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異世界5

 声が聞こえた。


「長崎さん……長崎さん!」


 ぼんやりと目を開くと、目の前に私を心配そうに覗き込む山田くんがいた。階段から落ちたはずなのに身体のどこも痛くない。


「良かった、大丈夫? 長崎さん」


 ぱちぱちと瞬きをして、左右を見回した。天井は低く見える。周囲も何か暗い。起き上がろうとして両手が動かないことに気づいた。

 え? なんか縛られてる?

 何とか身を起こすと暗い部屋の中のようだ。周りは檻のような物で囲まれて、隣には山田くんがいる。とりあえず後ろ手に縛られた自分の手に爪を立ててみたが、痛くない。……夢か。


「ついに山田くんまで夢に出てくるようになっちゃったのか……」

「長崎さん、しっかりして! 現実だよ!」


 慌てたように山田くんは私に言ってくる。その両手が自由であれば私を揺さぶっていただろう。ん? 山田くんも両手を縛られてる?


「この状況は、一体……?」

「信じられないかもしれないけど、ここ多分異世界なんだよ」


 大丈夫、それは一昨日辺りに理解した。


「信じてもらえるかどうか分からないけど、俺はここが初めてじゃないんだ」


 大丈夫、私も初めてではない。

 こくこく頷く私に、心配げに山田くんは訪ねてきた。


「……本当に大丈夫? 長崎さん」

「大丈夫! いざとなったら眠ればいいんだよ」

「夢じゃないんだって!」


 お互いに正しく現状を理解してはいるはずなのだが、噛み合わない私と山田くんだった。





「とりあえず」


 私に現実を理解させようとするのをあきらめたのか、山田くんは縛っている縄ごと両手をぶんぶんと振ってみた。


「これなんだけど、多分捕まってるんだと思うんだ」


 それは見れば分かる。


「王都から離れたところだと、魔王統治下時代に奴隷売買があったみたいで、その名残じゃないかと思う」


 つまり、私と山田くんが転がっているのでお宝発見、とばかりに奴隷として捕まえたんじゃないかという事か。最初は馬小屋、二回目はランスの家、そして今回は王都の外れ。

 私の出現する場所はどうやらランダムのような気がする。

 さて、問題は一つ。私がここで眠ったとして山田くんも一緒に現実に帰れるのだろうかということだ。

 私は両手がふさがっているため、確認のために山田くんに頭突きをした。

 すかっ。

 避けられた。


「ちょっと山田くん、避けないでよ」

「いや普通避けるでしょ!」


 それもそうだ。改めて山田くんに伝える。


「これさ、夢の中だと思うんだけど、山田くんもそうか確認した方が良いと思うから、痛いかどうか頭突きさせてもらっていいかな?」

「長崎さん……」


 がっくりと項垂れる山田くん。いや本当にお互い分かっているのだ。

 山田くんにとっては勇者様をやっていた世界の話であり、そのときは帰還できなかったらしいので山田くんにとっては現実で。

 私にとってはここ2日ずっと見ている夢の中の異世界なので、眠れば戻れると分かっている。

 お互い分かっているのに、やっぱり噛み合わない私たちであった。





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