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迷子の侍と落ちてきた少女

「嗚呼。もうダメだ。さようなら」

 照りつける太陽と、どうしようもない疲労感と、耐えがたい空腹感に男は負けた。

 何もない荒野にバッタリと仰向けに倒れて、空を眺める。

「嗚呼。本当に良い天気だ。世界が壊れても変わらないモノの一つだな」

 だれに言うでもなくつぶやき、ボンヤリと物思いにふける。

 巨大な砂トカゲに追いかけられて、盗人猿に食糧奪われて、果てない荒野を歩いて三日。最早、限界が来ていた。

 空に浮かぶ雲が食べ物に見えてきた。

 ステーキ、焼き鳥、ハンバーグ。

「嗚呼。幻覚が見えてきた」

 青空を飛行機が飛んでいく。

「嗚呼。お金があれば飛行機にも乗れたんだけどなぁ」

 見上げていた空になにか違和感。飛行機から何か落ちた気がする。それは人のような感じがした。

「へ?」

「きゃああああああああああああああああああああ」

 悲鳴を上げて少女が落ちてきた。


[1]


 今から溯ること五十年前。一般人にでも宇宙旅行ができるようになっていた。科学が発達、遺伝子を操作して絶滅した動物が復活した。眉唾物だった魔法や錬金術、超能力が立証されていた。そんな、SFでファンタジーな世界は繁栄を極めていた。そう、五十年前までは。

 あるとき、五人の人間は思った「つまらない」と。中途半端にSFで中途半端にファンタジー。こんな世界は嫌だ。そう考えて、世界の理を破壊した。

 一方的なわがままで世界は簡単に壊れた。トカゲが空を飛んだ。石が意思を持って活動を始めた。魚が地面を走った。大陸が分離と合体を繰り返して形を変えた。ある地域ではどの方角が、北なのか西なのか東なのか南なのか分らなくなった。またある地域では西から昇った太陽が東に沈んだ。子供が大人で大人が子供になった場所もあった。とにかく把握できないほどに壊れた。

 それから暫くして、世界はようやく落ち着いた。出来上がった世界はやっぱりSFでファンタジーだった。


[2]


「イタタ。私、生きてる?」

 落ちてきた少女は体を叩いて確かめた。

 落ちたときの衝撃は大きかったが、体に異常はない。

「やったぁ。ラッキー。思い切って飛び降りて正解だった」

 生きていることに感謝した。しかし妙な違和感。地面が柔らかい。

 視線を下すと、男が下敷きになっていた。

「げっ」

 恐る恐る叩いてみるがピクリとも動かない。

「し、死んでる!」

 思わず後ずさり。

 ピクリとも動かない男。

 服装は大昔の「侍」という人種が着ていたような服。長身痩躯で腰に刀を差している。髪はボサボサ。顔は青白く不健康そうだ。というか死んでいる。

 少女はその倒れている男に手を合わせた。

「あなたがいたから助かりました。どうか成仏してください。私はあなたの分まで生きていきます」

「死んでないぞ」

 倒れている男が喋った。

「きゃああ。スイマセン、スイマセン。成仏してください」

 驚いて必死に拝む。

「いや、だから俺は死んでないって」

 ムクリと起き上がる。

「怪我はないか? 美しいショートカットのお嬢さん」

 男は砂埃を払って立ち上がる。が、すぐに膝が折れて倒れた。

「あなたこそ大丈夫なの?」

 少女は駆け寄って助け起こした。

 男は情けない声を出す。

「いやぁ、申し訳ない。お腹が減って死にそうなんだ」

「え、お腹すいているの?」

「ああ。そうだ。悪いが、なにか食べるものを持ってないか」

 男が弱々しく笑いながら頼んでくる。

 少女は困った顔をした。

「ごめんなさい。急いで飛び降りたから荷物を持っていないの。持っているのは肌身離さず持っていた財布と、この鉄甲具だけよ」

 腕をまくって鉄甲見せた。

 男はその鉄甲を見てガックリとうなだれる。

「ああ、そうか。困ったな」

「あのもう少し行ったところに町があるはずだから。そこならご飯食べられるよ」

 彼女が指差す方向に町が見えた。

「残念だが、俺は一歩も動けない。あそこまでたどり着くのは無理だ」

「大丈夫。私が連れて行ってあげる。私もあそこに用があるの」

 男はその言葉に喜んだ。

「おお、なんと親切なお嬢さん。頼む」

「うん」

 そういうと男を肩に担いだ。かなり軽い。

 相手が長身のため半分引きずる形だ。

 少女は男を引きずりながら歩き出した。

「あのさ。あなた、名前なんていうの?」

「名前を知りたいなら、お嬢さんから名乗れ」

 妙に偉そうだ。少し不愉快に思いつつ彼女は名乗る。

「私はアリス。アリス・ガーランドよ」

「アリスか。良い名前だ。不思議の国のアリスだな」

 男は嬉しそうだ。

「は?」

 アリスは首を傾げた。

「いやいや、こっちの話。で、俺の名前だったな。俺は紅樹。大和 紅樹(やまと こうき)だ」

「紅樹? 変な名前」

「そうか? 俺は気に入ってるんだけどな」

 紅樹は非常に残念そうだ。

 そんな会話をしていると町に着いた。

 町の看板を見る。

 【ロークデ・ナシ】と書いてある。

「『ろくでな』しか」

 紅樹はしみじみ言った。

 ならず者が集まる町ロークデ・ナシ。イカレタ大陸の南に位置する。町の雰囲気は大昔の西部劇のようだ。

「よいしょっと」

 アリスが酒場で紅樹を下した。

「いや、助かった。サンキュー」

 よろよろと立ち上がると店に入る。

 カウンターの席に座ると注文した。

「とりあえず、ここで一番安い料理くれ」

 隣に座ったアリスも注文する。

「私も同じで」

 店主が了解すると、厨房へオーダーを伝えた。

 紅樹は出された水を飲む。

「ぷはぁー。なんとかたどり着けた、本気で死ぬかと思った」

 ホッと一息ついた。

 アリスは不思議そうに聞いてきた。

「でも、なんであんなところで倒れてたの? 荷物は?」

「荷物は怪物に襲われて、どこかに落とした」

「へぇ、大変だったのね。じゃあお金は持ってるの?」

「なんとか、財布だけはある。だから大丈夫」

「そう。なら良かった」

 紅樹も疑問に思ったことを聞いた。

「お嬢さんはなぜ、空から落ちてきたんだ?」

 答えにくいのか少し考えてから口を開いた。

「あはは。前の町でヤクザとケンカして捕まっちゃって。それで、飛行機で輸送されて、こ この娼館に売られるところだったの。それで、暴れて逃げて飛び降りたのよ」

「それはまた、冒険だな」

「まぁ助かったから良いんだけどね」

 にっこり笑う。

 紅樹は怒ったような顔をした。

「それにしても、君のような美しいお嬢さんを売り飛ばすなんて、そのヤクザたちは許せんな」

「おまち」

 料理が運ばれてくる。えびピラフだった。

「お、いただきます」

「いっただきまーす」

 二人は手を合わせて食べ始めた。

「うん。美味しい。美味しいものは美味しい。世界が壊れても変わらないモノの一つだな」

「たしかにそうね」

 食べながら会話を再開する。

「ねぇ。あんたはなんで旅をしてるの?」

「俺の旅の目的か? いやはや恥ずかしいのだが、家を探している」

「家?」

 彼女は怪訝そうな顔をする。

「実は俺、帰る家が分らないんだ」

「帰る家がわからないって、記憶喪失?」

「いや違う。家以外の記憶はちゃんとある。だが何故か帰る家が分らんのだ」

 紅樹は困ったようにため息をつく。

「ふ~ん。変なの」

 アリスはそう言いながらピラフをパクつく。

「で、家の写真がこれなんだが。心当たりあるか?」

 懐から取り出した写真には、花畑と大きな屋敷。後ろには大きな山が見える。穏やかで平和そうな感じだ。

「へぇ~。これがあんたの家か」

 彼女は写真を見つめるが心当たりはない。

「残念だけど、知らない」

「そうか。残念」

 残念そうに写真をしまった。

「でもさ、その写真の風景と、ここら辺の風景って全然違うような気がするんだけど?」

 その指摘はもっともである。なぜならこの辺り一帯は荒野と岩場である。花畑と山など何処にもない。

「いや、世界が壊れてから五十年。この辺りが荒野だからと言っても、その先は草原や山があるかもしれん」

「う~ん。なるほど」

 世界が壊れたおかげで誰も世界を把握できていない。自分の周りだけの情報で精一杯なのだ。飛行機が飛んでいるがそれも極短い距離である。なぜなら、空は怪物の縄張りになっているのだ。

 アリスは食べ終えるとお金をカウンターに置く。

「ま、見つかると良いね。じゃ私はこれで。おじさん、ごちそうさま」

 椅子から勢い良く立つと、店を出て行った。

「あの子、連れじゃなかったのか?」

 店主が聞いてくる。

「いや違うぞ。空から落ちてきた謎の美少女だ」

「は?」

 店主は理解不能といった顔をした。

 不思議そうにしている店主に紅樹は言った。

「そんなことより、お水もう一杯くれ」

「ん、おお。はいはい」

 店主はポットの水をコップに注いだ。

 紅樹はふと、目を下に向けると、ハンカチが落ちていた。

「ありゃ?」

 拾い上げてみると、花柄の可愛いハンカチ。アリス・ガーランドと名前が書かれてある。

「む、こりゃいかん。あのお嬢さんが落としたのか。今からなら間に合うな」

 立ち上がって、食事代を払う。

「ごちそうさん」

 店を出ると、雑踏の中で彼女の姿をさがす。

「う~ん。見当たらない」

 紅樹は途方にくれた。

 諦めようかと思ったが、思いなおす。

「いやいや、ハンカチがなくて困っているかもしれない。女性を困らせるのは俺の信条に反する。探して届けよう」

 独り言のようにつぶやくと、アリスを探し始めた。

 一方、町を歩いて、アリスは飛行場に向かう。

 自分だけ逃げ出してきたが、まだ、娼館に売られる女性はたくさんいた。

 彼女たちを助けようとアリスは思った。

 本来なら、自分は助かったのだからさっさと逃げるべきだ。おせっかいで危ない場所に首を突っ込むのは命取り。そのおかげで死んだって誰にも文句は言えない。

 だが、見て見ぬふりをするのは自分の矜持に反する。たとえ無謀でも助けたいと思ったなら助ける。第一、知らんぷりするのは寝覚めが悪い。

 そうこうしてる内に飛行場が見えた。

 飛行場と言っても、だだっ広い広場があるだけで、あとは倉庫が建ち並んでいるだけだった。

 自分の乗っていた飛行機が止まっている。

 目を凝らすと、倉庫に女性たちが運び込まれていた。

「よ~し。こっそり忍び込もう」

 乾いた唇を舌で濡らす。

 彼女は行動を開始した。


[3]


 倉庫の中には、ならず者たちが見張りをしていた。

「アニキ。女たちは全部倉庫に運び入れました」

 アロハシャツを着たスキンヘッドの男が、メガネをかけた黒服の男に報告した。

「よし、輸送トラックが到着しだい、娼館に向かうぞ。ヤス、護衛の連中にも伝えておけ」

 黒服が指示をだす。

 ヤスと呼ばれた男が了承するように頷いた。

「それにしても、ザビーのアニキ。あのガキ、とんでもない奴でしたね」

 ヤスは思い出したように言った。

「ああ、まさか檻を壊して、飛行機から飛び降りるとは思っても見なかった」

 ザビーと呼ばれた黒服はため息をつく。

 向けられた視線には女性たちを閉じ込める檻がある。

 しかし、檻はひしゃげて人が抜け出せるようになっていた。

 とうぜん、ガキとはアリスのことだ。彼女は閉じ込められた檻を壊して逃げ出したのだった。

「ま、生きていようが死んでいようが、一人ぐらい減っても文句はないだろう。それにゴリラみたいな怪力の女などいても迷惑なだけだ」

「ですよね。それじゃ失礼しやす」

 一礼すると、去っていった。

 そのやり取りを物陰から見つめる影が一つ。

「む~。ゴリラとは失礼しちゃうな」

 アリスだった。

「えっと、護衛の人間が三人いて、あのヤスとかいう男とザビーとかいう男。合計五人か」

 静かに息を殺して状況を把握する。

 護衛は、筋肉隆々な男が一人。細身の男が一人。白衣の男が一人。仮に、キンニク、ガリ、シロ。と名付けた。

「女性たちを解放するには、まず護衛を倒すしかないな」

 手と足に装着された鉄甲の具合を確かめる。

「よしっ」

 彼女は勢いよく飛び出した。

「でやあっ」

 物陰から飛び出して近くにいたヤスを殴り飛ばす。

「うげっ」

 カエルが潰れたような声をだしてぶっ飛ぶ。

 倉庫の壁に激突してノックアウト。

 異変を察した護衛たちがそれぞれ迎え撃つ。

「ぬううううううん」

 キンニクが拳を振り下ろしてきた。

 人体改造で極限まで発達した筋肉が強力なパワーを生み出す。それは一撃必殺のハンマーだ。

「せいっ」

 アリスは右足を軸にして体転換。

 なんなくその攻撃をかわす。

 目標を失った拳は、コンクリートの地面を砕く。

 回転したアリスはそのまま裏拳でキンニクのわき腹を殴りつけた。

「ぐふぅ」

 血を吐き出してうずくまる。

 その隙に容赦なく蹴りを入れて攻撃。

 戦闘不能にする。

 獣並みの俊敏さで地面を蹴り、今度はシロと間合いを詰める。

「だああああああああっ」

 気合を発して正面から殴りつけた。

「なっ!?」

 しかし、拳は彼の手前で止まる。

「ぶっ飛べ、ガキ」

 一言そういうと、強烈な衝撃波が発生。

 サイコキネシスの一撃だった。

 空中に放り出されるが、回転して姿勢を制御して着地する。

「死ねボケ」

 ガリが杖を取り出して振るう。

 火球が出現して、アリスに襲い掛かった。

「くぅう」

 慌てて飛び去るが、着地した場所に超回復したキンニクがいて、羽交い絞めにされて捕まった。

「しまった」

「はい、ゲームオーバー」

 楽しそうにザビーが近づいてきた。

 捕まったアリスはザビーを睨む。

「そんな恐い顔で睨むなよ。わざわざ戻ってくるとは、律儀だねぇ」

 下卑た笑いをしながら、アリスの顔を掴む。

「薬漬けにでもして、人形にしてやろうか?」

 メガネの奥が怪しく光る。

「や、やれるもんなら、やってみなさい」

 目をそらさず、強気に挑発した。

「縛って、連れて行け」

 アリスが引きずられて連れて行かれそうになったその時である。

 間の抜けた声が倉庫内に響いた。

「あの~。すんませ~ん。ここにショートカットの女の子がいるって聞いたんですけど~」

「へっ?」

 突然の訪問者に全員が唖然とする。

 入り口にたたずむ訪問者は実に奇妙だった。

 長身痩躯。伝説に出てくる「侍」という人種が着ていた服装。ボサボサの髪。腰には刀を差している。

「紅樹!?」

 アリスはその人物の名前を叫んだ。

「よっ」

 呼ばれてにこやかに手を振った。

 そして懐からハンカチを取り出す。

「これ、忘れ物。届けに来たぞ」

 紅樹は五十メートルほど離れている彼女のところまで一瞬で近づいた。

「わ!」

 誰もが驚き硬直する。

「はい。どうぞ」

 紅樹はアリスにハンカチを手渡す。

 しかし羽交い絞めにされて身動き取れない彼女はそれを受け取れない。

 しかたなく紅樹は彼女のポケットにハンカチを入れた。

「じゃ、そういうことで」

 きびすを返して去っていこうとする。

「ま、待って」

 アリスは紅樹を引き止めた。

 その瞬間、我に返ったガリが火球を繰り出した。

 紅樹は振り向きざまに手でそれを払いのける。

「なんだ? なんか用か?」

 何事ともなかったかのように振舞った。

 全員が手で火球を払った紅樹に驚愕。

 続けざまにサイコキネシスを放とうとしたシロは動きが止まってしまった。

 アリスも驚きながら言った。

「助けて。悪い人に捕まっちゃったの」

「え? これ遊んでんじゃなかったのか」

 軽く驚きつつ、周りを見わたす。

「オーケー。か弱き女性を助けるのは当然のことだ」

 そういうと、刀に手をかける。そして次の瞬間、キンニクをバラバラにした。

 アリスの背後でグシャっと音をたててキンニクだったものが崩れ落ちる。

 断末魔もあげず、キンニクは絶命した。

「じゃ、行くぞ」

 アリスの手を引いて紅樹は出て行こうとする。

 起こったことがあまりにも突然で、彼女は呆然としていたが立ち止まる。

「待って。待って」

 強引に連れて行こうとする手を振り払った。

「私だけじゃなくて、捕まっている彼女たちもお願い!」

 指で示した先には檻に囚われている女性たちがいた。

 皆、怯えて事の成り行きを見ている。

 紅樹はそちらに目を向けると嫌そうな顔をした。

「いや、俺は年寄りなんか助けたくないんだけど」

「ちょ、年寄りって、まだ二十代ぐらいの若い人たちだよ」

 彼はもっともな指摘に、大仰に肩をすくめる。

「なにを言う。十六歳以上は皆、ババァだろ」

 爆弾発言。

「あれ、もしかしてロリコン?」

 アリスは紅樹から遠ざかる。

 すると、紅樹は怒ったように否定した。

「冗談じゃない。ロリコンは幼女・少女を愛でる紳士であって、愛でつつ手を出す俺は変態だ。偉大なる紳士たちに謝れ」

「ああそう。って同じことでしょ」

 思わずチョップ。

「なにを言うか。キノコと毒キノコぐらい違うぞ」

「たとえが微妙だし、よく分らない! とにかくあいつら全員やっつけて。私はあいつらにやられたのよ」

 話しても埒が明かないと踏んだアリスは、作戦を変更した。

 つまり、自分を虐めた連中を倒してと頼んだのだ。

 アリスの頼みを聞くと、紅樹は急にうつむいて黙る。

「あれ、どうしたの?」

「そうか。あの連中は嫌がる君にイタズラしたのか。許さん。たとえ手を出しても、無理やりは良くない。あいつらは変態道を汚したっ。よって死刑!」

 よく分らないがヤル気になったらしい。

「やいやい。よくも彼女を傷つけたな。キッチリと責任とってもらうから覚悟しろ」

 刀をザビーに向けた。

 今の今まで固まっていたザビーだったが刀を向けられて正気を取り戻した。

「ふざけやがって。急に出てきてなんだ!」

 ザビーは護衛たちに顎でしゃくって指示を飛ばす。

 命令どおりにシロがサイコキネシスで紅樹を縛ろうとした。

 バキッと音が鳴って紅樹を縛り上げる。

 が、背後から声。

「残念だな。そりゃ残像だ」

「えっ?」

 超能力で縛り上げていた紅樹が掻き消えた。

「じゃあな」

 紅樹は刀を振り下ろす。

 頭から真っ二つに割れて絶命。

「次はお前だ」

 猛禽類のような笑み。

 紅樹は魔法使いのガリのところまで一瞬で移動。まるでフィルムがコマ飛びしたかのような動き。

「ひっ」

 短い悲鳴を上げるが、それがガリの最期の言葉になった。

 刀が煌めき、首が飛ぶ。

 首から血が噴き出す前に、紅樹は後退して一息ついた。

「弱い。弱すぎる。お前らそれでも護衛か?」

 死体となった三人に語りかける。

 護衛たちはあっという間に死んだ。

 残されたザビーに殺気を放つ。

「さて、今度はお前の番だ」

 ザビーは恐怖にかられて懐から銃を取り出す。

「うあああああああああ」

 叫びながら乱射。

 紅樹はジグザグに動きながら間合いをつめ、ザビーのすぐ傍にくると刀を振りかざす。

「これでラストだ」

 袈裟切りで相手を仕留めた。

 ほんの二、三分の出来事だった。

 僅かな間に倉庫内にいたヤクザも護衛の連中も死んだ。

 紅樹は刀に付いた血を拭ってから鞘に収める。

「はい。終了」

 静かに言ってアリスに笑いかけた。

 あまりの強さに言葉を失うアリス。

「じゃ、あとは警察にでも任して、俺は退散するよ。またどこかで会おう」

 別れを告げて紅樹は倉庫内を出て行こうとする。

「あなた、何者?」

 アリスはすれ違いざまに、震える声で質問した。

「自分の家が分らない、迷子の侍だよ」

 そういうと、倉庫を出て行った。


[4]


 夕刻。ロークデ・ナシの町のとある宿。

 紅樹は宿の食堂で晩御飯を食べていた。

 野菜スープとパン。それに焼いた豚肉が今日のメニューだった。

「ここ、良いかしら?」

 声をかけられて見上げる。

 アリスだった。

「ありゃ、お嬢さん。なんで?」

 軽く驚く紅樹。

「ちょっと、あなたに用があって探したのよ」

 アリスは向かいの席に座った。

「用?」

 紅樹は怪訝そうな顔をする。

「そうよ。っと。その前に。さっきはありがとう。連れて行かれそうになっていた女の人たちは警察に保護されたわ」

「ふ~ん。そうか」

 興味がないといった風に生返事をして、パンを齧る。

「で、用件なんだけど、貴方の旅に、私も同行して良い?」

「ぶっ」

 思いがけない突然の申し出に紅樹はむせた。

「ちょっ。俺の家探しにか?」

「ええ」

 にっこり微笑んで頷く。

「ちょっと、待てよ。なんでだ」

 困ったように質問した。

「私も探している物があるの」

「探しているもの?」

「この世のどこかにある、なんでも願いを叶えてくれる魔法の玉を探しているの」

「魔法の玉? ドラゴンボールか?」

 水を飲みながら聞く。

「ドラゴンボール? なにそれ? 私が探しているのは『スターレイン』って名前よ」

 『スターレイン』それは伝説のオーパーツだった。世界が壊れる前に、誰かが開発した機械だとか、魔法使いが錬金術で作り出した超常の物質だとか、超能力者が生み出した物だとか様々な噂が飛び交っている。五十年たった今では既に空想の産物だとされて誰も探そうとしない代物だ。

「私のお父さんは民俗学者でね。そういった伝説を集めていたのよ。その中の一つに『スターレイン』があったの。私は小さい頃からどうしてもそれが空想上のアイテムだって思えなくて、それで実物を見たくなって旅に出たってわけ。でも旅に出たけどさっきみたいな悪党に捕まったりして物騒だし、あんたメチャクチャ強いから、守ってもらいたいの」

 そこで話を区切って苦笑い。

「そりゃ突然こんな申し出、困るだろうけど、お願いできないかな?」

 上目遣いに頼んでみる。

「ふむ。なるほど。何でも願いが叶う魔法の玉か」

 アリスの話を聞いて物思いにふけった。

 しばらく考えて、そして彼女に告げる。

「いいだろう。その玉が見つかれば俺の家の在り処が分るかもしれない」

「そうね。私も玉を探しつつ、あなたの家探しも手伝うわ」

 互いに手を差し出す。

「では、よろしくな。アリス」

「こちらこそ。ヨロシク。紅樹」

 がっちり握手して笑いあう。

 こうして、紅樹とアリスは一緒に旅をすることになった。

 翌日。町で装備を整えると、ロークデ・ナシの町を出る。

 地図を片手にアリスが言った。

「ここから先、この道を行けば、マクラ森に行き着く。そこに玉の伝説が残っているから、まずはそこに向かいましょ」

 遙か先を見つめる紅樹。

「いいだろう。どうせ行く当てのない旅だったんだ。アリスの示す方向へ行ってみようじゃないか」

 そういって歩き出す。

 目指すは怪物ひしめくマクラ森。

 紅樹とアリスの旅は始まった。



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