやアイツは元気にしているかな」

 紅樹はつぶやきながら露店を見て回る。

 ある露店で立ち止まった。

「いらっしゃい」

 もっさりと髭を蓄えた店主がにこやかに挨拶する。

 紅樹は並べられている物の中から金色に輝く鍵を手に取った。

「これは……」

 その鍵には翼の生えた獅子が彫られていて、赤い宝石が埋め込まれている。

「お兄さん。その鍵はマクラ森のとある遺跡から発見されたものだ。宝の鍵か、はたまた封印の鍵か。さっぱり分らんが綺麗だし、どうだい?」

 買うかどうか聞いてきた。

 紅樹は値札を見る。五百円だ。

 ポケットから小銭を出すと店主に渡す。

「はいよ。まいどあり」

 紅樹は鍵を見ながら歩く。

「う~ん。なぜか気になって買ってしまった。一体お前はなんなんだ?」

 鍵に向かって話しかける。

 返事など返ってくるはずもない。

 その奇行に通りがかった人々は彼を避けて行った。

「戻るか」

 独り言を言うと、紅樹は宿へ帰っていった。


[2]


 翌朝、紅樹とアリスはマクラ森に入ることになった。

「いい。この森の奥にある村に、玉の伝承が残っているの。だからその伝承を詳しく聞こうと思うの」

「そうか。じゃ、さっそく行こうか」

 二人は森に足を踏み入れる。

「怪物は紅樹が何とかしてくれるし、どんどん行こう!」

 アリスは意気揚々と歩いていく。

「あ、ちょっと、危ないぞ」

 慌てて後を追う紅樹。

 五十メートルほど進んだ時点で巨大な影に道をふさがれた。

「へっ?」

 上を見上げると、鋭い牙、爛々と輝く目、黒い体毛、巨大な体躯をした怪物だった。

「出た! さぁ、あなたの出番よ。ちゃっちゃと片付けて」

 アリスが紅樹に言うが、彼は刀を抜かなかった。

「あれ? どうしたの?」

 怪訝そうに紅樹を見る。

「いや、非常に申し訳ないが、俺の刀は特殊でな。人しか斬れん。動物は無理だ」

「え? じゃあ」

 頼りにしていた力が当てにならない。この事実を頭が理解しようとした時、怪物が動いた。

《バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン》

 怪物が雄叫びを上げて向かってきた。

「きゃあああああああああああああああああ」

 二人は急いで逃げ出す。

「これじゃ追いつかれるな」

 冷静に状況を分析して、紅樹はアリスを抱える。

「ちょ、なにすんの」

「いいから、しっかり掴まれ」

 跳躍。大木の枝に足をかけて、更に跳躍。

 木々を縫って枝から枝へ跳んでいく。

 怪物は木々を倒しながら追いかけてくる。

「てか、なんで人しか斬れないの!?」

 抱えられながら文句を言った。

「俺の刀『魂狩り(たまがり)』は人肉を斬り、人の魂を斬る。という妖刀でな。動物や植物は斬れん」

「なんでそんなヤヤコシイのよ」

「作ったヤツ曰く、畜生からは逃げれば良いそうだ」

「なんという、ハタ迷惑な」

 アリスは作った人物を呪った。

「むっ。ヤバイ」

「どうしたの?」

 前方を見ると、別の獣が待ち構えていた。

《おおおおおおおおおおおおうるううううううううううううう》

 低い唸り声を上げて飛びかかってくる。

「ちっ」

 舌打ちをして空中を蹴る。

 横へ跳んで回避。

「きゃああああ。来てる、来てる、来てる!!」

 アリスが泣きながら指差す。

 後ろから追いかけてきた怪物が口を開けて火炎弾を吐いてきた。

「ぬう。生意気な」

 紅樹は体を捻って方向転換。

「活っ!」

 気合を発して火炎弾を打ち消す。

 着地すると、地面を蹴って逃げ出す。

 二匹に追いかけられて森の奥へと踏み入れる。

「うわっ、行き止まり!?」

 アリスが短い悲鳴を上げる。

 彼らの前に大きな岩壁がそびえていた。

《うるるるるる》

《バオオオオ》

 二匹の怪物は追い詰めた二人にゆっくり近づいていく。

 紅樹はアリスを背中へと隠す。

 絶体絶命のピンチ。

《がおるるるるる》

《バアアアアオオオオオン》

 二匹同時に飛びかかってきた。

 もうダメだと、目を閉じるアリス。

 しかし、死は訪れなかった。

「え?」

 恐る恐る目を開いてみると、二匹の怪物の体に大穴が穿たれていて、絶命していた。

「そこの二人、大丈夫か?」

 草陰から出てきたのは、大型の銃を持った男だった。

 持っている銃の銃口から煙が出ている。

 煙を吹き消して、紅樹たちに近づいてきた。

「た、助かったぁああああ」

 アリスはドサッとへたり込んだ。

「いやはや、ありがとう。助かったよ」

 紅樹は汗を拭って男に礼を言う。

「いや、別にかまわねぇよ。って、紅樹! 大和紅樹!」

 男は紅樹を見て叫んだ。

「ん? おおっザン! ザン・ブルースカイじゃないか」

 紅樹は男を見て驚いた。

 二人はにこやかに近づいていく。

「あははは。コノヤロオオオオオオオオオオオオオ」

「なははは。ウラアアアアアアアアアアアアアアア」

 互いに顔面を殴った。

「は!?」

 突然の殴り合いにアリスは固まる。

「このロリコン野郎、どの面下げて俺の前に現われた!」

 ザンは腹部に一撃を入れる。

「うるさい。それはこちらのセリフだ。この熟女・人妻マニア」

 紅樹はもう一度顔面に拳を叩き込む。

「ふざけんな」バキグシャポキ。「やかましい」ボコペキゴシャ。

 一言、一言、言い合いながら殴りあう。

 ひとしきり殴りあうと、二人は力尽きてばったりと倒れた。

「いったい何なのよ」

 大の字で伸びている二人の男を見て、アリスはあきれ返った。


[3]


 岩壁に沿って進むと、洞窟を見つけた。

 アリスは、そこに倒れた二人を運びこんだ。

「まったく、大の大人が二人して、少女に運び込まれるとは、情けない」

 頭を抱えてため息をついた。

 まだ気絶している二人を見る。

 改めて観察すると、二人とも外見年齢は二十歳ぐらいに見える。

 そして二人とも手の甲に十字架と数字の刺青が入っている。紅樹は「9」。ザンは「3」と入っていた。

「知り合いみたいだけど、いきなり殴りあうなんてどういうことかしら」

 寝ている紅樹を見ると、幸せそうにヘラヘラ笑っていた。

「ふへへ。ダメだぞ。お嬢ちゃん。そこはお兄さんのお稲荷さんだ」

 見ている夢が変態の夢だと気づいて、思いっきり腹に拳を見舞った。

「しゃぼっ」

 ありえない悲鳴を上げて飛び起きた。

「なんだ!? 一体?」

 辺りを見回して状況を把握。

「ありゃ、ここどこだ?」

「目ぇ覚めた?」

 犯罪者を見るような目で紅樹を見る。

「ああ、そうか。ザンと殴り合って気絶したのか。で、なんでそんな目で見つめるんだ?」

 不思議そうに質問する紅樹。

 アリスはさらにジトーっとした目で見る。

「さっきみた夢でも思い出したら?」

 あごに手を当てて思案した。

「さっき見た夢? ふむ。よく覚えていないが素晴らしい夢だった気がする」

「はぁ。もういいわよ」

 なに言っても無駄だと理解したアリスは別の話題に切り替えた。

「それより、このザンって言う人は知り合い?」

「ああ、コイツは古くからの知り合いでな。おい、起きろ」

 まだ気絶しているザンを揺すって起こす。

「んあ? ご飯か?」

「寝ぼけてる場合か。アホ」

 紅樹は頭をはたいて叩き起こす。

「んべっ! あ~そういや、ロリコンと殴り合って気絶したんだった」

 頭を掻きながら辺りを見わたす。

「で、まだやるか? ロリコン」

 ザンは拳を作って挑発する。

「いいだろう。二度と起きないようにしてやる」

 紅樹も拳を作って一触即発。

「いい加減にしろおお。この大バカ共!!」

 アリスがキレて二人の頭にゲンコツを見舞った。

「いで」

「あぐっ」

 頭を押さえてうずくまる。

「なにするんだ」

「痛てぇじゃねぇか」

 二人はアリスを睨むが、彼女の姿を見て言葉に詰った。

 彼女は腰に手を当てて、額に青筋。背後にはメラメラと燃える怒りのオーラを従えていた。

 眉を吊り上げて二人を見下ろす。

「なに、文句ある? ケンカしてまた気絶したいんなら、今ここで私がやってあげよっか? ええ?」

 その鋭き眼光。紅樹とザンは身を縮こまらせて素直に謝った。

「ごめんなさい」

「悪かったよ」

 反省してると見て、ふっと気配を和らげた。

 今度は眉をひそめる。

「それで、ケンカの原因はなに?」

「それは……?」

 紅樹は理由を説明しようとして口を開くがそのまま固まった。

 アリスはその態度に首をかしげる。

「どうしたの?」

 考え込むように唸る。

「う~ん。あれ? なんでケンカしてたんだっけ?」

 隣のザンを見た。

 ザンも同じように考え込むが答えが出ない。

「ありゃ? そういや何でだっけ?」

「呆れた。じゃあケンカの理由も忘れて殴り合ってたの」

 アリスは心底バカを見るような顔で紅樹たちを見た。

「いや、知り合って随分経つけれど、何故ケンカするか、理由考えたことなかったな」

「お前と出会ったら、どうしても殴り合いしなきゃいけねぇ気がして、始めたからな」

「何よ、それ。じゃあ二人の手に入ってる刺青が関係あるんじゃない」

 二人の十字架と数字の刺青を示す。

「はて? どうだったか」

 紅樹とザンは記憶に検索をかけて思い出そうとするが思い出せなかった。

「う~ん。おかしいな。その辺の記憶が曖昧になってるぞ」

「ああ、そうだな。確か紅樹と出会ったのが研究所で……」

 アリスはいまいち要領を得ない二人にため息をつく。

「もういい。話が進まないから。話変わるけど、ザンはどうしてこの森に?」

「ん? そりゃ俺はこの近くの村から依頼されて、付近に出没する凶悪な魔物を狩ってたんだ」

「魔物を狩る?」

「そうだ。なんてたって俺はモンスターハンターだからな」

 誇らしげに胸を張って答えた。

「コイツは怪物を狩るために、あちこち旅する流浪のハンターだ。結構腕が立つから業界では有名らしい」

 紅樹がザンを見て説明する。

「怪物じゃなくて魔物だ」

「どっちも一緒だろ」

 ザンの訂正に苦笑する紅樹。

 殴りあうほどケンカしていたが、どうも仲が良いらしい。

 アリスは村と聞いて質問してみた。

「もしかして、その村って『グンハ村』?」

 ザンは肯定するように頷く。

「ああ、そうだ。グンハ村だ。村に用でもあるのか?」

「俺たちはその村に残っているスターレインの伝説を聞きたいんだ」

「スターレイン?」

 ザンの疑問に対して、アリスはスターレインの話をした。

 聞いている内に顔がどんどん輝く。

「ほうほう。そりゃすんげぇな。その玉がありゃ俺の『探しもの』も見つかるかもな」

 嬉々として笑った。

「え? あなたも探しものがあるんだ」

 ザンは立ち上がって力強く言った。

「おう! 俺は嫁を探してんだ。この世のどこかにいる俺の嫁を」

「嫁って奥さんてこと?」

 首を勢いよく横に振る。

「ちがう。俺の嫁とは恋人のことだ。まだ見ぬ年上で優しくて美人な女性だ」

 ザンは何を想像したのかうっとりと宙を見た。

 紅樹はそのザンの態度に辟易したように舌を出す。

「げ~。年上のどこかいいのやら。やはり嫁にするなら年下で可憐で素直な娘だろう」

 紅樹は想像して興奮したのか鼻の下を伸ばした。

「なんでこの変態に付いてきたんだろう……」

 悦に入っている二人の変態を見て、アリスは顔を引きつらせながらため息をついた。


[4]


 その後ザンに引き連れられて、グンハ村までやってきた。

 グンハ村はマクラ森の奥にあった。村の周りを樹木で作られた壁で囲われている。一目見ただけで、砦だと分った。

「グンハ村は世界が壊れてから、この森を観測するために造られた村でな。囲んだ壁は樹木で出来ているけど、かなり丈夫に出来ていてモンスターが侵入することはないそうだぜ」

 村の入り口で入村手続きを済ませた、ザンが説明した。

 重厚な門をくぐって、村に入る。

 樹齢1000年以上はあるだろう大樹を中心に、大小さまざまな樹木が並び、その樹木の幹をくり抜いて家がある。中心の大樹の太い枝には家や商店など乗っかっていた。

「うわ~。文字通り、木の家だ」

 アリスは軽く感動したように声をもらす。

 他の絡み合った巨木の枝の間には、つり橋がかけられて行き来できるようになっている。

「村の外からはこんな景色見なかったぞ。どういうことだ」

 紅樹は疑問符を浮かべた。

「ああ、なんでも特殊なフィールドを張って、外から見れないようになっているんだと」

「へぇ」

 木の根元にも建物が並んでいる。

「なんか素敵なところね」

 アリスは目を輝かせながら言った。

「実際、ここを訪れる者は結構多いぞ。森の中にある唯一の村だからな。ハンターや探検家が立ち寄るらしい」

 話しながら、目的の巨木まで歩く。

 大きな根元の間を通って階段を上り、村長の住む家に来た。

「シリ村長、討伐の報告に参りました」

 ドアの前に立って呼びかける。

「おお、入ってくれ」

 温和な老人が出迎えてくれた。

「ん? そちらの方は?」

「ああ、俺の知り合いで、この村に伝わる伝説を調べにきたそうです。こっちが大和紅樹。んでこっちの嬢ちゃんが、アリス・ガーランドです」

「ヨロシク」

「どうも。こんにちは」

 二人とも挨拶する。

「ほほぉ。それは、それは。ようこそ、グンハ村へ。私がこの村の村長、モノ・シリです」

 家に入り、一息。

「それで、森の様子は?」

「森の中は村長の言ったように妙に騒がしかった。森の異変に煽られて、暴れていると報告のあった竜を数頭しとめておきました」

 詳細データの入ったメモリーを渡した。

 端末に挿入して閲覧する。

「なるほど。異変の原因はわかったかね?」

「いえ、さっぱり。ただ、大人しいモンスターは軒並み巣で縮こまっていました。それに気性の荒いモンスターが何かを窺うように大人しかった。なにかあるのは間違いないと思います」

「ふむぅ。そうか」

 村長は腕組みをして考え込んだ。

「あの~、なにか森で起こっているんですか?」

 アリスが恐る恐る質問する。

 ザンが頷いて答えた。

「ああそうだ。一ヶ月ほど前から森のモンスターに異変が起こってんだ。まるで何か強大な敵を警戒するように、騒ぎ始めたんだよ」

「それじゃ、私達がモンスターに襲われたのもそれが原因?」

「いや、あれは、ただ単にマヌケが歩いていたから襲い掛かっただけだ」

 ひどい言われようだった。

「強大な敵か。そんな気配はまるでしないけどな」

 紅樹が辺りの気配を探るように見わたす。

「全くだぜ。モンスターハンターの俺ですら感じられねぇんじゃお手上げだ」

 両手を挙げて降参のポーズ。

「よく言う。お前のカンなんてあてにならないだろう」

 紅樹は鼻で笑った。

「まぁ、暫く警戒を強める必要はあるかな」

 村長がそう結論づけて、話題を打ち切った。

「さて、お嬢さん。村の伝説を聞きにきたそうで」

「はい。幻のスターレインの伝説がこの村に伝わっていると聞いたんです」

「スターレインか。最近、流行っているのかい?」

 村長が不思議そうに首を傾げる。

「え? いや、流行っているとか聞いたことないです」

「ふむ。そうか。いやね、一ヶ月ほど前に二人組みの男がスターレインの話を聞きにきたんだよ」

 それを聞いた途端、アリスは目を見開く。

「それって、全身黒いスーツを着た男と白いスーツを着た男じゃないですか!?」

「ああそうだよ」

 村長は、アリスが急に語気を強めて聞いてきたので驚いた。

「そうですか。それで、伝説というのは?」

 何かをかみ締めるように、一瞬表情を曇らせて、それから村長に質問した。

「昔、この森にまだ人が入れない、未開の土地だったころだ。後にこの村を創設することになる、シンバという男がおった。シンバは仲間と共にこの森へ足を踏み入れて、調査を行った。数々のモンスターを退けて、森の中心に遺跡を見つけた。そこは、不思議とモンスターが寄り付かず、聖域のようだった。遺跡に足を踏み入れると、そこには世界が壊れるはるか前に誰かが書き残した文章があった。その文章には『天上に柄杓あり。その力偉大にして強大。全てを辿るとき、動かぬ星へと繋がる道が現れる。たどり着く場所、そこは星降る宝眠る』と書かれてあった。それが、つまりスターレインの伝説だったそうな」

 村長は伝承を語り終えた。

「なんつー厨二病だ」

「う~ん。イマイチ信憑性がないなぁ」

 二人の男は呆れるように感想を漏らした。

「村に伝わる伝承はそれだけですか?」

「うん。それだけだよ」

 アリスは一人、真剣に今の話を噛み砕いていく。

「父さんの研究書に書いてあったとおりだ。ということは、ここで合っていたってことね」

 呟くように思考をまとめていく。

 紅樹はそんなアリスを見て、村長に向き直った。

「ところで村長さん。その遺跡はまだあるんですか?」

「ええ、ありますよ。この村から十五分ほど歩いた場所に」

 地図を出してきて教えてくれた。

「百聞は一見にしかず。実際に行ってみるっきゃねぇな」

 ザンが不敵に笑う。

「でも、今日は止めといたほうがいい。じき暗くなる。明日改めて向かいなさい」

 村長の意見に皆頷き、明日、遺跡に向かうことになった。


[5]


 村の宿。節約のため一緒の部屋。ザンは借りている宿があるので別行動だ。

 村長の話を聞いて、ずっと考え込んでいるアリス。

 その姿を見て、紅樹は声をかけてみた。

「なにやら、黒と白の二人組みが気になるようだな」

「うん」

 彼女は短く頷いた。

「知り合いか?」

「違う。私のお父さんを連れて行った奴だよ」

「お父さんを? 誘拐されたのか」

 アリスは紅樹のほうを向いた。

「私の父さんは民俗学者だけど、考古学者でもあったの。あちこちの伝承や伝説を調べていたわ。スターレインもその一つ」

 思い出すように宙を見つめる。

「お母さんが病気で亡くなって、それから二人暮らしだったんだけど、三年前に、お父さんは二人組みの男と一緒に『スターレインを探してくる』って言って、それっきり帰ってこなかった。私の本当の目的はお父さんを探すこと。スターレインを追いかければきっと見つかる。そう信じて旅に出たのよ」

 悲しそうな顔をして語った。

 紅樹は優しく笑う。

「世界が壊れてから、人は多くのものを失った。それ以降、大切な何かを探して皆、旅をしている。だから、探し物を知れば、その人の心を知ることが出来る。君が探しているものを知れて良かった。君は意志の強い優しい子だね」

「やめてよ、褒めたって何もでないよ」

 照れるようにそっぽを向く。

「いや、出さなくても、おっぱい揉ませてくqあwせdr」

 最後まで言えなかった。顔面に鉄拳が飛んできてめり込んだ。

「変態。死ね」

 辛らつな言葉を投げかけて、その夜は閉じた。


[6]


 翌朝、アリスたち一行は村長に教えられた道をたどり、遺跡にやってきた。

「これが、遺跡?」

 アリスが思わず、疑問を口にする。

 その遺跡はあまりにも新しすぎた。二階建ての大きな白い建物。それが第一印象だ。ツタが壁に這い、一部、崩れてる。遺跡というより廃墟といったほうがいいぐらいだ。

「どうやら、村長の言っていた二人組みも来てるみたいだな」

 紅樹が奥を示すと、車が停まっていた。

「ジェットカー! しかも全大陸を走破できるグランドル200。高級車じゃねーか」

 ザンが呆れたように口をあんぐりさせる。

「急ごう。あいつ等に会えるなら願ったり叶ったりよ」

 三人は、遺跡に足を踏み入れた。

 遺跡内は明るかった。玄関を通ると吹き抜けのホール。モンスターに襲撃されなかったおかげで、かなり綺麗だ。

「建物内の状況からみて、この建物は何かの研究所だな。おそらく100年経っている。この深い森とモンスターが近寄らないという特殊な環境のおかげで、保存状態が良い」

 紅樹は壁をさする。

「大破壊を経験してこの状態なら、相当耐久性がよかったか、あるいは何かしらの力が働いていると見ていいな」

「あっぶねー匂いがプンプンするぜ。こりゃ、気合いれて調査しねぇと」

 ザンが不敵に笑いながら背中に装備した銃を持つ。

 奥のほうを見つめながら紅樹は彼に言った。

「ザン、何か聞こえるか?」

 ザンは耳を澄ます。

「ビンビンに聞こえるぜ。大人、二人分の靴音だ。何か探してんのか、歩き回ってる」

「それが、あの二人組みと見ていいな。敵か味方か不明だが、警戒して進もう」

 二人のあまりの手際よさにアリスは驚いた。

「なんで、そこまで分るの?」

「自分の家を探し回って、世界中を旅してるおかげで、建物に関しては結構詳しいんだ。それと、ザンは五感が常人より優れている。こういう調査には何かと役に立つ奴なんだよ」

 紅樹は得意そうに言う。

「五感が良くなきゃモンスターと殺り合えねぇんだ」

 ザンは銃の点検をして担いだ。

「あんた達ホント何者?」

 アリスの質問を無視して、紅樹は歩き出す。

「とにかく、探検開始だ」

 謎の研究所探検が始まった。

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