???
ぼんやりとした視界にフラッシュバックのように何人かの顔が映る。
「ジロー、ここはエトリア国、王都」
ハクセイだ。隣にランスがいる。
「魔王はこの果ての地にいる」
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「天使を召喚します、皆隠れてください!」
ランスは地面に魔方陣を描き、そこから現れた毒々しい色のカマキリみたいな虫が巨大化して周りの魔物をなぎ倒した。どこが天使やねん、と私は突っ込んだ。
「どこが天使だ!」
山田くんも突っ込んでた。
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ミア姫と2人。山田くんの前に跪く絶世の美女。
「私は応援することしか出来ません」
そう言って、両手を山田くんの両手に重ねて何事か呟いた。
「勇者ジロー様に世界の祝福を」
重ねた手から光のような物が山田くんの全身を覆った。これはいわゆる「王女の愛」とかの特別魔法のような気がしなくもない。
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部屋で1人。山田くんは高校の制服とハンカチと靴を床に並べて、じっとそれを見つめていた。現実世界との接点はこれしかなかった。異世界に召喚されたその瞬間。鞄は落としてしまったため、身につけていたものはただこれだけ。今ならば教科書でもちょっと喜んで読めただろうに。
帰りたい。でも帰れない。
悲しいほどの郷愁が伝わってくる。
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「この世界の半分を与えたら、お前は私の部下になるか?」
魔王が魔王らしい台詞を言うと、山田くんは首を振った。
「元の世界に返してくれるというなら、少し悩んだかもしれないけど」
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繰り返し繰り返し、いろんな場面が映っては消えた。
ランス、ハクセイと共に戦う山田くんや、王女との結婚を断る山田くん。魔王を倒した凱旋のパレードでも、ただ狂喜する民衆を複雑な思いで見つめていた。
勇者様なんて、皆が言うほど万能ってわけじゃない、とハクセイに呟く山田くん。
「世界が平和になっても多分、俺はこの世界が嫌いなままだと思うよ」