異世界3
あ、また夢だ。
目が覚めると今度は馬小屋ではなかった。私はきれいな庭のような場所にいた。
周りには誰もおらず、念のため頬をつねるとやはり痛くはない。
「私……この夢好きなのかな」
独りごちる私に、空からははらりと緑の葉が降ってくる。早春のような爽やかな空気だった。
立ち上がると歩き出した。夢なら怖くないし、魔王もいないようならもっと怖くない。
もしかしてまた違うシチュエーションなのかもしれないが、とりあえず歩き出してみると早々に人と出会った。
「あれ」
「……!?」
目を丸くしているのは、昨日出会ったランスであった。昨日の夢の続きかぁ……。
「チェンジ! 隊長さんでお願いします!」
「出会い頭になんですかそれは!」
フシャーとしっぽを逆立てる猫を想像しつつ、私は鳴らした右手を下ろした。夢でもさすがに思うようにはいかないようである。
「どこから入ってきたんですか!」
「……さぁ……?」
それは私も聞きたい。それより何より
「むしろ、ここどこですか?」
「私の家です!」
言われてぐるりと周りを見回すと、きれいな庭には噴水、そして周囲を囲むように真っ白な壁が取り囲んである。神殿のような統制された美しさがあった。
「大きなおうちですね」
「……ありがとうございます」
とりあえず別に言うこともないのでお愛想を言ったら、憮然とした表情で返事が返ってきた。あなたも愛想くらいするべきだと思います。きれいな人ですね、とか。うん、無いな、それは無い。
だってこの人、あんな美人さんに片思いしているくらいだもんね。
「ところであなたの片思いのお姫さまってジローって人に惚れてるんですか?」
女でなければ殴っていた、と後にランスはハクセイに言ったらしい。
「あれ、お嬢ちゃん?」
その時ハクセイと呼ばれた男が部屋の一つから出てくると自らの震える右手を押さえているランスに「何やってんだ」と声をかけつつこちらに来た。
「カエデだっけ? また来たのか?」
「こんにちは。今日もこの夢でした」
へらっと笑うと彼も破顔した。ハクセイはランスの頭を小突くと、部屋の扉を開けた。
「お客さんを立ち話させるなよ。カエデ、良かったらこっちの部屋にお茶と菓子があるから、食ってくか?」
「喜んで!!」
お菓子に目がないのは女子高生の本分である。
「アイス以外なら!!」
付け加えた言葉にきょとん、と首をかしげるハクセイであった。